2016年

11月

08日

第41回 福島後の未来をつくる:福田良輔 中部大学客員教授=2016年11月8日号

 ◇ふくだ りょうすけ

1945年岡山県津山市生まれ。東京大学工学部電子工学科卒。住友電気工業では常務執行役員として研究統括。退社後、エネルギー・環境技術および中山間地域の活性化に向けて精力的に活動中。工学博士。

 ◇中山間地域の切り札「空圧電池」

 ◇日本全体の電力は1億キロワットで十分

 

 山地の多い日本は、「中山間地域」と呼ぶ地域が国土の70%を占める。中山間地域とは、平野の端から山間地にかけてを指す。地域の産業は農林業が中心だが、農林業従事者の高齢化や後継者不足などから過疎化が進行し、衰退が著しい。

 一方で中山間地域には、木材資源や放棄田畑など、再生可能エネルギー施設を設置するうえで必要な資源や土地が豊富にあり、しかも安く手に入れることができる。

 そこで私は神戸製鋼所グループなどと協力して「山麓フロンティア研究会」を設立。こうした中山間地域のメリットを生かして、再生エネルギーを活用した地域振興のための取り組みを進めている。


 太陽光発電は天気によって発電量が変動する。しかも、中山間地域などの地方部においては、発電した電力を消費地に送るための送電系統網が脆弱(ぜいじゃく)だ。そのため多くの電力会社は、中山間地域の太陽光発電を系統網につなぐことに何らかの制限を設けていることが多い。送電系統網に太陽光発電をつなぎすぎてしまい、受け入れ可能な量を上回る電力が送電線に流れ込むと、高温になって送電線を溶かすといったトラブルを起こす恐れがあるためだ。

 こうした課題の解決策の一つが電力貯蔵装置だ。太陽光発電施設に併設すれば、発電した電力をためておくことができる。送電系統網に送るピーク電力量を調整できるし、発電電力を電力の必要な夜間などにシフトすることもできる。このため、中山間地域に多数の太陽光発電施設を設置することができるようになる。

 ただし、電力貯蔵施設に使う蓄電池として、鉛電池は不向きだ。蓄電容量が小さいので、多くの電池が必要になるためだ。その上、重い。リチウムイオン電池も、数百キロワット級の電力をためようと思えば高コストで、寿命も長くない。

 山間部に設置するのだから、できるだけコンパクトで単純な構造にする必要がある。そこで研究会は、電力貯蔵装置として「空圧電池」を用いた小容量・分散・多数配置型再生可能エネルギーシステムの開発・実用化に取り組んでいる。システムでは、圧縮しておいた空気を解き放つときに生じるエネルギーを使ってタービンを回し、発電する仕組みだ。空気の圧縮には、太陽光発電や風力発電などで余った電力を使う。圧縮した空気は鋼製タンクにためておき、電力が必要になったら、圧縮空気を放出して発電するシステムだ。

 余った電気エネルギーを力学的に変換する仕組みで、「電池」とは言っても、鉛電池やリチウムイオン電池といった電気化学系の蓄電池とは基本原理が異なる。

 研究会が岡山県美咲町で計画中の実証事業では、この空圧電池や空気タービンに、太陽光発電装置や木質バイオマス発電装置を組み合わせた総合システムを構築する考えだ。

 

 ◇新旧蓄電池の欠点補う

 

 空気タービンには、中小規模の発電に適した神戸製鋼所製の「2軸スクリュータービン」を用いる。同社はすでに神戸総合技術研究所で空圧電池と空気タービンを組み合わせた出力55キロワットのテストプラントを稼働中で、静岡県河津町でも風力発電と組み合わせた同1000キロワットの空圧電池・空気タービン設備を12月の完成を目指して建設中だ。

 空圧電池と再生エネルギーを組み合わせれば、電力を発電する際にCO2を排出しない。化石燃料や原子力などのように危険な化学物質を用いることもないので、爆発事故や化学物質漏れなどの公害の懸念もない。さらにタービンを空気で回すため、ガスタービンや蒸気タービンに比べて長持ちするメリットがある。

 また、このシステムを導入すれば、他設備との相乗効果によって木質バイオマス発電の「容量効果」を克服できる。木質バイオマス発電の容量効果とは、発電容量が大きくなるほど、発電施設の効率性がアップして単位当たりの発電コストが下がるということだ。農林水産省は当初木質バイオマス発電事業の損益分岐点を発電規模5000キロワット級と算定していたが、最近では技術の進展もあって、2000キロワット程度まで下がっている。

 しかし、1000キロワット級の大規模な木質バイオマス発電設備は燃料である木材資源の調達が難しい。出力300キロワット以下なら、システムを設置した周辺町村の地域木材を燃料資源として持続的に活用できる。容量効果が出ないとコストは高止まりしてしまうため、小さな容量クラス単独で利益を出すのは困難である。

 そこで、太陽光発電と空圧電池を組み合わせるとよい。すると数百キロワット規模の木質バイオマス発電でも安定した利益を生み出せる。

 

 ◇長期稼働で高い経済性

 

 空圧電池を太陽光発電システムへ単純に追加投資すると、空圧電池の容量にもよるが、設備投資回収費用は太陽光発電単体の場合に比べ2倍程度かかる。

 ただ、空圧電池の寿命はほかの蓄電池よりも長い。そのぶん長い期間にわたって利益を確保できる。空圧電池の主要部材である鋼管は、空気貯蔵向けだけなら50年間超、長ければ100年間使用可能だ。さらにシンプルな構造の空気圧縮機と空気タービンは、きちんとメンテナンスすれば50年間は十分持つ。

 同時に、研究会は「100年」の超長寿命構造の太陽光パネルの開発・商用化を目指して開発を促進してきた。現段階では技術力のあるパネルメーカーがパネル両面を厚さ2ミリの強化ガラスで覆った寿命50年の太陽光パネルの商用化に成功している。

 これを空圧電池と組み合わせ、20~30年の長期にわたって初期投資費用を回収するとともに、それ以降の寿命まで太陽光発電の売電で得た利益をシステムの維持に充てる事業モデルを検討している。

 日本全体の発電施設を合わせた総発電容量(能力)は、本来、1億キロワットで十分だ。しかし、作った電力量と使う電力量を一致させる「同時発電同時消費」の原則の軛(くびき)に縛られているために、最も使用量の多いピークに合わせて発電施設を設ける必要がある。このため、総発電容量は必要以上に多くなってしまっている。

 ピーク対応発電機として、電力会社すべての余剰設備は計1億キロワットに上る。さらに企業の自家発電設備が5000万キロワットもあることから、日本全体の総発電容量は2億5000万キロワットに及ぶ。

 これを太陽光発電を中心とした「再生エネ発電+空圧電池」のシステムに置き換えていけば、理論的には電力会社の余剰設備の1億キロワット分が不要になる。この不要になった発電資産を売り払い、売却で得た資金を空圧電池の設置に充てれば、それだけでも日本に必要な空圧電池すべてを設置できるようになるだろう。

 そもそも、筆者は太陽光発電だけで十分日本全体の電力を賄えると考えている。再生可能エネルギーをさらに普及する上でも、日本は空圧電池を拡大・普及するための明確なエネルギー電力ビジョンを策定するべきだ。純国産資源で電力を賄うことができるようになれば、もちろん、現在の年10兆円に上る発電燃料の輸入向け外貨の持ち出しは不要になる。(了)

(『週刊エコノミスト』2016年11月8日号<10月31日発売>76~77ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年10月31日

週刊エコノミスト 2016年11月8日号

 

〔特集〕 家は中古が一番

 

五大都市圏「無理なく買える家」MAP

住宅ローンは歴史的低金利

新築バブル崩壊の引き金
中古購入の要チェックポイント
事故物件はお得か


2016年

10月

04日

第40回 福島後の未来をつくる:本間龍 著述家=2016年10月4日号

 ◇ほんま・りゅう

 1962年生まれ。博報堂で約18年間営業を担当。2006年に退職後、在職中の損金補てんにまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴。出所後に服役経験をつづった書籍を上梓。著書に『電通と原発報道』(亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(岩波新書)など。

 ◇メディアを支配してきた原発プロパガンダからの脱却

 

 私は2006年に退職するまで18年、大手広告代理店の博報堂で営業職を務めてきた。スポンサー企業と接して業務を受注し、集金の責任まで負う部門だ。出身母体である広告業界は、原発の「安全神話」を国民に刷り込み、日本の原発推進に大きな役割を果たしてきた。現場のやり取りを経験した身にとって、メディアと原発を推進する電力会社や関連企業・団体との癒着の構造は手に取るように理解できた。

 しかし、事故から数年が経過しても、メディアや広告業界が過去を全く反省しない実態を目の当たりにした。さらに電力会社はいま安倍晋三内閣の政策にのっとって再稼働への準備を着々と進めている。東京電力福島第1原子力発電所の事故により、いまなお故郷に帰れない人は10万人に及ぶ。原発はいったん事故が起これば数十万、数百万単位の人生を台無しにしてしまう。その発電システムを存続させていく合理的な理由が果たしてどこにあるのか。


 原発は1950年代から国策として国が主導してきた。政官学と経済界が展開した原発推進PR活動は、実施された期間と費やされた巨額の予算から考えて、世界でも類がないほどの国民扇動プロパガンダだった。私は広告業界にいた者として、その仕組みを告発しようと考えた。

 数字でそれを示そう。電力9社(原発がない沖縄電力は除く)が1970年代から3・11までの40年間に使った広告費は、実に2兆4000億円(朝日新聞社調べ)。これは国内で年間500億円以上の広告費を使うトヨタでさえ、使用するのに50年近くかかる莫大(ばくだい)な金額である。

 さらに経済産業省などの政府広報予算なども加えれば、投下された金額はその数倍に膨れ上がる。

 この巨大な広告費の目的の一つは、「原発は安全でクリーンなエネルギー」という国民に対する洗脳、そして広告を掲載するメディアに暗黙の圧力を加えることにあった。

 定期的に年間数千万、数億円で広告枠を買ってくれる大スポンサーは非常にありがたい存在だ。特にバブル崩壊以降の景気低迷で広告収入の減少に苦労したメディア各社は、電力会社に盾突いて貴重な収入源を失うことを極端に恐れた。自然と広告の審査は甘くなり、電力会社の広告はノーチェックで新聞・雑誌上にあふれるようになった。

 

 ◇地方紙の掲載段数に注目

 

 日本における本格的な原子力発電の始まりは1970年の敦賀原発(日本原子力発電)、美浜原発(関西電力)、71年の福島第1原発(東電)の運転開始になる。すでに68年には30段(新聞2面分)の広告が福井新聞に掲載され、これが事実上の原発広告の始まりと思われる。

 この頃の広告媒体といえば、テレビ放送はまだ黎明(れいめい)期で、新聞が圧倒的に強かった。特に地方では県紙と呼ばれる地域密着の新聞があり、世帯普及率が50%を超えることもあった。私はこの地方紙に注目した。

 地方紙への広告掲載段数の推移を見れば、傾向がはっきり見えるのではないか、と考えたのだ。国会図書館で丹念に過去の地方紙を調べればできないことではなかった。そこで私は約1年をかけて調べ上げた。

 新聞1面の全面広告は15段広告となる。つまり150段という数字は1面全面の広告が掲載された日が、年間に10日あったと判断できる。

 この調査で明確になったのが原発広告の二面性であった。つまり、平時の電力会社の広告は、常に原発政策はバラ色です、と報道してもらうための「賄賂」であり、事故など有事の際は、広告引き上げをちらつかせメディアに報道自粛を迫る「恫喝(どうかつ)」手段である。実際に掲載段数の推移は、稼働前や事故時に急増する傾向が明確に見えた。

 表1は90~99年の原発立地県の地方紙への広告掲載段数の推移だ。これを見ると、たとえば茨城県の東海村で起きたJCO臨界事故があった99年の地方紙の広告掲載段数は1541と、他の年を圧倒している。

 柏崎刈羽原発のある新潟県の新潟日報には96年に719段もの広告が掲載されている。実はこの年、東北電力の巻原発の建設是非を問い、自治体による全国初の住民投票が巻町(現新潟市西蒲区)で実施されている。住民投票は町を二分する争いとなったが、住民は建設を拒否した。この裏で、これだけの広告が掲載されていたのである。

 この「原発プロパガンダ」は福島原発事故後、その表現に大きな変化が生じる。事故以前の広告には、「原発は安全」「クリーンなエネルギー」「日本のエネルギーの3分の1を担っている」。この3本柱がほぼ必ず盛り込まれていた。しかし、事故後にこのスローガンを使うことはできなくなった。そこで広告代理店やPR会社を総動員して新しいスローガンを考えた。それが「原発は日本のベースロード(安定供給)電源」「火力発電は二酸化炭素を排出するので環境に良くない」「原発停止による割高な原油輸入は国富の流出になる」。しかし、その一つ、原油高による国富流出は昨年からの原油市況低迷で使えなくなった。

 すると今度は「エネルギーのベストミックス」という言葉を使いだす。結局、原発の広告は、本質的に推進する意義がないからこそ、その場しのぎのロジックとなる。最近は文化人などを巧妙に登場させ、「震災からの復興」「風評被害の撲滅」という新たな錦の御旗(みはた)を掲げ、原発プロパガンダがひそかに復活しつつある。

 こうした一方的なプロパガンダに翻弄(ほんろう)されないためには市民にどんな意識が必要なのか。重要なのは、日々目の前に流れるニュースを軽々に信用せず、自分の頭で考えることだ。その意識があれば多くのニュースの「目的」を見破ることができる。そのためにもっとも手軽な方法は、インターネットを活用することだ。

 私の情報収集で大きな力になっているのもツイッターとフェイスブックである。それらを通じて地方在住の方から、「今日、地元新聞にこんな原発広告や記事が掲載」という情報をいただくことが多く、組織に属さない私には大きな力になっている。

 二つ目に重要なのは、それらツイッターなどのネットワークを活用して、独立系メディアの情報に耳を傾け、支えることだ。その多くは企業からの広告をほとんど取らないがゆえに総じて経営規模は小さく、大メディアと比較すれば発信力が小さい。しかし、広告主からの干渉を受けないからこそ、真実を伝える可能性が高く、貴重なのだ。表2に、その中でも、比較的規模が大きく発信力が高い団体を挙げた。

 原子力資料情報室など、政府や企業からの援助を受けずに活動しているNGO(非政府組織)やNPO(非営利組織)なども、独自の放射線量調査などを継続的に行っている。こうした団体の会員になるなど少しでも支援することが大事なのだ。バイアスがかかっていない情報を選(よ)るには、それなりのコストや努力が必要だということを私たちは認識しなければならない。

 近い将来、私自身も過去の原発の記事や広告を徹底的に収集、公表し、さらに最新状況を分析するNPO組織を立ち上げたいと考えている。(了)

2016年

9月

06日

第39回 福島後の未来をつくる:小西雅子 WWFジャパン気候変動・エネルギープロジェクトリーダー=2016年9月6日号

 ◇こにし・まさこ

 1958年兵庫県神戸市生まれ。ハーバード大学院・環境公共政策学修士課程修了。中部日本放送アナウンサーなどを経て2005年9月から現職。日本気象予報士会副会長。近著に『地球温暖化は解決できるのか』(岩波ジュニア新書)。

 ◇現状の送電インフラ活用で

 ◇全電源の50%再エネも可能

 

 未曽有の被害をもたらした東京電力福島第1原子力発電所事故は、筆舌に尽くしがたい災禍であったが、それをきっかけとして日本は再生可能エネルギー導入に本格的に取り組み、全量固定価格買い取り制度(FIT)の導入や、これまでなしえなかった既得権へ切り込んでの電力自由化や、地域間連系線の運用ルールの見直しなどが進みつつある。日本においても技術的にも経済的にも早期に再エネの大量導入が可能であることが明白になりつつある。

 ◇原発前提の出力制御

 

 再エネの導入が、欧州や米国、中国などの再エネ先進国に比べて遅れた日本では、いまだ時代遅れの主張が聞かれる時がある。


「出力不安定な再エネを導入すると停電のリスクが高まる」「再エネ導入は地域間連系線の増強や蓄電池の大量導入がない限り難しい」「再エネはコストが高い」など。その最たるものが再エネの電力系統への「接続可能量」、つまり送電線(送電系統)へ接続可能な電力の容量制限を指した言葉ではないか。

 実はこれは非常に翻訳が難しい言葉だ。なぜなら再エネ先進国ではそのような概念はないからだ。欧米では再エネは「不安定な電源」ではなく「変動する電源」と呼ばれており、その変動吸収の手法は数多くある。どの手法から選ぶか、という選択の問題で、再エネの系統接続に上限があるわけではない。

 日本で言う「接続可能量」とは、FIT導入後に急増した太陽光発電の接続申し込みに対して、2014年9月に九州電力などによる電力系統への接続を保留する問題が発生したことを受けて、経済産業省の審議会、系統ワーキンググループ(系統WG)で検討されたものだ。

 全国の10地域のうち、電力需要の大きい東京、中部、関西電力を除いた7電力会社地域に、系統に接続できる「接続可能量」が設けられた。

 この接続可能量を超えて申し込む事業者は、無制限・無補償の出力制御を受け入れなければならない。すでに九州、東北、北海道電力など再エネが増加している地域では、新たに系統接続を申し込む事業者にこのルールが適用されている。

 どのくらい出力制御が行われる見通しかも発表されており、15年11月に系統WGで示された見通しによると、たとえば九州電力管内に500万キロワットの太陽光発電が追加された場合には、発電量のうち46%分が出力制御される、と示されている。この見通しは2シグマ方式といって、太陽光、風力の各時間の出力を合成した値のうち、各月における最大値から2番目の値を基礎とした試算がベースになっている。

 一方、WWFジャパンでは14年9月に、再エネ事業者から九電の電力系統に接続を申し込んでいた当時の量1260万キロワットの再エネがすべて導入された場合の系統システムの定量的分析を、株式会社システム技術研究所に研究委託して発表した。

 これは系統WGで電力会社が採用した2シグマ方式よりさらに踏み込んで、13年度の実際の電力需要と、九州電力管内の気象データに基づく365日1時間ごとの太陽光、風力の発電電力量を8760時間にわたりシミュレーションしたものだ。実際に1260万キロワット導入された場合、どの時間帯に、どの程度の容量が余剰となるのかをシミュレーションし、既存の電力系統システムで導入可能かどうかを検証した。

 その結果、既存の九州・中国間の地域間連系線の運用容量が使える前提ならば、再エネの出力制御はほとんど必要ないことがわかった。

 この時に明白となったのは、再エネの発電量の抑制日数(時間数)と抑制量は、原発の有無で大きく変わることである。今回のWWF検証では、現実的な再稼働の可能性を考えて、川内原発のみを取り上げて、原発がある場合とない場合を想定してシミュレーションしたが、原発なしの場合には、抑制日数は、年間で25日(88時間)、地域間連系線の運用容量が利用できるなら抑制日数は同1日(1時間)のみとなった。原発ありの場合でも、地域間連系線の運用容量を利用できるなら、抑制日数は同16日(46時間)のみとなる。

 既存の連系線が日常的に活用されるならば、この規模の再エネが、現状のインフラのままで利用できることが確かめられたと言える。

 つまり「接続可能量」とは、物理的な制約というよりも、現実に即していない原発の稼働の想定や、本来活用できるはずの地域間連系線などの既存設備が何らかの理由で妨げられているなどの社会的な制約が問題であることが示唆された。

 

 ◇地域間連系線がカギ

 

 この九州電力管内の検証シナリオに先立って発表したWWF系統シナリオでは、全国9エリアにおける地域間連系線の必要容量を検証した。

 その結果、全国の電源構成のうち再エネの割合が発電電力量で50%となる場合でも、既存の地域間連系線で十分に間に合うことが示された(図)。まずは既存の地域間連系線を最大限活用して再エネ導入を図っていくことが、日本で最も早期に実現できる経済的なエネルギー対策であり、また有効な温暖化対策なのである。

 それには既存の地域間連系線の運用ルールの見直しが急務だ。日本の地域間連系線は実は欧州にもひけをとらない容量があるところが多いものの、今までは既存の大手電力が既得権として大部分を使ってきたため、新規の電力事業者は空きをなかなか手に入れることができず、他地域へ電気を送ることが難しかった。

 しかし、16年8月に全国規模で送電網を管理する電力広域的運営推進機関(広域機関)において、地域間連系線の利用ルールを見直して、発電コストの低い電源を優先的に流すことが可能となる仕組みに変えていく方向性が示された。詳細な検討はこれからだが、基本的に見直しされることが示されたのだ。

 コストの低い電源というと今の日本では石炭火力や原発を思い浮かべるかもしれないが、再エネ先進国では再エネはいったん建設されると燃料費がいらないために、時には市場の評価でマイナス価格となるほどのコストの安い電源とみなされている。再エネ電力は優先給電されることにはなっているが、遠くない将来には経済合理的な選択としても再エネが選ばれるだろう。

 実は先ほどの九州電力管内は、先進的な気象予測を使った出力予測システムに基づく需給調整が行われ、すでにかなりの再エネ電力が供給されるエリアとなっている。天気に左右される再エネは、逆に言えば気象予測を使った出力予測システムを使えば、太陽光や風力の発電出力が予測可能となって調整しやすくなるのだ。九州電力が7月21日に発表した「再エネの導入状況と至近の需給状況について」によれば、16年5月4日の午後1時には電力需要の66%が太陽光と風力で供給され、1日の電力量でも38%が再エネで占められた。こういった歩みを加速させて、全国的に早期の再エネの大量導入を果たしていくことが福島原発事故を経た私たち世代の責任ではないだろうか。

(了)

2016年

8月

16日

第38回 福島後の未来をつくる:枝廣淳子 東京都市大学環境学部教授=2016年8月9・16日合併号

 ◇えだひろ・じゅんこ

 1962年京都府京都市生まれ。東京大学大学院教育心理学専攻修士課程修了。『不都合な真実』(アル・ゴア著)の翻訳をはじめ、環境問題に関する講演、執筆多数。幸せ経済社会研究所所長、NGOジャパン・フォー・サステナビリティ代表。

 ◇未来に向けた柏崎の挑戦

 ◇原発賛否を超える対話

 

2016年7月10日、第24回参議院議員通常選挙で自由民主党が大勝する一方、鹿児島県知事選では国内で唯一稼働する九州電力川内原子力発電所を「停止して点検するよう九電に申し入れる」との公約を掲げた三反園訓(みたぞのさとし)氏が当選。自民党は参院選でも大勝したことから、国レベルで原発再稼働を加速させる。しかし地域レベルをみると、消えることのない声なき「反対」の声に、動きの取れない状態が続くだろう。

 ◇原発再稼働をめぐる四つの問題点

 

 原発再稼働に関しては多くの問題点がある。一つは、あいまいな原発の「地元」の定義、二つ目は不明瞭な再稼働の判断責任、三つ目は日本では核廃棄物の最終処分地も処分方法もまだ決まっていないこと、そして国民議論が不在の国のエネルギー政策の問題だ。


 四つめの問題点である、国民との対話や議論のないところで原発政策が進められていることについて、自民党政権になって増長していることをもっと危惧しなければならない。

 福島原発事故後、当時の民主党政権は、今後の日本のエネルギー政策を決めるプロセスに国民的議論を入れた。そのプロセスから「国民の多くが原発ゼロを望んでいる」ことが明らかとなり、民意を反映して2030年代に原発稼働ゼロとする革新的エネルギー・環境戦略が策定された。しかし、経済界を中心とする反対勢力などに押され、閣議決定はなされなかった。その後、自民党政権になると、ほぼ原発推進派の委員からなる委員会でエネルギー政策が議論され、討論型世論調査などの国民的議論もないまま、30年の原発電源比率は20~22%と決められた。

 たしかに電気料金は重要だ。しかし、私たちは、個人としても組織、地域、社会としても、今日明日だけを考えて生きているわけではない。

 現在までのエネルギー政策の決め方は、国民の思いや意見に耳を傾けることを拒否し、ひたすら経済界の「電力コストを早急に下げよ」という声に沿うものに思える。長期的に考え、本当に大切なものは何かについて国民的議論を踏まえて政策や方向性を考えていくこと、その重要性を、福島原発事故は私たちに教訓として残したのではないだろうか。

 国レベルではエネルギー政策をめぐる対話や議論はなくなっているが、他方、地域レベルではさまざまな試みや取り組みが行われている。

 私は新潟県柏崎市のエネルギー市民対話ファシリテーター(議事進行役)として12年から15年まで、中立的立場で地域住民の相互理解や合意形成に向けて取り組んだ。

 

 ◇意見対立を昇華する場

 

 1985年に東京電力柏崎刈羽原発の営業運転開始後、原発7基を抱える人口9万人の柏崎市は、「エネルギーのまち」として発展してきた。原発誘致の頃から、推進派と反対派が激しく対立。今までは原発の話題には触れないことで、狭い地域社会での折り合いをつけてきた。しかし福島原発事故後、会田洋市長の「エネルギーのあり方やこれからの柏崎のまちづくりについて、市民の皆さんと考え、話し合いする機会をもちたい」という思いから12年に「明日の柏崎づくり事業」が始まった。

 運営を担う実行委員会メンバーは、商工会議所のメンバー、大学教員や医師、地域の自治会長、原発と地域住民との対話づくりに関わってきた人など、年齢も立場もさまざま。委員8人の3人が原発推進派、2人が反対派、3人が中間派だ。

 委員会の初会合は重苦しい空気だった。ファシリテーターの私は、原発や再稼働の是非を議論するのではなく、「将来どのような柏崎であってほしいか」を皆で出し合って議論するワークショップ形式で進行した。議論を重ねるうちに、原発に対する考えや立場は異なっていたとしても、「柏崎の将来を思う気持ち」や「何かを変えたい」「立地地域の声を国や消費地に伝えたい」という思いは同じであることがわかり、共通の目標を確立することができた。

 委員会はそのような思いを市民とも共有・議論したいと、「これからの柏崎とエネルギーを考えるシンポジウム」を12年9月に開催。原発誘致をめぐり市民同士のつらい対立があった地域での初めての試みに、不安の声もあったが、自身の思いを率直に伝え、ほかの人の考えに冷静に耳を傾けるという、これまでにない会となった。

 シンポジウム1日目は、これまでの柏崎市について。市の柏崎のこれまでに関する中立的な説明のあと、原発推進・反対の立場の実行委員がそれぞれ、自分の思いやこれまでの柏崎に対する考えを話した。その後これからの柏崎について、企業経営者やUターン市民、大学生などが思いや考えを語るパネルディスカッションを行った。

 参加者のアンケートには「原発賛成、反対、中立派が一緒に議論をすることは初めて、大変よかった」「こんなに静かに議論できる場があることに驚いた」といった感想が多数あり、このような対話の場に期待が寄せられていることがわかった。

 2日目は「柏崎の未来をみんなで語ろう、考えよう」と題し、市民の井戸端会議を開催。約60人が参加し、方法論や実現可能性の有無は考えず相手の話を聞くことをルールに、柏崎の好きなところや柏崎の希望あふれる未来などを小グループで多数挙げていった。その後、いくつかの小グループで意見を共有し、全体で発表。世代も立場も異なる市民が、和気あいあいと柏崎の魅力を語り合った。うまくいくだろうかと心配していた市長が驚くほどの盛り上がりだ。何十年も話をしたこともなかった、強硬な原発賛成派と反対派が同じテーブルに着き、会が終わったあとも語り合っている姿に、市の職員が驚いていたのが印象的だった。

 明日の柏崎づくり事業の2年目には、より広い市民にエネルギー問題を考えてほしいと、ジャーナリストの池上彰氏による講演会を13年11月18日に開催。1週間後に行った「柏崎の産業を考える」シンポジウムでは、地元で再生可能エネルギー事業者が難題に向き合いつつ取り組みを進めている様子に感動と共感が生まれた。過去の柏崎では、「原発以外の産業を考える」=「反原発派」と捉えられるなど、新しい産業を考えることもままならない状態だった。原発の有無に関係なく、原発以外の産業を考えることは柏崎にとって良いこと・必要なことではないかという雰囲気が醸成されていった。

 事業3年目は、「生き残りをかけて─柏崎の産業のこれから」という産業と地域経済を考えるシンポジウムを14年9月29日開催後、より具体的な産業づくりについて考えていこうと、先進的な活動を展開している企業経営者やNPO法人代表などを講師に迎え全4回の勉強会を14年10月から12月に開催した。

 柏崎市の対話の取り組みを手伝ってきて、これまで声を出せなかった人が意見を述べ、考えることのなかった人が考えることができる場をつくり、次のステップにつなげていくことが重要だと考えている。実行委員会はまさに、そのような対話が実践できた場であった。対話を重ね、原発賛成や反対、立場の異なる人たちが、冷静に議論をすることができ、「意見に賛成はしないが、なぜあなたがそう考えるのかはわかった」と互いに語るようになった。この信頼感が醸成されたとき原発や再稼働の賛否を超え、「共に未来を考え、動いていく場」が生まれた。

 このプロセスは、他の原発立地地域など地域にさまざまな賛否両論を抱える地域の役に立つだけではなく、本当の意味での国のエネルギー政策を創り出していくうえでも一考に値するのではないだろうか。

(了)

2016年

7月

05日

第37回 福島後の未来をつくる:本間照光 青山学院大学名誉教授=2016年7月5日特大号

 ◇ほんま・てるみつ

 1948年生まれ。小樽商科大卒。専門は保険論、社会保障論。2016年3月まで青山学院大教授。著書に『社会科学としての保険論』『保険の社会学』『階層化する労働と生活』など。

 ◇加害者に甘い原賠法見直し

 ◇災害対策としての位置付けが必要

 

 原発事故発生時の電力会社の責任を定めた「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」の見直しが進んでいる。原賠法は事故の過失・無過失にかかわらず、事故を起こした電力会社に上限なく賠償責任を負わせる「無過失責任主義」「無限責任」が原則だ。

 しかし、改定にあたっては、電力会社の賠償責任の免除(免責)や有限責任化を目指す流れが強まっている。このままでは、被害者や国民は犠牲を強いられ、加害者=電力会社を守る構図になりかねない。

 

 ◇崩れた「建前」

 

 原賠法の改定に向けた議論は、内閣府原子力委員会に設けられた「原子力損害賠償制度専門部会」で進められている。専門部会は学識者やジャーナリスト、財界・原発事業者ら25人で構成され、2015年5月から10回の会合を重ねてきた。


 1961年に制定された原賠法は、第1条で「被害者の保護を図り、原子力事業の健全な発達に資することを目的とする」と明記している。この二つの目的のうち、「被害者の保護」を何より優先すべきであるのは国会の付帯決議などで明らかだ。

 原賠法は、原発事故を起こした電力会社に無限の責任を負わせるとともに、「賠償措置」の設定を義務付ける。これによって政府の補償契約か民間の保険会社の責任保険のいずれかを通じて迅速かつ確実に賠償金を支払えるようにするとしている。

 原発事故が戦争や社会的動乱、または異常に巨大な天災地変によって生じた場合には、電力会社の賠償責任を免除し、国が「何らかの措置」を行うこととしている。

 また、賠償措置額を超える責任が生じた場合には、電力会社への「国の援助」で対応するとしている。

 実は、60年に科学技術庁(当時)が日本原子力産業会議に委託してまとめた報告書は、原発事故時の損害額が当時の国家予算の2倍にあたる3兆7000億円に上ると試算していた。これを受け、賠償に伴う負担を電力会社の外に回す原賠法が制定された経緯がある。

 その前提には、原発事業において重大事故は起きない、仮に起きたとしても被害や損害は公衆に広くおよばないという「建前」があった。原賠法で定められた電力会社の賠償措置額が原発1サイト当たり1200億円(当初は50億円)と少額なのは、こうした事情があったためだ。

 しかし、この前提は福島事故によって崩れた。原発事故は起き得るし、事故が起きたら電力会社だけではとても負いきれない賠償責任が発生することが明らかになったのだ。

 福島事故の場合、東京電力は事故の原因となった東日本大震災が「異常に巨大な天災地変」にあたるとして賠償責任が免除されることを期待した。これに対し、政府は「津波」が原因だと判断。東電と結んだ原子力損害賠償補償契約に基づき、1200億円を支払った。

 だが賠償負担はすでに7兆円に上り1200億円だけでは到底足りず、東電は事実上破綻状態に陥った。その結果、国の管理下で賠償金を払いながら再建を進めることになった。

 このことからも分かるように、原賠法は、いわば原子力事業を進めるための「ポーズ」としての役割を担ったにすぎない。

 福島事故によって原賠法が機能不全の状態に陥っていることを如実に示すのは、11年8月に成立した特例法「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」だ。原子力損害賠償・廃炉等支援機構を「トンネル」として、本来、東電が負担すべき賠償資金が国費から投入されているからだ。

 この原資は政府のエネルギー対策特別会計の借入金で賄われている。加えて、借入金の返済には、東電を含む電力会社が電力料金に上乗せして国民から集めた「一般負担金」や、東電が負担する「特別負担金」が充てられる。特別負担金は一般負担金の3分の1ほどにすぎない。

 つまり、電力料金や税金の形で東電の賠償責任の多くを国民が負担している。しかも、こうした形で負担していることを納税者や市民は知らされていない。

 福島事故後、電力業界と財界からは「原子力事業は『国策民営』なのだから事故時の賠償は国家が責任を持ち、国家が補償すべきだ」「電力会社の責任や負担が諸外国に比べて重すぎる」といった意見が噴出した。

 しかし、諸外国のことを言う前に、まず自身の経験に学ぶべきだ。また「国策民営」と言いながらも、この「民」は国民ではない。実体は、政商ともいうべき巨大ビジネスだ。

 いま原賠法の見直しが進められているのは、被害者保護のためではない。同法を骨抜きにすることで、法的にも電力会社の免責や有限責任化を正当化したいと考えているのだ。

 電力業界と利害関係者が福島事故から学んだのは、賠償責任を回避することだったと言わざるを得ない。

 内閣府の専門部会では、電力業界や財界出身の委員や業界寄りと見られる委員が少なくない。原賠法の二つの目的について「同等の重点を置くべき」「いずれか一方に偏ることがあってはならない」などと曲解したうえで審議が重ねられている。「事故が起きても事業者はつぶせない」「事業者の残余財産は残す」「電力会社の社債(電力債)は被害者保護に優先する」「電力会社に対する株主や銀行の貸手責任は問えない」といった意見まで出ている。

 見直しにあたって「電力会社の無限責任を維持する」としながらも、その中身が巧妙にすり替えられようとしているのである。電力業界や財界は、原子力事業が国策民営であるなら、事故時の賠償は国と電力会社の「連帯責任」とするべきだ、そして電力会社を有限責任としたうえで電力会社が負えない責任を国の責任、つまり国の無限責任としたい考えだ。実際に専門部会では、国と電力会社の連帯責任とするなら、事故を起こした電力会社=加害者が国に支払いを求めること(求償)ができるとする主張すら、多数派になりつつある。いわば加害者から被害者である国民に賠償請求を付け回す、無法化とも言える主張だ。

 

 ◇被害者に目を向けよ

 

 福島事故によって、原子力事業は技術的にも経済的にも、電力会社だけの手には負えないことが明らかになった。同法の見直しにあたり、原発事業の予見可能性を高め、事業の継続性を求める声ばかりが目立つが、これでは、福島事故から何も学ばないばかりか、事故に便乗して原発利権を拡大しているだけだ。

 法の本来の趣旨を踏まえれば、電力会社や国ではなく、国民の生存可能性や事故に対する予見可能性を高める制度にするべきである。そのためには、事故は起きないという前提ではなく、事故が起きた時にどうすべきか、起きても被害を最小限に食い止めるにはどうしたらよいかをまず想定するべきだ。

 つまり、地震や津波などと同様、賠償を含めた原発事故への対応も災害対策の一連の行為として位置づけ、資金面だけでなく全体のリスクと対応策を総合的に考える必要がある。さらに言えば、福島事故によって原発事業のリスクと賠償に対応できないことが分かった以上、原子力事業から手を引くべき時に来ている。国、すなわち国民負担も無尽蔵ではない。次に大きな事故が起きたら、もはや金銭的な余裕すらない。

 国民の生存可能性や事故に対する予見可能性を高めるためにも、金権的・強権的に推し進める原子力のような中央集権型の電力供給体制ではなく、市民参加型の運営が可能な自然エネルギーといった地産地消型の体制への移行が不可避だ。

(了)

2016年

6月

07日

第36回 福島後の未来をつくる:トーマス・コーベリエル 自然エネルギー財団理事長 2016年6月7日特大号

 ◇トーマス・コーベリエル

 1961年スウェーデン生まれ。スウェーデン・チャルマース工科大学教授。2008年から11年までスウェーデン・エネルギー庁長官を務めた。任期半ばで、自然エネルギー財団理事長就任のため退職。

 ◇自然エネの産業自立に必要な送電網の中立運用と監視

 

 東京電力福島第1原子力発電所事故(福島原発事故)から5年がたち、世界のすべての国で電力分野に急速な変革が起きている。日本は自然エネルギーによる電気の固定価格買い取り制度(FIT)により、まず太陽光発電の導入が先行して進んだ。残念ながら風力発電や地熱発電などの自然エネルギー分野の導入は進んでいない。なかでも日本は地熱発電の導入ポテンシャルが世界3位と膨大な地熱資源量を誇る有数の国であるにもかかわらず活用できていない。

 ただ、FITの買い取り価格は2016年度になっても、欧米、アジア諸国と比べても優遇された価格となっていることから、風力発電や地熱発電などの導入が今後加速していくことを期待している。


 そこで注意すべきなのは、FITはあくまで期間限定的な政策支援であることだ。FITを経てからの自立的な自然エネ普及こそが重要なのだ。自立的に自然エネを普及させるのに、政策立案の立場で心がけなければならないのは、新たな技術を開発しやすくする環境と、高コスト構造を変えていくことだ。日本の自然エネ発電のコストは他国と比べるとまだまだ高く、化石燃料を利用する発電より高コスト構造に陥っている。他国で自然エネは低コスト電源になっているのに、日本は取り残されている状況だ。

 

 ◇卸価格を下げる秘策

 

 自然エネの発電コストを下げるには、卸電力取引市場の活性化や新規投資の環境整備が重要だ。自然エネの低コスト化を実現できている国のほとんどは独立した組織・機関が送電系統網を運用している。送電系統網を中立公平に運用すれば、さまざまな種類の発電所を1キロワット時だけ増加させたときの増加費用の安い順に並べた「メリットオーダー」による発電ができる。実際のメリットオーダーの並びをみると、設置してしまえばその後はまったく燃料費のかからない水力発電や風力・太陽光・地熱発電が最初に置かれる。メリットオーダーができれば、卸電力取引市場の平均価格は安くなっていく。

 しかし現状の日本では、老朽化した火力発電所を数多く所有している電力会社が送電系統網を運用しているために、このメリットオーダーができていない。電力会社自前の効率の悪い火力発電所の電気を優先して送電系統網へ供給している。そして設置後の発電コストがかからない太陽光発電や風力発電の電気を送電系統網へ受け入れることを恣意(しい)的に妨げることができる。割高な電気を優先しているかぎり日本の電気料金は安くならないだろう。

 実際に欧州では自然エネ、なかでも風力の発電コストが、初期投資を含めても火力発電や原発よりも下がってきている。欧米の風力発電コストは1キロワット時当たり4~5円程度まで下がっている。日本はまだ22円で買われている状況だ。さらに日射量の多い国々では太陽光発電も同様に、価格競争力のある低コスト電源になってきている。

 自然エネルギー財団は16年4月に自然エネを中心とした日本の電力システム改革に関する提言をまとめた。日本でこれから自然エネの導入が自立的に加速して、電力システム改革が成功するには数ある提言のなかでも、20年に実施する予定の電力会社の発送電分離がカギをにぎっている。前述のように既存電力会社は古い発電所を所有していることから、送電系統網へのメリットオーダーが進まないために、電気料金の低価格化が進んでこなかった。発送電分離が完全に実施されれば、メリットオーダーを実現できる。

 私は約20年前、スウェーデンの電力自由化の諮問委員会の委員だった。スウェーデンは電力小売り全面自由化による完全競争と発送電分離を1996年1月から実施。スウェーデンの消費者は95年12月末まで、送電系統を所有している電力会社からしか電気を購入することができなかった。しかし、自由化によりスウェーデン国民は年が明けた96年1月1日から、どの小売り電気事業者からでも買えるようになった。

 ◇北欧とドイツの成功例

 

 スウェーデンは全面小売り自由化、発送電分離と一気に改革を推し進めたのだ。また北欧ではノルウェー、フィンランド、デンマークなどと一体となって自由化を進めてきた点も特徴的だ。発送電分離が機能的に実施されている欧州の国では、もっとも市場競争力をもつ効率のよい発電所の電気が優先的に取引され、有能な経営者が利益をあげている。そして旧態依然の電力会社は淘汰(とうた)されている。

 それに比べて、日本政府の電力システム改革のアプローチは、3段階だ。3段階とは広域的運営推進機関の設立と、小売りの全面自由化、発送電分離に分かれた漸進的な改革なので、さまざまな妨害にあって修正を余儀なくされる可能性がある。

 また発送電分離の成功には、市場を監視する機関の役目も見逃せない。スウェーデンでは送電系統などの監視機関が機能している。監視機関は、規制対象の独占事業体となっている系統運用会社について、発電企業や小売企業などの系統利用者から過剰料金を徴収していないかを厳しくチェックしている。

 さらに北欧の系統運用会社は運用の透明性を確保するために、リアルタイムの運用状況をインターネット上で公開している(写真)。そして系統運用会社のホームページでは給電管理室の状況や、デンマーク、フィンランドなどと送電系統を運用している北欧の他国の電気料金を一目で把握できる。

 またドイツの発送電分離の例をみると、ドイツでは民間の大手電力会社が送電系統網を保有していたことから、当初は日本と同様に送電部門を登記上別会社とする法的分離の形態で実施した。大手電力会社は送電部門を子会社化して分離したのだ。東京電力が16年4月から持ち株会社化して、送電部門の子会社として東京電力パワーグリッドを設立したことに似ている。ただドイツの場合、連邦ネットワーク庁が法的分離した後に行為規制を徹底したことで、発送電分離が成功した。行為規制とは、取締役兼任の禁止、情報の独立性の確保、親会社の意向に子会社の運営が左右されないなど、送電事業の中立性を十分に保つ規制だ。行為規制の徹底により、電力会社にとって送電子会社を所有し続けるメリットがなくなり、結果として各電力会社は送電子会社を売却していき、資本的に完全に独立した所有権分離につながった。これからの日本でも十分可能な方法だ。

 原子力政策を考える場合、日本は地震大国という現実を直視しなければならない。このことは長年議論されてきたが、福島原発事故で決定的となった。地震大国の日本では、いくら原発の工学技術開発に注力しても安全性を克服できないだろう。しかもウランは輸入燃料である。一方、日本には風力やバイオマスなど自然エネのポテンシャルは豊富だ。世界全体でみても原発の発電コストは自然エネに劣っている。先進国で、既存原発は次々と閉鎖されている事実を受け入れるべきだ。(了)

2016年

5月

31日

第35回 福島後の未来をつくる:原発裁判が問う科学と司法の関係 2016年5月31日号

 ◇ますだ・じゅん

 1950年島根県生まれ。73年司法試験合格、74年京都大学法学部卒。同年農林水産省に入省。77年東京地裁判事補、最高裁判所事務総局総務局付、福岡地裁判事、東京地裁判事、法務省参事官、東京高裁判事を経て97年退官。2004年に現職。

 ◇仮処分は科学技術の判断に不向き

 

升田純

(中央大学法科大学院教授・弁護士)

 

 原子力発電所の稼働を差し止める仮処分が裁判所から相次ぎ出され、司法と原発の関係に対する関心が高まっている。

 この1年の間になされた決定を次に挙げよう。

(1)高浜原発3、4号機の運転差し止めを認めた福井地裁の決定(2015年4月14日)

(2)その異議審で仮処分を取り消し同原発の再稼働を認めた福井地裁の決定(15年12月24日)

(3)高浜原発3、4号機の運転差し止めを認めた大津地裁の決定(16年3月9日)

(4)大飯原発3、4号機の運転差し止めを求める申し立てを却下した福井地裁の決定(15年12月24日)

(5)川内原発1、2号機の運転差し止めを求める申し立てを却下した鹿児島地裁の決定(15年4月22日)

(6)その抗告審でさらに申し立てを棄却した福岡高裁宮崎支部の決定(16年4月6日)

 短期間のうちに、それぞれ内容の大きく異なる決定が出されている。


 司法と原発の関係を考える上で踏まえてほしいのは、これら裁判はいずれも民事保全法上の「仮処分」であるということだ。民事訴訟法上の「訴訟」ではない。

 日本の裁判制度では、法律問題は最終的に訴訟によって解決されることとされている。これに対し、仮処分は「簡易で、暫定的な」裁判にすぎないとの位置づけだ。

 つまり、現在、原発裁判で注目されている仮処分は、あくまで「仮の地位を定めるための処分」である。例えば訴訟によって勝訴判決が確定するまでに、申立人に著しい損害を与えたり、差し迫った危険が及んだりするなど、特に必要性がある場合に限って認められるものだ。

 仮処分は、制度面でも、訴訟のように厳格な証明が求められていない。裁判に用いられる証拠もすぐに取り調べが可能なものに限られる。仮処分のこうした制約は、申立人に有利に働く傾向がある。最近の原発裁判では申立人である周辺住民が、この点を有効に活用しようとしたものと推測される。

 特に原発は、高度な科学技術を使って築き上げた大規模で複雑なシステムだ。しかも、法令に基づく各種基準や多くの専門家による審査などに従って設置、稼働が認められている。その稼働を差し止めるということは、電力会社や政治、行政機関だけでなく、社会生活や経済活動に重大な影響を及ぼすこととなる。

 にもかかわらず、大きな制約のある仮処分によって原発の稼働差し止めを認めること自体、問題があると言わざるを得ない。仮処分には、本来、証拠が限定され、厳格な証明が求められていないぶん、より慎重で謙抑的な審理や判断が求められるべきである。

 ◇ずさんな判断

 

 原発の稼働差し止めをめぐっては、11年の東日本大震災以前から、原発周辺の住民が原告となって国や電力会社などを被告とした訴訟などが多数提起されてきた。

 しかし、最近の原発裁判は、従来とは様相が異なる。福島第1原発事故や、原子力規制委員会をはじめとした原子力行政の刷新、原子炉等規制法など法令の改正、新規制基準の策定など、背景となる事情が変わっているためだ。最近は、政治や行政などの面から、原発の廃止や稼働差し止めの求めがいれられないことを理由に、裁判を利用してこうした目的を達成しようとする傾向がある。

 しかし、そもそも裁判には、議論の対象や手続き、判断者や判断の範囲・内容・基準など、多くの面で特有の制約がある点に注意が必要だ。その中で高度で複雑、大規模なシステムである原発を、科学技術に関する高度な知識や判断能力のない裁判官が適切・的確に審理・判断しなければならないのだ。

 医療や建築、製品・設備事故といった科学技術に焦点を当てた訴訟の場合、通常、各分野の専門家が鑑定人や証人を務めたり、論文や著作などその作成文書が証拠として提出されたりする。

 裁判官は、鑑定人の意見を基に判断することが多い。民事訴訟法の改正によって設けられた専門委員制度の利用が始まりつつあるが、まだ医療など一部に限られるし、利用範囲に大きな制約がある。

 筆者の見聞する限り、裁判では、信頼できる専門家に鑑定人や証人を依頼できる分野は極めて限られている。専門家と称する証人も、専門性に疑問のある場合もある。科学的知見を軽視したり、科学的に矛盾したりする判決も見かけたことがある。

 先に挙げた六つの原発裁判のうち、特に、(1)の高浜原発3、4号機の運転差し止めを認めた福井地裁の決定と、(3)の高浜原発3、4号機の運転差し止めを認めた大津地裁の決定は、その際たるものだ。何ら合理的な説明もなく、新規制基準などの法令に基づいてなされた行政上の判断を「不合理」だとした上で、裁判官自ら、科学技術に関する高度な基準を設定し、仮処分を判断している。

 決定文の論理構成も不十分だ。特に裁判所の判断について書かれた記述箇所は、(1)が27ページ、(3)が13ページにすぎず、この程度の分量で原発の稼働を差し止める判断を下したことは驚くばかりである。(2)は148ページ、(5)は118ページ、(6)は220ページに上り、分量だけでなく決定内容や論理構成などを比較しても、原発裁判として想定される水準に達していない。

原発裁判のように、高度な科学技術が争点になっている場合、適格な専門家の意見に耳を傾け、慎重に判断する必要がある。しかし、裁判官によっては専門家の意見を十分に聴取しなかったり、自らの見解を専門家の見解に代置したり、さらには自身の仮説を提示したりする事例まで見受けられる。

 制度的に仮処分の利用が制限されていない以上、今後も同様の問題が生じることだろう。

 裁判官は、裁判にあたって、その「良心」に従い、「独立」して職務を遂行することが憲法に規定されている。裁判官を拘束するのは、憲法と法律だけである。この規定を逆手に取って、自身の主観的な良心をことさら強調したり、法律も最高裁の判例も自身の都合に従って解釈したりする例もある。

 裁判官という人間が裁く以上、「裁判の独立」の誤用や乱用とも言える現状もあるのだ。

 裁判に求められるさまざまな重要な要請を無視したり、軽視したりする判決、決定がなされる可能性は常にある。裁判官の考え方や偏見、能力、知識などその人自身の持つ属性は、裁判の論理や内容、結論にも実は大きな影響を与える。

 図らずも、今回の原発裁判では、こうした裁判における実情や裁判官の属性によって左右される判断の違いがあらわになった。科学技術に関する高度な知識、判断能力のない裁判官の判断によって、高度な、あるいは最先端の科学技術の発展、実用化が阻害され、停滞する恐れが常にあることを心にとめておかなければいけない。

 ◇適用範囲の再考を

 

 近年は特に、政治や行政、社会などの分野で深刻な意見対立が生じると、その決着を裁判に求める傾向がある。原発裁判はその一例だ。

 そこで、信頼の置ける専門家を裁判に活用できるような審理の方法・体制を整備するとともに、特に高度で先端的な科学技術などについて争われる案件については、場合によっては仮処分の適用外とするなど、裁判や審理の範囲を限定する法制度の整備も必要だろう。

 科学技術は日進月歩で発展している。司法も裁判の本来の役割とあり方を踏まえ、いかに賢明な判断を下せるかが問われている。

(了)

2016年

5月

17日

第34回 福島後の未来をつくる:磯部達 みやまスマートエネルギー代表取締役 2016年5月17日号

 ◇いそべ・たつし

 1959年大津市生まれ、1981年同志社大学卒業後、松下電工(現パナソニック)に入社。サイアム松下(タイ)取締役、住建事業戦略部長、システム設備事業統括部長などを経て、2015年3月、みやまスマートエネルギー代表取締役に就任。

 ◇地域エネ構築し地方創生

 ◇自営送電線も構築する

 

 みやまスマートエネルギーは福岡県南部に位置する人口4万人のみやま市が、電気工事業等を手掛ける九州スマートコミュニティ、筑邦銀行と共同出資し、2015年2月に設立した電力会社である。社員は6人、資本金は2000万円で、市が55%、九州スマートコミュニティが40%、筑邦銀行が5%出資している。

 広大な筑後平野の東に位置するみやま市は、日照に恵まれた地域特性を環境政策に生かそうと、太陽光発電設備の普及に積極的に取り組んできた。市は家庭向けには太陽光導入補助事業を実施。現在、市内約1万4000世帯の9%に当たる1200世帯が太陽光パネルを設置している。また、市は民間事業者などと共同で市有地に5000キロワットの太陽光発電設備を設置し、売電事業も行っている。


 当社はこれらの太陽光を活用した電力小売り事業に取り組んでいる。まず100世帯の太陽光(300キロワット)の余剰電力と、5000キロワットのメガソーラーから電力を調達し、15年11月には公共施設向けの電力小売りを開始した。現在は約60カ所に供給している。

 4月からは自由化された家庭向けの小売りにも参入した。昨年ごろから自治体が出資する電力会社が全国各地に続々と設立され、各社が電力小売り事業を開始しているが、家庭向けの小売りを開始したのは全国で初のケースとなる。

 ◇毎年約20億円が市外へ

 

 当初は1000世帯程度から供給を始め、3年後には市の1万4000世帯の7割に当たる1万世帯に供給する目標を掲げている。供給エリアは市内に限らず、九州全域としている。再生可能エネルギーを活用した電力小売りに関心を持つ市外の方々から電力を購入したいという問い合わせももらっている。

 自治体が出資する企業が電力事業に取り組む背景には、地域資源を活用した自立・分散型のエネルギー供給システムの構築を通じて地域の活性化に貢献する狙いがある。

 みやま市は他の多くの自治体と同様、人口減少や少子高齢化、産業振興といった課題を抱える。解決に向けて注目した分野が、小売市場の全面自由化が決まった電力だった。

 みやま市の家庭は毎年約20億円の電気代を電力会社に支払っているが、その多くは市外に流出するので地域経済への貢献は小さい。そこで、自由化を機に太陽光で発電した電気を地域で消費する地産地消型の仕組みを構築し、地域内でキャッシュフローを循環させることができれば、経済の活性化につなげられると考えたのだ。分散型のエネルギー供給システムの構築は災害に強い街づくりにも貢献できる。

 実現に向けては、さまざまな準備を進めてきた。

 まず、一つが電力利用データの活用である。14年度、みやま市は民間事業者と共同で経済産業省の「大規模HEMS情報基盤整備事業」に参加した。各家庭のエネルギー使用状況を把握するHEMS(家庭用エネルギー管理システム)を全国の1万4000世帯に設置して電力利用データを収集し、さまざまなサービス開発等に役立てる仕組みを構築するプロジェクトで、みやま市は市内約2000世帯にHEMSを設置し、電力使用データの分析を実施した。

 この実証事業の成果の一つが家庭向けの電気料金プランである。HEMSを設置した家庭が、日々の生活の中で電気をどのように利用しているかを詳細に分析。それを基に市民の生活パターンに合った料金プランを三つ開発した。

 電力使用データはこのほか、電力の使い方で高齢者を見守る「見守りサービス」などの生活関連サービスの開発にもつなげている。

 もう一つ、開発を進めてきたのが需給調整システムである。

 周知の通り、電力を小売りする会社は、電力需要に合わせて供給量の調整を求められる。バランスを取れないとインバランス料金と呼ばれるペナルティー料金を支払う必要があるため、経営上のリスクになる。再生可能エネルギーは天候などによって出力が変動するため、需給調整が容易ではない。

 こうした課題を克服するため、九州大学と協力し、需給調整に必要なデータ解析にも取り組んでいる。再エネ電力の出力変動がどう変化するかを事前に予測し、不足する時は卸電力市場や電源を持つ他の電力会社などからの電力調達で補い、バランスを取りながら供給できる環境を整備した。

 今後は二つの方向で事業を展開させる。一つが、エネルギーの地産地消を推進していくことである。

 具体的には自営線を使った電力供給にも着手する。電力会社の持つ電線ではなく、自らが送電線を所有するのだ。自社で保有するには投資も必要となるが、送配電事業者に電線使用料を支払う必要がなくなり、事業の自由度を高めることができる。自営線を通じ、世帯間で再生可能エネルギーを融通し合う仕組みや、災害時でも電力を安定供給できる仕組みを構築したい。来年度から具体化に向けた取り組みを開始する予定だ。

 二つめがエネルギー供給を地域の活性化に役立てたい自治体との連携である。全国には約1700の自治体があるが、そのうち1400は人口10万人に満たない自治体だ。その多くはみやま市と同様、人口減少や少子高齢化という課題に直面している。そうした自治体に対して当社のノウハウを提供。電力の地産地消や、電力利用データを活用した生活関連サービスの提供を通じ、地域内で資金が循環する仕組みを構築することを支援していく。

 いま三つの自治体との連携を進めている。鹿児島県肝付町とは3月に小売り電気事業に関する連携協定を結んだ。肝付町は電力会社を立ち上げる検討を進めている。実現に向け、当社が持つノウハウを提供するほか、肝付町にある小水力発電所と、みやま市の太陽光発電設備のエネルギー融通にも取り組む。

 鹿児島県いちき串木野市とも提携した。同市は民間事業者が設立した電力会社に出資する方向で検討を進めている。電力事業の立ち上げを支援する。

 東京都環境公社が実施するモデル事業にも協力する。東京都は電力消費量に占める再エネ電力の割合を大幅に増やすため、再エネから電力を調達する電力会社を支援する方針を掲げる。当社は、公社に対して需給調整に関するノウハウを提供。公社はそれらを、再エネ電力を活用したい事業者に提供し、再エネ電力の普及につなげる。

 

 ◇安さより地域貢献

 

 自治体が参加するエネルギー事業者は日本ではまだ数えるほどしかない。しかし、欧州では自治体が出資する企業がたくさんあり、中には高いシェアを誇る企業もある。

 シェアが高い事業者の中にはエネルギー供給で得た利益で、採算性が低いものの、地域には欠かせないバス事業などに取り組んでいる企業もある。つまり、地域貢献に寄与するエネルギー会社を消費者が選択しているのである。

 電力の自由化が始まったばかりの現在、電力会社を選択する上では「価格の安さ」が注目されている。しかし今後、市場に多くの事業者が参入し、選択肢も増えていく中では、地域貢献という指標で電力会社を選ぶような環境も徐々に醸成されていくのではないだろうか。(了)

2016年

4月

26日

第33回 福島後の未来をつくる:エイモリー・B・ロビンス ロッキーマウンテン研究所共同創設者・チーフサイエンティスト 2016年4月26日号

 ◇エイモリー・B・ロビンス

1947年米国ワシントンDC生まれ。物理学者。米ハーバード大学などで学び、英オックスフォード大学では特別研究員も務める。2009年にはタイム誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」、またフォーリン・ポリシー誌が選ぶ「世界の頭脳100人」に選ばれる。

 ◇日本もできる「新しい火の創造」

 ◇米中では数百兆円の経済効果試算

 

 東京電力福島第1原子力発電所事故から5年たった。日本では国内の原発がすべて停止しても、省エネルギーの改善と再生可能エネルギーの普及拡大などにより不足の電力を埋め合わせることができた。

 海外をみると、ドイツは福島原発事故後に8基の原発を即時停止して、停止した分の電力を再生エネだけで賄い、さらに電力輸出も行っている。日本の福島原発事故の教訓は、原発がなくても電力は足りると分かったことだ。そして今後の5年間で、省エネ効率のさらなる改善や再生エネ導入を加速させることで、日本の原発再稼働は必要ないことを明確にしなければならない。原発を再稼働しても経済的にも社会的な採算性に合わないことが明らかとなるのだ。実際に欧米では原発の不採算性が証明されている。


 もう一つの教訓として、日本の産業界は、太陽光発電について、太陽電池モジュールをはじめとした関連製品を、非常に短期間で、低コストに製造・販売・施工できることを示した。2015年の日本の太陽光発電導入量は中国に次いで世界2位だ。日本の風力発電も何の制約もなければ同様の能力がある。

 つまり日本で再生エネによるエネルギー供給構造の大変革を実現するには、どれだけ公正な政策を実施できるかにかかっている。

 経済産業省の中でも、大手電力会社の影響下におかれて昔ながらの電力システムを維持しようとする勢力と、改革を促し分散型・再生エネの拡大を掲げる勢力に分かれて闘争中だ。どちらの勢力が勝利するのか興味深い。後者が勝てば、日本で進められている電力市場の自由化や発電と送配電部門の分離など、電力システム改革は表面的ではなく本当に実現できる。電力産業の大変革が起き、その変革の時流に乗れない既存電力会社は、欧州の電力会社のように生き残っていけない。

 そもそも既存電力会社の利権を守ることは、イノベーション(革新)の芽を摘むという弊害を生み出す。

 ◇中国は原発の9倍を投資

 

 私は「新しい火の創造」という概念を提唱した。世界のエネルギーの5分の4は依然として太古の化石を燃やし続けている。古い火から新しい火に変わるということは、石油と電気という二つの大きなエネルギーを変革することにある。新しい火とはエネルギーを利用する運輸、建物、工業、電力の四つの分野の効率化を進めるとともに、分散型の再生エネに切り替えて電力産業全体を転換させることだ。発電設備の大規模集中型と送電系統網で構成する電力システムから、分散型の再生エネと地域ごとのマイクログリッドへの再編である。電力系統の中の小規模発送電網であるマイクログリッドは、平常時は大きな系統と調和的に連携して作動し、上位系統が故障した場合などの非常時には地域独立的に稼働する。私たちは、安全・安心かつ持続可能な新しい火を必要としている。

 米国で10年から50年までにエネルギー利用の効率化と再生エネ導入という「新しい火」を創造できれば3・7兆ドル(約400兆円)を節約できるとの試算がでている。これは二酸化炭素の排出費用や、そのほかの隠れたコストをゼロに見積もった場合であり、実際の経済効果はさらに大きいだろう。石油も石炭も原発も使わずに、新しい連邦法の導入も必要なく、補助金もいらない。そして米国は、実際に新しい火の創造の軌道へ乗り始めている。

 中国でも新しい火の創造を実現できれば10年から50年までに22兆元(約380兆円)の節約効果がでると試算されている。これは中国政府関係者と54人の研究者が協力して2年半かけて詳細に分析した結果だ。

 中国は新しい火によりエネルギーの生産性が7倍に向上し、電源の82%が非化石燃料になるという。そうなると発電用の石炭は15年比で9割減となる。しかも中国では原発の導入は経済的に見合わなくなってきていると判断しており、50年における電源82%の非化石のうち、原発の割合は極力少なくなる。

 実際、中国政府は14年の再生エネ投資に原発の9倍の金額を計上している。中国の再生エネ導入量の計画は30年に累計1000ギガワットを達成し、さらに50年には2000ギガワットを掲げている。1000ギガワットとは米国のすべての送電系統網の受け入れ容量に匹敵する数値だ。中国は今後14年間で目標を達成するために、急ピッチで導入を進めている。中国は15年の1年間で、風力30ギガワット、太陽光と水力を各15ギガワット導入した。

 欧米は電源構成の100%を再生エネにすべく、かじ取りを進めている。それに対して日本の再生エネ導入の見通しは30年に22~24%にとどまる。実は日本の再生エネ導入潜在量は、先進工業国の中ではもっとも多様かつ豊富である。太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの1ヘクタール当たりの日本の再生エネ導入潜在量はドイツの9倍ある。にもかかわらず、日本の導入量はドイツと比べて1人当たり9分の1にとどまっている。

 なぜそのような状況が続いているかというと、日本は先進工業国の中で唯一、電力会社の独占体制が維持されているからだ。発電設備や送電系統網など長年築き上げた資産をもっている電力会社にとって、分散型の再生エネは大きな脅威だ。だからこそ、日本では環境アセスメントや電力会社による送電系統網への接続拒否など、さまざまな手段が用いられて風力などの導入が進んでいない。

 ドイツなどの欧州では独立系の系統運用事業者が存在するので、再生エネ電気の接続拒否はできない仕組みだ。そのことでドイツは、再生エネ産業が新興し、卸電力料金が下がり、経済が活性化し、既存電力会社の弱体化が起きている。

 

 ◇草の根で広がる脱電力

 

 欧米では消費者側からエネルギーに対する意識改革が浸透している。例えば米国ハワイ州では電力会社の電気料金が高騰しているため、送電系統網に接続しない家庭が増えている。太陽光発電と蓄電池、さらに時間帯に応じて消費電力を制御できるスマート家電を組み合わせることで、自家発電・自家消費の生活を送っている。ハワイでは全住民の8分の1が自宅屋根に太陽光発電を設置しているという。

 電力会社の支配力が強まりすぎると消費者は不快に思い、脱電力会社を進める。価格支配力は電力会社ではなく家庭にある。つまり、電力会社は多くの脅威にさらされている。

 また、欧州には、個人でバイオマス発電や風力発電を手がけている人から、家庭で使用する電気を調達できるウェブサイトがある。音楽のインターネット販売サイトのように再生エネ由来の電気を誰もが気軽に家庭で利用できるのだ。

 このように全世界の国民一人一人が、環境保全の観点から再生エネ電気を重視する、もしくは少しでも安い電気料金の小売企業を選ぶなどの電気に対する意識が変わっていけば、新しい火の創造を実現できる。

 既存の大手電力会社が今後も生き残っていくには、化石燃料による従来の大規模な火力発電や原発を建設して電気を売るというビジネスモデルから、エネルギー利用の効率化や再生エネを組み合わせたコンパクトな送電系統網を運用する方向へ転換せざるを得ない。

 今後の電力分野への投資は、発電所建設などにより電力の供給力を増やすのではなく、節電を目的とした投資にすれば、設備投資額を大幅に抑えることができ、かつ投資回収も早くすむ。回収した資金は節電設備の再投資へまわせるという好循環が生まれる。(了)

2016年

4月

12日

第32回 福島後の未来をつくる:寿楽浩太 東京電機大学助教 2016年4月12日特大号

 ◇じゅらく・こうた

1980年千葉県千葉市生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。博士(学際情報学)。東京大学大学院工学系研究科特任助教を経て2012年から現職。専門は科学技術社会学。13年から経済産業省の放射性廃棄物WG委員。

 ◇隘路に入り込む核のごみ処分

 ◇地道な社会的合意形成が必要

 

原発論議でしばしば論点になるのが核のごみの処分だ。専門的には高レベル放射性廃棄物(HLW : High Level RadioactiveWaste)の処分と呼ばれる問題である。政府と電力業界は現在、HLWを地下深くに埋設して最終処分する(「地層処分」と呼ばれる)「処分場の候補地を探す調査を受け入れる地域」を国内で探している。

 3段階で行われる調査には20年程度かかるとされ、その結果、不適と判断されることも十分にありうるから、言ってみれば現在はまだ候補地の候補地探しの段階だ。このプロセスは2002年に始められたが、今日まで調査を受け入れる地域は現れていない。

 


 政府はこの数年来、HLW処分に関する政策を見直し、取り組みの前進をはかっている。15年12月には、政府が16年中をめどに科学的有望地を示すことが関係閣僚会議により決定された。候補地探しの対象として科学的見地から最低限の見込みのある地域が、日本地図の上での塗り分けにより示される見通しだ。

 しかし、筆者は今後、事態が一層の隘路(あいろ)に入り込むことさえも懸念している。その理由は、政府や関係者がこの問題を原子力施設の立地問題と見なして対処するという基本的なスタンスを崩さないことと関係する。筆者がHLW処分問題の「立地問題化」と呼んでいる事柄だ。

 

 ◇原発立地の「成功体験」

 

 立地問題化は「核燃料サイクル」を掲げる日本の原発利用の方針と深く関わる。日本は原発の使用済み核燃料をそのまま廃棄せず、再処理工程を経て再利用する方針だ。原発から生じた使用済み核燃料の次の行き先は再処理工場であり、最終処分場ではない。

 実際にHLWとなるのは、再処理工場から出る高レベル放射性廃液を固めたガラス固化体だが、これは地層処分する前に30~50年程度、地上で保管して熱や放射能を減衰させる必要がある。現在、青森県六ケ所村にそのための施設があり、すでに相当量の保管が行われている。本格的な処分場が実際に必要になるのは、再処理工場が整備され、さらに冷却期間が経過した後の相当先の将来だ、というのがかつての原子力関係者の認識だった。

 日本最初の商用原発の運転開始からすでに50年以上が経過し、1976年にHLWを地層処分することを政府が決定してから40年の月日が過ぎた。「原発はトイレなきマンション」とも批判される。しかし、時間的猶予は十分あると考えていた関係者にとっては、対処の先送りは非合理的ではなかったのである。

 なお、この分野の先進国としてよく紹介される、スウェーデン、フィンランドの両国は当初から核燃料サイクルを行わずに使用済み核燃料をそのまま処分する「ワンススルー」の方針で原発を利用してきた。処分前の冷却期間はやはり必要だが、原発稼働とHLW処分がより直結している。実際、両国では原発の運転許可申請にあたってHLWの具体的な最終処分方法の記載が求められる。ちなみに、日本の全ての原発は、使用済み核燃料の処理方法として「全量を再処理する」旨を届け出て設置が許可されている。

 日本の原子力関係者は長いリードタイムの多くを技術開発に費やしてきた。丁寧な技術開発はもちろん結構だが、彼らは原発や他の原子力施設同様、技術を確立し、安全性を担保すれば、その後の処分場立地はそう困難ではないだろうと考えた節がある。彼らには原発立地の成功体験がある。技術的な安全を確立し、経済的な恩恵と抱き合わせにすれば、施設を受け入れてくれる地域は見つかる。広報や交渉のノウハウにも不足はない。立地問題となれば解ける、という自信があったのだ。

 実際、この十数年間続けられている現行の候補地探しのスキームは、広報キャンペーンと各自治体への働きかけ、内容面では原発以上に充実した交付金制度といった、原子力施設立地において一般的な要素で構成されている。

10万年超の隔離が必要

フィンランドの高レベル放射性廃棄物最終処分場「オンカロ」の入り口=2013年

 ◇対処への道筋を

 

 しかし、約15年を経過しても「立地問題」は解けなかったのである。

 原発のように短い時間に広範囲を高度に汚染するような爆発的事故は想定されにくいとはいえ、「10万年の安全」が課題となるHLWの処分には特別な難しさがある。想定する必要のある時間軸が長すぎ、安全確保の可否について誰も実証的に確定的な答えを示せない。科学頼みの安全の担保ができないのである。


 それゆえにさまざまな社会的・政治的・倫理的問題、見解の相違も生じる。それらは到底、立地問題の範疇(はんちゅう)には収まらない問題だ。

 答えを出すべきは、こうした難しさへの対処の道筋である。

 そもそも地層処分の方針を私たちは支持するのか。安全性についての専門家の議論に耳を傾けた上で、今の段階で地層処分場建設に向けて動くことを良しとするか、あるいはさらなる研究開発を待つべく当分の保管を行うよう方針転換をするか。

 技術的な不確実性や利害得失の評価も関係する。放射性物質の「核種分離・変換」による「減容・低毒化」が期待を集めているが、技術的ハードルは高く、別な種類の放射性廃棄物が出るほか、処理工程での事故リスクの問題もある。しかし、実現すれば超長期の放射能を持つ放射性物質を減らし、長期的なリスクをある程度下げられる可能性がある。研究開発を実施するのか。実施する場合はどのぐらいの時間や資金を割り当てるのか。きちんとした評価の上での判断が必要だ。原子力分野は大型研究開発が利権化してきた分野でもある。

 もっと言えば、核燃料サイクル政策継続の当否や原発利用の今後についても改めて社会の明確な合意を得ることが望ましい。各種世論調査の結果が示す原発利用への賛否は拮抗(きっこう)したままだ。原則論的な事柄についてしっかりした社会的合意がなければ、個別具体的な議論に入ろうとしても蒸し返しの水掛け論が延々と続きかねない。現状はその様相を呈している。この状態のままで立地問題を解こうとしても、賛成・反対の論争と関係地域での紛糾ばかりが続き、対処は前進しないであろう。

 スウェーデンでは1980年に段階的な脱原発が国民投票で決まり、現世代の責任による対処という倫理的な考え方に道理を与えた。フィンランドでは、旧ソ連崩壊後、ソ連から輸入した原発の使用済み核燃料を契約通りに返還してよいのかという問題がHLW処分への社会的関心を高め、政府の基本方針決定を後押しした経緯がある。

 両国がこの問題への対処で先行してきたのは、HLWを安全に処分するための技術開発、つまり、容器とか掘削とか放射性物質の漏洩(ろうえい)拡散の予測計算といった面だけではない。彼らから学ぶべきはむしろ、骨太な社会的合意の支えを得た上で技術や政策が示す選択肢をひとつひとつ選び取り、対処の道筋を整えてきた手腕と粘り強さである。

 政府がHLW処分政策を見直し、対処に本腰を入れること自体は歓迎すべきことである。しかし、依然として立地問題化の呪縛から抜け出られていない。日本の対処の道筋は本当に十分に社会的に議論され、合意を経て広く人々の支持を得ているのだろうか。

 幸か不幸か、この問題はあらゆる意味で時間軸が長い。前述のように、処分前の冷却は技術的理由で30~50年の歳月を要する。時間がないわけではない。今からでも、立地問題化への偏りを戒め、対処の道筋についての社会的合意を高めることに時間と労力を費やすことが必要であり、それは可能だ。

2016年

4月

05日

第31回 福島後の未来をつくる:大林ミカ 自然エネルギー財団事業局長 2016年4月5日号

 ◇おおばやし・みか

 1964年大分県中津市生まれ。環境エネルギー政策研究所副所長や駐日英国大使館、国際再生可能エネルギー機関(アブダビ)勤務などを経て、2011年8月より自然エネルギー財団の設立に参加し現職。

 ◇志半ばの電力システム改革だが自然エネはまだまだ普及する

 

 東京電力福島第1原子力発電所事故(福島原発事故)から5年を経ているが、日本のエネルギー問題は混沌(こんとん)としている。政府は2015年7月に、30年の電源構成を決定した。原子力比率は20~22%、石炭火力は26%という、旧態依然とした構成だ。福島事故は収束していないにもかかわらず、原発の再稼働が進められ、稼働後に九州電力が免震重要棟を撤回するなど、電力会社の信義違反が起きている。ほかの先進国では、原子力が高コストで停滞し、石炭への投資の撤退が始まる一方で、自然エネルギーが飛躍的に拡大し、存在感を増している。昨年15年の世界の風力・太陽光発電の導入はそれぞれ6000万㌔㍗程度、合わせて1億2000万㌔㍗以上にもなる。風力の設備容量はすでに原子力を超え、太陽光も、もうすぐ超えることだろう。この背景にあるのは、自然エネルギーのコストが低減し続けているという事実だ。そして、このような世界的な趨勢(すうせい)から、日本は取り残されてしまっている。


 ◇独占から新たな世界へ

 

 海外では途上国も含めて、過去20年間、エネルギー分野でさまざまな改革や革新が進んできた。発送電の分離による送電網の公正な運用、自然エネルギーの拡大、省エネルギー技術の進展、炭素排出に価格をつける排出量取引などのカーボンプライシング、これらを市場にも組み合わせる政策手法の導入などだ。エネルギー分野での技術革新と情報技術の進展が政策の実現を大きく後押しした。他国の進展を無視してきた日本は、震災と福島原発事故に直面し、急激に新しいエネルギーシステムの構築を迫られている。電力システム改革は進みつつあるが、短期間で原発の停止と固定価格買い取り制度(FIT)の導入による太陽光発電の飛躍的な増加などが起きているた

め、政策も統一されておらず新しい制度が追いついていない。

 日本を見回すと、古い独占体制が残っている公益的民間事業の筆頭として、電気事業分野が挙げられる。独占市場が開かれていくことで、新しい経済・産業が生まれ、日本全体の活性化につながっていく。すでに欧米では、電力システム改革を経て、硬直的な従来の産業構造から、より柔軟な電気事業へと、新たな社会・システム・産業が構築されつつある。その結果、古くは馬車から車、大コンピューターからパソコン、固定電話から携帯電話へと進んだように技術革新と効率化が急速に進んでいる。その過程では当然敗者も出てくる。自然エネルギーへの投資に乗り遅れた欧州の大手電力会社などである。

 エネルギーを国に流れる血脈とするなら、流れる血が、環境負荷を与えず将来に大きな負の遺産を残さないものでなくてはならない。海外の化石燃料やウランに依存する大規模な既存エネルギーから、分散型で環境に負荷を与えない国内エネルギーへ転換しなければならない。他国が自然エネルギーの高い目標値を掲げているのは、エネルギー安全保障、気候変動、経済の観点から、費用ゼロの自然エネルギー開発をすることが、もっとも効率的だからだ。

 電力システム改革の目指すべき方向は大きく二つある。一つは既存の大手電力会社が所有する発送電の分離だ。東京電力は16年から、他の電力会社は20年から法的分離が導入される。今まで電力会社は、発電と送電を一体的に形成・運用してきたが、今後は送電を中立的に運用していくことが求められる。発電分野では電力会社の自社発電設備を優先することなく、すべての事業者が公正な市場で競争できる仕組みをつくる。現在は地域間送電線も原発や大型火力の10年前からなどの長期契約が多く占めているが、地域間・域内とも、送電設備の拡充とともに、既存の送電網をより効率的に運用していく制度(送電容量を市場で取引するなど)の整備が火急である。

 もう一つは自然エネルギーの導入拡大である。欧米の国際会議等で、日本では自然エネルギー電気をやめて原発や石炭の電気を優先するという事実を話すと、驚くエネルギーの専門家が多い。日本のような高い技術を持つ先進国が、そのような状態だとはにわかに信じられないのだ。先の発送電分離の重要性にもつながるが、今、世界で起きていることは、コストが下がり、拡大する自然エネルギーの系統統合を行うために、より「柔軟性」を持つ送電網運用を進めていくことである。

 今年16年4月から、日本では小売り分野が全面自由化され、ほぼ初めて、一般家庭でも電力会社を選ぶことが可能となる。しかし、諸外国で行われているような、自然エネルギーが購入できる仕組みはまだ整っていない。今年4月から自由化される電力小売市場には200社を超す事業者が参入し、宣伝合戦が始まっているが、価格競争だけでは、持続可能でコスト効率的な健全な市場は育てられない。自然エネルギーの量が少ないこともあるが、より一層消費者の選択を難しくしているのが、電力源や送電網などの情報公開の不十分さだ。他国で当然のように行われている、電源表示の義務づけや、第三者が検証できる送電網情報の公開が必須である。

 ◇現状維持は未来を犠牲にする

 

 国際的にみれば、太陽光はここ5年で8割ものモジュールコストの低下を実現し、風力は、ドイツや英国やデンマーク、米国、ブラジルで、すべての発電のなかで最も安くなった。すでに多くの国で、化石燃料の発電所と自然エネルギーが競合している。日本も、諸外国に比べればまだまだ高いが、FIT導入後、太陽光の価格低下が続いている(図1、2)。

 しかし、いま日本の自然エネルギーはFITバブルなどと言われ、太陽光のみが急速に伸びている。しかし、実は、そのほかの自然エネルギーのFIT価格も海外に比べると2倍、3倍と高水準だ。つまりは、買い取り価格の高さだけが太陽光の伸びの原因ではなく、送電網接続(系統制約)や土地制約など、自然エネルギーの拡大を阻むハードルが太陽光は比較的低かったからである。つまり、これらの阻害要因を是正していけば、太陽光以外の自然エネルギーの拡大の可能性が大きく増える。

 国際再生可能エネルギー機関が16年1月に発表した報告書によれば、2030年までに世界のエネルギーに占める自然エネルギーの比率を現状2倍の36%まで引き上げれば、世界で約152兆円の経済効果を生み、経済成長を最大1・1%押し上げる効果がある。大気汚染や気候変動への対策費が軽減でき、最大で年間約470兆円の節約になるという。特に日本では国内総生産(GDP)を最大3・6%押し上げる効果があり、その上化石燃料の輸入が減り、貿易収支の改善にもつながるという。

 今こそ、政府は電力システム改革の進展と自然エネルギーの普及に向けた課題のあぶり出しに全力で取り組むべきである。他国にできて、日本にできないはずはない。日本は、ウランや化石燃料に依存している限りは資源小国だが、自然エネルギーの可能性をみれば、むしろ、先進国でもめずらしい資源大国となる。(了)

2016年

3月

29日

第30回 福島後の未来をつくる:宮野廣 法政大学大学院デザイン工学研究科客員教授 2016年3月29日特大号

 ◇みやの・ひろし

1948年石川県生まれ。慶応義塾大学工学部卒。東芝に入社し、原子力事業部原子炉システム設計部長、原子力技師長、東芝エンジニアリング取締役などを経て現職。日本原子力学会福島第1原子力発電所廃炉検討委員会委員長などを務める。

 ◇責任範囲が不明確な原子力規制委

 ◇求められる評価対象と体制の拡充

 

 福島第1原発事故を受けて設置された原子力規制委員会は2014年2月、原発の安全性を確保するための新規制基準を定めた。新基準では地震や津波のほか、竜巻や火山の噴火、森林火災といった災害への対応を強化。非常事態に備え、電源や冷却装置など可搬式機器の設置も新たに義務づけた。

 だが、その新基準も踏み込み不足だ。重要なのは、個々の自然災害に対してどう対処するかではなく、発電システムとしての機能をいかに保つかだ。同時に、「想定外」の事象にどう備えるかも重要になる。継続してフォローしていく必要がある。


 ◇深層防護の捉え方

 

 想定を超えた事態に対応するうえで重要なのが「深層防護」という考え方だ。

 深層防護は、もともと国際原子力機関(IAEA)が導入したもので、本来、考え方の異なる幾層もの対策を講じることで、原発の安全性をより確実にすることを目指す。

 日本でもこの考え方が導入されたはずなのに、「多重防護」と呼ぶ誤った形で受け止められてきた。これは、燃料ペレットをはじめ、燃料シース管(保護効果のある巻き管)や圧力容器、格納容器、原子炉建屋のいわゆる「五重壁」によって、放射性物質の放出を防ぐことができるというものだ。

 つまり、ハード面の備えだけで放射性物質の放出を防ぐ考え方である。想定外の事態が生じたときに、これら全てのハードが一挙に壊滅してしまえば、その機能は失われる。福島事故でその弱点が露呈した。

 これに対し、深層防護の考え方は、一定の基準を満たした設備や機器などのハードを準備することに加え、想定を超える事態が生じた場合にも、可搬式の非常用電源や冷却設備を使うなどの対策で安全を確保。さらに放射性物質が放出するような事態に陥っても、被害を最小限にとどめるための「防災」を講じるものである。設計、運用、防災という異なる複数の考え方に基づいて安全性をより確実に確保する方策だ。

 それでも、事故は起き得る。その可能性を「リスク」と呼ぶ。リスクとは、多面的な視点から総合的に、事故に陥る可能性を評価したり、それぞれの視点で見た場合に事故の起き得る大きさ、重大さを評価したりする指標である。このリスク評価に基づいて、設計、運用、防災での対策を講じることで、よりバランスの取れた対策を実行できる。

 ただ、リスク評価に基づき常に改善を進めていく考え方は国内の原発においてはなかなか浸透してこなかった。その一因として、例えば原発について規制委が電力会社に義務づけている検査費用が無料である点が挙げられる。米国の検査は電力会社から検査費用を徴収するかわりに、改善措置を施せば費用が安くなったり手続きが減ったりする。そのため改善に向けたインセンティブが働く。これに対し、日本の検査は改善してもしなくても無料だから、リスクを減らすインセンティブが働きにくい。

 住民の安全を確保するための規制を整備したいのであれば、こうした

深層防護の考え方に基づき、設計から運用、防災までをトータルで評価する体制を整備するべきだ。

 また、現状ではリスク評価を行ったとしても評価結果が設備に反映されにくい事情がある。設計が決まった後に評価する仕組みであるためだ。そのため、評価結果に基づいてリスクを低減し、安全性を高めるための仕組みが必要だ。

 規制委の審査も、当然、設備や機器だけの安全性を評価して終わり、ということであってはならない。いくら厳しい規制基準を作っても、想定外のことが起きる可能性を常に考えておかなければならない。

 その意味で、住民や電力会社、学界など外部との意思疎通の機会をもっと増やすべきだ。規制委は、福島事故後に規制当局と電力業界のなれ合いや癒着が指摘された反省から、設置にあたって独立性を高めることが重視された。その結果、お手本とされた米国の原子力規制委員会(NRC)とは大きく異なる姿になってしまった。

 米NRCは、基本原則に「公衆および許認可取得者(電力会社)などのNRCの利害関係者の利益を適切に調和させつつ、安全を確保することに重点を置く」と定められ、活動にあたって住民や事業者間の調整が重視されている。これに対し、日本の規制委のそれには、住民の意見を聞いたり、事業者との意思疎通を図ったりすることについてまったく触れられていない。

 独立性を確保することは外部の干渉を受けないということであって、独善的な姿勢に陥ることとはまったく違う。

 さらに、より根本的な課題として、原発の安全確保の責任が一義的に電力会社にあるとされていることが挙げられる。現場をあずかる電力会社が安全確保に努めるのは当然だとしても、事業者に許認可を与えていながら、政府に責任がないというのは疑問だ。

 規制委も、安全を確保するための規制基準を制定し、その合否を判断する審査を行っているにもかかわらず、その審査に合格した原発は必ずしも安全だとは言えないと言う。どれだけの責任を取るのか、責任範囲が明確ではなく、責任逃れの姿勢とも言える。

 原発の安全性を確保する責任は、それぞれの役割、事業の流れの中での位置づけに従い、分担されるものである。

 従って、安全確保に関する一義的な責任は原発を運用する立場の電力会社にあることでよいとしても、それを設計・建設するプラントメーカーを含め、産業界全体で責任を持つと規定されるべきである。規制の確立や政策を推進する立場にある国ももちろん、事業者に対する許認可権限や監督責任を有するのだから、原発の安全確保についての責任が明確に位置づけられるべきだ。

 

 ◇差し止め訴訟は二重基準

 

 関西電力の高浜原発3、4号機の運転差し止めを求める仮処分申し立てで、大津地方裁判所は3月9日、原発から70㌔㍍以内に住む滋賀県の住民の主張を認める決定を出した。これら全国各地で相次ぐ原発の運転差し止めを求める仮処分申請や訴訟は、責任の所在を考えるうえで重要な意味を持つ。裁判所が原発の安全性を判断する形になっているためだ。

 規制委は、個別の原発について規制基準を満たしているかどうかを判断しており、原発の稼働を許可する立場にある。このとき、裁判所が規制委の頭越しに原発の安全性を判断してよいものかどうか疑問だ。

 原発の安全性について、規制委と裁判所のダブルスタンダード(二重基準)が生じてしまうということであり、国にとってはあってはならない事態である。裁判所がもし原発の安全性を判断するのなら、個別の原発ごとではなく、規制委や規制基準そのものが妥当かどうか評価すべきである。

 高浜原発3、4号機のように、すでに稼働している原発(4号機は事故で停止中)の運転を止めるようなケースであればなおさらだ。運転停止によって生じる損失を誰が負担すべきか重大な問題が生じる。

 裁判所の判断が正しいのだとすれば、運転を許可した国の判断が間違っていたということになり、国の賠償責任は免れない。一方で、裁判所の判断が誤っているのだとすれば、裁判所に賠償責任が生じるのではないか。国民として極めて重要な関心事である。(了)

2016年

3月

22日

第29回 福島後の未来をつくる:遠藤典子 慶應義塾大学大学院特任教授 2016年3月22日号

 ◇えんどう・のりこ

1968年福岡市生まれ。京都大学大学院エネルギー科学研究科博士課程修了。博士(エネルギー科学)。経済誌副編集長、エネルギー・公共政策などの研究事業、教育活動に従事。2014年5月より総合資源エネルギー調査会原子力小委員会委員。著書に『原子力損害賠償制度の研究』(岩波書店)。

 ◇原発維持に必要なリプレース

 ◇公益電源として透明性確立を

 

 原子力規制委員会により新規制基準への適合が認められた九州電力川内原子力発電所1・2号機が再稼働し、四国電力伊方原発3号機、関西電力高浜原発3・4号機もまもなくこれに続く。電力会社が想定していた時期から大きく後れを取りながらも、再稼働は今後、順次進むだろう。もっとも、再稼働による平常化が原発政策における中長期的課題の解決をするものでは決してない。

 政府が2015年7月に決定した30年のエネルギーミックス(電源構成)では、「ベースロード電源」としての原発比率を20~22%とした。

 新規制基準どおり原則40年運転とした場合、30年の原発比率は13%となる。設置認可を終え建設中の中国電力島根原発3号機、電源開発の大間原発の2炉を加えても15%に過ぎず、20~22%には遠く及ばない。つまり政府方針の原発比率を維持するためには、40年超えの運転かリプレース(新炉建て替え)が必至となる。しかし世論への配慮か、政府は今のところその選択肢すら明示していない。


 新規制基準では、原則として一度限り、20 年の運転延長を申請することができる。実際、関西電力高浜1・2号機が行ったが、通常の審査ですら多くの時間を要しており、経年炉の適合審査がスムーズに進むとは考えにくい。そうなるとリプレースの可能性を検討するしかない。

 新規制基準に適合する新炉への設備投資額は7000億~8000億円に上ると見られている。東京電力福島第1原子力発電所事故後の3年間で、原子力を保有する九つの電力会社の経常赤字の合計額は3兆円を超えた。原発停止による火力発電たき増しで燃料費がかさんだためである。13年度末の純資産の合計は約5兆1300億円と、3年前から3割以上目減りした。北海道電力と九州電力に至っては、純資産が前者は929億円、後者は3414億円まで減少し、14年4月には日本政策投資銀行がそれぞれ500億円と1000億円の優先株式の引き受けを行ったほどである。

 こうした逆境のなか、電力小売りの全面自由化は16年4月に始まる。これまで電力会社の安定的収益を保証してきた総括原価方式と地域独占が失われることになる。経過措置は設けられるものの、電力会社は安定供給のためのあらゆる費用を、電気料金に転嫁することができなくなる。

 さらに20年4月には、発電部門と送配電部門が経営分離を義務付けられる。電力会社の営業キャッシュフローの6~7割は、送配電部門から生まれており、キャッシュフローを厳格に切り分けて管理することが求められれば、発電部門の将来のキャッシュフローは逼迫(ひっぱく)しかねない。

 総括原価方式と地域独占という制度的保証によって裏付けられてきた確実な安定収益は、高い格付けの裏付けとなってきた。これを失えば、資金調達コストは当然、上昇する。

 ◇送電料金で負担

 

 そもそも原発事業の収益構造は固定費(設備投資)が大きく、変動費(燃料費など)が小さく、稼働率次第で大きく収益が変動する点に特徴がある。総括原価方式の下では、電源開発投資に伴う費用も電気料金に転嫁できたため、電力会社は稼働率にとらわれず設備投資できた。電力需要が継続的に急拡大するような環境にでもならない限りは、新規制基準適合まで長時間を要する巨額なリプレース投資に踏み切る電力会社はほぼ現れないだろう。

 新型原子炉には、事故発生時に運転員の手を介さず、自動的に放射性物質の飛散を食い止めるように稼働する「パッシブセーフティー(受動的安全)」システムを採用したタイプなどもある。リプレースによって得られる安全性向上のメリットをみすみす犠牲にすることもない。

 温室効果ガス削減とエネルギー安全保障上の理由から、火力発電への依存度を低下させることは、日本のエネルギー政策上の積年の課題だ。発電時に温室効果ガスを排出しない準国産電源としての原発は、将来の選択肢の一つとして留保しながら、再生可能エネルギーやその地産地消を可能とする蓄電池技術の開発に投資を拡大するのが現実的な選択だ。

 少なくとも30年に20~22%の原発比率を維持するためには、競争環境下においても総括原価方式に類する支援策を構築せざるを得ない。具体的には、託送(送電)料での費用回収や、差額調整決済制度つまり政府が事前に基準価格を設け、発電事業者は売電市場価格がそれを下回れば差額を受け取り、上回れば差額を支払うという価格平準化の仕組みなどが考えられる。

 加えて、新規制基準が遡及(そきゅう)的に適用されたことに伴う廃炉の費用、福島事故や今後の過酷事故の損害賠償に備える相互扶助のための共済金としての一般負担金、福島事故の溶融燃料の取り出しをはじめとする廃炉費用、使用済み核燃料の再処理費用など、すでに電気料金に転嫁されているか、費用回収の制度設計の俎上(そじょう)に載せられているかしている政策的費用は数多くある。

  そこで重要になるのは、どの政策的費用をあまねく広く電気利用者から回収すべきか否かの線引きであり、小売り全面自由化下の新しい料金システムにおいて、そのコスト構造が電気利用者(消費者)に透明性の高い手法で開示されることである。

 原発支援策が、電力自由化に逆行するかたちで、電力会社の保護政策となってしまえば、これまでどおり、電力自由化は新規参入者を呼び込む競争を生み出さず、本来の目的が骨抜きにされてしまう。

 福島事故を経て明らかになったのは、原発事業者の資力を超えるほどの被害額をもたらす過酷事故が、現実に起こりうるということであり、それは被害者に身体的、精神的、経済的に甚大な被害を及ぼすということである。

 

 ◇原発専業会社への集約

 

  温室効果ガス削減とエネルギー安全保障の視点に立って、原発事業の継続を目指すのであれば、競争環境下においても安全性向上や過酷事故リスクなどに対応するための投資体力を持ち、安全を不断・自発的に高める経営上の仕組みと技術能力を持ち、避難対応や被害者救済などの人的な対応能力を持つことが必要条件となる。したがって、現在の9電力体制のまま原発を維持することは困難だ。

 将来的には、電力会社の原発事業は法的に分離され、原子力専業会社として2~3社に集約されることが望ましい。送配電事業と同様、競争環境下でも原発事業には総括原価方式が採用されるべきであり、あまねく広く電気利用者に政策的費用の負担をさせるためには同時に原発のメリットを享受できる仕組みであるべきだ。

 具体的には原発からの電気を新電力にも調達しやすいかたちで公益電源として一部卸売市場に拠出することを義務付けるのも一つの選択肢だ。

 水力や地熱などからの電気も組み合わせ、卸売り収益の一定額をプールし、再生エネ拡大のための開発投資に活用することもできるだろう。

 リプレースの際の資金調達には、現実的には政府保証が必要となる。また、現行の原発事故の損害賠償制度においては、発災事業者に無限に責任を負わせる枠組みとなっているが、原発政策を推進する社会的責務として、政府の実質負担が求められるべきだ。

 原発は今後、公共性の色合いを強めていかざるを得ない。さもなければ、政府が目指す日本の原発維持はできない。(了)

この記事の掲載号

定価:620円(税込)

発売日:2016年3月14日(月)


2016年

3月

15日

第28回 福島後の未来をつくる:中田俊彦 東北大学大学院教授 2016年3月15日号

 ◇なかた・としひこ

 1960年神奈川県生まれ。東北大学大学院工学研究科修士課程修了。東北大学工学博士。電力中央研究所、東北大学工学部助教授、米国ローレンス・リバモア国立研究所研究員などを経て現職。政府復興推進委員会委員などを務める。

 ◇25兆円の熱を捨てている日本

 ◇地域に合うシステムを欧州に学べ

 

 東日本大震災後のエネルギーシステムのあり方を考えるうえでは、日本のエネルギー利用の現状を把握するため、エネルギーフローの全体を俯瞰(ふかん)することが重要だ。

 まずは供給側の無駄。IEA(国際エネルギー機関)などの統計データによると、2013年の1年間に日本で供給されたエネルギー量は19・0EJ(エクサジュール。エクサは10の18乗、1カロリー=4・186ジュール)。部門別に見ると、産業部門に3・43EJ、業務部門に2・81EJ、家庭部門に1・92EJ、運輸部門に3・07EJのエネルギーが供給された(下図)。しかし、各部門で有効に利用されたのは6・34EJのみで、全体の60%にあたる11・5EJが熱として廃棄された。全需要家の年間エネルギー支払総額は41・9兆円なので、25兆円が無駄に捨てられた。その内訳は4・54EJが発電部門、2・58EJが自動車など運輸部門、1・33EJが産業部門、1・35EJが業務部門、0・77EJが家庭──などからの廃熱だ。発電効率の低さと、自動車の燃費の低さが多くの熱を廃棄する要因だ。


 次に消費側を見てみよう。13年の日本のエネルギー消費量を利用形態別に見ていくと、熱が最も多く、全体の41・0%を占め、次いで電力が32・7%、輸送用燃料が26・2%と続いている。これらのデータから、日本はエネルギーを熱として利用することが多いにもかかわらず、発電と運輸のためにその熱を大量に廃棄している現状が浮き彫りになる。

 

 ◇電力中心のインフラ

 

 こうした状況は、日本ではエネルギー供給インフラ整備が電力を中心に進んできたことが影響していると考える。戦後、日本では大規模火力発電所が全国に建設され、送電網の整備も進んだが、最も必要な熱を作り出すのに使われるガスのインフラ整備は十分に進んでこなかった。

 ガスのパイプラインの整備は全国の主要都市部のみにとどまり、都市間のパイプラン等も整備が進んでいない。そのため地方ではタンクローリーを使って都市ガスを供給する企業もある。輸送コストがかかるので家庭用小売単価は高くなる。例えば、宮城県気仙沼市の単価は東京の1・9倍だ。全国ベースで見ると料金格差は最大で3・7倍になる。

 都市ガスのパイプラインが行き届いていない地域では、暖房・給湯用のエネルギーとして、その都市ガスよりも単価が高いLPガスが使われている。現在、日本の一般世帯の約45%に当たる約2410万世帯がLPガスを利用している。地域別では近畿が23%、関東が38%、東北・四国が72%で、被災3県は宮城県56%、福島県75・9%、岩手県80・4%といずれもLPガスの割合が高い。

 現在、電力小売市場の全面自由化を契機に、以前にも増して電力への関心が高まっている。しかし、発電のために大量の熱を廃棄している現状、また、熱供給に関するインフラ整備が不十分な地域で単価の高いエネルギーを利用している現状を踏まえると、今後は電力中心の大規模集約型から、熱エネルギーを有効活用する地域分散型へとシフトさせていくことが重要なのは明らかだ。そこで参考になるのが欧州だ。

 

 ◇熱を無駄にしない欧州

 

 欧州では暖房や給湯などに使う温水や水蒸気などの熱エネルギーを効率的に供給するための熱導管ネットワークの整備が進んでいる。その歴史は古く、ドイツのハンブルク市では1896年に熱電併給方式の地域暖房システムを使った市庁舎への熱と電気の供給が始まった。

 特に熱インフラの整備が進んでいるのが、北欧や中欧の寒冷地域だ。同地域では給湯や暖房などのエネルギー供給機能は重要な社会資本の一つと考えられ、公的な整備が進められている。街中には水蒸気や温水を供給するネットワークが整備され、近年は温水ボイラーの燃料に、ゴミや廃材、泥炭など多様な燃料を混ぜ合わせる取り組みも行われている。

 さらに発電設備も付設し、市場のエネルギー価格変動や需要量の変動に応じて発電量や供給熱量を変え、需要家の利便性と事業者利益の最大化を同時に実現するといった高度なシステムも登場している。

 発電時の廃熱の有効活用も行われている。デンマークの首都コペンハーゲンでは、火力発電所の多くが熱電併給機能を併設。発電時に出る廃熱で温水を作り、熱導管を通して供給している。従来は高温の温水をパイプラインで供給していたが、給湯や暖房にはそれほど高温が必要がないことから、70度程度の温水を送るようにし、総合エネルギー効率を高める工夫も始まっている。

 ドイツでは、廃棄物由来のバイオガスをガス・パイプラインに混入する試みも行われているほか、「パワーツーガス」の取り組みも始まった。風力や太陽光で作った電気を水素に変え、さらにそれを二酸化炭素と反応させてメタンに変換し、ガスパイプラインに混入するのだ。

 このように熱のエネルギーインフラは、機能をバージョンアップできることも大きな強みだ。機能アップを通し、エネルギーシステムが地域社会に及ぼす産業創出の効果も大きい。日本各地にこうしたエネルギーシステムが出現すれば、従来の大規模集中型のエネルギー供給インフラの中では、末端の毛細血管に過ぎなかった脆弱(ぜいじゃく)な地域社会に、自律機能が付加され、レジリエンス(復元)機能が備わることにもなるだろう。

 こうした熱を有効利用するエネルギーシステムなどで構成される全体システムこそ、今後、日本が目指すべき持続可能なシステムである。具体化に向けては、(1)地域の廃熱を熱エネルギー源として利用するほうが輸入化石燃料よりも良いという発想への転換、(2)蒸気、温水を地域に配送して戻す熱導管インフラの整備、(3)熱を使う需要家での温度管理等エネルギーマネジメントの理解と、建物の断熱性能の充実が重要になる。

 東日本大震災後、東北地方ではスマートコミュニティーの構築に向けたさまざまなプロジェクトが進んでいる。中には太陽光発電設備を設置し、発電した電力を地元の公共施設等で消費するといった取り組みも検討されている。しかし、熱の供給インフラが従来のままでは、地域のエネルギー需給の実態を見ない設備投資と言わざるを得ない。

 地域のエネルギーシステムの最適化を達成するには、地域の需給の実態把握が重要だ。日本は南北に長い。地域ごとに使用できる燃料も、需要パターンも、再エネ資源もまったく異なるので、エネルギー消費量の地域空間分布と時間変動データを取得し、電力、熱、輸送用燃料などのキャリアごとのレイヤー構造のデータベースを作成するのである。

 地理情報システム(GIS)を利用した、このデータベースは「熱需要マップ」または「エネルギー需要マップ」と呼び、1990年代から欧米では先行して整備が進んでいる。客観的データに基づいてエネルギーインフラを地域内に最適配置する投資をサポートする優れものだ。

 欧州では、こうしたマップを利用し、地域の需要に見合うエネルギーシステムを、それぞれの地域の担い手がデザインして実現している。

 日本はこれまで、そうした地域の需要実態に合ったエネルギーシステムに対する認識が希薄だった。大都市圏での資本投資を先進事例として、その経験を地方部に波及させるという水平展開モデルはもはや通用しない。欧州でのエネルギーインフラを組み込んだ街づくりと、その運用実態を深く学ぶことが重要だ。また、エネルギーシステムを俯瞰しデザインできるシステムエンジニアの育成が重要となるだろう。(了)

(『週刊エコノミスト』2016年3月15日号(3月7日発売)70~71ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年3月7日

週刊エコノミスト 2016年3月15日号

 

【特集】商社の憂鬱

三菱に迫る赤字決算の悪夢

伊藤忠襲うCITICリスク

純利益・配当予測

順張り投資の死角

商社の採用と人材育成術

〔特集2〕世界を変えるIoT


2016年

3月

08日

第27回 福島後の未来をつくる:近藤洋介 衆議院議員 2016年3月8日特大号

 ◇こんどう・ようすけ

 1965年米国生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。日本経済新聞記者を経て2003年から衆議院議員(5期目)。経済産業大臣政務官、経済産業副大臣、民主党役員室長を歴任し、16年1月から民主党政策調査会長代理・ネクスト経済産業大臣を務める。

 ◇先送りされたままの賠償制度再構築と非常事故対応

 

東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所事故(福島原発事故)から、まもなく5年を迎えようとしている。原発が再稼働する中で、安倍晋三首相官邸と政府のエネルギー関係者が、あえて無視しようとしている現実がある。それは、原発に安全神話は成り立たない、という教訓だ。「事故を前提とした体制の整備」はいまだ不十分である。原発の再稼働が現実化した今、体制立て直しに向けた政治の責任は重い。

「想定外」とされた福島原発事故により、日本は原発政策の全面的な見直しを迫られた。原発の安全神話は崩壊し、国内にあるすべての原発が停止。経済産業省の傘下にあった原子力安全・保安院は解体し、原子力規制委員会による新たな安全基準が定められた。厳格な審査に合格した原発のみが再稼働を認められる仕組みに変わった。


 しかし、福島原発事故に対する損害賠償制度の見直しは先送りされたままだ。テロなど最悪の事態を想定した、国の緊急事態体制も確立されていない。原子力事業の在り方の見直し、国と民間の責任範囲の明確化といった本質的な再構築を急ぐべきだ。

 

 ◇政治は真摯に向き合っていない

 

 私は再稼働について、専門的見地から客観的に下した原子力規制委員会の判断を支持する。しかし、巨大な防潮堤を築き、巨額な耐震工事を施しても、原発に絶対安全は「絶対にない」。想定を超える地震や津波といった自然災害だけでなく、テロやミサイル攻撃による被害が「ない」とは誰も言い切れないからだ。

 大震災で得た教訓は、今後もどこかで原発事故が起こり得るという現実だ。政治家として必要なのは、万が一事故が起きてしまった場合、どのような対応、備えが必要かということを絶えず検討し、準備することだ。民主党から自民党・公明党へと政権の担い手が移行した5年間、果たして日本の政治は原発事故と向き合い、本格的な危機対応体制を整えてきただろうか。答えは否である。

 最優先課題は、原発事故の損害賠償制度の再構築だ。事故の際の被害者への補償、廃炉といった巨額な資金繰り問題の道筋が、先送りされたままになっている。万が一の事故の際、誰が責任を負うのかを定めている原子力賠償責任法(原賠法)では、原発の賠償責任について原子力発電事業者への無過失・無限責任の原則を定めている(原賠法3条)。つまり、事故に故意または過失がなく、被害者がそれを立証できないとしても、被害者は損害賠償を受けることができる。一般の損害賠償制度を定めた民法709条の特例だ。

 米国やフランスなど各国では事業者の賠償金に上限を定める有限責任を採用し、上限を超える部分は国家補償としているのに比べ、日本では発電事業者に厳しい責任が負わされている。日本と同じく無限責任を採用するドイツでは、民間事業者と同額の国家補償を定めることで、国の責任を明確化している。国の責任が不明確な点で、日本は突出しているのだ。

 実はこの無限責任には制定当初から専門家からは疑問視する意見が出ていた。原賠法が検討された1958年当時、我妻栄東京大学教授ら民法学者は「最終的な賠償責任はすべて国が持つべき」との意見書を政府に提出、補償について国=政府の明確な関与を求めた。これに対し、財政負担を嫌う当時の大蔵省(現財務省)が反発。結局、法文では、国の関与を定めた同法16条では、国は義務となる「補償」という文言でなく、「必要な援助を行う」という極めて曖昧な形で決着した経緯がある。

 この日本特有の曖昧さの矛盾が一気に表面化したのが、東電への支援・補償スキームを巡る対立だった。福島原発事故は当初から、損害額は数兆円規模と予想された。東京電力の支払い能力を超え、債務超過に陥る金額だ。事業者の無過失・無限責任を定めた原賠法3条には、後段部分に、「その損害が異常に巨大な天変地異または社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りでない」とある。東電だけでなく、巨額の融資を行っている金融機関も免責条項の適用を強く主張した。しかし、損害賠償の総額が見えない中で、当事者たる東電の責任回避を認めることに当時の官邸と財務省が強く反発。結局、賠償責任を東電に集中する代わりに、政府が資金援助を行うことで東電の債務超過を回避するスキームが採用された。原賠法16条による「国の援助」の拡大解釈での対応だ。

 民主党政権は震災から3カ月後の11年6月、原子力損害賠償支援機構法案を閣議決定し、国会に提出。同法案は同年8月に修正を経て成立した。国が交付国債を発行する形で、機構から9兆円を東電に資金援助し、このうち5兆円が損害賠償、2・5兆円が除染費用に使われている。

 ◇誰がメルトダウンを救うのか

 

「巨大企業東電の破綻回避は、日本発の金融危機の回避でもあった」(大手金融機関幹部)。事故後3カ月で支援スキームの骨格を決め、法案を成立させた与野党、政府関係者の努力に対し、私は心から敬意を表したい。だからこそ、現行スキームの欠陥を正す必要がある。それは、あくまでも福島第1原発のみに対応した、将来の原発事故への対応を想定外にしているという、構造的な欠陥だ。

 例えば賠償金の手当てだ。表向き電力各社の負担金は将来の事故への備えという建前になっているが、実際には福島原発事故で使い切ることが明らかになっている。不測の新事態へは無保険状態なのだ。電力自由化による発電、送電の会社分離が進む中で、電力各社にとって新たな負担は重い。原発リスクの明確化が不十分なままで、被災者の保護を図ることができるのか。こうした課題が先送りされたままだ。

 現行の法体系では、損害賠償の適用される範囲も曖昧なままだ。いわゆる風評被害のどの範囲まで対象となるのか。法律用語で言う「相当因果関係」について、今回の福島原発事故の経験を生かし、範囲・類型を具体的に示すべきだ。

 11年の国会の議論を経た修正協議で原賠法、機構法ともに、「早期に見直す」との見直し条項を盛り込んでいる。民主・自民・公明各党が賛成した付帯決議では「1年以内に見直すこと」と明記した。安倍政権が発足して3年半。残念ながら、具体的な検討作業が進んでいない。

 万が一の備えで、さらに重要なのは、原発事故でメルトダウン(炉心溶融)が始まった場合、誰が最後の収束作業に当たるのか明確になっていないことだ。福島原発事故の際には、故・吉田昌郎福島第1原発所長をはじめ東電の現場職員が命懸けの決死の覚悟で作業に従事した。しかし、電力自由化の嵐の中で今後も、そうした民間事業者の対応が可能だろうか。米国では、原発事故が起きた際には、米原子力規制委員会(NRC)と軍による共同チームがプラント運転に最後まで従事する部隊として派遣される。シビアアクシデント(想定を超える過酷事故)の最終対応は民間ではなく官の業務と明確に線引きされているのだ。

 一方の日本。船橋洋一氏著の『カウントダウン・メルトダウン』では、福島原発事故の原発関係者で最初に職場放棄したのは原子力安全・保安院の職員であった「恥ずべき事実」(経産省幹部)が明らかにされている。規制委の下に運転要員も含めた非常事態チームを常時設置するなど具体的な対策を急ぐべきだ。

 30年代までに原発稼働ゼロを目指して、あらゆる政策資源を投入する。これは民主党の原子力に対する基本姿勢だ。原発停止中に関わらず、プラント内に冷却中の燃料棒がある限り、原発事故は起こり得る。政治の責任として不作為の罪は許されない。国民的な議論の中で、あるべき道を示したい。(了)

『週刊エコノミスト』2016年3月8日特大号(2月29日発売)78~79ページより転載

この記事の掲載号

定価:670円(税込み)

発売日:2016年2月29日

週刊エコノミスト 2016年3月8日特大号

 

【特集】アメリカ大失速

       ■Part1 経済・金融の綻び

       景気後退はあるか

       ニューヨークで聞いた米国経済の行方

       FRBの悩み

       米国系投信は大丈夫?

       ■Part2 政治・社会の変容

       大統領選に見る米国の格差拡大


2016年

3月

01日

第26回 福島後の未来をつくる:竹内敬ニ 朝日新聞編集委員 2016年3月1日号

 ◇たけうち・けいじ

1952年岡山県生まれ。京都大学工学部修士課程修了。80年に朝日新聞社に入社し、科学部、ロンドン特派員、論説委員などを務めた。長い間、朝日新聞の社説でも原子力政策を担当。著書に『電力の社会史─何が東京電力を生んだのか』(朝日選書)。

2011年の東京電力福島第1原発事故(福島原発事故)が日本のエネルギー政策に突きつけた課題は三つにまとめられる。①原発への依存を減らす、②自然(再生可能)エネルギーを大きく増やす、③電力自由化を進める──だ。

 三つは密接に関係しており、同時に進めないとうまくいかない。福島原発事故後、民主党政権はこれらについてかなり積極的に取り組んだ。当時原発が次々に止まり、日本社会はほぼ原発なしで動いていた。原発を一から見直す好機だった。

 まさに日本のエネルギー政策の大転換が期待された。しかし、事故から5年、今は落胆の気持ちが強い。

 

 ◇政策転換に必要な政治力

 

 最大のテーマである原子力について、民主党政権は国民的な議論を組織した。それを受け12年9月、「革新的エネルギー・環境戦略」を発表。核心は30年代に原発ゼロをめざす。世間をあっといわせた。原発依存一辺倒だった戦後の政策からみれば、脱原発はコペルニクス的な大転換だった。


 しかし、3カ月後に民主党は総選挙で大敗し、返り咲いた自民・公明政権は脱原発方針を白紙に戻した。今の計画は「30年の原発は20~22%」で福島原発事故前の水準にほぼ戻った。再稼働も進み、福島原発事故前の原発重視路線に回帰した。

 42㌻図は原子力政策を大転換する場合に何が必要かについて、事故直後に筆者がまとめたものだ。改革には世論と制度の両方が要る。世論も世論調査の数字だけでなく、投票行動に表れる「強い世論」が必要。また行政、電力業界、NGOなどがどう考え、社会でどの程度の力をもつかが重要になる。制度では自由化や自然エネ増加策の有無だけでなく本当に機能しているかがカギになる。

 究極的には政治パワーだ。ドイツでは「脱原発は緑の党の30年戦争」といわれる。環境政党「緑の党」は運動を牽引(けんいん)しただけでなく1998年に社会民主党と連合政権をつくり、そのうえで脱原発を決めた。脱原発も政治化されてこそ力になる。

 こうしてみると福島原発事故の衝撃の中で、民主党政権が世論を背景に思い切って脱原発を提案したものの、日本社会にはそれを支える力が足りなかったというしかない。選挙で民主党が負け、時間がたつ中で「原子力が重要。自然エネ、自由化はほどほどに」という利害関係が復活するとずるずると後退した。

 自然エネや電力自由化の議論も原発と似た経過をたどった。自然エネでは、欧州でスタンダード政策になっていた全量固定価格買い取り制度(FIT)を導入。これで太陽光発電の設置が一気に伸び、日本は中国、ドイツに次ぐ世界第3位になった。しかし制度には建設が簡単な太陽光に申請(認定)が集中する欠陥があった。いま政府や電力業界は増えすぎたとして、買い取り制限の導入など急ブレーキをかけている。政策転換に現場は大混乱している。

 水力を除く自然エネは日本の電源構成の3・2%(14年度)に過ぎないのにFITは早くも変質している。海外では自然エネの柱になっている風力は日本では増えていない。

 12年7月に政府(民主党)が出した「電力システム改革の基本方針」には発送電分離、地域独占の撤廃、小売りの自由化など、電力自由化の主要項目すべてが含まれていた。

 しかしその後、改革のスピードが鈍った。要の発送電分離は20年に先送りにされた。それも各電力会社の子会社が送電線をもつ法的分離にとどまり地域割りは継続する。

 16年4月から始まる電力の小売り自由化が注目されている。現行より安いメニューはいろいろ出てきそうだが、多様性は少ない。本来は「自然エネによる電気」など消費者が電源種を選び、それが政策に反映されるダイナミズムがあっての自由化だ。自由化の枠組みは次々にできるがオプションが少なく中途半端だ。

 

 ◇もんじゅ勧告の衝撃

 

 原子力政策の転換はどこの国でも難しい。英国は核燃料サイクル政策に失敗し、使い道のないプルトニウム燃料を約100㌧も抱えている。英セントアンドリュース大学のウィリアム・ウォーカー教授はあるシンポジウムで政策が修正できなかった理由を指摘した。

 ①既得権益に異議を唱える政治的勇気の欠如、②反対運動に勝たせてはならないという意識、③脱出の手段・道は手遅れになるまで検討されない、④脱出策のコスト・リスクが常に現状継続より大きく描かれる、⑤さらにお金をつぎ込み、穴を大きくしてしまう。

 振り返ると、日本では事故があっても、路線修正の検討会をつくっても、原子力政策は「現状維持」が繰り返された。それは政策が合理的だからではなく、必要な大改革をする力がなかったからだ。

 そして今また現状維持を繰り返そうとしている。これは恥ずかしいことだ。とんでもない原発事故を起こしても政策を変えられないのであれば、もう日本には原子力政策を理性的に変える政治的、社会的パワーがないということになるだろう。

 この状況を崩すきっかけを考えたい。一つは高速増殖炉「もんじゅ」だ。原子力規制委員会は15年11月、文部科学大臣に勧告を出し、日本原子力研究開発機構にはもんじゅの安全管理能力がないので「運転するなら他の組織を探すこと」を命じた。ふつう、同じ政府の役所同士で、こんな「答えに困る命令」は出さない。異例の勧告は市民の側からでも業界からでもなく、官の一組織が社会に突きつけた政策への問題提起だ。

 原子力政策の矛盾は核燃料サイクルに凝縮されている。日本では原発は通常の産業だ。しかし使用済み燃料からプルトニウム燃料を取り出し、それを高速増殖炉で燃やすサイクルは実現の見通しが立たない。高速増殖炉の開発は原型炉のもんじゅで止まっている。原発がフィクションのようなサイクルとがっちりと結びついている。もんじゅの現状をまじめに考えれば、サイクル政策が画餅であることがはっきりする。原発をどうするか、使用済み燃料をどうするかについても現実的な政策修正が必要になってくる。

 二つめは、中途半端な状態にある自然エネと電力自由化を市民の力で前に進めることだ。いま電力会社は原発全基が再稼働するという過剰な原発優先方針を取り、余った小さなスペースで自然エネの導入枠を計算している。こんなやり方を変えさせ、FITの基本である自然エネの送電線への優先接続を求めていく──。

 

 ◇第三者機関とメディアの役割

 

 事故後にできた原子力規制委は格段に独立性が高まった。骨抜き圧力を受けているFITと電力自由化も含め、いずれも福島原発事故という犠牲を経て日本社会が手に入れた武器だ。強化し、有効に使いたい。

 もう一つ。行政、業界から独立した真の第三者機関が欲しい。原発の支持、不支持を超えて政策オプション、データを提示する研究所あるいは研究者集団だ。原発議論で最も欲しいデータは、原発を5基、10基再稼働させた場合のシミュレーションだ。再稼働するにしても最小限でいいと思う人は多い。そうした議論に資するデータだ。すべての原発を動かしたいと再稼働はゼロでいいとの対峙(たいじ)だけでは前に進まない。

 日本の原発政策を合理的なものに変えるには、「いつでも現状維持」という圧力を跳ね返す力を、社会がもたなければならない。それが簡単な仕事ではないことを、福島後の5年間が教えている。マスメディアの役割も大変大きいと思っている。(了)

2016年

2月

23日

第25回 福島後の未来をつくる:清水敦史 チャレナジー代表取締役CEO 2016年2月23日特大号

 ◇しみず・あつし

 1979年岡山県生まれ。東京大学大学院修士課程を修了。キーエンスで自動制御機器の研究開発に従事。独力で垂直軸型マグナス風力発電機を発明し、2014年3月の第1回テックプラングランプリ最優秀賞を受賞。同年10月にチャレナジーを設立。

 ◇台風のエネルギーを発電に

 ◇プロペラがない新型風力

 

 風力発電ベンチャー、チャレナジーは東京墨田区の町工場の一角に拠点を構えている。チャレナジーを起業したきっかけは、東京電力福島第1原子力発電所事故だ。福島原発事故前まではエネルギー分野とは無関係で、大阪市でセンサー技術を研究していた。福島原発事故直後のニュースを目の当たりにし、1979年の米国スリーマイル島原発事故や86年の旧ソビエト連邦のチェルノブイリ原発事故級の事故が日本の福島県で発生した事実に愕然(がくぜん)とした。同時に原発事故は今後も世界のどこかで必ず起きるとも感じた。


 ◇台風は日本の電力50年分

 

 エンジニアの自分に何ができるかを考え、原発に代わるエネルギー、なかでも風力発電に目をつけた。風力は組み立て技術の結集で個人レベルでもアイデア次第で参入できる。

 日本でも環境省調査によれば電力系統網接続などの制限を考慮しない風力発電の可能性は原発1900基分に相当する19億キロワットであるが15年末時点での日本の風力発電累計導入量は300万キロワットを超した程度だ。日本は風力発電後進国である。日本には欧州のような安定した風が吹かず、台風などの暴風や、風向きや風速が不定期に変化する乱流など風力発電には厳しい気候であることも導入が進まないことに影響している。

 そこでチャレナジーは暴風や乱流でもエネルギーに変えることができる日本の気候条件に適した垂直軸型マグナス風力発電機の研究・開発に取り組んでいる。

 この風力発電機は理論上、一般的な水平軸のプロペラ風車型発電機では困難な台風の中でも発電ができ、安全性が高いので都市での発電も可能だ。台風で発電するには、二つの工夫が必要となる。一つは強風による暴走を防ぐこと、もう一つは激しい風向変化に対応すること。プロペラがついている限り突風による故障などのリスクが残る。

 日本には、台風というすごいエネルギーがくる。年間最大台風の台風全体が水蒸気として持っているエネルギーをすべて電気に転換できると日本の総発電量の50年分になる。その膨大なエネルギーの一部でも電力に変換できる技術が垂直軸型マグナス風力発電機だ。実は台風のエネルギーを利用するというアイデアは漫画「ドラえもん」の話にも出てくる。まさに夢の技術だ。

 世界中で普及している水平軸型プロペラ風力発電機では、羽根や発電装置が故障するために台風がくると羽根を止めている。マグナス力を使えば、それらの問題を解消できる。

 マグナス力とは、分かりやすくいうとボールを回転させるとカーブのように曲がる力を利用するもの。円筒棒を回して発生させたマグナス力を使って、発電機を回す。回転が速いほどマグナス力が強くなる。逆に円筒棒が止まるとマグナス力はゼロになる。これこそマグナス風力発電最大のメリットだ。台風の中でどんなに暴風が吹き荒れても最悪円筒棒を止めれば発電機を停止できる。円筒棒の回転数の調整により、台風のような強風でも暴走することなく発電し続けることができるのだ。

 当社が開発に取り組んでいる垂直軸型マグナス風力は、地面に対して垂直に立てる円筒棒を中央の軸を中心にいくつか配置する。回転する円筒棒が風を受けてマグナス力が作用し、中央の軸が回ることで発電する。

 問題は垂直軸の形状では風上側と風下側の円筒棒のマグナス力の向きが同じのため、中央の軸の回転力としては相殺されてしまい、回らない。関西電力や三菱重工業といった大企業も垂直軸型マグナスのメリットに目をつけて研究していたが、実用化に至っていない。

 私は熟慮を重ねたところ妙案を思いついた。四方に配置する円筒棒をそれぞれ二つ並べる方法だ。このアイデアを思いついたのはチャレナジーを創業する前で、原発事故が起きた1カ月後くらいだ。早速、自宅で発泡スチロール製のモデル機をつくったところ、風車が回った。原理的に可能だと確信し、このアイデアを11年7月に特許を出願した。早期審査によりわずか2年程度の13年春には特許を取得できた。そこで一念発起し、13年6月に会社を退職して、東京に拠点を移した。

 上京してしばらくは大学院時代に共同研究していたUPRという物流会社で働きながら起業の機会をうかがっていた。14年3月に科学ベンチャーのリバネスがモノづくり限定のビジネスコンテスト「テックプラングランプリ」を開催し、これ幸いと応募。そして最優秀賞を獲得した。

 さらに14年夏に、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する研究開発型ベンチャー支援事業の募集があった。この事業はアイデアの事業化に必要な活動費を2年間で3000万円支援する。その支援を見込んで14年10月にチャレナジーを設立し、11月に見事採択された。ここまでは順風満帆だったのだが、起業直後に思わぬ落とし穴が待ち受けていた。

 チャレナジーを起業して、取得した特許を基につくった試作機のエネルギー変換効率をまず第三者にテストしてもらった。14年12月に判明した試作機のエネルギー変換効率は1%以下と信じられない低さだった。

 一般的に、風車型発電機のエネルギー変換効率は30から49%で、理論上の限界は約60%と言われている。1%以下では発電設備として成り立たない。二つ並んだ円筒棒の周りに渦ができており、机上の計算では出ない抵抗力が働いていたのだ。当初の特許アイデアは白紙となり、今までのもくろみが全て水泡に帰した。

 しかも15年7月にはNEDOの中間審査があり、それまでに成果を出さなければ支援は打ち切られる。起業直後にいきなり倒産の危機に立たされることとなった。

 結論として半年で全く新しいアイデアを再発明した。半年間、昼も夜もなくひたすら実験を繰り返して、円筒棒のマグナス力を高めることと風の抵抗を減らすという二つのブレークスルー(革新的解決)を果たす新たな特許アイデアを導き出した。

 新たなアイデアは特許出願中なので詳しく言えないが、円筒棒の表面の形状を工夫してマグナス力を向上させるとともに円筒棒の後ろに板をつけて抵抗を減らすことで、エネルギー変換効率は30%台まで上昇した。半年で変換効率を数百倍にすることができたのだ。このアイデアは、たまたま円筒棒の近くに手をかざしたときに発見した偶然の産物。99%の努力が1%のひらめきを生んだ。これによりNEDOの中間審査は無事通過した。

 15年11月から12月には人工的に風をつくり風の流れを見える化して計測する本格的な風洞実験を行い、高い性能データを得られた。そして16年夏、沖縄に高さ3メートル程度の垂直軸型マグナス風力発電機を建て、台風中での発電を含めた実証事業をする。

 まだ課題はある。現状では発電機による発電量のほとんどを円筒棒を回すユニット箇所で消費してしまう。今後はいかにモーターのロスを減らして発電量を増やしていくかだ。電動自転車のインホイールモーターのように円筒棒をモーターで直接駆動するなど、解決の活路はある。また資金調達手法として、寄付型クラウドファンディング(Webによる募金)に取り組んでいる。

 この垂直軸型マグナス風力発電機は、台風が訪れるフィリピンなどの東南アジアやハリケーンが訪れるメキシコなど、世界中で活躍できると期待している。さらに台風エネルギーを利用して海水を電気分解し大量に水素をつくれば、日本が目指す水素社会の実現に貢献できる。(了)

2016年

2月

16日

第24回 福島後の未来をつくる:鈴木達治郎 長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授 2016年2月16日号

 ◇すずき・たつじろう

 1951年大阪府生まれ。米国マサチューセッツ工科大学(MIT)修士課程修了。東京大学工学博士。米MITエネルギー環境政策研究センターなどを経て、2010~14年に政府原子力委員会委員長代理。14年長崎大学教授。15年同大学核兵器廃絶研究センター長。

 ◇行き詰まった核燃料サイクル

 ◇現状打破に直接処分を可能へ

 

 日本の原子力政策の要といわれる核燃料サイクルは、1957年の開発当初から変わらない目標であった。その前提となるのが、夢の原子炉といわれる高速増殖炉の実用化であり、そのために必要な全量再処理、すなわちすべての使用済み燃料を再処理することが基本政策となった。

 しかし、開発開始から60年近くたち、原子力と核燃料サイクルを取り巻く情勢は大きく変わった。今や、核燃料サイクル、その中核となる高速増殖炉の開発は完全に行き詰まった。ウラン価格が上昇し、プルトニウム燃料が経済的であれば、燃え残ったウランとプルトニウムをリサイクルする「プルサーマル」への期待もあったが、80年代以降、再処理コストの高騰、ウラン価格の低迷が続き、プルトニウム・リサイクル経済の見通しは大きくしぼんだ。今や、再処理路線はリサイクルをしない通常のウラン燃料より割高な路線であることが明らかだ。


 そのなかで、日本は硬直的な全量再処理路線にこだわり続けている。とりわけ、東京電力福島第1原子力発電所事故以降、原発の将来が不透明になった今、全量再処理路線を継続する合理的理由は見つからない。

 にもかかわらず、政府のエネルギー基本計画では、核燃料サイクル継続を基本とし、最近では電力小売り全面自由化市場においても再処理事業が継続可能となるよう青森県六ケ所村核燃料再処理事業を、半官半民組織である特別認可法人にして政府が支援する案さえ検討されている。

 しかし実態は、2005年運転開始を予定していた六ケ所再処理工場は、実に23回にわたる延期でまだ運転を開始していない。

 さらに、将来の目標であった高速増殖原型炉もんじゅの運転も、原子力規制委員会からの勧告(事業主体である日本原子力研究開発機構に代わる運転主体の見直し)もあり、運転開始の見通しがまったく立っていない。一方で原発敷地内にある使用済み燃料プールの容量も満杯に近づいている。つまり再稼働の基数が多くなればなるほど、使用済み燃料が満杯になる日は早まる。核燃料サイクル(全量再処理)路線は今や、完全に行き詰まっているのである。

 

 ◇打破する改革4点

 

 そこで行き詰まりを解消するための改革案を4点提唱する。まず一つ目は、使用済み燃料の直接処分を可能にすることだ。現在、全量再処理路線の下では、使用済み燃料は資源または資産と考えられており、ゴミ(高レベル放射性廃棄物=HLW)として人が触れる恐れのない深部地下に埋める地層処分(これを直接処分と呼ぶ)が制度上、許されていない。特定廃棄物の最終処分に関する法律(高レベル廃棄物処分法)の対象が再処理後の廃棄物に限定され、使用済み燃料が含まれていないからだ。

 また、将来高速増殖炉が実現しないとなると、プルサーマルした後のMOX使用済み燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物燃料)はいずれ処分するしかない。

 さらに、研究炉の使用済み燃料、破損燃料など、再処理に適さない使用済み燃料も存在する。したがって、使用済み燃料の直接処分はもはや不可避である。

 さらに福島原発事故以降、原子力の将来が不透明な状況を考えれば、核燃料サイクルの柔軟性を確保する意味でも、直接処分を可能にすることは急務の課題といえる。具体的には、全量再処理路線から、再処理と直接処分のどちらを選んでもよい柔軟路線に転換すること、法制度としては、地層処分の対象に使用済み燃料を加えることが必要だ。

 二つ目に、中間貯蔵としての乾式貯蔵容量の拡大を急ぐことだ。乾式貯蔵は空気で使用済み燃料を冷やすので電源を必要としない。再処理をするにせよ、直接処分をするにせよ、中間貯蔵が絶対必要である。現在は再処理を前提とした中間貯蔵であるが、前述しているように、再処理が行き詰まると中間貯蔵も行き詰まることになる。直接処分を可能にして、はじめて中間貯蔵後の柔軟性が確保される。

 使用済み燃料のプール貯蔵には限界があるうえ、福島事故で明らかになったように安全上の懸念が残る。できれば、早い時期に乾式貯蔵方式に移行していくことが望ましい。

 問題は立地だ。立地の成否は貯蔵後の引き取りを保証するかどうかにかかっている。15年10月6日に最終処分関係閣僚会議が使用済み燃料対策アクションプランを発表したのは、使用済み燃料を廃棄物として扱ったという意味で、また国が取り組む姿勢を示したという点で、一歩前進ではある。

 直接処分が可能となれば、廃棄物処分の事業主体が引き取ることもできる。国が中間貯蔵後の引き取りや保管自体に責任を持つ国家責任保管といった新しい概念を打ち出すのも一案だろう。長期的には放射性廃棄物の最終処分について、合意形成プロセスを改革することも必要だ。敷地内での乾式貯蔵の可能性も含め、地元や消費地域の市民も含めて、中間貯蔵の必要性について合意形成を早急に図っていく必要がある。

 三つ目は、プルトニウム在庫量の削減計画を明示することだ。原発や核燃料サイクルの将来にかかわらず、すでに再処理から回収されたプルトニウムの在庫量が国内に10・7トン、欧州に37・1トン、合計47・8トンにも上っている。長崎型原爆(6キロ/発)に換算すれば、約8000発に相当する大量の在庫量だ。この在庫量の削減は日本の原子力政策の信頼を高める意味でも、また国際安全保障上のリスクを軽減する意味でも、喫緊の課題だ。

 これまで日本の政策は余剰プルトニウムを持たない、すなわち目的用途のないプルトニウムを保有しないというもので、いずれ燃料として使われる見通しがあれば需給バランスが取れるので問題ないという立場であった。しかし、これまで利用目的として挙げられていた高速増殖炉やプルサーマルの将来も不確実になった以上、それでは不十分だ。政府は民間任せでなく、明確に在庫量削減計画を早急に構築すべきだ。具体的には、プルサーマル以外の選択肢、例えば英国が提案している日本のプルトニウム引き取り案や、燃料にしないで直接ゴミとして地層処分する案などの検討に入るべきだ。

 最後の四つ目は、第三者による総合評価を急ぐことだ。前述のような政策を実現するには、これまでと異なる政策決定のメカニズムが必要だ。これまで、政策変更をする機会があったにもかかわらず、硬直的に政策や計画を継続してきたのは、独立した立場からの総合評価(見直し)がされてこなかったからだ。

 

 ◇必要な独立評価機関

 

 今必要なのは、賛成や反対の立場を超え、客観的な情報に基づいた、公正で透明性の高い独立評価機関である。例えば、欧米には国会(議会)に、不偏不党の立場で技術の社会影響評価を行う技術評価機関が存在する。また、各国には科学アカデミーのように、政府とは独立した立場で科学的、客観的に政府の政策や計画を総合的に評価し、提言する機関が存在する。

 日本では科学者の政策提言機関である日本学術会議もそのような役割を果たしうる。特定目的として政府や国会にそのような調査委員会を置くことも可能だ。国会に設置された福島原発事故調査委員会もその一例である。従来の開発や政策の当事者による評価だけでは、国民の信頼は得られない。早急に、第三者による総合評価が求められている。(了)

2016年

2月

09日

第23回 福島後の未来をつくる:吉田文和 愛知学院大学教授 2016年2月9日号

 ◇よしだ・ふみかず

1950年兵庫県尼崎市生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。92年に北海道大学経済学部教授、2000年より同大学大学院経済学研究科教授。15年より現職、北海道大学名誉教授。近著に『ドイツの挑戦』(日本評論社)。

 ◇ドイツが進める脱原発

 ◇きっかけは福島原発事故

 

吉田文和

(愛知学院大学教授)

 

ドイツによる難民受け入れと脱原発の決定は歴史に残る決定であり、ドイツの挑戦である。これらは、政治的指導者であるアンゲラ・メルケル首相の決断によるところが大きいが、そこに至る過程でのドイツ国内における長い経過と世論形成が重要であった。とくに日本との関係では、ドイツの脱原発の最終決定のきっかけは東京電力福島第1原子力発電所事故(福島原発事故)であり、新幹線が3分おきに事故を起こさずに走行する高度に組織されたハイテク国家日本で起きたのだから、ドイツでも原発事故は起こりうる、と考えたのである。

 福島原発事故から5年近くたつなかで、日本の原発ゼロは2年続き、原発なしでも日本の電力が十分賄えることが明らかになった。しかし電気料金の値上げと二酸化炭素(CO2)排出量増加などに対処するという理由で、原発の再稼働が進められている。


 これに対してドイツは、福島原発事故を最終的なきっかけとして2022年までに原発ゼロを目指すとともに、再生可能エネルギーと省エネルギーの徹底による「エネルギー大転換」を進める。ドイツはすでに総電力消費量に占める再エネの割合が30%近くになっている。

 この違いは、いったいどこから来ているのか。日本にはこの見通しはないのか。

 

 ◇ドイツ大転換、三つの理由

 

 ドイツがエネルギー大転換を遂行するには三つの理由がある。第一に、原発を段階的、計画的に停止し、かつ同時に温室効果ガスの排出も減らすために、再エネの本格的な導入と省エネを大きな政策目標に掲げているからである。そのためには同時に送電網の拡充整備が必要となっている。

 第二に、巨大な発電所による集中型のエネルギー供給から、エネルギーの消費者自身が生産者になるという分散型のエネルギー供給が行われるようになってきたからである。これは家庭用の太陽光発電などの事例でも明らかである。

 第三に、これまでのようにエネルギー需要に追従するのではなく、むしろエネルギー需要を管理するデマンドサイド・マネジメント(需要側管理)によって省エネを行うという新しいエネルギー管理への転換を目指すからである。

 このようにして、エネルギー供給の分散化が個人の参加を進め、地域経済の活性化を促すのである。

 発電分野からのCO2削減のみならず、住宅の断熱や交通分野からのCO2削減などを行うとなると、これまでの社会システムと技術の大転換が必要だ。ドイツは、この方向へ長期的に進めば、環境を保全し、温暖化と原子力のリスクを減らし、エネルギーの安定供給を確保できると確信している。さらに経済と技術の競争力を強め、雇用を拡大し経済を活性化できると考えている。

 一方の日本は個別技術において、蓄電池やベアリング(風力発電用)、新幹線などでは優れた成果を生み出しているにもかかわらず、エネルギー分野では風力などの再エネで、国内市場の狭さもあってリーダーシップを取れないでいる。いやむしろ、米国やドイツが展望を持てず放棄した分野である原子力や核燃料再処理にいまだに固執しているのである。

 ◇事実を直視しない日本

 

 日本とドイツで異なる対応の背景と原因は、現代ドイツの五つの特徴にあるようだ。

 第一に事実と論理性の重視である。ドイツは演繹(えんえき)的・論理的に政策目標を決め、体系的に政策手段を整備している。ドイツでも当初、核燃料の再処理方針を掲げたが、技術的困難と地元の反対運動という事実に直面して、最終的には再処理路線を放棄した。再処理方針の放棄は、脱原発の布石となったという意味で、大変重要である。

 これに対して日本は、発電しながら消費した以上の燃料を生成できる高速増殖炉の実用化見通しもなく、再処理施設の運転開始が20回以上も延期されている。にもかかわらず、再処理方針の抜本的見直しに踏み切れていない。再処理の技術的および社会的困難という事実を直視せず、達成できない目標に対し巨額な費用をかけて追求しようとする、「日本的プロジェクト不滅の法則」が働き、非合理が訂正されずに既得権益と方針が温存されているのである。

 第二に長期見通しと戦略性である。ドイツはエネルギー大転換のみならず、生産についても第四の生産革命(インダストリー4・0)を掲げ、長期見通しと戦略性を持って、世界におけるリーダーシップを取るグローバルな戦略が明確である。ドイツが進めるエネルギー大転換は、電力のみならず、熱と燃料の分野を含み、文字通りエネルギーの全分野を視野にいれた転換を目指し、長期的見通しと戦略性を持っていることが要点なのだ。

 第三に公論形成と公論の役割である。新聞をはじめとするマスコミなどにおける多様な議論と論争が、連邦議会や州議会、市議会などにおける議論とともに、大きな役割を果たしている。保守党内にもエネルギー問題や原子力問題は多様な意見が存在し、論争が行われてきた。それに対して日本は、原子力やエネルギー問題についての原理的な議論と論争が議会などで十分に行われず、専門家や行政に任せてきた。

 第四に関係者の参加と透明性の確保である。この合意形成はドイツにおいては、原子力を含めてエネルギー政策の立案と運営にとって、行政側の教訓となっている。この教訓からドイツの放射性廃棄物問題は振り出しに戻り、再出発せざるを得なくなっているのである。

 第五にリスクの捉えかただ。たしかにドイツは「不安の民」といわれるように、原子力を含めてリスクに敏感であるがゆえに、脱原発に進んだといわれてきた。核兵器が東西ドイツに配置され、冷戦の最前線となり、反核兵器運動と原子力反対運動が連合した点が日本などとの大きな違いである。

 そして、脱原発を理論的に位置づけたドイツ倫理委員会報告(11年5月)に指摘されるように「原子力の利用やその終結、ほかのエネルギー生産の形態への切り替えに関する決定は、すべて社会による価値決定に基づくものであって、これは技術的あるいは経済的な観点よりも先行している」という基本的な認識がリスクの捉えかたを象徴している。

 短期的な経済コストによって原子力を評価するという姿勢とは根本的に異なるものである。ドイツと比べ日本は、さらに地震・津波・火山という固有のリスクが伴う。

 ドイツから日本が学ぶべき諸点を五つに分けて指摘してきた。ただ日本はドイツに比べて優れた側面を多く持っていることも事実だ。とくに、公共交通網の整備と運行の正確さは、ドイツ人も認めるところだ。だからこそ高度に組織されたハイテク国家日本で起きた福島原発事故が、ドイツに脱原発を最終的に決定させたことを忘れてはならない。(了) 

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年2月9日号 表紙 資産防衛

定価:620円(税込み)

発売日:2016年2月1日

週刊エコノミスト 2016年2月9日号

 

 

【特集】投資が恐い人の資産防衛大綱

・銀行任せでは守れない資産

・取り崩しながらでも大丈夫!

・バリュエーションの見極め方

・インデックスファンド


2016年

2月

02日

第22回 福島後の未来をつくる:窪田秀雄 テピア総合研究所主席研究員 2016年2月2日特大号

 ◇くぼた・ひでお

1953年、神奈川県生まれ。東海大学大学院工学研究科卒。日本原子力産業会議を経て2006年、日本テピア入社。中国を中心に世界の原子力をウオッチしている。編著に『中国原子力ハンドブック』など。

 ◇事故の教訓を生かし中国原発と協力する道

 

窪田秀雄

(テピア総合研究所主席研究員)

 

これからは中国を抜きにして世界の原子力産業を語れない。中国の原子力発電所は運転中、建設中を合わせてまだ55基に過ぎないが、筆者の調査では計画中は274基にも及ぶ。中国の原発は国産化が基本方針とはいえ、その市場規模は、日本を含めて各国の原子力機器・部品企業にとって無視することはできない。とくに日本は、今後数十年内に隣国に数百基の原発が林立する現実を正面から見据える必要がある。

 中国による次世代原子炉への取り組みも、他の国の追随を許さない。次世代原子炉の中で最も進んでいる高温ガス炉(HTGR)は、技術的には日本のほうが進んでいるとの指摘もあるが、実証炉、実用炉の建設によって日中の立場が逆転することは確実だ。


 有望な技術(新型炉)を持つ国(たとえば米国)にとっては、中国の資金力も魅力的だ。新世代の原子炉を開発する米国の原子力ベンチャーのテラパワー社会長を務めるマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏も同じ考えだろう。

 翻って日本はどうか。中国と組めば技術が流出すると懸念する向きもあるが、いかに優れた技術を持っていても、そうした技術がビジネスに生かされなければ意味がない。中国の原子力開発に日本が積極的に関わっていくことは、東京電力福島第1原子力発電所事故から得られた教訓を中国の原発の安全性向上に生かすことができるだけでなく、中国に対して発言権を確保できる。米政府がウェスチングハウスの最新原子炉技術である「AP1000」を中国に移転することを許可したのも、そうした思惑からだろう。国内での新規プロジェクトの見込みがまったくなく、原子力供給能力の毀損(きそん)さえ想定される日本としても、中国と協力関係を構築し活路を見いだすべきだろう。

 第12次5カ年計画期の最後の年となった2015年は、中国がめざす原子力強国の構築に向けた節目の年となった。15年だけで6基が営業運転を開始、7基が着工した。「第13次5カ年計画期」も幸先良いスタートをきり、16年1月1日に新たに2基が運転を開始した。これによって運転中の原発は30基、建設中は25基となった。16年以降、毎年、6~8基がそれぞれ着工、運転開始する見通しだ。

 ◇次世代炉各種が実用化へ

 

 15年11月には、これから世界の原子力業界が中国を中心に回ることを予感させるような会談が行われた。中国の李克強首相がゲイツ氏と北京で会談し、米国と共同で原子力研究開発を行い中国の原子力産業水準を引き上げることを期待するとしたうえで、米国と共同で原子力市場を開拓する意欲を示した。これに対しゲイツ氏は、両国企業の協力は技術イノベーションや産業化プロセスを加速させると応じた。さらにゲイツ氏は、エネルギーを所管する国家能源局の局長や中国を代表する原子力事業者の中国核工業集団公司(中核集団)のトップとも意見交換した。

 テラパワー社と中核集団は15年9月、習近平国家主席の米国訪問に合わせ、劣化ウランを燃料として使用できる「進行波炉」の開発協力に関する覚書を締結している。ゲイツ氏の訪中の背景には、協力の前提となる「米中原子力協定」の直前の改定があったことは間違いない。すでに、中国国内での原型炉建設が浮上している。各種の次世代原子炉を開発する中国としても、共同での原型炉建設は望むところだろう。

 米中による次世代炉の共同開発は進行波炉が初めてではない。中国は、1960年代に米国が研究を進めたトリウムを溶融塩に溶かして燃料として使用する「トリウム溶融塩炉」の開発に国を挙げて取り組んでいる。中国国内に大量にあるレアアース鉱石の精錬に伴って発生するトリウムが燃料として利用できれば、文字通り国産のエネルギーとなる。トリウム溶融塩炉は、燃料の成型加工が不要で炉心構造物が簡単なことに加えて、安全性が高く液体金属のような危険性がないといった特徴を持つ。

 米エネルギー省(DOE)と中国側の溶融塩炉開発主体の中国科学院は11年12月、原子力科学技術に関する協定を締結。同協定には溶融塩炉の協力が盛り込まれた。DOEのピーター・ライアンズ原子力担当次官補と江綿恒・上海科技大学学長を共同議長とする執行委員会が設立されている。江氏は、江沢民元国家主席の息子だ。

 中国は、これ以外にも次世代原子炉の研究開発を進めている。加圧水型軽水炉(PWR)などの熱中性子炉から、将来の核融合炉へとつなぐ原子炉戦略の中で最重要の炉型と位置付けている高速増殖炉(FBR)については、自主設計の60万㌔㍗実証炉「CFR600」を福建省寧徳市霞浦県に建設することを決めた。すでに実証炉の建設・運営主体も設立されており17年に着工する。

 再処理にともなって得られる回収ウランやトリウムを燃料として使用できる先進燃料CANDU炉をカナダと共同で開発するプロジェクトもスタートしている。超臨界圧軽水を冷却材に使う「超臨界圧軽水冷却炉」の開発も進んでいる。汽水分離系や再循環系が不要なため機器の簡素化が図れ、熱効率が大きく改善されるといった特徴を持つSCWRは、100万㌔㍗級の「CSR1000」の全体設計プランならびに材料選定プランが完成している。

 山東省で建設中のHTGR実証炉(21万㌔㍗)は17年には完成する。これに続く、60万㌔㍗の実用炉プロジェクトも多数の省で具体化している。中国は、HTGRを輸出する方針も固めており、すでに複数の国に対して売り込みをかけている。中国の次世代原子炉開発から見えてくるのは、豊富な資金力を生かし国際協力も利用して世界の原子力ビジネスの覇権を握るという遠大な計画だ。

 

 ◇急拡大には懸念

 

 当初、原発輸出の弊害になるのではないかと指摘されていた中核集団、中国広核集団有限公司、国家核電技術公司の3大原子力事業者の確執も政府の指導力によって調整が行われ、盤石な体制が整いつつある。中核集団と広核集団は昨年12月30日「華龍1号」の輸出専門会社「華龍公司」を設立した。

 問題があるとすれば、中国国内の専門家も指摘する、常軌を逸したとまで形容される原発の急拡大だろう。 福島第1原発事故を経験した日本は、優れた品質の部品などの提供を通じて中国原発の安全性向上を図る一方で、日本の原子力産業を活性化させる道を探るべきだ。(了)

 

2016年

1月

26日

第21回 福島後の未来をつくる:原田達朗 九州大学炭素資源国際教育研究センター教授 2016年1月26日号

 ◇はらだ・たつろう

1963年生まれ。九州大学工学部卒、同大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。工学博士。九州電力、電源開発などを経て2014年より現職。炭素資源の高度利用技術、電力取引、CO2国際トレードなどを研究。

 ◇需給調整の地域化が再エネ普及後押し

 ◇太陽光に合わせた「受け身」の消費を

 

原田達朗

(九州大学炭素資源国際教育研究センター教授)

 

2015年11月から12月にかけ、フランス・パリで国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催された。厳しい交渉の末、関係各国は20年以降の地球温暖化対策に関する新たな枠組み「パリ協定」を採択。目標達成の義務化は見送られたものの、産業革命前からの気温上昇を2度C未満に抑える、1・5度C未満になるよう努力することで合意した。

 このCOP21の開催に当たり、日本は温室効果ガスを30年までに13年比26%削減する目標を国際連合に提出した。13年度の日本の二酸化炭素(CO2)総排出量は約13・11億トンなので、30年までに約3・41億トンのCO2排出を抑制する目標だ。これは1997年の京都議定書採択時に示した削減量である0・69億トン(90年比6%削減)の約5倍に当たる野心的な数字と言えるだろう。


 排出削減の肝となるのが、日本のCO2排出源の約4割を占める発電分野である。削減には、発電時にCO2を排出しない「CO2フリー」な電源である原子力発電と再生可能エネルギーの役割が重要となるが、原発は東日本大震災で重大事故を起こし、安定稼働には不確実な部分が多い。安易に原発に頼らず、再エネで補完しながら削減目標を達成する知恵が必要となる。

 

 ◇電気を昼間使う

 

 再エネを普及させる上で最大の課題となっているのが出力の不安定さである。周知の通り、電力を安定的に供給するには、需要と供給をバランスさせ、周波数を一定にする必要がある。12年7月の固定価格買い取り制度(FIT)施行後、九州地方などでは太陽光発電設備の設置容量が急速に増加したが、太陽光で発電した電力が系統に多く連系すると、需給調整に影響を及ぼし、電力品質が低下するとの懸念が浮上。対策として接続保留や出力抑制を行うことになり、太陽光の普及にブレーキがかかった。

 では、太陽光をはじめ、CO2を発生せず、一度設置してしまえば燃料もいらない再エネ電源を最大限に導入していくためには、どのような方策があるのか。

 筆者は、(1)再エネ電源が発生する時間帯に電力需要自体をシフトさせる、(2)再エネ電源の出力変動を調整できる機能を持つ組織体(クラスター)を各地域に構築する──という二つの具体策を提案したい。

 まず、一つ目がCO2フリーの電気がたくさん手に入るタイミングに電力需要を喚起することである。

 これまで、一般電気事業者の電力料金は、昼間は高く、夜間は低く設定される傾向があった。これには昼間の電力消費ピークを抑え、ピーク時だけに稼働させる発電設備の投資コストを抑える狙いがある。企業の中には安い電力を使うため、深夜に生産設備を稼働させているケースもある。

 しかしCO2フリーの電気が潤沢に作れる昼間に電力消費を抑えるのはもはや得策とは言えない。むしろ、昼間に電力需要をシフトさせていく仕組みを社会全体で考えることが重要だろう。それには、「電気を、使いたい時に使いたいだけ使う」という従来の考え方を見直し、再生可能エネルギーの電気は、出力に合わせて使うという「受け身」の姿勢を持つことが重要だ。

 ◇再エネは制御できる

 

 再エネを普及させるための二つ目の方策がクラスターの形成である。

 ここで言うクラスターとは、エネルギー地産地消のシステムである。ある地域で、自治体や地元企業などが関与するエネルギー供給会社が、住宅や学校、コンビニエンスストア、工場などの需要サイドと協力しながら、太陽光発電や風力発電などの再エネ電源や自家発電設備、蓄電池などを活用してエネルギー供給と消費を最適化する仕組みだ。

 クラスターの最大の特徴は、クラスターの外にある大型火力発電から系統を通して安定的に電力供給を受けつつ、再エネ電源の出力変動に対応しながら、電力の需給調整を行う点である。

 例えば、天気が晴れから曇りになって太陽光発電の出力が下がったり、風が弱まって風力発電の出力が下がったりした場合、クラスター内に設置されている自家発電設備の出力を上げて地域の電力需要を賄う。一方、再エネ電源で作った電気が余った場合は、蓄電池にためたり、電力を消費する設備を稼働させて調整を行う。こうした仕組みを、ICT(情報通信技術)とエネルギー管理システムを組み合わせて構築するのだ。

 クラスターの形成によって、さまざまなメリットが得られる。まず、系統の制約を受けずに、再エネ電源を導入することができる。また、従来のエネルギー供給体制下では、再エネ電源の大量導入には系統の増強が必要とされているが、クラスターの内部で需給調整を行うため、クラスターの外の系統を増強する必要がなくなる。

 大型火力発電の高効率運用にも貢献する。一般的に日本の火力発電の発電効率は高く、CO2発生量が少ないと考えられている。しかし、これは設備がフル稼働している時の話で、実際には需要に応じて出力を変動させており、最高の発電効率で運用される時間は限られる。クラスターと大型火力電源が協力関係を結び、クラスターが大型火力に代わり、需要に合わせて出力を変動させる仕組みを構築すれば、大型火力電源を長時間、100%の負荷で運用できるようになる。そうすれば、発電効率、運用効率が飛躍的に高まり、火力発電のCO2発生も抑制することができる。

 東日本大震災では、震災時に発生した津波で、海岸線に集中する大規模電源の弱点が露呈した。この経験を生かし、電力の供給体制を、大規模集中電源一辺倒から、小規模分散電源と協調する体制へとシフトさせ、防災への耐力を高める工夫が必要だ。各地域で自立的にエネルギーを供給できる能力を持つクラスターはこうしたシフトにも役立つ。

 さらにクラスターが広く日本に普及すれば、ある地域で再エネ電力が少ない場合、余っている他の地域から供給することができる。

 現在、電力小売市場の自由化を見据え、再生可能エネルギーの導入に積極的な地方自治体等を中心に、地域電力会社の設立を目指す動きが活発化している。福岡県みやま市では、市が設立した電力会社と需要家が協力して電力の需給調整を行う、といった先進的な事業も始まろうとしている。こうした取り組みが将来的にクラスターの形成に結びつくことが期待される。

 再エネ電源は、供給サイドから見ると、「制御できない厄介なもの」として認識されているようだが、エネルギー供給の中では、既に無視できない存在となっている。一方、需要サイドから見ると、再生可能エネルギーを利用するメリットは数多い。その意味で、再エネ電源の普及には、供給側だけに頼らず、需要側も積極的に関与していくことが重要と言える。(了)

 

(『週刊エコノミスト』2016年1月26日号(1月18日発売)42~43ページより転載)

この記事の掲載号

定価:620円(税込み)

発売日:2016年1月18日

週刊エコノミスト 2016年1月26日号

 

【特集】地図でわかった原油恐慌

  シェール企業の山場

  原油安で変わる経常収支

  中国:石油製品輸出で原油市況圧迫

  インタビュー:ジャレド・ダイアモンド

  今年の原油平均価格見通し


2016年

1月

19日

第20回 福島後の未来をつくる:佐藤弥右衛門 会津電力社長 2016年1月19日号

 ◇さとう やうえもん

1951年、福島県喜多方市で200年以上続く造り酒屋・大和川酒造店の長男として生まれる。東京農業大学短期醸造科卒業後、大和川酒造店入社。2013年8月、会津電力を設立し社長に就任。現在、全国ご当地エネルギー協会・代表理事も務める。

 ◇地方市町村が目覚めるべき「エネルギー自治」とは

 

佐藤弥右衛門

(会津電力社長)

 

東日本大震災後の2011年7月に、福島県の南会津地方が洪水に襲われた。大雨により只見川上流の田子倉ダムなどが決壊する危険があったため、ダムの水門を全開にして水を放出したところ流域が一気に暴れて、国道252号線やJR只見線は寸断され、田畑が流され、死亡者も出た。

 ダムを所有するのは東京電力、Jパワー(電源開発)、東北電力。ダムは1940~50年代に建造され、老朽化が進んでいて危険だ。決壊すれば会津平野は甚大な被害を受ける。ところが、電力会社や自治体は、ダムの水をどれくらい放出したら、どのくらいの水位になるのかというハザードマップすら持っていなかった。

 


 ◇再エネだけで自給自足

 

 南会津には東電、Jパワー、東北電が持つ合計400万㌔㍗の水力発電所がある。これに対し、福島県全域の電力需要はわずか154万㌔㍗。つまり、会津地方で作られる多くの水力発電の電気は首都圏のためのものだ。

 これまで福島県は、浜通りの福島第1原発、第2原発合わせ1000万㌔㍗を発電し、首都圏に電気を送ってきた。それが事故を起こし、福島県産の農作物にも甚大な風評被害をもたらした。

 今、会津地方の食料自給率は1000%を超える。しかし電気は、自分たちの地元の資源で作っているにもかかわらず買わされていたのだと、原発事故後に改めて気づいた。会津地方には電力を電力会社任せにせず、再生可能エネルギーによって自給自足できる潜在力がある。原発事故を起こした東電がだめだ、国も当てにならないと不平を言っていても始まらない。

 そこで、私たちは少しでも電力というエネルギーを自分たちで作れないか、と考えて13年8月に会津電力を設立した。設立直前の同年7月時点で、福島県の電力消費量は、人口200万人で154万㌔㍗。会津地方は28万人だから7分の1の25万㌔㍗で間に合う。50万㌔㍗あれば、化石燃料を使わず、工業、インフラ維持を含め電気エネルギーだけで十分生活ができる。

 会津電力は15年12月時点で、子会社でSPC(特定目的会社)のアイパワーアセット(福島県喜多方市、山田純社長)を含め、地元に建設した雄国(おぐに)発電所を中心に太陽光で約4000㌔㍗を発電している。大規模な発電所を1カ所に作ると何かあった時に電力供給が止まるので、会津地方の47カ所に設置する地域分散型を取っている。今後さらに、2000㌔㍗の風力が2カ所と小型水力発電の2カ所を合わせ1万㌔㍗程度の上積みを目指す。

 現在は電気を作って電力会社に売っているだけだが、将来、新電力会社(PPS)を選択できるようになれば、卸業者を通じて、あるいは直接、消費者に販売できる。

 また、森林資源など有機物を燃料とするバイオマス(生物資源)発電も計画している。会津地方には2市15町村あり、中でも南会津の町村は面積の95%が森林だ。その面積は千葉県の面積ほどもあり、「エネルギーの海」と言われている。山をなりわいとして生きてきた地域なので、間伐材などの木材を使うバイオマスは期待できる。バイオマスで一番大事なのは山林資源の循環を地域の活性化につなげることだ。間伐された木材が生かせるだけでなく、木も生き生き育ち、森も保水力が増し、鳥獣被害が減るなどのメリットがある。太陽光や風力と違い、木材の運搬や製材で大きな雇用も見込める。

 会津電力への出資者は、東邦銀行や福島銀行など地方銀行や信用組合を含め地元企業が約40社、会津地方の磐梯町、北塩原村、猪苗代町、西会津町、只見町、三島町の6町村。アイパワーアセットへの出資者は、環境省系ファンド・グリーンファイナンス推進機構のほか、市民ファンドを募り、一般市民から合計9980万円を出資してもらっている。

 ◇水利権を会津に戻せ!

 

 会津地方の老朽化したダムは、すでに償却を終えている。それなのに発電用の水利権は依然として地元にはなく、東電にある。そこで、水力発電と送電線を地元に取り戻せないか、と真剣に考えている。

 現在、会津17市町村で年間の行政予算が合計1000億円に満たない状態だ。そうした規模の自治体なら、400万㌔㍗の電力を地元に戻せば、電気を10円で売ったとしても3000億円の利益が出る。この会津の資源が、すべて戦後復興のためと言って電力会社に取られていた。会津の水力を地元に返してもらってよいと思う。

 水力発電事業が地元に戻れば、次の世代は水も食料もエネルギーも自給できるようになる。そうすればよそから持ってくるものは何もない。むしろ買っていた化石燃料も使わなくて済む。エネルギー代が安くなった上に、これまで化石燃料に払っていたお金を地域内で回せる。

 会津地方の人口、28万人分くらいの電気は私たち自身で作り出せる。現在の計算では50億円程度投資すれば、水力・バイオマスをベースにして、天候次第の風力・太陽光の発電量が多い時に、バイオマス発電の出力を抑えるなどして調整することで、自給は可能になる。

 また、都市部に生活する住民が1000世帯程度集まって、電力購買のための会社を設立すればいいと考える。今は資本金が1円でも会社を作れる。1世帯の年間のエネルギー支出が電気・ガスを含め年間50万円程度。そこで1000世帯が工夫して電気・ガス消費を2割削減すれば、1億円を捻出できる。これを原資に、多少割高でも再生エネルギー由来の電気を買い、また、各地の再エネを使った電力会社に投資するエネルギー購買組合のような取り組みをすべきではないか。電気を使いっぱなしの都市住民は省エネで貢献すべきだ。

 原発立地自治体は、電源三法交付金や核燃料税、原発の固定資産税に依存しているから原発から脱却できない、という見方がある。しかし、実は原発のない自治体、例えば、この喜多方市でも、年間の予算200億円のうち税収はせいぜい60億円と支出の2~3割しかなく、残りは地方交付税や補助金、つまり中央政府に頼っている。家庭に例えれば、生活保護の状態だ。この体制から脱却しない限り、地方自治は望めない。地方自治率がせいぜい30%台では、地方創生といって国から交付金をもらう代わりに指図を受け、それによって地方が画一化してしまう。これでは独自の教育や経済、文化力の構築も不可能だ。

 地方自治のためにも、例えば地方が持つ水力資源を地元が取り戻す動きを進め、またエネルギー購買組合のようなものを作り、それをもって主体的にエネルギーの自治を進めるような取り組みをしないといけない。欧州では、すでにそうしたシステムができている。国が再エネ中心の方向性を打ち出し、市民たちも動き始めている。日本も、地方がエネルギー自治という発想で動いていくことが必要だ。

 自治体はもっと積極的に再エネ利用に乗り出すべきだ。余剰電力による収入の方が多くなれば、3割自治どころかもっと高い自治ができ、自由な教育や経済、文化力の構築も可能になる。16年4月に電力小売り自由化が始まれば、そうした発想がより重要になってくるのではないか。

2016年

1月

12日

第19回 福島後の未来をつくる:大島堅一 立命館大学教授 2016年1月12日特大号

 ◇おおしま・けんいち

 1967年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。経済学博士。2008年より現職。12年に「原発のコスト─エネルギー転換への視点」(岩波新書)で第12回大佛次郎論壇賞を受賞。京都市地球温暖化対策推進委員会委員などを務める。

 ◇石炭火力は使えなくなる

 ◇「パリ協定」踏まえ戦略立て直し

 

大島堅一

(立命館大学教授)

 

 パリで開催された気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、気温上昇幅を2度未満、しかもできるだけ低く抑えることを目標にした「パリ協定」が2015年12月12日に採択された。合意内容には、気温上昇幅を1・5度未満にする努力目標も含まれている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書に照らせば、これを実現するには、50年までに世界の温室効果ガスの毎年の純排出量を半減させ、今世紀末には、ほぼゼロないしマイナスにしなければならない(表)。

 温室効果ガスのほとんどは、言うまでもなく化石燃料から排出される二酸化炭素(CO2)である。このCO2排出をゼロにするということは、化石燃料の消費を劇的に減らすことを意味している。そうなると、化石燃料はこれまでのように希少な資源ではなくなる。むしろ、環境容量に比べて多すぎる資源量、ストックとして存在してはいても、ごく一部しか使用できない資源ということになる。

 


 このことは、エネルギー問題の骨組みにも重大な影響を及ぼす。これまでのエネルギー問題の中心課題は、エネルギー安全保障、つまりエネルギー「供給」の安定性だった。だが、これは次第に後景に追いやられ、比較的短期間のうちに炭素排出ゼロが中心課題になるだろう。

 

 ◇革新的な省エネ対策続々

 

 エネルギー関連施設は、長期間にわたり使われるものが多い。例えば、石炭火力発電所は、設置されてしまえば数十年間、運転可能である。だが、炭素排出ゼロに向けて大きく動き出すのであれば、石炭火力は将来、使用できなくなるだろう。

 短期の投資行動を含めて、政府も企業も戦略を立て直さなければならない時に来ている。

 日本国内で炭素排出ゼロを実現するためには、エネルギー消費と経済成長とのつながりを断ち切らなければならない。このことを「デカップリング」という。デカップリングの具体的な方策は二つある。一つは需要面での徹底した省エネ、二つ目は供給面での炭素フリー・エネルギー源への転換である。

 前者の省エネ対策では、機器や製造工程そのものの入れ替えのほか、電力需給に余裕のない時間帯の電気料金を高くするなどして電力消費を抑える「デマンドレスポンス」、企業や家庭が節電した分を発電したと見なして電力会社が買い上げる「ネガワット取引」など、スマートかつ革新的な対策が取られるようになるだろう。省エネは燃料費の節約を伴うので、その節約分を考慮すれば、追加の費用を伴わない対策が数多く存在する。

 後者の炭素フリー・エネルギー源には、再生可能エネルギー(以下、再エネ)と原子力がある。原子力は、電気しか供給できない上に、安全性や放射性廃棄物処分、廃炉、核不拡散など、数多くの課題を抱えている。したがって、たとえ炭素フリーであっても、原子力に強い追い風が吹くとは考えにくい。世界的には、再エネへの投資が一段と活発化すると考えられる。

 折しも、日本では現在、エネルギー政策の大転換が進行中である。この直接のきっかけは、もちろん東京電力福島第1原子力発電所事故である。

 当時、政権を握っていた民主党は12年9月に「革新的エネルギー・環境戦略」の中で、30年代の終わりまでに原発ゼロ社会を目指すことを定めた。民主党の原発ゼロ方針は、後の自民・公明政権の下で見直され、30年にも総発電量に占める原子力の比率を20~22%維持することが定められた。つまり、原子力の位置付けについては、民主党と自公政権の間で大きな断絶がある。

 だが、震災後に民主党政権が開始したエネルギー政策は、原発ゼロ方針だけではない。特に重要なのは、再エネの普及と電力システム改革である。前者は、固定価格買い取り制(FIT)の採用による再エネの大幅な普及であり、後者は発送電分離と電力自由化が柱となっている。民主党政権から自公政権へと代わっても、この二つの政策は引き継がれた。

 再エネ普及と電力システム改革のいずれの政策も、エネルギー政策の大転換と言ってよい。震災前の再エネ普及政策は非常に貧弱で、普及量は停滞していた。電力自由化も、大口需要家向けの小売りや、一部の新電力の市場参入が認められたにすぎず、発電・送電・配電・小売りを垂直統合した地域独占の一般電気事業者が電力のほとんどを供給していた。発送電分離による系統の広域運用、総括原価方式に基づく規制料金の撤廃、小売りの全面自由化は、政策スケジュールに全く入っていなかった。

 

 ◇再エネはコスト予測しやすい

 

 このような状況は震災後一掃され、再エネ拡大と電力自由化は同時進行中である。今、行われているのは、再エネの普及に向けた制度の手直し、系統の広域運用、電力自由化のためのルール設定である。

 再エネ普及目標は、国が「長期エネルギー需給見通し」の中で定めた「30年までに発電量の22~24%まで引き上げる」というものである。

「パリ協定」の内容からすれば、この目標は小さいと言わざるを得ない。とは言え、この水準ですら再エネを基幹電源の一つに成長させるということを意味する。

 戦後、電源の中心を水力から火力に移行させ、さらに原子力開発へと向かい、大規模集中型電源を用いる方向に動いてきたエネルギー政策からすれば、小規模分散型の再エネの普及を進めることは、これまでとは全く違う方向である。

 ときに再エネについては、「不安定かつ高コストである」というステレオタイプ的な情報が流れる場合がある。この多くは不正確であり、このような見方をしていたのでは世界に後れを取るのは間違いない。

 太陽光、風力など、自然条件によって出力が変動する電源は、自然変動性再エネ(VRE:Variable Renewable Energy)と呼ばれる。このVREを大量に導入しつつ、電力システムを安定化させための政策が取られ、また研究も旺盛に進められている。

 コスト面でみても、化石燃料は価格変動が見込まれるし、原子力は安全規制の強化や放射性廃棄物処分など、費用面で不確実性がある。これに対して、再エネの価格は長期的に低下傾向にあり、コスト予測も容易である。

 ドイツなど先進的に再エネを導入してきた国では、再エネのコスト低減が進み、電気料金よりも安く発電することが可能になっている。電気料金よりも安くなることを「グリッドパリティー」と言う。さらに進んで、バッテリーと組み合わせた場合に電気料金よりも安くなれば、需要家にとって太陽光発電ですら昼夜を問わず、経済性を持つようになる。これを「バッテリーパリティー」と言い、ドイツでは数年先にこのような状態になると予測されている。

 そうなると、これまでのエネルギー供給ビジネスは決定的に変わる。再エネが普及すれば、より一層、電力市場に再エネを統合することが重要課題となるだろう。

 現行の国の「エネルギー基本計画」は、「パリ協定」より前に作られ、不十分な内容になっている。着実に省エネと再エネ普及を進めつつも、「パリ協定」を踏まえた新たな政策の具体化も必要になるだろう。エネルギー問題の中心課題が変わった以上、炭素排出ゼロに向けて、より踏み込んだエネルギー政策を構築する必要がある。

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2016年1月12日特大号

 

    特集:これじゃ食えない!

会計士・税理士・弁護士

会計士編>

4大法人が上場企業の75%

<税理士編>

会計事務所の勢力図

<弁護士編>

アソシエイト弁護士のホンネ


2016年

1月

05日

第18回 福島後の未来をつくる:飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長 2015年12月29日・2016年1月5日合併号

 ◇いいだ・てつなり

 1959年山口県生まれ。京都大学修士(原子核工学)。東京大学先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。日本総合研究所、ルンド大学(スウェーデン)を経て、2000年から現職。

 ◇日本のエネルギーコンセプトを刷新し地方発で次世代の知性を育てよう

 

飯田哲也

(認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所 所長)

 

 日本のエネルギー政策は、時代ごとの政策的な課題を真正面から議論せずに次の時代にツケを回してきた結果、「五つの宿題」を残した古いエネルギー状況にとどまっていた。その状況で、2011年3月11日の福島原発事故に遭遇してしまった。他方、海外ではエネルギー大変革が急速に進んでおり、相対的に見ると日本の立ち遅れは途方もなく、しかも大混乱している。

 こうした時こそ、原則に立ち返ってエネルギーコンセプトを刷新し、着実な改善を重ねるために新しいエネルギー知性を地方発で育てることが必要と考える。


 ◇日本が抱える「五つの宿題」

 

 第一の宿題は、石油危機への対応だ。日本は1973年と79年の石油危機をうまく乗り切った数少ない国と言われる。だが、産業主義と古い経済成長至上主義で、国家総動員的に乗り切ったにすぎない。しかも、それが原発への傾斜を招いた。

 他方、北欧やドイツでは、60年代から社会的に議論を重ねてきた「持続可能なエネルギー」という視点から、エネルギー需要や温室効果ガスを削減しながら経済成長を図る「経済とエネルギー・環境の切り離し」(デカップリング)に転換している。

 第二の宿題は原子力だ。先進国の多くは70年代から原発の国民的な議論を重ね、79年のスリーマイル島事故(米国)と86年のチェルノブイリ事故(旧ソ連)を経て、原発のリスクや持続不可能性は一定の国民的常識となった。デンマークは最初から受け入れ拒否、スウェーデンやイタリアは国民投票で脱原発を決めた。ドイツは遠回りしたが、00年に緑の党の政権入りで脱原発合意ができ、その後メルケル首相が3・11の福島原発事故後に脱原発を決定した。

 しかし日本では、原発の国民的な議論を封じ込め、「原発専門家」はリスクを軽視し、カネで原発拡大を推し進めてきた揚げ句に、福島第1原発事故を起こしてしまった。

 第三の宿題は温暖化対策だ。92年の気候変動枠組み条約も、97年の京都議定書も、日本は産業界の自主的な取り組みに委ねただけで、炭素税や排出量取引など実効的な政策を後回しにしてきた。それどころか原発拡大を掲げつつ、石炭火力を拡大する矛盾した政策を重ねてきた。

 第四の宿題は電力自由化だ。90年ごろから始まった欧州では、発送電分離で独立した送電会社が各国に誕生し、北欧諸国が運営協力している「ノルドプール」などオープンな電力市場がある。それに対し、日本ではようやく小売り自由化が始まる段階であり、発送電分離はさらに先だ。欧州に比べて大幅に遅れた上にオープンな市場とは言い難く、事実上は電力会社の独占状態が続く「形式的な自由化」の恐れがある。

 第五の宿題は再生可能エネルギーだ。デンマークは94 年、スペインは97年、ドイツは00年から、それぞれ固定価格買い取り制度を導入し、それが呼び水となって風力発電や太陽光発電など自然エネルギー発電はこの10年で爆発的に普及した。

 日本は04年まで太陽光発電の生産も導入も世界トップだったが、ドイツに逆転され、その後中国に抜かれた。政策的な立ち遅れと強大な電力会社の独占力の両面で阻まれたものだ。

 日本と異なり、多少の遅れや時差はあっても、歴史的な「第五の課題」を克服してきた北欧やドイツなどでは、この10年間に起きた再生可能エネルギーの爆発的な成長と、特に風力発電や太陽光発電の急激なコスト低下が、エネルギーパラダイムの変化を起こしつつある。

「高くて少ない」と思われていた再生可能エネルギーは、今や「安くて大量」という認識に変わり、やがては「限りなくタダで膨大な」エネルギーへと変わろうとしている。独占のエネルギー会社から購入する時代から、仲間や自ら生み出すプロシューマー(生産もする消費者)やIoT(モノのインターネット)と組み合わさったユビキタスエネルギーが始まろうとしている。

 事務所や工場、各家庭で太陽光パネルと蓄電池で自給した方が電力会社から買うより安い時代がすぐ目の前に来ており、独占電力会社の既存のビジネスモデルは大きく傾きかけている。変動型の風力発電と太陽光発電が送電系統に大量に入ってきたことで、これまでの「ベースロード電源」に代わって、「柔軟性」が鍵となるコンセプトになった。

 これらを、歴史的な基層として積み重ねてきた「エネルギー4・0」のエネルギーコンセプトと呼びたい。「1・0」が高度成長期、「2・0」が脱石油、「3・0」が気候変動と電力自由化への対応、そして「エネルギー4・0」が再生可能エネルギー・分散化・ITへの転換と言えるだろう。

 それらが複層的・統合的に機能するため、せいぜい「2・0」にとどまる日本からは想像できない次元のエネルギーパラダイムの変化が起きようとしている。

 ◇地域から人材生み出す

 

 日本との落差を浮かび上がらせるために、「第4世代」と呼ばれる北欧の地域熱供給を紹介したい。地域熱供給とは配管で温熱を地域に面的に配り、暖房や給湯、または冷熱で利用するシステム。第1世代は蒸気供給、第2世代は100度を超える高温水供給で、いずれもロスが多く熱効率が劣る。日本にある地域熱供給はこのいずれかだ。

 ドイツなどは100度以下の高温水による第3世代が多い。北欧で主流になりつつある第4世代は、50~60度の比較的低温で供給するもので、熱ロスが少なく熱効率が高く、バイオマス、工場廃熱、ゴミ焼却熱など多様な熱源を統合している。木材からの水蒸気の熱を排ガスから回収することで熱効率100%を超える木質バイオマスのコジェネレーションも多い。しかもデンマークでは地域熱供給と風力で変動する電力市場との統合も図っている。

 北欧は70年代から脱石油・再生エネルギーを進めた結果、こうした第4世代地域熱供給とバイオマスとの統合が進み、デンマークでは今やコジェネや風力発電の80%が地域所有だ。その過程で、単に「お湯を送る」という一見簡単に見える地域熱供給の技術群から、グローバルなトップ企業がいくつも誕生している。

 対して日本はどうか。72年の札幌五輪の時に選手村に地域熱供給が既に入っている。だが日本の技術はそこで止まってしまい、40年以上も技術レベルが停滞したままだ。

 ことほどさように、世界に取り残された日本はどのように問題を解決していけばよいのか。

 さまざまな問題が複雑に絡み合っている状況の中で、すべてを一気に解決するのは不可能だ。だが、理にかなったこと、確実に実行すべきこと、原則にかなったことを一つひとつ着実に進めていく必要がある。

 エネルギーで確かなことは、持続可能性が最も重要であり、そのためには再生可能エネルギーと省エネが唯一の出口だということだ。

 その上で、こうした新しいエネルギーコンセプトを理解し、原則を踏まえ、国際的な協力をフットワーク軽く実現できる「エネルギー知性」を持った人材を地域レベルで数多く生み出す必要がある。

 こうした新しいエネルギー知性を身につけた人材を、大学、地域、ベンチャー企業、自治体など地域から生み出していく時代だと考えている。

2015年

12月

22日

第17回 福島後の未来をつくる:秋元圭吾 地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員 2015年12月22日特大号

 ◇あきもと・けいご

1970年富山県生まれ。横浜国立大学工学部卒。同大学院博士課程(後期)修了。地球環境産業技術研究機構システム研究グループリーダー・主席研究員。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員などを務める。

 ◇電力自由化の落とし穴

 ◇原発政策を英国から学ぶ

 

秋元圭吾

(公益財団法人地球環境産業技術研究機構<RITE>主席研究員)

 

 政府は、2015年7月に30年の日本のエネルギー需給構造の姿を示す長期エネルギー需給見通しを決定し、それに基づいた30年の温室効果ガス排出削減目標を国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に提出した。安全性、経済性、エネルギー安定供給・安全保障、環境の「S+3E」のバランスを考慮して決定したものであり、電源構成比率など、よいバランスだと評価している。しかし、経済成長率を毎年1・7%とする見通しにもかかわらず、オフィス、商業施設などの業務部門や家庭部門での省電力は相当大きく見込まれている。電力需要全体でも通常の見通しに比べ17%もの省電力を見込んでいる。温室効果ガス排出削減目標の13年度比26%削減はこの省電力に大きく依拠しており、相当厳しい目標といえる。

 


 長期エネルギー需給見通しでは、電力コストを低減させることを想定し、かつ電力会社の発電事業と送電事業の分離や小売り全面自由化などを実施する電力システム改革の下で、この省電力とそれに基づく排出削減目標を実現しようとしている。安定的かつ低廉な電力はとりわけ製造業においては重要である。ドイツは電気料金が大幅に上昇しているが、製造業は比較的強いまま経済成長しているという指摘がしばしばある。

 しかし、ドイツは、ユーロ圏内において相対的なユーロ安の恩恵を受ける形で、電力コストの上昇をカバーしてきたことを認識しておく必要がある。また、ドイツにおいても経済成長とともに電力消費量が増えるという強い正の相関が見られることも認識しておかなければならない。

 しかも日本は、とりわけコントロールしにくい家庭、業務部門で大きな省電力を実現しようとしている。

 現在、家庭の電気料金は利用量を増やすほど単価が上昇する料金体系となっているが、小売り自由化は消費量の大きな大口顧客の単価を下げる余地が大きいと考えられ、省電力に逆行しかねない。長期エネルギー需給見通しはS+3Eのバランスの追求という点で正しい方向性にあるが、具体的な数値の組み合わせについては、実現できるのか疑問を感じざるを得ない。

 

 ◇革新的サービスに期待

 

 もちろん、電力の自由化は、競争により電気料金の引き下げを期待できるかもしれない。しかし、自由化により価格は需給バランスで決まることとなるため、必ずしも引き下げ方向になるとは限らない。大口など条件が良い顧客は引き下げになりやすいが、小口など条件が悪い顧客には逆に引き上げとなる懸念もある。

 一方、さまざまな業種の電力事業参入によって、電力やガスの供給という枠を超えた新たなサービスの提供が起こる可能性があり、社会の効用を高める効果も期待できる。具体的には、介護、育児、防犯などとエネルギー管理がITを用いて結びついたようなサービスなどを考えられる。革新的なサービスの提供が結果として、副次的に省エネ、CO2排出削減につながるようでなければ、劇的な進展は起こらないだろう。電力システム改革の小売り自由化により、このような期待は持てる。一方で、電力は発電設備や送電系統網などから成り立つインフラ(社会基盤)産業であることに留意しなければならない。

 企業は激しい競争環境におかれると、短期的な利潤を上げようとする傾向になる。つまり、本来であれば電力という商品は数十年後も価値が低下するような商品ではないため、長期の計画をもって安定的に廉価に供給することを目指せばよい。しかし、電力システム改革によって競争環境が進めば、電源を作っても将来作った電力が売れるかどうかが不透明になってくるため、投資判断を比較的短期でするようになる(図)。

 これによりインフラとしての長期的な投資が必要な事業分野において、ミスマッチを起こしやすくなる。長期の経済効率性が重要である電力産業において、市場競争により長期の経済効率性を実現できなくなってしまう可能性がでてくる。しかも、エネルギー政策の不透明感が大きくなれば、企業は一層短期での投資回収を志向するようになる。

 エネルギー供給において重要なエネルギー安定供給・安全保障、CO2排出削減は、なおざりにされやすい。よって、政府の関与が必要である。原子力などの安全性についても同様であり、それについては原子力規制委員会などの規制により政府の関与ができている。一方、長期エネルギー需給見通しは、長期的な経済効率性、エネルギー安定供給・安全保障、CO2排出削減を加味して策定されたものであるため、政府が何らかの形で誘導を行っていく必要がある。もちろん、過度な政府の介入は失敗を生み、効率性を阻害するので、適正なレベルを見極めることが重要だ。

 

 ◇試行錯誤の英国

 

 実際に、電力自由化がいち早く進行してきた英国では、電力市場は当初想定したようにはうまく働かず、多くの方策をとってきている。電気料金は複雑化し、消費者が理解できなくなっていると言われている。一方で、小売事業者は似通った料金メニューを作り、競争も働きにくい形になってきている。そのため、政府は料金メニューを絞るなどの制限を検討してきている。

 また前述で指摘したように、電力自由化の下では短期的な経済効率性が追求されやすいことから、原子力発電のように初期の設備投資額が大きいため短期では経済効率的ではないが、長期では費用が小さくなるような技術への投資が進まない状況になっている。さらにCO2排出削減を踏まえて考えると原子力発電の長期での経済効率性は高いため、英国では、市場の失敗を是正する形で、差金決済型固定価格買い取り制度(FiT-CfD)と呼ばれる制度を導入し、固定価格で長期にわたって原子力発電からの電力を買い取ることで、原子力発電の新設を促そうとしている。

 英国はさらに、将来の供給力を出力ベースで取引する電力容量市場を導入した。これは、再生可能エネルギーの導入が増えてきたこともあって、火力の設備利用率が下がり売電収入で設備投資が回収できにくくなり、設備導入が進まず将来の安定供給に懸念が生じてきていることへの処置である。

 長期での経済効率性が達成できるのであれば価格調整が働き、こういった問題は生じないはずだが、競争環境下の市場では短期の経済効率性が追求されるため、それに対する政策的措置が必要となり、売電がなくても設備があるだけで収入を得られる仕組みが作られた。

 現在、英国は失敗に直面しながら試行錯誤を繰り返している。英国の対応策がすべてよいとは言えないが、日本においても電力システム改革を遂行しながら、エネルギーのS+3Eを達成していく必要があり、参考にすべき点は大いにある。

 エネルギー政策の不確実性は、エネルギーへの投資リスクを増大させ、結果として費用を増大させる。原子力規制を含め、エネルギー政策の不確実性を低減させることも、将来的に安定的で低廉なエネルギー供給のために大変重要である。

2015年

12月

15日

第16回 福島後の未来をつくる:貝塚泉 資源総合システム調査事業部長 2015年12月15日号

 ◇かいづか・いずみ

1962年生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)卒。2003年に太陽光発電事業のコンサルティング企業である資源総合システムに入社。海外部長を経て、09年6月より現職。科学技術振興機構(JST)・革新的エネルギー研究開発拠点形成事業諮問委員なども務めている。

 ◇太陽光発電コストはまだ下がる

 ◇導入拡大と負担抑制の両立は可能


貝塚泉

(資源総合システム調査事業部長)


2012年7月に開始された再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)により、国内での太陽光発電の導入が大きく進展している。国際エネルギー機関・太陽光発電システム研究開発プログラム(IEA PVPS)によれば日本の14年の太陽光発電システムの導入量は前年比40%増の9・74ギガ㍗だ。図に示すように10・64ギガ㍗を導入した中国に次ぎ世界2位の導入量となった。14年末時点での累積導入量は23・4ギガ㍗となり、ドイツ、中国に次いで世界3位となった。

 太陽光発電だけでなく、再生エネの導入は世界各国で拡大しており、14年に世界で新設された発電容量の約半数を占め、石炭火力発電に次いで大きな電源となっている。


 この背景には、太陽光発電をはじめとした再生エネのコスト低減が大きく寄与している。日本でも今年7月に策定された長期エネルギー需給見通しで、再生エネを22~24%としている。このなかで、太陽光発電の30年度の累積導入量は7%に相当する64ギガ㍗に設定された。当社の予測では、この需給見通し以上のスピードで太陽光発電の導入が進むと考えられる。重要なのは、再生エネの最大限の導入促進策と国民負担抑制を両立していくことにあろう。

 日本を含めて、先進国のエネルギー政策は安全性を前提としたうえで、エネルギーの安定供給、経済効率性の向上、環境への適合を図ることが基本にある。日本でもそれぞれの電源の課題を克服して、電気料金を抑え、安定供給して、かつ日本のエネルギー自給率を高めつつ、二酸化炭素削減を実現できるかが重要なポイントとなる。つまり再生エネの最大導入をどこまで高めるかは、コストダウンと電力自体の供給の安定性をどう考えるかが重要になる。

 太陽光発電をはじめとした再生エネ導入量を拡大するには、FITを実施して、優遇措置で導入を促すだけでは不十分であり、送電系統対策への投資が必要となる。系統対策には、送電容量の増強や蓄電なども挙げられるが、需要以上の発電を抑制するための再生エネの効果的な出力抑制、火力をはじめとした調整電源の効率的運用、デマンドレスポンス(需要制御)や送電の安定化に寄与するスマートなインバーター(直流から交流への変換)の導入──などを組み合わせることも有効である。

 ここで問題となるのは、効果的な運用の枠組みづくりと、優先課題の選別、必要となる投資をどう負担していくかである。これらは13年11月の改正電気事業法成立で始まった日本の電力システム改革のなかで踏み込んで議論されることを望みたい。


 ◇経産省でFIT見直し中


 国民負担抑制についての議論は、すでに始まっている。15年9月に経済産業省は、総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会の下に再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(制度改革小委)を立ち上げ、再生エネ特措法の改正を視野に入れた制度の抜本的な見直しに着手した。現在抱えている喫緊の課題に対応するため、①現行のFITの手続き、②コスト効率的な再生エネの導入、③系統(送電線への連系)制約の解消、④研究開発・規制改革──の4点の審議が進行中だ。

 一方、日本に先駆けてFITを開始した欧州諸国は、市場状況に対応し、持続可能な太陽光発電市場の構築を目指してFITの改正を重ねてきた。ドイツでは00年4月からFITを開始し、当初は買い取り額を毎年5%低減することで価格低減を誘導するとしていたが、11年からは導入量によって買い取り額を調整するメカニズムを導入し、設置場所やシステム容量などの買い取り区分の見直しも実施している。

 制度改革小委では、コスト効率的な再生エネの導入の実現がひとつの焦点となっている。委員会は、中長期見通し(十数年先までの買い取り価格と量)を示したうえで、買い取り額の決定方法も含めて買い取り方式を見直す方針を示した。

 具体的には、①最低価格を買い取り価格の基準とするトップランナー方式、②価格低減率をあらかじめ決定する、③導入量に応じて価格低減率を変動させる、④入札方式──が候補に挙げられている。①は現行方式に近いが、実績価格の平均値や中央値ではなく、最も安い部類の価格帯を採用する。④を支持する意見が多いが、入札方式により、かえって買い取り額が上がった事例も指摘されている。

 いずれの方式を採用するにしても慎重な制度設計と透明性を確保していく必要があろう。

 買い取り区分の適切な設定も議論されている。現制度の太陽光発電の買い取り区分は、10㌔㍗未満と10㌔㍗以上の2分類のみ。これに対して「屋根と地上に分ける」「容量区分を細分化する」などの案が検討されている。というのも10㌔㍗未満は主に個人が住宅に導入する太陽光発電で、メガソーラーとは導入費用が大きく異なるからだ。また、地上と屋根設置では工事形態が異なるため容量が同規模でもやはり費用が変わる。


 ◇LNG輸入7兆円を削減


 現状では、日本の太陽光発電システムの価格は、諸外国と比較すると比較的高額である。前述のIEA PVPSによると、表に示すように、住宅用太陽光発電システムの価格は、ドイツと比較すると約1・6倍、地上設置太陽光発電の場合は約1・9倍となっている。支援の枠組み、流通構造の違い、許認可に必要となる経費、工事費、資金調達費用などの違いからこうした差異は生じているが、価格低減の余地はまだあると考えられる。

 適切な買い取り額と買い取り方式により、価格低減が確実に誘導されていく枠組みが今回の議論で整備されることを望みたい。一方で、太陽光発電の供給側もハードとソフト面双方のコスト低減に取り組む必要もあろう。制度改革小委での議論は、国民負担を考慮したうえでなされているが、太陽光発電が日本全体にもたらす利益についても考えておきたい。

 今夏には電力需要が最も多かった日中には太陽光発電が電力需要の約1割を担ったとの報道もあった。FITにより、電力会社は設備投資なしでピーク時に寄与する太陽光発電という電源を活用できるようになり、輸入化石燃料の削減に相応の効果が出ているはずである。

 日本の15年7月末時点での太陽光発電の導入量は約30ギガ㍗と推定される。太陽光発電技術研究組合(PVTEC)の桑野幸徳前理事長の試算によると、日本に30ギガ㍗の太陽光発電が導入された場合の液化天然ガス(LNG)削減費用は年間3450億円である。通常の太陽光発電は燃料費なしで20年間稼働できるので、単純計算で向こう20年で約7兆円のLNG輸入費を削減できる。

 また、太陽光発電は、産業構造の観点からみると非常に裾野が広いという特徴がある。いわゆるメガソーラーは重電企業やゼネコンが手がけているが、住宅用太陽光発電には地域の工務店や電気設備店も参入しており、雇用や地域の経済への影響も評価すべきであろう。

 再生エネ特措法の第1条には、「再生エネの利用を促進し、もって我が国の国際競争力の強化及び我が国産業の振興、地域の活性化その他国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と記されている。

 この目的に沿って、抜本的な制度改正がなされることを望みたい。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月15日号 表紙 銀行の破壊者 フィンテック

週刊エコノミスト 2015年12月15日号


【特集】銀行の破壊者 フィンテック 

  ITと金融による金融業界の「産業革命」 

 金融ビジネスを伸ばすフィンテック

        破壊するフィンテック

 ブロックチェーンって何? 

 大手4行はこう攻略する


2015年

12月

08日

第15回 福島後の未来をつくる:村沢義久 立命館大学大学院客員教授 2015年12月8日特大号

 ◇むらさわ よしひさ

1948年徳島県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学MBA。アメリカ系コンサルティング会社日本代表、ゴールドマン・サックス証券バイスプレジデントなどを経て、2005年から10年まで東京大学特任教授。13年より現職。

 ◇現実的な減原発に必要なポリティカルキャピタルの視点


村沢義久

(立命館大学大学院客員教授)


 9月10日、九州電力川内1号機が営業運転を開始し、2013年9月以来続いていた「原発ゼロ」の状態が2年ぶりに終わった。川内2号機も、11月半ばの営業運転を目指している。10月26日には愛媛県の中村時広知事が、四国電力伊方3号機の再稼働を承認。四電は、来年春の再稼働を目指すと言う。

 しかし、これで、日本が原発時代に逆戻りかと言うと、そうではない。原発を取り巻く状況は複雑。「必要ない」と「必要」が交錯する。


 ◇原発なしのふた夏


 原発が必要と考える人たちは、「原発なしでは電力が不足する」と言う。


しかし過去2年間、夏も冬も原発なしで乗り切った。夏の電力ピークは、冷房需要の急増によってもたらされるが、ここで威力を発揮するのが太陽光発電だ。太陽光は夜にはストップし、悪天候時にも発電量がガタ落ちするが、その代わり、晴れた昼間に最高の威力を発揮する。

 日本の太陽光発電は今年7月時点で、累計導入量約2700万㌔㍗(原発27基分)に達した。全電源(2・4億㌔㍗)の11%に上る。設備利用率が低いため、年間発電量で見ると、全電源の3%に満たないが、夏の電力ピーク時には、日照条件も良いため、大きな役割を果たした。

 経済産業省データ「2015年度夏季需給検証について」によると、沖縄を除く大手電力9社の今夏の電力最大需要日の総供給力で約6・4%を太陽光が担った。この冬も原発なしで十分乗り切れそうだ。政府報告書「15年度冬季の電力需給対策について」(10月30日発表)によると、いずれの電力会社も電力の安定供給に最低限必要な予備率3%以上を確保できる見通しだ。日本の電力は原発なしで、安定しているのである。

 では、日本にはもはや原発は必要ないのかと言うと、そう簡単ではない。地球温暖化の問題だ。フランス、パリで11月30日から「COP21」(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)が開催され、20年以降の温暖化対策の枠組みづくりを目指す。以前の枠組みである「京都議定書」は、1997年のCOP3(京都会議)で制定されたが、全く効果を上げられなかった。18年ぶりに新たな枠組みづくりを目指す今回は、先進国、中国、インドも含め世界150カ国が参加を表明している。

 これら参加国に対し、ヨーロッパの独立系研究グループのClimate Action Tracker(CAT)が国ごとの評価を行っている。EU(欧州連合)、アメリカ、中国、インド、ブラジルが得たのは「中程度」。日本はどうかといえば、評価はなんと「不十分」。最大の理由は、削減幅が小さすぎることだ。日本の目標は、30年までに、13年比で26%の削減。対するEUは、30年までに90年比で40%の削減目標だ。さらに、日本がベースとしている13年は、3・11以降に原発が止まったため、CO2の排出量が非常に大きくなっていた年。「13年比26%削減」は「90 年比18%削減」にしかならないのだ。

 再エネの採用も主要国、とくにEUと比較して非常に見劣りする。経産省は今年5月28日、30年度の電源構成比について、原子力20~22%、火力56%程度に対し、再生可能エネルギー22~24%とする政府案を提示した。これは「最低でも45%程度」とするEUの半分でしかない。

 CATでは、日本は、現在の低い目標さえ達成できないのではないかと見ている。前提となる20~22%という原発比率が、国民の反発などで達成できず、その分火力発電が増える可能性があるからだ。

 温暖化対策のためには、ある程度の原発は必要だ。しかし、筆者が懸念するのは、テロ対策の不備だ。


 ◇若狭湾の14基集中リスク


 日本の原発はすべて海に面し、その多くが日本海側にある。中でも、若狭湾は、14基がひしめく世界最大の原発集中地域である。日本に敵対する勢力があった場合、日本海上を低空で接近する航空機による自爆テロが大きな脅威になる。

 01年9月11日の米同時多発テロでは大型旅客機が使われた。しかし、今後はドローン(無人航空機)も警戒しなければならない。今年4月、首相官邸屋上にドローンが落下しているのが見つかり、大騒ぎになった。これが原発で起こっていたら、と考えるとゾッとする。実際、フランスでは、すでに原発上空にドローンが多数飛来している。その対策として、レーダー網や防空体制を構築するコストを考えると、「原発は安価」などという考えは吹き飛ぶはずだ。

 国民の目はどうか。原発の再稼働について、さまざまな世論調査で、反対が賛成の2倍前後という状況が続いている。にもかかわらず、政府は「規制に合格した原発から順に稼働する」という方針だ。

 政権に就く者は、時に国民が歓迎しない政策を推進しなければならないのだが、その原動力となるのがポリティカルキャピタルだ。それは、支持率のように、政治家が使える無形の資産であり、日本語では、「政治的資本」などと呼ばれる。

 プロジェクト推進のための資金、あるいは、戦いのための「弾」のようなものと考えてもよい。朝日新聞社の調査によると、15年に入ってからの内閣の最高支持率は2月8日の50・9%だったが、安保法案衆議院通過(7月16日)直後の7月19日には36・1%に落ちている。ラフな言い方をすれば、衆議院通過のために15ポイントほど消耗したことになる。

 筆者は、支持率が30%を切れば、内閣は反対の強い法案をプッシュできなくなると見ている。従って、安保法案の参議院での審議が始まった7月下旬は危険水域直前で、言わば、「弾切れ」に近い状態に陥っていたことになる。そこに、もう一つの消耗戦が始まろうとしていた。沖縄県普天間基地の辺野古移転問題だ。

「弾切れ内閣」には二正面作戦は無理。そこで、政府は沖縄県に対して、8月10日から9月9日までの1カ月間、工事を中断し、県と集中的に協議する「話し合い期間」を提案した。第1戦線(安保)が収束するまで、第2戦線(沖縄)を休戦にした、というのが自然な見方だ。

 その後、参議院通過のメドが立った9月12日には辺野古の作業を再開。9月19日には法案が成立し、戦線の一つが(一旦)収束した。支持率の方は、9月20日に37・1%に下がったが、10月18日には内閣改造効果もあり、42・2%に回復。これまでのところ、この内閣の作戦は図に当たっている。これで、安保法案という最大の戦線が一旦収束したのだが、新たな戦いが始まる。沖縄問題は裁判に発展しそうであり、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)については農業関係者から強い反発がある。そして、原発再稼働。

 消耗戦の続く内閣に、新たな「弾」の補給はあるだろうか。安倍内閣のポリティカルキャピタルの源泉は、12年12月26日の第2次安倍内閣発足以来続けてきた経済政策だ。しかし、ここにきて陰りが出てきた。肝心の経済成長率は直近の2四半期連続でマイナス。支持率が上がる要因は見当たらない。つまり「弾」の補給は期待できないというわけだ。

 となれば、限られた「弾」をどう配分していくのか。筆者は他の案件と比較した場合、現内閣にとって原発再稼働の優先度は相対的に低く、この戦線に注ぎ込める弾は少ないと見ている。つまり、あまり強引な再稼働はできない、ということだ。

 以上、総合的に考えて、筆者は、川内、伊方以降の原発再稼働は非常に遅いペースになると考える。政府が目標とする総発電量の20~22%を達成するためには、30基程度の再稼働が必要(稼働率60%と想定)だが、それは極めて難しく、稼働できるのは多くても十数基、発電量に占める比率はせいぜい10%程度(同)と見る。これが、日本の現実的な「減原発」の姿だ。(了)

この記事の掲載号

週刊エコノミスト 2015年12月8日号 表紙 TPP

週刊エコノミスト 2015年12月8日号


【特集】そうだったのか!TPP

期待外れの政治ショー

いまさら聞けないTPPのキホン

こう変わる日本の産業

保存版 関税一覧

米国で高まる「反TPP」感情



2015年

12月

01日

第14回 福島後の未来をつくる:伴英幸 原子力資料情報室共同代表 2015年12月1日号

 ◇ばん ひでゆき

1951年三重県四日市市生まれ。早稲田大学卒業。生活協同組合専従を経て、89年脱原発法制定運動の事務局スタッフ。90年原子力資料情報室スタッフとなる。95年同事務局長。98年同共同代表。

 ◇地方自治体は原発リスクを認め事故が起きた時の覚悟に目覚めよ


伴英幸

(原子力資料情報室共同代表)


 東京電力福島第1原子力発電所事故が起こったにもかかわらず、原発を立地している地方自治体は一部を除いて政府に責任を依存する体質を変えていない。

 原子力規制委員会設置の前に原発を審査していた原子力安全・保安院の時代では、審査合格は経済産業大臣が行うことから、原発の安全に対する責任は政府が負ってくれると住民も立地自治体も思っていた。

 事故のリスクは昔からゼロでないのだから、ある意味では幻想なのだが立地自治体はどっぷりと原発安全神話に浸っていたのだ。しかし、福島原発事故により、この構図は完全に崩れた。原発の許認可権者は経産大臣から原子力規制委員長に移った。そして、新たな規制基準に合格しても原子力規制委員長が言うように、それは原発の安全を保証したものではない。原発立地に絶対の安全がないと明言しているわけだ。


 規制基準合格後の手続きは、立地県と地元立地市町村が電力会社との安全協定に基づいて、稼働への諾否を判断することになる。仮に重大事故が起きた場合には、責任の一端は稼働に同意した自治体が負うことになる。重い判断を迫られることになったのだ。ところが地方自治体はこの責任を回避していまだに政府に原発の安全の保証を求めている。

 伊藤祐一郎・鹿児島県知事は政府に安全の保証を文書で求めたが、返答は「規制委員会が再稼働を認めたら再稼働を進めるのが政府の方針」という通り一遍のものだった。

 安倍晋三首相は中村時広・愛媛県知事に、「重大事故が起きたら政府が責任を持つ」とさらに踏み込んだ約束をしたが、政府が責任を取れるはずのないことは、福島原発事故の現状を見れば明らかだ。住民への賠償金が5兆円を超え、2年後には補償を打ち切るという。いまだに11万人が避難生活を強いられ、地域社会は崩壊しつつある。除染事業の効果も限定的で帰還政策への批判は厳しい。

 こうした事故がもたらした現実は、原発立地自治体に大きな変化を迫っている。「原子力は国策だから政府が責任を負うべき」「迷惑施設を受け入れることで国策に協力している自治体には見返りとして交付金を支給するのは当然だ」という従来の在り方を変えていかなければならないのだ。自治体は事故後の新しい体制に対応して、原発のリスクをどこまで受容できるかを自身で判断していくことが求められている。

 この判断のために、規制委員会の適合性審査内容を県が独自にチェックする必要がある。それには形式的な検討組織では機能せず、批判的な専門家も含めた組織を設置しなければならない。組織の審議は広く公開され、県民の意見、また少なくとも原子力防災対策範囲拡大により対象となった隣接自治体の意見を十分に反映した判断が求められる。


 ◇自治体消滅の危機も


 原発立地自治体は従来から避難計画を含む原子力防災計画を立てている。もともと放射能の大量放出を想定しない防災計画だったので、かねてから実効性に疑問が出されていた。福島原発事故ではその欠陥を突かれた。大渋滞の車列が放射能のなり残された。放射能汚染をチェックするスクリーニングの基準は10倍に緩和されてしまった。避難先を1~2週間ごとに点々と変えざるを得ない多くの住民がいた。

 事故の反省から従来の10㌔の対策範囲を30㌔に拡大。それに伴い周辺30㌔圏内の自治体も原子力防災計画の策定が必要になった。しかし多くの自治体は困惑している。原子力防災計画は住民を被ばくから守るために作られるが、計画を具体的に考えるほど、被ばく回避が難しいことが見えてくる。机上の計画は政府が策定したひな型に倣って作ることはできるが、どの自治体の計画も実効性に乏しい。汚染車両をどこで除染して、ヨウ素剤をどこで飲ませるか、災害弱者の避難方法などなど、さまざまな事前準備が必要になる。こうした詳細まで作りこめている自治体は少ないと聞く。今の状況では、重大事故時には福島原発事故と同じ過ちを繰り返すことになろう。

 そして原子力防災計画の範囲を拡大したことにより、避難対象となる住民数が激増した。最大は茨城県の東海原発の場合で避難対象人口は100万人におよぶ。

 そもそも重大事故が起きたら町や村が崩壊してしまい、地方自治体が消滅する事態になりかねない。この事態を想像すれば、これまでのように政府頼みでは済まされないことは明瞭だ。

 さまざまな問題や住民の反対があるにもかかわらず、原発立地自治体が再稼働を容認していくのは、地域経済が原発依存型になっているからだ。地方自治体の収入も電源3法交付金、核燃料税、固定資産税などのいわゆる原発マネーに依存している。

 電源3法交付金制度は原発立地をスムーズに進めるために1974年に制定された。当初は稼働後5年までが交付期間だったが、今では廃炉までの恒久的な制度となっている。経産省の資料によれば、建設から運転開始40年までに立地県や自治体に交付される金額は合計で1384億円(135万㌔㍗級の原発1基に対して)となっている。資料では示されていないが、運転期間の延長や廃炉に対しても交付金が支給されることになる。当初の交付先は道路やいわゆる箱もの中心だったが、現在ではそれらの維持費まで含めて使い勝手を良くしている。立地自治体からの強い要望に応えたものだ。自治体にとっては一度誘致すれば黙っていても交付金が入ってくる構造になっている。

 しかし、いつまでも原発の時代が続くわけではない。国が決めたエネルギー基本計画に原発の建て替え(リプレース)は明記されていなく、仮に運転期間を20年延長しても、近い将来には廃炉の時代がくる。

 残念ながら、未来に向けて胸を張るような確固たるビジョンをもつ原発立地自治体はまだない。わずかな事例としては、中越沖地震のあと新潟県では柏崎刈羽原発が30年後には廃炉になるだろうからと研究報告書がまとめられただけだ(『30年後の柏崎を考える』新潟県自治研究センター)。とはいえ、福島原発事故は原発依存経済から脱却して町が生きのびていく姿を今から考えておくことを突きつけた。自治体の在り方を問い直し、原発依存からの脱却に目覚めよとの警鐘だったといえる。


 ◇許認可権の一部を移管へ


 現行の再稼働の同意手続きである、電力会社と立地自治体との安全協定には法的な根拠がない。これでは仮に自治体側が同意しなかった場合でも、最終的には電力会社が無視して再稼働することも可能である。従って、現状の同意手続きは実効性のない形骸化に陥る恐れが高い。

 また、防災計画拡大による30㌔圏内の隣接自治体は立地自治体並みの安全協定の締結を求めている場合が多い。しかし、電力会社の抵抗か、立地県の抵抗か、隣接自治体は立地自治体並みの安全協定の締結を拒絶されている。

 立地自治体が電力会社と結ぶ安全協定は原発の立地や建て替え、重大な設備の変更に関して事前同意が定められている。それに対して隣接自治体が結ぶ現状の安全協定は単なる事故時通報だけで済まされるという。大きな違いだ。重大事故によって影響を被るのは差がないのだから、隣接自治体も立地自治体並みの安全協定にするべきだ。

 原子力規制委員会設置は、地方自治体に独自の判断を求める制度変更でもある。地方自治体が自ら行う重い判断にはそれにふさわしい法的な権限のある制度としなければならない。


2015年

11月

24日

第13回 福島後の未来をつくる:山地憲治 公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長 2015年11月24日特大号

 ◇やまじ けんじ

1950年香川県坂出市生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。77年電力中央研究所に入所、94年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻(現電気系工学専攻)教授。2010年4月より(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長。東京大学名誉教授。

 ◇温暖化対策の切り札CCS

 ◇カギはCO2の有効活用


山地憲治

(公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)理事・研究所長)


 東京電力福島第1原子力発電所事故後、CO2削減に向けて世間の注目は再生可能エネルギーと原子力の扱いに集中しているようだが、エネルギー政策をより長期的かつグローバルな視点からとらえると、CO2を回収、貯留できるCCSの技術がキーワードとなる。

 経済性確保の視点からは、今後も化石燃料、なかでも石炭の活用が重要だ。石炭火力は日本はもちろん、世界的に見ても重要な電源であり、特に中国やインドなど多くの途上国においては50%を超えるシェアを占める。一方、石炭は化石燃料のなかでも発熱量当たりのCO2発生量が最も大きく、地球温暖化対策においては悪者扱いされている。CCSは化石燃料活用と温暖化対策を両立させる「切り札」と言える。


 ◇国際機関の高い評価


 CCSは、工場や発電所で発生するCO2を分離回収し、地下や海底下に封じ込める技術だ。


地球環境産業技術研究機構(RITE)では、10年以上前に新潟県長岡市において約1万㌧のCO2を地下約1㌔㍍に圧入し、圧入されたCO2の挙動を監視するさまざまな技術を開発しており、地下でのCO2の安定性を確認している。また北海道苫小牧市では年間約10万㌧を圧入するCCSの実証が進んでいる。

 国際エネルギー機関(IEA)では、50年に世界のCO2排出量を現状から半減する技術のシナリオ分析を行っており、CCSは想定削減総量のうち約14%分を担う重要技術とされている。

 また、国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は温暖化を2度C以内に抑える目標を実現するシナリオの分析を行っているが、その中でのCCSの評価も極めて高い。

 例えば、対策技術の一つが使用できなかった場合の2度Cシナリオ実現コストの評価を見ると、CCSが使えない場合の2100年までのコストは、CCSが使える場合の2倍以上になると評価されており、これは原子力が使えない場合の7%増や太陽光・風力の利用が限定的になる場合の6%増に比べて格段に大きい。

 さらに、IPCCは05年にCCSに関する技術知見を取りまとめた特別報告を刊行しており、地球上にはCO2貯留の莫大(ばくだい)なポテンシャルがあることを確認している。

 つまり、地球温暖化対策をグローバルで長期的視点から行うと、CCSの意義は極めて明確になる。


 ◇カーボンマイナスの技術


 意外に思われるかもしれないが、CCSを活用するとエネルギー生産に伴うCO2排出量をマイナスにすることもできる。これは、バイオマス(化石燃料を除く生物由来の有機性資源)とCCSを組み合わせた場合に実現する効果で、地球温暖化対策の研究者の間では、BECCS(バイオマスエネルギー+CCS)という名で知られている。

 木くずや建設廃材などのバイオマス資源をエネルギー利用するとCO2は発生するが、このCO2は大気中から光合成で固定したCO2を再び大気中に戻すものと評価され、これをカーボンニュートラルと呼ぶ。

 カーボンニュートラルなバイオマスエネルギーはCO2を正味には大気中に増やさない技術と評価される。これにCCSを組み合わせて大気中に戻るはずのCO2を地下に封じ込めれば、大気中のCO2を減少させることになる。つまりカーボンマイナスが実現するのだ。

 もちろんBECCSにはさまざまな課題がある。そもそもバイオマスのエネルギー利用には原料の収集・輸送、燃料への変換などの過程でエネルギーが投入される。そしてCCSと組み合わせる場合にはさらにエネルギーが必要になる。これら全プロセスを通してトータルでCO2を削減できるかどうか、ライフサイクル全体を見通した評価が必要となる。また、大規模にバイオマスを利用すると、世界の土地利用に多大な変化を及ぼす。大規模な土地利用変化による食料生産や生物多様性保全への影響も慎重に評価しなければならない。しかしIPCCの分析によると、CCSは2度Cシナリオの実現に不可欠な技術と評価されている。特に発電部門において、BECCSの活用で50年以降の発電部門からのCO2排出はマイナスに転じるという姿が描かれている。


 ◇まずはCCUS実用化を


 世界では年間100万㌧程度のCO2を地下に圧入する大規模CCSが10件を超えて操業中である。1996年に世界に先駆けて操業を開始したノルウェーのスライプナー・プロジェクトは、天然ガス随伴のCO2を北海の海底下に貯留している。天然ガスを精製する過程でCO2を分離する必要があるので、同CCSプロジェクトによる追加コストは圧入に伴う部分だけだ。それ以外は天然ガス生産コストとなる。

 しかもノルウェーでは1㌧当たりのCO2に40米㌦(約4800円)程度の炭素税が課せられるので、CCSに経済的合理性がある。エネルギー開発企業は回収、貯留した分のCO2に炭素税を支払わずに済む。

 ただし、炭素税のようなインセンティブのないノルウェー以外の国では、CCS単独では事業性が成り立たないので、現在のところすべて石油増進回収(EOR)と組み合わせて行われている。このEORとはCO2を原油井に圧入して油田に残っている原油を増産するもの。回収したCO2を有効利用することで利益を上げることができるわけだ。

 石炭火力へのCCS適用も14年に初めてカナダのサスカチュワン州にあるバウンダリーダム火力発電所で操業を開始したが、これも近くの油田のEORと組み合わせている。EORのように、回収したCO2を経済的に有効利用(Use)するCCSをCCUSと呼んでいる。

 つまり、CCSの現在の最大の課題は経済性である。

 脱硫や脱硝でも回収した硫黄や窒素分の有効利用を図っているように、CCSでも回収したCO2の有効利用を図るCCUSは当然の対応である。ただし、温暖化対策として、CCSにより回収されるCO2は、世界全体では年間10億㌧単位の規模になると想定されている。

 このような大規模なCO2利用の用途としては、現状ではEOR以外には見当たらないが、光合成促進や地熱回収利用などCO2利用を目指した基礎研究も進められている。

 また地球温暖化対策技術としてのコストを比較すると、CCSはそれほど高価でない。RITEの評価では、石炭火力にCCSを適用した場合、現状技術でCO2削減1㌧当たり8000円弱、先進技術が開発されれば半分程度になると見ている。

 CCSによる発電効率の低下を考慮しても、石炭火力発電1㌔㍗時当たりのコストは4~8円程度である。この程度の増分ならば、現状でも太陽光発電など高価な再エネ発電よりは安い。温暖化対策はイメージではなく冷静な経済性評価を踏まえて進めてほしい。

 なお、地中に大量のCO2を封じ込めるCCSには、漏えいや地震の誘発など安全性への懸念がある。CCSに伴う安全リスクを社会が受け入れられる水準に限定することは、現在の技術水準でも達成できると考えられているが、さらに一層の安全確保を目的として、国の委託を受けた研究も進んでいる。

2015年

11月

17日

第12回 福島後の未来をつくる:柏木孝夫 東京工業大学特命教授・名誉教授 2015年11月17日号

 ◇かしわぎ たかお

東京工業大学工学部卒。同大学大学院博士課程修了。東京工業大学大学院教授、先進エネルギー国際研究センター長を歴任。経済産業省総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長などエネルギー政策の立案に携わる。

 ◇規制改革で大規模電源は縮小へ

 ◇小売り自由化で家庭も売電参入へ


柏木孝夫

(東京工業大学特命教授・名誉教授)


 東日本大震災を経て電力システム改革が本格的に進み始めた。2016年4月に始まる電力小売り全面自由化、今後に控える発送電分離、電力料金規制撤廃など一連の改革が進むことで、日本の電力システムは一変する。

 特に重視されるのが、エネルギー自給率の向上、電力コストの低減、二酸化炭素(CO2)の削減だ。日本のエネルギー自給率は約6%。先進国でここまで低いのは日本だけだ。これを東日本大震災前を上回る25%まで高める必要がある。同時に発電コストを抑えつつ、CO2排出量は国際的にも遜色ない水準まで低減する必要がある。

 そのためには、電力需給を効率的に制御し、分散型で送電ロスをなくして、省エネの拡大で電力コストを抑える必要がある。


このとき、日本全体の発電量は30年の想定で1兆650億㌔㍗時まで抑えることを目標にしている。その時点の電源構成は、22~24%が再生可能エネルギー、原子力発電は20~22%、残り56%がLNG(液化天然ガス)や石炭、石油などの化石燃料だ。

 電力自由化はこれまでも段階的に進んできた。大規模工場やオフィスビルなど大口の電力需要家を皮切りに、現在は契約容量が原則50 ㌔㍗以上の高圧需要家向けの電力がすでに自由化されている。

 特定規模電気事業者による電力供給も始まっているが、新規参入は全需要の2・6%(13年度)とわずかで、市場原理が働いているとは言いがたい。そうした中で、16年の家庭部門を含めた全面的な小売り自由化は本格的な競争市場を創出する原動力になると考えられている。当初は日本の発電量の2割程度、最終的には3割程度を新規事業者(新電力)が供給する構図になるだろう。

 従来の大規模集中型電源は、ピーク時の需要に合わせて大規模発電所を設置してきたがゆえに非効率的であった。日本の発電所の平均稼働率は56%にとどまり、東京電力管内では1年間のうち88時間しか動かない電源、つまり1%しか稼働しない電源が全体の7・5%あった。一般企業ではあり得ない非効率的な体制だ。その分、電気料金も割高になる。電力のコストが高い状態は、経済活動を停滞させ、国全体の力を落とすことにもなりかねない。

 これらの効率の悪い電源は、16年春の電力小売り全面自由化により市場原理が働くようになれば脱落し、従来型の大規模集中型電源は縮小を余儀なくされる。また20年以降に予定されている料金規制の撤廃で、総括原価方式による電力料金へのコスト上乗せができなくなると、1年で数日しか動かないような電源に投資することはできなくなる。

 安定供給が求められる電力事業は、これまで地域独占事業だった。しかし、一つの企業が地域の需要のピークに合わせて電源を立地するという従来型の供給方法では、どうしても設備が過剰になり、結果的に電気料金が割高になる。市場原理を導入し、なるべく安い電力を合理的に供給することを目指す電力自由化は日本経済にとって極めて重要なものになる。


 ◇買い手から売り手へ


 電力事業に関する規制改革は、家計にとって経済機会の拡大にもなる。特に電力小売り自由化は、一般家庭にとっても大きなインパクトを与えるものになるだろう。

 太陽光発電システムや家庭用燃料電池など家庭向けの発電機器の登場は、これまで電力会社から買うことしかできなかった電気を一般家庭が発電し、売り手になる機会をもたらした。

 小売り全面自由化はこの動きをさらに加速させるものになる。新電力の参入により通信やケーブルテレビ、ガスなどほかのサービスと電気のセット販売などメニューや料金体系の多様化が進むことで、電気料金が一律で、使用量に応じて課金されるだけだった時代とは異なり、一般家庭の選択肢が増えることになるからだ。

 従来、家庭でできる電力利用上の工夫といえば節電に限られていた。

しかし自由化により、一般家庭も電力を「消費」するだけでなく、効率的に使って「生産」することで、キャッシュを得る流れがより明確なものになる。

 そのような小売り自由化の時代では、次世代電力計のスマートメーターとHEMS(家庭用エネルギー管理システム)で電気使用量を「見える化」して適正な料金を選択し、同時に太陽光発電や燃料電池による家庭用コージェネレーション(熱電併給)システムのエネファームによって各家庭で発電し、効率的に電気を使用する。これに電気自動車の蓄電システムやデジタル家電がつながることで、電気料金が高い時間帯には需要を抑えて電気の売り手にまわることも可能になる。

 これまで家庭用電力システム市場は、電気で熱を作る家庭用電気給湯器の「エコキュート」を導入したオール電化住宅か、エネファームなどを導入したガスの住宅かの選択だった。だが電力小売り自由化後は、これらの機器をより効率的に組み合わせた「ガス&パワーモデル」が求められる新たな段階に突入する。

 家庭用燃料電池はこれまで価格がネックとなってきた。現在は1台約140万円で、従来型の給湯器が約30万円であるのに比べて割高だ。だが、電力小売り自由化で購入者層が拡大すれば、価格低下が進む可能性が高まる。技術革新と相まって、19年ごろには80万円程度まで価格が下がると見ている。

 電気を効率的に使うことは、家計にとって重要な要素にもなる。総務省の14年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出に占める電気代の負担は3・8%で、月平均1万1203円の負担になっている。家庭用燃料電池などの価格が下がれば、電気料金削減効果と合わせて経済的な効果がより明確になる。

 年金収入に頼る高齢世帯をはじめ生活費のやりくりに敏感な世帯は、発電システムや電力を効率よく使うための機器を導入して電力小売り自由化を活用することで、電気料金の負担を軽減することが可能になる。


 ◇電力供給が効率化


 電力システム改革は、日本の成長戦略と一体のものでもある。

 昨年4月に閣議決定した「第4次エネルギー基本計画」では、従来の安定供給、環境への適合性、経済性に加えて国際的な視点と経済成長の視点を盛り込んだエネルギー政策の方向性が示された。

 同計画では、再生可能エネルギーの導入加速と電力自由化などの規制改革を明確に打ち出している。電力自由化はスマートコミュニティー(電力・熱・水などインフラの効率的な管理・最適制御を実現した社会)の実現に向けた大きな原動力になる。エネルギーをインターネット化し、地域内全体のエネルギー需給を最適にコントロールするスマートコミュニティー構想は、もともと日本の新成長戦略として注目されてきた。

 電力自由化に伴い、エネルギー事業者各社はもちろん、多数のICT(情報通信技術)企業が電力市場に参画すると想定される。例えば、物理的なインフラを整えるためにゼネコンや商社の参入が考えられる。本家の電力事業者も既存の市場を侵食されれば、他の分野で何らかの方法で失った分を取り戻そうとするはずだ。

 このように電力自由化で生まれるスマートコミュニティーという新たな市場にさまざまな事業者が参入し、そこで競争を繰り広げることで市場が活性化していく。それが日本の各地で展開されれば、日本全体を活性化することにつながるだろう。

 自由化による電力参入意欲は自治体や企業においても非常に高く、自由化以前からすでに各地域、各社で実証実験が行われている。それくらい経済成長、地域活性化のために日常生活や社会活動に必要不可欠な電力という商品を使ったビジネスモデルを志向する膨大なニーズがある。いま、新たなビジネスモデルを構築できる法的枠組みや制度が整いつつある。これにより多様な企業がエネルギー密度の高い都市部でのシェア拡大を狙いはじめている。(了)

福島後の未来をつくる

この記事の掲載号

2015年11月17日号

 

【特集】景気回復のウソ

 投資も消費も伸びず

 迫る2四半期 マイナス成長

 徹底分析 中国減速のダメージ

 インタビュー 甘利明経済再生相


発売日:2015年11月9日 定価:620円

 

目次を見る

ネット書店で雑誌を購入する

電子書籍版を購入する

 

定期購読を申し込む

2015年

11月

10日

第11回 福島後の未来をつくる:石川和男 NPO社会保障経済研究所代表 2015年11月10日号

 ◇いしかわ かずお

1965年福岡県生まれ。東京大学工学部卒。89年通商産業省(現経済産業省)入省、電力・ガス改革などに携わる。2007年に経産省を退官。東京女子医科大学特任教授や東京財団上席研究員を経て11年9月から現職。

 ◇福島第2原発の正しい「やめさせ方」

 ◇再稼動後の全収益を復興と再エネへ


石川和男

(NPO社会保障経済研究所代表)



 東京電力・福島第1原子力発電所のことは、2011年3月11日の東日本大震災における大津波被災での事故以降、何らか報道されなかった日はない。

 その日、福島第1原発(全6基)では、1~3号機は運転中、4~6号機は定期検査のため停止中だったが、14時46分に発生した大地震を受けて運転中の3基はすべて自動停止。その後、非常用ディーゼル発電機が起動し、原子炉の安全維持に必要な電源が確保されたが、さらにその後に襲来した大津波によって1~4号機へ供給する冷却電源を喪失し、冷却機能が失われた。

 これにより原子炉の圧力容器内の水は蒸発し続け、水面から露出した燃料棒の表面温度が放射線エネルギーの熱変換で生じた崩壊熱により上昇したため、燃料棒の表面が圧力容器内の水蒸気と反応して大量の水素が発生。


格納容器の損傷部から漏れ出た水素は、原子炉建屋上部にたまり、何らかの原因により引火して1号機、3号機、4号機がそれぞれ水素と酸素が急激に反応して爆発的な燃焼を起こす水素爆発を起こした。これが福島第1原発事故の一連の顛末(てんまつ)だ。

 福島第1原発は被災プラントであり、致命的な破損をした1~4号機だけでなく、軽微な破損だけだった5号機と6号機も、発電を再開することなく廃炉が決まった。福島県の地元感情などを考えれば、仕方ないことだろう。

 では、福島第2原発(全4基)はどうだったかというと、1~4号機はすべて運転中であったが、大地震を受けて4基すべてが自動停止した。その後、大津波に襲われ被害を受けたが、原子炉の安全は維持された。震災後に全4基の原子炉内にあった核燃料は冷却のためのプールに移送されているため、原子炉内は15年9月末時点では空となっている。今後は、プールで核燃料の冷却を続けることになる。原発は、発電していなくとも、核燃料管理などの面で「稼働」し続ける。


 ◇原発は100年事業


 福島第1原発事故以降、日本は脱原発・再生可能エネルギー(再エネ)推進という志向の中にいる。政治的にもマスメディア的にも、「原発ゼロ・再エネ100%化を!」という空気が支配的になった理由は、私にも重々理解できる。しかし、太陽光発電や風力発電による再エネの電源で生活や工場などの生産活動を100%まかなうのは、今の人類が持つ技術では実現不可能で、大量に蓄電・蓄熱が可能なシステムが商業化される時まで待たなければならない。

 原発ゼロも、今すぐには無理である。そもそも、既設原発の代替となるような電源は日本ではつくれない。LNG(液化天然ガス)や石油、石炭など火力発電で代替できると思われているが、その場合には輸入コストも含めた高い化石燃料費を払い続けなければならないからだ(表)。

 それは日本の国民生活や産業活動を直撃し、さらには日本のエネルギー安全保障を再び脅かす。現に震災以降、原発がほぼ全面停止したことで火力発電への依存度が急に高まり(図)、電気料金は震災前に比べておおむね2~4割も高止まりしている。震災以降、11~14年度での原発停止に伴う化石燃料の追加費用は累計で12・4兆円に達する。これは、消費税率5%での税収1年分に相当する巨額なものだ。

 原発ゼロが今すぐに無理なのは、もう一つ重大な事情がある。多くの原発事業は、計画から設備を完成させるまで数十年、運転開始から発電所閉鎖まで40~60年、その後の発電所自体を解体する廃炉完了まで20~30年、発電にともなって生じた放射性廃棄物の最終処分まで30~50年と、いわば「100年事業」として計画されている。


 ◇教訓は核燃料の安全管理


 福島第1原発事故は、稼働中(発電中)の事故ではなく、停止中の事故。安倍晋三・自民党現政権は、「いかなる事情よりも安全性を最優先し、原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重し原発の再稼働を進める」とし、再稼働に当たっては「国も前面に立ち、立地自治体などの関係者の理解と協力を得るよう」取り組む方針を示している。

 問題は、再稼働について「原子力規制委員会によって新規制基準に適合すると認められた場合」に限っていること。これが、今の日本社会への多大な実害となって現れている。福島第1原発事故の教訓は、冷却電源喪失による核燃料の安全管理面での機能不全である。

 稼働中だろうと停止中だろうと、核燃料の安全管理に万全な対策をとることが福島第1原発事故の最大の教訓であり、発電を停止させ続けることが安全維持につながるわけではないのだ。


 ◇米専門家は全基停止に疑念


 私は先だって、米国の原子力規制委の委員長経験者ら3人と個別に懇談した。その際、彼らは日本が福島第1原発事故後に国内原発を全基停止したことや、新規制基準のすべてに適合していなければ再稼働を許していないことに大きな疑念を示しながら、早期の再稼働を強く進言した。

 原発の安全とは、停止状態によって得られるものではなく、稼働しながらそのスキル、ノウハウを身に着けるものなのだと。1979年にスリーマイル島原発事故を経験した米国も、86年にチェルノブイリ原発事故を経験した旧ソ連も、当時国内のほかの原発は通常通りに稼働させていたのだが、日本はなぜ事故を起こしていない原発まで停止させているのかと。

 福島第2原発に関して、1号機は82年に、2号機は84年に、3号機は85年に、4号機は87年に、それぞれ運転を開始した。震災後に原子力規制委が定めた新規制基準によると、稼働期間は原則40年、原子力規制委が特別に認可した場合には60年となっている。そうすると1号機はあと7~27年、2号機はあと9~29年、3号機はあと10~30年、4号機はあと12~32年、それぞれ稼働できる。


 ◇稼働で廃炉費用を捻出


 福島第2原発は、震災時に大津波に襲われ被害を受けたが、原子炉の安全は維持されている。今後とも技術的には再稼働は可能だ。既設の原発は、安価安定な電力を供給するだけではない。将来必ず訪れる長期間の廃炉作業の工程で必要となる資金を積み立てておく。これは、日本で原発事業がはじまった時から、国会はもちろんのこと、原発が立地する自治体の議会でも、そしてマスメディア各社に対しても、公然のことである。

 原発は、自分の始末に要する資金を自分でためる長期事業なのだ。いたずらに停止させ続けることで、原子力技術者の人材が育たなくなるほうが、将来的な安全性の確保に支障を及ぼす。原子力安全は、廃炉が完了するまで確保されなければならないはずだ。

 福島第2原発を巡る政治状況は今、非常に厳しい。福島県議会は今年9月の定例議会で「東京電力福島第1原発事故の早期収束と福島第2原発の全基廃炉を求める意見書」を全会一致で可決している。

 今年10月の内閣改造で入閣した関係閣僚からは、林幹雄経済産業相が「東電が地元の意見を十分に聞いている。東電が(再稼働の是非を)決めていくのではないか。東電の対応をしっかり見守っていきたい」(10月14日付『福島民報』)、高木毅復興相が「国は、世界一厳しいといわれる安全基準に適合した原発は再稼働させる方針だ。しかし、福島第2原発を同列に扱えないと思う。いずれにしても事業者の考え方、地元の意見が非常に大切だ」(10月9日付『福島民報』)と語っている。

 政府としては、東電の判断に任せる姿勢を変えていないが、東電側は福島第2の廃炉に関してまったく未定だとしている。


 ◇現実味を帯びる再値上げ


 東電は12年4月に企業向け電気料金を平均14・9%値上げし、同9月に家庭向けを8・46%値上げしている。この値上げの理由は、東電の保有する原発(柏崎刈羽、福島第2)が停止しているからにほかならない。今後さらに柏崎刈羽原発や福島第2原発が停止したままでいると、再値上げがいっそうの現実味を帯びてくる。

 そこで一つ大きな提案をしておきたい。政治的にはそう簡単ではないかもしれないが、技術的には再稼働が十分に見込める福島第2原発の今後の活用方法について考えたい。それは、福島第2原発をフル活用することにより生じる収益を地元福島に全面的に還元する。日本全体のエネルギー環境政策への先駆者となることを追求していくことだ。

 欧米諸国の多くや韓国の原発稼働率は80~90%台だが、日本の原発稼働率は相当低く、震災前の3年間では08年60%、09年66%、10年67%。東電だけを見ると、08年44%、09年53%、10年55%と、全国平均よりもさらに低い。

 福島第2原発1~4号機の設備能力は、各110万㌔㍗、計440万㌔㍗。これらすべてを、欧米や韓国と同じ水準である90%の稼働率で稼働させた場合の収益増効果を算出してみる。

 全4基の原子力発電電力量は、年間約347億㌔㍗時(=440万㌔㍗×24時間×365日×稼働率90%)。この電力量が火力発電に代替するものとして、政府の認可を受けた現在の東電の料金原価(原価算定期間は12~14年度)の公開データを用いて計算してみる。

 代替される火力発電は単価が最も高い石油火力であるとして、その石油火力電力量に相当する燃料費は年間約5533億円(=約347億㌔㍗時×15・95円/㌔㍗時)。この場合の原子力発電のための核燃料費は約576億円(=約347億㌔㍗時×1・66円/㌔㍗時)なので、差し引き約4957億円の収益増となる。

 要するに、福島第2原発は廃炉までの間、全4基のフル稼働により年間最大5000億円程度の収益を生み出す。

 この収益分については、将来の廃炉費用に充てる分のほかに、①福島第1原発の廃炉や汚染水対策、②福島県内の再エネ関連投資費用や再エネ賦課金の肩代わり費用、③福島県内の電気料金値下げ原資などに優先的に活用すれば、福島支援に大きく貢献できるだろう。


 ◇円滑な廃炉で脱原発


 原発を正しくやめるためには、円滑な廃炉や地域への貢献を進めていくうえで必要なヒト・モノ・カネを周到に準備することが不可欠だ。

 福島第2原発についても、万が一の事故に対する地域住民の避難計画の早期策定や、過酷事故時の的確な国家賠償制度の創設に関する検討と並行して、①新規制基準の適用に5~10年程度の適切な猶予期間を設け、②原子力規制委の審査前であっても審査中であっても、早期の発電再開を容認することにより、③安全投資のための資金を原発事業でしっかりと確保させながら、④将来必ず行うべき円滑な廃炉による安全な脱原発へと軌道を回復させていくことが緊要である。(了)

福島後の未来をつくる

この記事の掲載号

【特集】緩和中毒

 ECB FRB 日銀 中国人民銀

 世界4極 大緩和ドミノ

 

【特集2】知って驚く コーヒー革命

 勢力図画一変/名店の系譜

 

 発売日:2015年11月2日 定価:620円

 

 ■目次を見る

 ■ネット書店で購入する

 ■年間定期購読

2015年

11月

03日

第10回 福島後の未来をつくる:大野輝之 自然エネルギー財団常務理事 2015年11月3日特大号

 ◇おおの てるゆき

1953年神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒。98年より東京都の環境行政を担当。ディーゼル車排ガス対策、「温室効果ガスの総量削減と排出量取引制度」の導入など都の環境政策を推進。2010年7月から3年間、東京都環境局長。13年11月より現職。


 ◇世界に逆行する石炭火力乱発

 ◇省エネと自然エネルギーが未来を開く


大野輝之

(自然エネルギー財団常務理事)


 日本のエネルギー政策は残念ながら、東京電力福島第1原子力発電所事故の教訓を生かす点でも、世界で進む脱炭素化の流れを反映する点でも、まったく不十分と言わざるを得ない。東日本大震災から4年半、日本では福島原発事故の深刻な体験から、いかに安全で安心なエネルギーを確保するのか、さまざまな視点で議論されてきたにもかかわらずだ。しかし現場を見ると日本でも省エネルギーと自然エネルギー拡大が進み、安全かつ低炭素なエネルギーへの転換が進んでいる。

 世界を見ると、異常気象の影響が深刻化するなかで、気候変動対策強化のためにエネルギー起源のCO2削減をめざす政策転換が進んでいる。



 ◇欧米は石炭火力を縮小へ


日本では、震災後に石炭火力発電所の新増設計画が激増している。2014年4月に改定したエネルギー基本計画は、原発とともに石炭火力を一定量の電力を安定供給できる「重要なベースロード電源」と位置付けた。これを背景に、再稼働の進まない原発に代わる電源を確保しようとする既存電力会社、電力市場への進出のために独自電源を必要とする新規参入企業が設置を計画しているためだ。全国で48基、合計出力では2350万㌔ワット、すなわち原発23~24基分もの石炭火力発電所がつくられようとしている。

「最新の石炭火力は高効率で環境に良い」というが、その最新型であっても天然ガス火力の2倍以上のCO2を排出する。原子力政策については、脱原発を決めたドイツやイタリア、維持の立場に立つ英国、フランスなど見解の相違がある。しかし、こと石炭火力については、米国も含め先進国の大半が、新設は行わず既存発電所も減らす政策で一致している。発展途上国での石炭火力建設への融資も行わない方針だ。

 これに加え、石炭・石油産業など化石燃料の開発・利用で利益を上げる企業の株式や債券などへの投資を撤収する“ダイベストメント(インベストメントの反意語)”と呼ばれる取り組みが急速に広がってきている。

 公的ファンドで世界最大のノルウェーの政府系ファンド、全米最大の公的年金基金カルパースなど有力な機関投資家も含め、既に世界43カ国で合計312兆円の資産を運用する400以上の機関が化石燃料ビジネスへの投資を撤収する方針を決めている。

 国内で、石炭火力の新設を計画している企業は、これからも日本では石炭火力を自由に使い続けることができると考えているのかもしれない。しかし、欧米の規制強化や世界で広がるダイベストメントの動きを見れば、それはとても見通しの甘い経営判断のように思える。

 ◇クリーンパワープランの衝撃


 世界を見れば脱炭素化の主役になっているのは、原子力ではなく自然エネルギーだ(図1)。欧州における自然エネ政策で一番よく紹介されるのはドイツだが、ここではフランスの政策を紹介することがよりふさわしいだろう。フランスは現在、電力の75%を原発で供給する原子力大国だ。そのフランスが今年の8月に制定した「エネルギー転換法」では、30年までに原発依存度を50%に引き下げ、反対に電力の40%を自然エネで供給することを定めたのである。

 欧州ではフランスとフィンランドで、安全対策を強化した最新型の原発が建設中ではある。しかしその完成時期は再三延期され、実際いつ稼働するのか見通しは立っていない。また建設コストは当初の3倍に膨れ上がっている。原発が高コスト発電であることは欧米では常識だ。米国でも、コスト高で廃炉になる既存原発が続出している。

 その米国のオバマ大統領は、自らの政権のレガシー(業績)とする気候変動対策の最重要の政策として、この8月に「クリーンパワープラン」を決定した。30年までに発電部門からのCO2排出量を32%削減(05年比)することを目指す。削減の最大の手段は石炭火力発電の抑制と自然エネの促進である。カリフォルニアとニューヨークという西海岸、東海岸の主要州は、ともに30年までに電力供給の50%を自然エネで供給する目標を定めている。

 こうした自然エネシフトの最大の要因は、発電コストの急速な低下だ。米エネルギー省の風力発電技術市場報告書では、14年における全米の風力発電の平均購入契約価格が1㌔ワット時当たりで2・35セント(税控除額を加えれば約5セント)まで低下したことが報告されている。9月には、ローレンスバークレイ国立研究所が、太陽光発電コストが1㌔ワット時当たりで平均5セントになったことを報告している(同7セント程度)。


 ◇現場の変化に立脚した政策を


 日本では、震災後、企業や自治体、地域が省エネの拡大と自然エネの導入に取り組んできた。その効果の大きさは、今年の夏の電力需給に見ることができる。

 今夏、日本列島は7月後半から8月前半にかけて猛暑に見舞われ、冷房の使用が増えて電力需要が増大した。国内では、九州電力川内原発が8月中旬に再稼働するまで、1基の原発も動いていなかったが、電力不足という事態はまったく生じなかった。夏の猛暑を乗り切る最大の力になったのは、震災後に進んだ省エネである。東京電力を例にとる。震災前の10年度、東電管内の最大電力需要は5999万㌔ワットだったが、今年の最大需要は1000万㌔ワット以上も少ない4957万㌔ワットにとどまった。

 今年の最大電力を記録した日の気温は37度。10年度に最大需要を記録した日は35・7度。今年のほうが暑かったにもかかわらず、電力需要は大幅に減少したのである。その背景には、LED(発光ダイオード)照明の普及、空調機器の運用の見直しなど「賢い節電」の広がりがある。

 省エネに加え、昨年あたりから夏のピーク電力需要対策として存在感を示しはじめたのが、自然エネ、特に太陽光発電の普及である。東電管内では最大電力需要が生じた日に、378万㌔ワット、つまりほぼ原発4基分に匹敵する電力を供給している。

日本の自然エネは、電力会社の接続制限やさまざまな規制の影響で導入が遅れ、世界で進む価格低下の恩恵を十分に得られていない。しかしそうしたなかでも太陽光発電のコストは数年前の半分程度になってきており、すでに家庭では電気料金を支払うより太陽光発電を設置するほうが安価になってきている(図2)。

 日本の電力需要は、省エネと自然エネの拡大、そして当面は天然ガス火力を活用することで十分にまかなうことができる。原発への依存を続けることも石炭火力の新増設も必要ない。震災後に進んだ省エネと自然エネの拡大を、福島後の未来を開くエネルギー政策の中心にすべきだ。こうした現場の動きに立脚することこそ、現実的な政策選択ではないか。

福島後の未来をつくる

2015年

10月

27日

第9回 福島後の未来をつくる:高橋洋 都留文科大学教授 2015年10月27日号

 ◇たかはし ひろし

東京大学法学部卒。米タフツ大学フレッチャー大学院修了。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。ソニーや富士通総研を経て、2015年4月より現職。学術博士。専門はエネルギー政策論、電力システム改革論。

 ◇激しい競争こそ電力の革命を起こす

 ◇欧米で急成長する新サービス


高橋 洋

(都留文科大学教授)


 アベノミクスは第2ステージに入るとのことだが、第1ステージの時から最も重要な「本丸」は成長戦略だと言われてきた。その鍵は、イノベーションだ。では、イノベーションとは何か? 経済学者のヨーゼフ・シュンペーターによれば、イノベーションとは「生産手段の非連続的な新結合」であるという(『経済発展の理論』)。日本では「技術革新」などと訳され、技術面を中心に語られることが多いが、シュンペーターは新結合として五つの形態を挙げている。すなわち、①新しい財貨、②新しい生産方法、③新しい販路、④新しい供給源、⑤新しい組織──である(表)。本稿で議論したいのは、電力分野においてこのようなイノベーションを起こすためにどうしたらよいかということである。



 世界に目を向ければ、電力分野では1990年代後半から大きなイノベーションが生じ、新たな成長が生み出されてきている。例えば、発電した電気を国が定める価格で一定期間売電できる固定価格買い取り制度(FIT)といった政府の支援策の寄与もあり、風力発電や太陽光発電といった再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入が進んでいる(図)。木質バイオマスなどによるコージェネレーション(熱電併給)システムも積極的に活用され、エネルギー効率の向上に寄与している。

 ドイツやスペインでは、これら再エネによる電力の割合が30%前後に達しており、旧来の石炭火力発電や原子力発電に取って代わりつつある。これらは小規模分散型発電システムであり、新規参入者が手がける場合が多く、シュンペーターのイノベーション類型において、②新しい生産方法や、④新しい供給源に該当するだろう。


 ◇新しいサービスと販路


 発電分野だけでなく小売り分野でも90年代からの電力自由化を受けて、需給状況に対応して節電などを促すデマンドレスポンス(DR、需要対応)といった新たなサービスが、米国などで盛り上がりつつある。特にIT(情報技術)の進化により通信機能が付いた次世代電力量計であるスマートメーターが実用化され、消費行動を精緻に把握できるようになったことが大きい。

 サービスとしてのDRは、イノベーション類型の①新しい財貨と呼べるだろうが、これに電気自動車内蔵の蓄電池が組み合わされるようになれば、自動車から売電するなど高度なDRが可能になり、まさに革命は現実のものとなる。

 また欧州では、電力自由化と市場統合を受けてエネルギー企業の海外市場への進出が進んでいる。国境を超えた電力会社の買収やガス会社との合併が当たになっており、英国は大手6社のうち4社が外資系(ドイツ、フランス、スペイン)になっている。これらは、シュンペーターのイノベーション類型の③新しい販路と呼べるだろう。

 これらのイノベーションを起こすのは天才的な発明家や決断力のある企業家の仕事だが、彼らだけでは起こせない場合もある。電力分野でイノベーションが起きた背景には、世界中で長らく独占体制を敷いていた電力産業が、発送電分離などにより構造的に改革されたことがあった。

 欧州では、欧州委員会や各国の規制当局の尽力により、垂直統合されていた電力会社が送電部門を売却する(所有権分離)よう迫られ、中立的な送電会社が誕生した。太陽光や風力のように天候により出力が変動する電源を電力システムに受け入れれば、停電などのトラブルにつながりかねないと20年前には言われていた。しかし現在では、独立した送電会社が精緻な気象予測など技術的な解決策を競い、大量の再エネ電力を受け入れつつも安定供給を維持している。まさに規制改革あってのイノベーションである。

 一方で欧州では、地域に根差した小規模主体がエネルギー事業で存在感を示していることも、特徴的だ。例えば、発電量の3分の1以上を風力発電でまかなっているデンマークでは、陸上風力発電機の8割を個人や協同組合が所有しているという。

 ドイツでは、シュタットベルケと呼ばれる市有・町有の公益事業者が、大手電力会社に対抗して市民・町民の支持を得て、再エネの導入などを優先的に進めている。これらイノベーションを担っているのは、イノベーション類型の⑤新しい組織に該当すると言えよう。

 シュンペーターはイノベーションの主体について、旧来の支配者のなかから現れず、「発展担当者の変更」から生じると指摘した。イノベーションは既存のビジネスモデルを破壊するため、既得権益者がそれを率先して実行することは自己否定につながる。郵便馬車の事業者は、馬車の改良には努力するが、新たな鉄道輸送網を生み出すことは本質的にできない。だからこそ、非連続と呼べるのである。


 ◇日本の改革には不安も


 日本は、電力自由化にも、再エネの導入にも遅れてきた(図)。安定供給のためには法定独占・発送電一貫が必要不可欠と考え、また変動する再エネよりも一定量を安定供給できる原子力を優先してきた。しかし、福島第1原発事故を経て、風向きは大きく変わった。

 政府は電力システム改革を積極的に推進し、イノベーションを起こそうとしているように見える。実際に第1ステージのアベノミクスでは、電力システム改革が成長戦略の先行事例として挙げられた。すでに3度にわたり電気事業法を改正し、2016年4月からは小売り全面自由化が、20年には送電網の法的分離(別会社化)が決まっている。原発事故前の日本の電力業界の常識からすれば画期的な変化と言えよう。

 とはいえ、日本でイノベーションが起きやすい環境になるかはこれからであろう。第一に、今でも既存電力会社は圧倒的な市場支配力があり、競争が本格化するか予断を許さない。例えば日本の卸電力取引所は05年に開設されたが、その流通量は総電力需要の1・5%程度と極めて低い状況にとどまっている。イノベーション類型の④新しい供給源も、③新しい販路も見えてきていない。

 第二に再エネについては、12年にFITが始まって以来、太陽光発電の導入が急増したが、14年以降一転して不透明感が強まっている。送電網への接続の申し込みが殺到したため電力会社が悲鳴を上げ、政府は15年1月に新たな買い取りルールを制定した。これにより、上限を超えた再エネの接続分については、電力会社は安定供給という理由からその発電を抑制しても、一切補償しないで済むようになった。この抑制される量が、再エネの年間発電量の数%で済んでいる欧州と比べれば、異例に厳しい措置である。

 発電事業のリスクが高まった結果、再エネへの投資が冷え込んでおり、新電力の電源調達にも影を落としている。ここでも、イノベーション類型の④新しい供給源を活用できていないのである。

 第三にイノベーション類型の⑤新しい組織についても、顕在化するのはこれからであろう。例えば、送電網の法的分離は5年後の話であり、(16年に先んじて法的分離を実施する)東京電力を除けば送電会社は日本に誕生しない。また、新電力(特定規模電気事業者、PPS)の届け出数は700社を超えているものの、前述の難しい環境下で本格的に市場参入しているところはその10分の1程度にとどまっており、「発展担当者の変更」は見えてこない。

 日本にはさまざまな課題があり、確かに非連続のイノベーションを起こすことは容易ではない。しかし、イノベーションとは本来的にそういうものなのであろう。既存企業も交えた激しい競争のなかで、それでも偶然のきっかけでしか生まれないのが、シュンペーターが定義した非連続のイノベーションなのである。


 ◇逆境こそ絶好機


 前向きに考えれば、実は日本にはさまざまな好条件がそろっている。

例えば太陽光パネルについては、中国メーカーなどの価格競争力に押されているものの日本企業の技術力は世界最高水準を維持しているだろう。さらに発電効率を上げる、耐久性を高める、壁面など多様な設置場所に対応できるようにするなど技術革新の可能性は限りない。これらに成功すればイノベーション類型の①新しい財貨や②新しい生産方法となろう。

 今後ますます重要性を増す蓄電池も、やはり日本企業は高い技術力を誇る。さらに大量のハイブリッド車や電気自動車が既に街中を走っている点も有利であろう。昨年トヨタ自動車が大量生産型の燃料電池車を世界に先駆けて市場投入したこと、エネファームという家庭用燃料電池の実績を積んでいることも、特筆すべき強みである。

 蓄電池や燃料電池をさらに低コスト化・大容量化を進めると共に、DRと効果的に結び付けてサービス化できれば、イノベーション類型の①新しい財貨──の成功例となり、エネルギーの生産・消費を最適化する都市であるスマートシティーなどに発展させることができる。

 原発事故後の日本人は省エネ意識が高まっていること、その時期に小売り全面自由化が実施されることも、追い風になろう。次に考えるべきは、海外展開によるイノベーション類型の③新しい販路である。

 電力市場は17兆円などと言われるが、今後の人口減少などを考えれば国内市場は拡大しない。むしろ消費者が我慢をする必要がないスマートな節電がさらに進み、縮小していくと考えるべきではないか。

 アジアなど成長市場を開拓すべきことは明白であるが、これまで電力会社は海外市場にほとんど目を向けてこなかった。今後は国内で魅力的なサービスを開発しつつ、それらを速やかに海外市場で展開すべきであろう。前述の太陽光パネルや蓄電池といったイノベーション類型の①新しい財貨も、③新しい販路へ向けた有力候補になる。

 そのためにも、国内の異分野企業と、あるいは海外企業との提携や合併がもっとあってよいだろう。これは、イノベーション類型の⑤新しい組織に該当する。確かに近年、電力システム改革の進展を受けて合従連衡の動きが激しくなってきたが、電力会社とガス会社、石油会社といった、元々エネルギー系の業界のなかでの動きが多い。それはそれで評価するが、自動車、小売り、通信、IT、鉄道といった、これまでエネルギー事業とは関係が薄かった企業が関与する案件に期待したい。

 通信分野の非連続のイノベーションであったIT革命の折には、例えばソフトバンクが急きょ市場参入し、駅前でADSLモデムを配るといった旧来の常識では考えられない行動に出て、市場が大いに活性化された。電力分野でも、最近楽天が丸紅と、ソフトバンクが東京電力と提携する話が発表された。イノベーションが非連続になるには、このような異端児が新たな視点から市場をかく乱することが必要なのである。

 そのためにも政府には非常に重要な役割がある。それは、競争政策を徹底し、多様な分野から新規参入を呼び込み、切磋琢磨(せっさたくま)のなかからイノベーションが起きやすい環境を整備することである。卸電力取引を拡大させるべく指導を行う、小売り全面自由化について消費者に周知徹底する、小売り事業者を切り替える手続きを簡単にする、送電網の接続の手続きの公正さを監視するなど、多様な対応が求められる。

 イノベーションを起こすのは、あくまで企業である。その具体的な形として、企業は新たな財貨や新たな生産方法を競う。どれがイノベーションになるかは、本人にも分からない。ましてや、政府がイノベーションを予測することはできない。間違っても政府が個別の業界秩序に介入し、大手エネルギー企業同士の合併を画策したり、特定の分野や商品を過度に支援するべきではない。

福島後の未来をつくる

2015年

10月

20日

第8回 福島後の未来をつくる:吉岡斉 九州大学教授 2015年10月20日特大号

 ◇よしおか・ひとし  1953年富山県生まれ。76年東京大学理学部物理学科卒業。94年九州大学大学院比較社会文化研究科教授(2000年より研究院教授)。11年から12年にかけて政府の東京電力福島原発における事故調査・検証委員会(政府事故調)委員を務める。
 ◇よしおか・ひとし  1953年富山県生まれ。76年東京大学理学部物理学科卒業。94年九州大学大学院比較社会文化研究科教授(2000年より研究院教授)。11年から12年にかけて政府の東京電力福島原発における事故調査・検証委員会(政府事故調)委員を務める。

 

◇原子力発電は「介護」から「終息」

◇地域産業転換に向けた交付金創設を



吉岡斉(九州大学教授)


「ターミナルケア政策」とは、今まで進めてきた事業など社会活動を、重大な社会的損失を与えずに終息させる政策である。「ターミナルケア」は、もともと「終末期医療」という意味の介護業界の言葉だ。原子力発電においては回復の望みのない事業に対して、損失を最小限に抑えながら終息させるため、重点的な支援を行うことである。

 

 

 

 ◇原発廃止への軟着陸に必須 


 国際社会や日本社会は絶えず変化しており、新しく台頭する事業もあれば、滅びゆく事業もある。事業廃止の際には、事業者・関係者に損失が発生する。事業廃止の原因が事業者の自己責任に帰せられる場合は自業自得である。

 だが公共政策が原因で損失が発生した場合は、その度合いに応じて政府も補償責任を負う。

 日本の原子炉等規制法では、原子炉の法定運転年数は40年とされているので、それに満たない年数で政策的に廃止させる場合は、遺失利益についての早期廃止補償を、電力会社が要求してくる可能性があり、政府と電力会社との協議により補償の有無や、補償を行う場合の金額について合意する必要がある。なおドイツでは2002年、当時のシュレーダー政権下で政府と業界の合意により原子力法に平均32年の運転制限が導入されたが、早期廃止補償は盛り込まれなかった。メルケル現政権は当初、原子炉の運転制限期間を延長しようとしたが、福島原発事故を受けて政策転換し、02年合意をさらに具体化させた脱原発ロードマップを決めたという経緯がある。

 また公共政策の影響のいかんにかかわらず、ある事業が没落しそうなとき、それを放置すれば多大な社会的混乱がもたらされる場合、政府が事業廃止の影響を緩和するための社会政策を講じることは公共利益にかなっている。滅びゆく事業を上手に管理し、事業者・関係者の損失が破局的なものとなるのを防ぐ上で、政府のターミナルケア政策は有効性を発揮しうる。

 過去の重要な事例として、原油輸入自由化にともなう国内石炭産業の衰退に対処するための、産炭地域振興臨時措置法(産炭法、1961年)による企業や地域社会への支援政策が挙げられる。これは出発時点においては、優良炭鉱の維持拡大と不良炭鉱の廃止の双方を支援する政策だったが、時代が下るにつれて次第にターミナルケア政策の性格が強まっていった。

 個々の民間会社の工場閉鎖による地域経済への影響について、政府による特段の緩和策は不要である。原子力発電所についても特別扱いする理由はない。しかし国家政策にもとづき全国で、いっせいに多くの原子力発電所が廃止されていくような場合には、社会政策として、後述する産炭法を参考にした影響緩和策を講ずるかどうか検討する必要がある。

「シャッター通り」が目立つ(福島第1原発事故で多くの住民が避難した川内村の中心部)
「シャッター通り」が目立つ(福島第1原発事故で多くの住民が避難した川内村の中心部)


 ◇高率で起きる過酷事故災害


 11年3月11日に始まる福島原発事故は、発生から4年半が過ぎたのにいまだ収束していない。福島原発事故による損害額は、現時点ですでに11兆円、将来分も合わせれば数十兆円に上ることが確実である。避難者数は今年8月現在で10万6700人に達する。福島原発事故によって原子力発電が、他の技術とは異次元の、時間的にも空間的にも並外れて巨大な災害をもたらすリスクを抱えていることが、改めて明らかになった。

 この過酷事故災害の異次元なまでの巨大さこそが、原子力発電を廃止すべき基本的理由である。しかも過酷事故を起こした原子炉は過去半世紀余りで5基に達する。世界の原子炉設計者は、過酷事故を100万炉年(1炉年とは原子炉1基を1年稼働すること)に1度に抑えることを目標値に設定している。しかし、15年春までの原発の運転実績は約1万6000炉年だから、約3000炉年に1度という驚くべき高率である。また原子力発電は社会経済にとって不可欠ではなく、他の発電手段(火力発電、水力発電、再生可能エネルギー発電等)で代替できる。さらに原子力発電はそうした競争相手と比較して優れていない。その点についていわゆる「3E」(エネルギー安定供給、環境保全、経済性)の観点から一瞥(いちべつ)しておく。

 まず安定供給性についてみると、ウラン資源輸入に関する阻害要因が石油・天然ガスと比べて少ないものの、事故・災害・事件などが起きれば原発は多数の原子炉が一度にダウンし、運転再開までに長時間を要する。福島原発事故以後の日本の長期にわたる電力需給逼迫(ひっぱく)傾向が格好の例である。次に環境保全性の観点から見た原子力発電の利点は、有害化学物質(日本では厳しい排出管理が実現されている)や温室効果ガスの排出量が、火力発電よりも格段に少ないことである。その一方で原子力発電は、事故による核物質の環境への大量放出のリスクを抱え、また各種の危険な核物質を生み出す。まず核物質リスクを減らし、次いで温室効果ガス削減に全力を挙げるのが、物事の正しい順序である。


 ◇自家撞着に陥った電源三法


 原子力発電が発電手段の中で経済的に最も優位に立つという試算が、今まで政府によって数年ごとに発表されてきたが、その信頼性はない。歴史的実績にもとづく原子力発電のデータを示さなければ意味がない。電力会社による詳細なデータ公開が必須である。

 また政府は原子力発電の経済性が優れているので国策として拡大すべきと主張し、それを主要根拠のひとつとして原子力発電のコストとリスクを政府が肩代わりする手厚い「原子力発電介護政策」(電源三法による立地支援、研究開発支援、損害賠償支援、福島事故処理支援、核燃料サイクルコストの電気料金への転嫁などの政策)を推進してきた。これは論理的な自家撞着(どうちゃく)に陥っている。本当に原子力発電の経済性が優れているならば手厚い「介護政策」など一切不要のはずである。それでも電力会社はそれを手放そうとしない。

 ここから浮き彫りになるのは原子力発電の経済的コスト・リスクが実際には高いという事実である。手厚い「介護政策」なしには、電力会社は決して原子力発電に深入りすることはなかっただろう。今でも電力会社は好きで原子力発電を維持しようとしているのではない。「原子力発電介護政策」を大幅に拡充することを条件に国策協力を続けてもよいという姿勢である。国策協力に消極的な電力会社があるのかもしれないが、電力業界が一体となって行動する「原子力村」の掟(おきて)に背くことは容易ではなかろう。

 もちろん原子力発電のコスト・リスクを政府が肩代わりすることは、国民負担によって肩代わりすることを意味する。福島原発事故は東京電力による人災の性格が濃厚であるが、なぜそれによる損失を国民が負担せねばならないのか疑問に思う読者も多いのではないか。

 参考までに筆者は、『世界』05年10月号に「原子力介護プラン─策定進む政策大綱の問題点」と題する小論を寄稿し、原子力委員会の原子力政策大綱が実質的に「原子力介護プラン」となっていることを指摘し、「介護費用を負担させられる国民は『果たして原子力は介護に値するのか』という観点から、原子力政策に批判的に対峙(たいじ)することが期待される」と結んでいる。今もこの結論を変える必要は全くない。

 11年3月から4月にかけて東京電力管内で「計画停電」が強行されたが、それ以降今日まで電力危機が生じたことはない。その要因は幾つかあるが、特筆すべきは日本の電力消費のベースラインがリーマン・ショックを境に大きく落ち込んでいたことである。日本の発電電力量(自家発電を含む)は、07年に史上最大の1兆1950億キロワット時を記録したが、13年には1兆905億キロワット時と8・8%の減少となった。

 今後は人口減少や製造業の地盤沈下などにより、電力消費は短期的変動をはさみつつ「自然減」傾向をたどるだろう。これに省エネの強力な推進と、再生可能エネルギーの最大限の拡大を重ね合わせれば比較的容易に、原子炉を最大限再稼働可能な20基前後からゼロへと着実に接近させつつ火力発電も毎年減少させていく状態を実現できるだろう。30年ごろまでに全ての原発を廃止しても、エネルギー需給の観点からは特段の困難が生ずるとは思えない。火力発電のたき増しコストは現在、原発停止による核燃料コストの節約分を差し引くと年間1兆円にも満たない。

太平洋炭礦(北海道釧路市、1952年)
太平洋炭礦(北海道釧路市、1952年)


 ◇石炭教訓に電源開発補助廃止


 原子力発電の介護政策を続けるべきではなく、ターミナルケア政策を進めるべきである。ターミナルケア政策は、現在の介護政策を前提とすべきではなく、いったんそれを廃止してから導入すべきである。原子力発電の維持拡大という従来の政策は、国民の公共利益に反していたという結論を政府は明確に下すべきであり、それを受けて原子力発電推進にともなう交付金・補助金等の優遇措置は単に廃止すればよく、その代替となる優遇措置を講ずる必要はない。

 既得権の喪失に対する配慮は不要である。ただし政府の示す原子力発電廃止計画が、原子炉の早期廃止など電力会社に損失をもたらす場合は、その補償に関する協議が必要となる。また立地地域自治体の財政破綻や地域経済への深刻な打撃がもたらされる懸念がある場合は、その緩和のための社会政策の検討が必要となる。

 その際に反面教師とすべきは、前述の国内石炭産業のターミナルケア政策である。『日本石炭産業の衰退─戦後北海道における企業と地域』(杉山伸也・牛島利明著、慶応義塾大学出版会、12年)に書かれているように、日本の石炭政策は80年代まで基本的にスクラップ・アンド・ビルド支援政策であり、86年の第8次石炭政策において初めて石炭産業終息の方向性が明確となった。

 02年1月の太平洋炭礦閉山により日本の石炭産業は滅亡した。政府支援は融資・保証・補助金だけでも55年から00年までに3兆3514億円を費やした(同書18ページ)。しかしその大半は、石炭企業の経営支援に使われ、地域社会の産業転換には一部しか使われず、しかもその多くは失敗した。ただ、高度経済成長のおかげで、57年に31万人を数えた炭鉱労働者の労働力を他産業に受け入れる余地は十分あったことは幸いだった。

 原子力発電のターミナルケア政策は、そうした反面教師から教訓をくみ取り、地域産業転換を主眼としたものにするのが賢明と思われる。たとえば、発電所など電源の開発を促進するための「電源三法交付金」を廃止する代わりに「地域産業転換交付金(仮称)」を創設し、手厚い財政支援を行うのはどうだろうか。この交付金は、原発など「商業核施設」の廃止を進める都道府県および市町村のみに交付するもので、当該地域への事業所の立地・誘致を促進し、地域の雇用を拡大することを目的とする。なお電源三法交付金で建設され無用となった公共施設の整理のための補助金も用意する必要がある。

 それを効果的に進めるには自治体としての再開発計画が必要である。市町村レベルでの企画立案は容易ではないので、道県レベルで進めるのが適切である。福井県・青森県には複数施設があるので、全ての関係市町村の脱原発への同意を得る必要がある。

 石炭産業崩壊に際しては多くの地域で重化学工業の工業団地の誘致が試みられたが失敗した。産業転換構想は、そうした過去の教訓に学んで企画立案する必要がある。

福島後の未来をつくる

2015年

10月

13日

第7回 福島後の未来をつくる:中上英俊 住環境計画研究所会長 2015年10月13日号


◇秘められた日本の省エネ余力

◇自由化と利用者の意識がカギ


中上英俊(住環境計画研究所会長)


 日本の「省エネルギー法」の正式名称が「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」となっていることをご存じだろうか。これほど省エネの本質を表す名称になっているのは世界でも日本だけである。

 省エネの推進とは、エネルギーがどのように使われているかを精査し、非合理的な使われ方を是正していくことに他ならない。

 多くの人は、日本全体のエネルギー使用実態をとらえた統計データが存在したうえで省エネの議論が進められているとお考えではないか。しかし、日本には産業、運輸、民生の各部門別にエネルギー使用の実態を精査した経年的な統計は存在しない。

 

 ◇なかがみ・ひでとし

 1945年岡山県生まれ。73年東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程を修了、博士(工学)。同年、住環境計画研究所を創設、76年所長、2013年から現職。経済産業省総合資源エネルギー調査会臨時委員、環境省中央環境審議会専門委員などを務める。


 ところが最近になってようやく環境省により、家庭部門における炭酸ガス発生量を精査する公式統計の作成に着手することが決まった。

 これに続いて民生部門のもう一つの柱である業務部門(オフィスビル、飲食・小売り、病院、ホテル、学校など)のエネルギー消費実態を明らかにする検討が環境省、経済産業省で開始されつつある。

 


 今後の省エネ政策の最重点分野である民生部門のエネルギー使用実態が明らかにされることで、よりきめ細かい、現場に即した省エネ対策の検討が加速すると期待している。


 ◇野心的な13%


 昨年4月、第4次エネルギー基本計画が策定され、2030年に向けた長期エネルギー需給見通しの骨格が公表された。最も注目されたのは、30年における電源構成(再生可能エネルギー22~24%、原子力発電20~22%など)だが、需給見通し策定にあたって基本となるのは、30年における日本のエネルギー需要である。

 今回はこの需要についての見通しに関する議論が必ずしも十分ではなかった。筆者はこれまでも審議会に出席するたびに日本のエネルギー需要構造の把握が必ずしも十分ではないことを指摘してきた。それが今ようやく動き始めた。

 今回発表されたエネルギー基本計画では、30年に向けた省エネ目標として、原油換算で5030万キロリットル削減という数値が示された(図)。これは省エネを行わずにエネルギーを消費し続けた場合の30年の需要見通しの13%減に匹敵する。13%の省エネとは、ほぼ1週間に1日全くエネルギーを使わない量に相当する。並大抵ではない数値である。それほどの省エネをどう達成するのか。内訳をみると産業部門では鉄鋼、化学、セメント、紙パルプの主要4業種での削減や工場のエネルギー管理などで1042万キロリットルの省エネを見込んだ。

 運輸部門では、次世代自動車の普及や燃費改善、ITを活用した交通量のビッグデータ利用による省エネ対策が大きく組み込まれ、1607万キロリットルの省エネが目標とされた。

 さらに国土交通省による新築住宅の省エネ基準適合義務化が実行に移され、空調や照明などで国が定めた省エネ基準を満たさなければ住宅が建てられなくなる日が来る。

 加えてビルのエネルギー管理システム(BEMS)や住宅のエネルギー管理システム(HEMS)の導入によるエネルギー消費の見える化やエネルギーマネジメントの普及、LED照明の普及などにより、業務・住宅を合わせて2386万キロリットルの省エネを見込んでいる。従来の計画に比較して民生部門の比重が約2分の1に及んでいることが今回の見通しの大きな特徴である。

「この計画は本当に達成可能であろうか?」と考える人も多いはずだが、実はまだ日本には省エネの余地が多く残されている。


 ◇隠れたフロンティア


 そもそも日本の省エネルギーの水準は国際的に評価が高かった。家電などに課せられたトップランナー基準、つまり基準設定時に最も省エネ性能が優れている機器を数年後に全ての機器が上回るようにする制度は世界から高い評価を得てきた。鉄鋼や紙パルプ、セメントなどの製造工程におけるプロセスの効率は間違いなく世界トップである。日本のハイブリッドカーに代表される燃費改善も今や世界標準である。

 しかし、産業部門の中でも中小企業、業務部門では中小ビルや商業施設における省エネへの取り組みが取り残されてきた。こうした業態にはエネルギーの専門家がいないところもある。そこできめ細かい省エネ診断が実行されれば、日本にはまだ大きな省エネ効果が見込める。

 大型ビルでは近年、空調や照明などエネルギー消費の基幹部分に対する省エネ化の進歩が大きく加速しつつあるし、夜間不在時の非使用機材などのエネルギー消費削減はまだまだ可能だ。家庭の「待機時消費電力」もある。工場の製造工程には車のアイドリングに似た「固定エネルギー」と呼ばれる無駄な消費もある。

 これらの「固定エネルギー」消費の省エネの可能性は、エネルギーの専門家に指摘されるまでは一般に知る人が少なく、工場での電力消費の20%近くに及ぶ例もある。

 まさに“ちりも積もれば山となる”省エネの余地がそこかしこにあるわけだ。こうしたポテンシャルを発掘していくためにも、先に指摘したきめ細かい実態調査やエネルギー診断、エネルギー統計データベースの整備が必要なのである。

「原発ゼロか、推進か」といった紋切り型の議論で対立する前に、まず一人ひとりがエネルギーの使い方を再点検し、身の回りにも大きな省エネルギーの可能性があることを知るべきではないだろうか。

 ◇カギは消費者の意識


 当研究所の調査でも、家庭におけるエネルギー消費が居住者の意識の差によって大きく異なっていることが明らかになった。省エネ意識の高い家庭と低い家庭ではエネルギー消費量で実に約30%の差があることが確かめられた。欧州環境局の調査では、消費者の行動を変える政策でエネルギー消費を最大で20%削減できる、との報告書もある。

 米国での調査でも、ライフスタイルに影響を与えない範囲の行動調整で家庭用エネルギー需要の16~20%の省エネができるとの報告もある。どんなに技術的に優れた省エネ機器でも最終使用者である消費者がそれを適切に使わなければ効果は発揮されないのだ。

 日本ではこのように最終消費者がどのような機器の使い方をしているのか、当初期待した効果は得られているのか、といった研究は全く遅れている。当研究所はそもそもそうした問題意識から、消費者行動とエネルギー消費に着目して研究を始めたのだが、米国ではすでに8年前からこうした研究会が活動しており、毎年国際会議も開いている。

 世界的にも消費者行動はこれからの省エネの大きなカギを握るキーワードとなる。省エネは全国民、全産業、全社会活動にかかわる問題である。今後の日本の省エネ推進にあたってのキーパーソンは、我々一人ひとりの消費者なのである。

 もう一つ大きなカギを握るのがエネルギー供給事業者である。来年4月には、日本でも電力やガス事業の自由化が始まる。従来の事業者以外に新しい供給事業者が参入する。そこでのビジネスモデルは今までのような売り上げを至上の目的とするものではなく、いかにして総合的なエネルギーサービスを提供するか、省エネそのものが利用者のメリットとなるような仕組みを提供できるか、が問われる時代になるだろう。

 そういう時代になれば省エネというサービスを提供できない事業者は消費者にとって魅力に欠ける会社になるだろう。省エネの本質がエネルギーの合理的利用にあるとしたら、まさにその合理的利用を提供することこそが新しい時代のエネルギー供給者像であってほしいものである。

福島後の未来をつくる

2015年

10月

06日

第6回 福島後の未来をつくる:澤昭裕 21世紀政策研究所研究主幹 2015年10月6日号

◇さわ・あきひろ
 1957年大阪府生まれ。81年一橋大学経済学部卒業、通商産業省入省。資源エネルギー庁資源燃料部政策課長などを経て2007年5月から21世紀政策研究所研究主幹。11年4月から国際環境経済研究所所長。

◇原子力の不確実性と官民分担

政府は真正面から議論すべきだ


澤 昭裕

21世紀政策研究所研究主幹


 政府は今年7月、2030年の望ましい「電源構成(ベストミックス案)」を決め、再生可能エネルギーが22~24%、原子力が20~22%、火力発電が56%(LNG27%、石炭26%、石油3%)と示した。
 この数値のバランスは、エネルギー政策の目標である「自給率」「電力コスト」「温室効果ガス削減」の三つそれぞれについて、設定された数量目標の同時達成に必要な組み合わせとして提示されたものである。


 原子力を減らして再生可能エネルギーを増やすべきだという意見も出た。だがそうすれば、より割高な電源が増え、国民負担が年間2200億円増加するとの試算が公表された。電力コストを引き下げる目標が達成できないために退けられた。

 他にも電源構成案の検討は可能だが、「自給率・コスト・温室効果ガス削減」の三つの政策目標の同時実現を諦めない限り、日本のエネルギー政策の複雑な方程式は解けないと言ってもよい。

 ◇リプレースは棚上げ状態

 政府が30年の電源構成を決めた結果、原子力は当面の日本のエネルギー政策で必須の電源として再認識されたが、話はこれで終わらない。
 今回の電源構成目標は、14年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画について、より具体的かつ数量的に表現したものという位置付けだ。
 しかし、その基本計画では原子力の活用について、中長期的な展望が明確になっていない。
 この基本計画の策定プロセスで与党協議を経るなかで、原子力発電の新設や、原子炉を廃棄して別の新たなものに置き換える「リプレース」の問題が棚上げされたからだ。
 福島第1原子力発電所事故の後に改正された原子炉等規制法(炉規制法)により、原子炉の運転期間は原則40年に制限された。さらなる安全対策を施せば60年までの延長を認めうる制度だが、実際に認められるかは不透明である。
 しかし、30年での原子力20~22%の実現には、相当数の原子炉の運転期間延長が前提となる。そうなったのは、今回のエネルギーミックスの議論で新設・リプレース問題を正面から議論しなかったためである。
 原子力を日本のエネルギー政策の柱の一つとして維持するなら、早晩、原子力の必要性と持続可能性を徹底的に検討する必要がある。
 エネルギー基本計画は、法律によって3年に1度の見直しが義務付けられている。2年後には14年の基本計画を見直す時期が来る。次回の基本計画では、原子炉の新設・リプレース問題を明示的に取り上げ、一定の結論に達しなければならない。
 なぜなら、原子力は、火力発電などその他の電源よりも巨大なシステムであり、基盤となる技術や人材の維持には、長期にわたる巨額の投資が必要になるからだ。その投資に合理性をもたらす事業環境整備が必須になるが、相当の時間がかかることを覚悟しなければならない。

 ◇三つの不確実性

 原子力を巡っては、三つの不確実性が存在する。
  第一は、政治的・社会的支持が得られるかどうか。第二に、政策的な不確実性がある。電力自由化に伴い、巨額の電源投資に関わる長期的なコスト回収システム (供給原価に利益を上乗せして料金を決める総括原価主義)が廃止される。そのため、新設・リプレースする原子力投資の資金調達や、核燃料サイクルなど官民 共同事業で予定通り進んでいない政策の修正が問題になる。つまり電力会社が将来の事業環境をある程度予見できる計画や制度を官が示さないと、民間側も投資 に踏み切れない。
 第三の不確実性は規制の不確実性だ。改正後の炉規制法は、米国で安全規制の原則の一つとされるリスクに関するコストベネフィット(費用対効果)原則などは考慮されていない。運用の仕方次第では、適切な稼働率が確保できず、原子力発電の事業性に大きく影響する懸念がある。
 次期のエネルギー基本計画の策定プロセスではこうした不確実性の解消に向けた徹底的な議論が必要だ。
 まず、原子力の必要性について、政治的・社会的支持を取り付ける必要がある。
  日本の原子力の必要性を議論するうえでは、平和利用を決めた1950年代にさかのぼって再確認することが必要だろう。当時から現在に至るまで政策決定の ベースには、「日本にエネルギー資源がほとんど存在せず、原則輸入に頼らざるを得ない構造的脆弱(ぜいじゃく)性を少しでも緩和する必要がある」との認識 があるのだ。
 もちろんウランも輸入ではあるが、輸入先の政治的安定性、核燃料サイクルの実現による純国産化の可能性などから、化石燃料の脆弱性に比べれば比較にならないほど安定的なエネルギー源だと考えられた。
 しかし、こうした前提条件は今でも当てはまるのか。
  まず、化石燃料の輸入における安定性分析、化石燃料の供給途絶に対する日本の経済社会の耐久性の数量的分析などをより深く検討するべきだ。そのうえで、原 子力をエネルギー源として維持する際の技術開発・人材育成・設備投資コストと比べ、原子力の将来的なオプション価値を算出する必要がある。
 また、再生可能エネルギーでも同様の分析を行い、それらを比較可能な形で提示してはどうか。
「原 子力は日本にとって必要だ」と述べるだけでは足りない。国民の生活や経済活動に必要な量を確保する「エネルギー安全保障」の観点から、原子力が必須だとい う結論に至れば、発電コストが他電源との関係で競争力が低くなっても、安全保障上の価値を評価することで、原子力事業は維持すべきものになる。
  なお、温暖化ガス削減への貢献も原子力の現代的意義だが、日本のエネルギー事情や社会的な関心の文脈からは、エネルギー安全保障における存在意義がより重 要である。温暖化問題への対処は、原子力の必要性を説明するうえで根拠を補強することにはなるが、それだけによって立つことは難しいだろう。

 ◇官民のリスク分担

 電力自由化と関わる原子力事業環境整備や核燃料サイクルについては現在、政策検討が進行中だ。キーワードは官民のリスク分担である。
  原子力はエネルギー安全保障の主軸とされてきた電源であり、発電を担う民間原子力事業者だけが原子力の事業リスクを負うべきではない。発電をはじめとし て、放射性廃棄物の処理や廃炉などのバックエンドに至るまで、事業の性質や内容によって、官民それぞれのリスク分担の程度や方法は多様なものになるだろ う。
 いずれにせよ、政府は電力自由化を見据えた原子力政策において、問題を分かりやすくかつ総括的に説明する必要がある。
 具体的に は、(1)発電とバックエンド全体を含めた原子力政策全体を俯(ふ)瞰(かん)的・整合的に進める方針を提示する、という政策責任の主体を明確にするこ と、(2)自由競争下の原子力事業のリスクに関わる金融的支援やコスト回収システムの整備、(3)海外関係国や国内の関係自治体への対応、(4)原子力関 連基礎技術・安全関係技術の研究開発体制の再編と予算配分の見直し、(5)原子力の安全規制の根本的な考え方やリスクのマネジメント、また、ゼロにならな い事故のリスクへの対応方法──の5点である。
 次期エネルギー基本計画の策定に向けて、原子力関係者は、その内部で相互に責任やリスクを押し付け合っている暇はない。関係各省、規制委員会、事業者は、安全な原子力利用という共通目的の実現にあたり、建設的な議論を積み重ねる最後のチャンスだと認識する必要がある。

2015年

9月

29日

第5回 福島後の未来をつくる:高村ゆかり 名古屋大学教授 2015年9月29日号

 ◇たかむら・ゆかり

 1964年島根県安来市生まれ。京都大学法学部卒。一橋大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。龍谷大学教授などを経て2011年から現職。専門は国際法、環境法。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた。

 ◇原発稼働と無関係に必要な再生エネ

 ◇変動性の大きさは欠点ではなく特質


高村ゆかり

(名古屋大学教授)


 原子力発電所の稼働について、「原則40年」と定めた原子炉等規制法のルールを順守すれば、建設中の原発3基を除く既存の原発43基は2050年には全て運転を終えることとなる。

 原発の稼働には、新規制基準に基づく原子力規制委員会の厳しい審査をパスし、地元の同意を得る必要もある。そのために必要な費用を考えると、電力会社の経営判断として、この40年を待たずに原発の稼働を止めることだってあり得る。



 福島事故後の経験からも分かるように、国内のエネルギーを原発に大きく依存することは、何かトラブルが生じた時などには深刻な問題を生じかねない。化石燃料をたき増しして対応すれば、エネルギー自給率も下がり、燃料費負担の上昇とそれに伴う電力料金の上昇、温室効果ガス排出量の増加につながる。

 将来にわたって原発をどうすべきかは、国論も二分しており、十分な国民的議論が必要だ。しかし、原発をゼロにするにせよ、使い続けるにせよ、原発に代わり得る「国産」の電源を確実に確保する施策を今、着実に進めておかなければならない。


 ◇なお拡大の余地


 福島事故後に浮き彫りになった日本の電力・エネルギー体制の課題の一つが、地域縦割り・地域独占を基礎にしたこれまでの電力供給システムの脆弱(ぜいじゃく)さである。この課題を克服するうえで重要な取り組みが、電力小売りや発電の自由化など電力システム改革とともに、地域分散型のエネルギーシステムへの転換だ。そしてこの地域分散型エネルギーシステムには再生可能エネルギーが不可欠だ。再生エネは、比較的小規模で、消費地に近いところで発電したり、住民の参加や創意工夫によって地域内で自立的に電力の需給を管理したりできるためである。

 なかでも太陽光は、立地制約がなく、日本のどこででも、住民・需要家の身近に導入できる強みがある。災害など緊急時には地域で必要なエネルギーを供給できるため、地域の災害に対する抵抗力や回復力などのレジリエンス(強じん性)強化にも貢献する。これからのまちづくりの要となる温室効果ガス排出ゼロのゼロエミッション型の建築物(ZEB)や住宅(ZEH)を担うエネルギーでもある。

 政府は30年時点の望ましい電源構成(エネルギーミックス)において、太陽光のシェアが7%との見通しを示した。しかし、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)で今まで認定された設備が全て稼働すればすでにこれを上回る。風力の見込みも1・7%にとどまるが、風力発電協会は8%超の見込みを示している。太陽光、風力とも、政府見込みを上回る積み増しが可能だし、積み増す必要があるだろう。

 政府の太陽光や風力の導入見通しは、FITを通じた再生エネ電力の買い取り総額について30年度に約4兆円と想定したうえで、バイオマスや地熱など他の再生エネ導入に必要な買い取り額を差し引いた残りの買い取り額を基に導入量を見込んでいる。また、発電コストが国際価格の水準まで下がらないことが想定されており、その分、導入支援のための買い取り額が割高に見積もられている面がある。そのため、このコストを低減できれば、太陽光や風力の導入量はもっと増やすことができる。

 で示したように、住宅用太陽光はすでに発電コストが電力料金の水準に近づきつつある。早晩、豪州などのように、FITがなくても普及が進む状況になっていくだろう。

 発電コストが電力料金を下回ると、電力会社から電力を買うよりも、発電した電力を自身で使ったほうが経済的ということになる。それまでの間は、例えば一定規模以上の建物に太陽光の設置を義務付けるなど、自家消費を奨励し、自立的な普及期へうまく導く支援戦略が必要だ。

 ここで、FITを巡る重要な論点の一つが賦課金負担だ。賦課金は、電力会社による再生エネの買い取り費用の一部を家庭や企業が使用した電力量に応じて電気料金の一部として支払うものである。15 年度の負担総額は1兆3000億円前後に上るとされ、「高すぎる」との批判もある。

 この負担を下げる努力はもちろん不可欠だ。ただし、30年を超える時間軸で考える必要がある。賦課金の負担の大半を占めるのがFIT導入当初に認定された太陽光の賦課金である。これらの太陽光の買い取り期間が終わる32年ごろを超えると、再生エネの賦課金負担は大きく低減する見込みだ。そして、買い取り期間が終了した後の発電設備は、設備投資の回収が終わって安価な電気を供給してくれる純国産電源となる。その意味では将来世代のための貯金と言うこともできる。

 日本ではかつて石炭から石油、石油から原子力へと、将来を見越して「あるべき」エネルギーシステム転換のために政府主導で大きな投資を行ってきた。賦課金の負担も、将来のあるべき電力システム=社会インフラを構築するために必要な「投資」として捉えるべきではないか。

 太陽光や風力の普及を進める上で課題として指摘されるのは、天候などの自然条件によって発電量が左右される「自然変動性」だ。欧米も、中国やインドなど新興国も、太陽光や風力の自然変動性を「欠点」ではなく、「特質」と捉え、むしろそのポテンシャルの大きさを生かす技術開発や対応策に注力している。日本もその特質を踏まえてどう伸ばすかを考えるべきだ。


 ◇変動性は広域的にカバー


 こうした特質を持つ再生エネの導入をさらに拡大するには、拡大する発電量を受け入れられるようにするために送配電網の増強が必要だ。そしてそれ以上に、現在十分活用されているとは言いがたい地域間の連系を一層活用し、全国の系統(電力ネットワーク)を広域的に運用する必要がある。

 また、再生エネの変動を火力で調整するだけでなく、揚水発電や水力、バイオマスなど再生エネやコージェネレーション(熱電併給)による調整も検討すべきだ。

 同時に、日本は、再生エネを、急速に拡大する世界市場にアプローチするための産業政策として位置づけるべきだと考える。国際エネルギー機関(IEA)などによると、世界的なエネルギー需要の伸びや温暖化対策としての要請などを背景に、世界の再生エネに対する投資額は14年に前年比15・7%増の3100億㌦(約37兆円)に達した。今後も14?35年の20年間で計9兆㌦(約1000兆円)の投資が見込まれる。

 世界知的所有権機関(WIPO)によれば、太陽光や風力、太陽熱、バイオ燃料の再生エネ関連技術の特許保有件数世界上位20社のうち、パナソニックや三菱重工業など日本企業が実に12社を占めている。日本企業にとって、こうした強みを生かさない手はない。企業の技術力や国際競争力を高めるうえでも国内市場の育成は必要だ。再生エネ政策に産業政策としての視点をもっと入れ込むべきだろう。

2015年

9月

21日

第4回 福島後の未来をつくる:田中伸男・笹川平和財団理事長 2015年9月22日特大号

 ◇たなか・のぶお

 1950年生まれ。東京大学経済学部卒。73年通商産業省入省。経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局長などを経て、2007年9月~11年8月、国際エネルギー機関(IEA)事務局長を務める。

◇核のゴミ処理のための統合型高速炉

◇全電源喪失でも停止すると実証済み

田中 伸男(笹川平和財団理事長)

 

現在、日本の原子力はさまざまな問題を抱えている。3・11後の大きな課題として、福島第1原発の原子炉に溶け落ちた燃料を取り出し、それを処理しなくてはならないが、その処理方法も、処理する場所も全くメドが立っていない。

 そもそも日本の原子力政策は、原発から出る使用済み燃料を再処理して残ったウランを回収し、さらに原子炉内でウラン燃料から生成されたプルトニウムを抽出し、それらをウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工して高速増殖炉で使うという道筋を描いていた。

 高速増殖炉は投入した以上のプルトニウムを生成することができる夢の原子炉とされたが、二つ目の炉である「もんじゅ」で事故や隠蔽(いんぺい)行為が発覚し、いまも稼働のメドが立っていない。そのため、やむなくMOX燃料を全国各地の原発で再利用する軽水炉サイクル(プルサーマル)へと転じた。

 


しかし、使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す青森県六ケ所村の再処理工場はたびたび完成時期が延期されているうえに、この再処理設備で生じる高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決まっていない。

 つまり高速増殖炉とプルサーマルという核燃料サイクルは、実現の見通しが立っていないのである。この核燃サイクルが成立しないと、核兵器への転用が可能なプルトニウムの行き場がなくなり、国際公約である核不拡散に反することにもなる。

 原発事故が起きて改めて国民の最大の懸念となっている原子炉の安全性については、万が一の事故が起こっても、メルトダウン(炉心溶融)を起こさず安全に止めるという「受動的安全性」を確立しない限り、国民の多くが再稼働に納得することはないだろう。しかし、その課題を解決したとしても、核のゴミやプルトニウムの問題は残されている。この問題は原発ゼロにしたとしても解決できない。

 これらの問題に対し、一応の答えを出せる方法が「統合型高速炉」(IFR、Integral Fast Reactor)だと私は考える。

 ◇福島第2に実験施設を


 統合型高速炉とは、金属燃料を用い、高速中性子で核分裂させる高速炉と、使用済み燃料の電気分解型乾式再処理施設を組み合わせたもので、米イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所が開発した。米アイダホ州の5万キロワットの実験炉で、乾式再処理により作った燃料を使う実験も行っていた。

 この統合型高速炉では、現在の再処理のように、使用済み燃料からプルトニウムだけを取り出すのではなく、マイナーアクチノイド(放射性毒性が強いさまざまな元素)も一緒に取り出し、加工した金属燃料を高速炉で使用する。そのため、残った廃棄物の放射能レベルが天然ウラン並みになるまでは300年と、使用済み核燃料の10万年より格段に短い。

 さらに、六ケ所村の再処理施設で出る高レベル放射性廃棄物や使用済みMOX燃料も再処理できれば、現在の核燃サイクルに足りない部分を補完する。

 再処理で取り出すプルトニウムは純粋なものではなく、マイナーアクチノイドと混ざっているため、核兵器の原料になりにくい。さらに、再処理施設と原子炉がつながっているため、プルトニウムが施設外に持ち出されることがなく、テロ対応の面でも核不拡散性が高い。


 安全性については、1986年に実験炉で全電源喪失を起こす実証が行われ、安全に停止した。この模様は映画「パンドラの約束」(2014年公開)に収められている。技術的な説明ではなかなか人々が安心しないなか、実証で安心は増すだろう。

 統合型高速炉のプロジェクトは米民主党のクリントン政権下で1990年代に中止され、実験炉も閉鎖された。2大政党の政治闘争の影響だ。民主党は他国に核兵器を持たせたくないという意見が強く、統合型高速炉はプルトニウムを取り出して使うものだからと反対した。

 米エネルギー省は、この統合型高速炉では純粋なプルトニウムが取り出されるわけではないと反論したが、議会の理解を得られなかった。米国はシェールガスやシェールオイル、それに石炭資源が豊富で電力源に切迫しているわけでもないため、使用済み核燃料はそのまま乾式貯蔵で保管し、いずれ技術が開発できたら再処理して燃料にするという時間稼ぎ戦略で済むが、資源がなく、かつ福島第1原発を抱える日本にその余裕はない。


 今、この技術に関心を抱いているのが韓国だ。アルゴンヌ研究所と共同で使用済み核燃料の再処理メカニズムについての研究を2020年にかけて行っている。韓国はポスト軽水炉の輸出産業とするつもりだ。ここに日本も加わり、日米韓が一緒に統合型高速炉の研究を行い、核不拡散の新しいアジアモデルを作って実行してはどうだろうか。

 そして、福島第2原発の敷地に、統合型高速炉の実験施設を建設してはどうか。福島第2は福島第1に近く、溶け落ちた燃料を運んで処理するうえで合理的だ。東日本大震災の地震津波にも耐え、ある意味で日本で最も安全性が確認されている。実際に福島第2に施設を作るためのコストはどの程度か、足りない技術は何か、当財団で研究するつもりだ。

 福島の人からは「どうしてこういう技術があると教えてくれなかったのか」と言われた。私自身も経済産業省にいながら全く知らずに来た。福島の事故後に知って勉強し、本当にできるなら、日本の原子力が抱える問題の答えになると思った。


 ◇夢ではなく現実的選択

「高速炉」というと、日本では高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)のイメージが強く、反発があるだろう。これまで「高速増殖炉は夢の技術で世界一安全、資源がない日本には必要」と説明してきたが、事故が続き信用されなくなった。この統合型高速炉は核のゴミ処理が目的だと説明すべきだ。副産物として電気ができる。“夢”ではなく、既に生じた問題に対する現実的な選択として示す。

 高速炉と高速増殖炉が共通するのは、核分裂に高速中性子を用い、ナトリウムで冷却する点だ。ただ、高速増殖炉では核分裂によりプルトニウムが増殖するよう燃料を配置するが、高速炉はその配置はせず、プルトニウムが増えることはない。それに、もんじゅの冷却方式は経済性を重視したループ式だが、高速炉はナトリウムのタンクに原子炉で発生する熱を取り出す1次系が沈んでいる形のため、冷やしやすい。


 ◇10万年か、300年か

 現在の軽水炉を軸とした技術体系からパラダイムを変えるのは大変だ。人材、技術の面からもそうだし、規制のあり方も知見がない。ただ、米国で実験炉が20年にわたって稼働していた。日本からも当時、電力中央研究所と東芝の研究者が米アルゴンヌ研究所に派遣されていた。知見を持った人たちが年をとってきており、今、技術開発に取り組まなければ技術が失われかねない。

 現在ある軽水炉の運転年数は40年で、60年に延ばすとしても、廃炉になっていくのはそれほど先のことではない。その時、何で置き換えるのか。

 二酸化炭素を出さず、かつ輸入に頼らない国産のベースロード電源として太陽光や風力はコスト高だし、変動をならすための電力貯蔵技術もまだ間に合わない可能性が高い。

 原子力技術では高温ガス炉は安全性が高く、熱源としても使えるが、使用済み燃料の処理はできない。ゼロから原子力を導入する国には向いているが、日本は既に原子力を使ってきている。

 もう一つの問題として、米国による技術協力と規制を定めた日米原子力協定が2018年に期限切れとなる。その後、自動延長にはなるが、いつ米国の意向で破棄されるか分からず、不安定だ。長期的に原子力開発を行えるよう協定を改定するためには、核不拡散とゴミ処理を進めるプランを示す必要がある。

 高レベル廃棄物の処分地がなかなか決まらない現状で、この統合型高速炉により使用済み核燃料の処理を分散型で行うというのも一つの考え方だ。新潟や福井など各原発や六ケ所村の再処理施設の隣にそれぞれ統合型高速炉を設置する。廃棄物が放射能レベルが十分下がるまでに300年となった状態で置いておく。

 

日本の原子力関係者は福島第1の事故で自信喪失した。時間がたてば国民の原子力に対する信頼は回復すると期待しているが、安全への心配から一向に反対論は消えない。政府は経済性や環境対策、国際情勢で石油・ガスの輸入が止まった場合のエネルギー安全保障の面でもやっぱり原子力は必要だと言ってきたが、同じ説明を繰り返しても国民の意見は変わらない。今、どういう問題があるのか。それに対してどのような選択肢を取りうるかを示すべきだ。

 これまで、日本は軽水炉と六ケ所村の再処理施設ともんじゅの核燃サイクルとで原子力を進め、違う選択肢を捨ててきた。だから今、原子力かゼロかという議論になってしまっている。そうではなく、核のゴミを10万年置いておくのか、300年にするのかを選択する。安全性、ゴミ処理、核不拡散という原子力の持続可能性の三つの条件を満たすのが統合型高速炉だと私は考える。 

2015年

9月

15日

第3回 福島後の未来をつくる:河野太郎 衆議院議員 2015年9月15日特大号

 ◇こうの・たろう

 1963年、神奈川県平塚市出身。米ジョージタウン大学卒業後、86年富士ゼロックス入社。日本端子を経て96年、衆院選初当選。神奈川15区で現在7期目。2014年9月から自民党行政改革推進本部長


◇必要なくなった核燃再処理工場

◇青森県と向き合う首相の決断を


河野太郎(衆議院議員)


 日本原燃が来年3月、青森県六ケ所村に建設を進める使用済み核燃料の再処理工場を完成させると言っている。もともと1997年に完成予定だったのが、相次ぐトラブルによって竣工が22回遅れ、建設費も当初の7600億円から約3倍へと膨れ上がったいわくつきの施設だ。しかも、もし今回、再処理工場が完成しても、この工場を稼働させる必要がそもそもない。プルトニウムを使用する高速増殖炉の商用化が、これも当初は1980年代と言われていたにもかかわらず、いまだメドが立っていないからだ。


 ウラン燃料が原子炉で燃えてできた使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを高速増殖炉という特別の原子炉に入れて燃やすと、理論的には投入した以上のプルトニウムを取り出すことができる。これが「核燃料サイクル」と呼ばれる我が国の原子力政策だが、もはや核燃料サイクルは国民にとってまったくメリットがない。それにもかかわらず、政府が昨年4月に閣議決定したエネルギー基本計画では、再処理政策を堅持することをうたっている。


 ◇立地自治体との“約束”


 なぜ、経済産業省と電力会社は使用済み核燃料の再処理を強引なまでに進めようとしているのか。

 経産省と電力会社はこれまで、原発の立地自治体に対して、使用済み核燃料は原発敷地内のプールで一時的に保管するが、その後、青森県の再処理工場に搬出されるので、使用済み核燃料は立地自治体には残らないという約束をしてきた。他方、青森県に対しては、使用済み核燃料はプルトニウムを含む重要な資源であるという説明を繰り返し、六ケ所村での再処理工場の建設を認めてもらった経緯がある。また、もし政策が変更され、青森県に運び込んだ使用済み核燃料を再処理しないことになれば、国と電力会社は速やかに「核のゴミ」となった使用済み核燃料を青森県から運び出す約束もした。

 もし、使用済み核燃料を再処理せず直接処分するという政策変更をしたならば、途端に青森県から使用済み核燃料を持ち出さなくてはならなくなる。しかし、原発の立地自治体に対しては、核のゴミは残さないという約束をしているため、原子力発電所に使用済み核燃料を戻すことができない。そうかと言って、青森県から使用済み核燃料を持ち出しても、持っていくところがないのが現実だ。

 そのため、経産省と電力会社は、再処理の継続を明言し、使用済み核燃料の問題を先送りする道を選び続け、巨額の無駄なコストを支払ってでも再処理を進める、あるいは進めるふりをしてきた。そこで、再処理を継続するための理由として、経産省は「再処理はウラン資源のリサイクル」だと言い張った。しかし、使用済み核燃料を再処理しても、再利用できるウラン資源はごくわずかであり、そのために莫大(ばくだい)なコストがかかる再処理に経済的な合理性はない。

 使用済み核燃料の再処理によって再利用できるのは、プルトニウム1%とプルトニウムとともに回収される回収ウラン1%の合計2%にすぎない。残りの回収ウランは不純物が多く、当面、貯蔵しておくしかない。だからほとんどウランのリサイクルにはならないのだ。


 ◇「有害度短縮」の虚実


 経産省は次の理由付けとして、使用済み核燃料を直接処分すると天然ウラン並みの有害度に低減するまで10万年かかるが、再処理すればそれが8000年(軽水炉のガラス固化体の場合)に短縮されると言い出した。

 しかし、使用済み核燃料にはプルトニウムがすべて含まれているのに対し、再処理するとプルトニウムが分離され、高レベル放射性廃棄物だけが残る。プルトニウムを分離した高レベル放射性廃棄物とプルトニウムを含んだ使用済み核燃料を比較すれば、プルトニウムが取り除かれている分だけ高レベル放射性廃棄物の有害度は低くなるが、取り除かれたプルトニウムもいずれ処分しなければならない。いわばミカン全体とミカンの皮を比較して国民をだましている。

  使用済み核燃料の再処理は、核の安全保障上も問題がある。プルトニウムは核兵器の原料になるため、本来、使用目的のないプルトニウムを保有することはできない。再処理して取り出されるプルトニウムは取り扱いが容易だが、使用済み核燃料は放射能が強く取り扱いが困難で、テロリストがむやみに近づくことはできない。内閣府の原子力委員会も、再処理をした場合と直接処分をした場合を比較して、核兵器に使われる可能性のあるプルトニウムを分離する再処理のほうが危険だと結論付けている。

 日本が高速増殖炉の燃料にするために英仏両国に依頼して取り出したプルトニウムは、内閣府原子力政策担当室によれば国内外で47・1トン(2013年末時点)に上る。さらに、再処理をすれば高レベル放射性廃棄物の体積自体は減らすことができるものの、再処理の過程で直接処分では存在すらしないTRU(超ウラン元素)廃棄物が大量に発生し、低レベル放射性廃棄物も莫大になる。再処理工場の廃止に伴う廃棄物の発生量まで合計すれば、廃棄物体積は4~5倍になる。


 ◇最終処分の議論不可欠


 脱原発に踏み出すためには、まず使用済み核燃料の問題と向き合うことを避けるために再処理を続けるという、ばかなことからやめるべきではないだろうか。原発に関する国民的議論が高まる中で、「使用済み核燃料の搬出先がないから核燃料サイクルを動かす」という本末転倒の論理は通用しない。再処理にはまったくメリットがなく、直ちにやめるべきだ。そして、使用済み核燃料の中間貯蔵、最終処分について、逃げずに真正面から議論して、合意形成を進めることが必要だ。

 まず、首相が青森県を訪れ、使用済み核燃料の再処理をやめるという政策変更を行うこと、また青森県内に最終処分場を設置しないという約束は今後も守られることを伝えるべきだ。その上で、青森県内に搬入された使用済み核燃料の保管場所を探す間、使用済み核燃料の保管料を青森県に対して支払うこと、再処理関連施設に代わる経済支援を行うことを明確に伝え、青森県の了解を得ることから、脱再処理がスタートする。

 使用済み核燃料はすでに発生している現実だ。この現実と我々は向き合わなければならない。使用済み核燃料を保管する地域に対する保管料は、原子力発電のメリットを享受した消費者が負担しなければならない。原子力発電は、こうしたコストを考えれば決して安くはないだろう。再処理から抜け出すための第一歩は、青森県としっかり向き合うという首相の決断だ。

福島後の未来をつくる

2015年

9月

08日

第2回 福島後の未来をつくる:橘川武郎 東京理科大学大学院教授 2015年9月8日号

◇最新鋭の原子炉導入と再エネ比率30%への拡大を


橘川武郎(東京理科大学大学院教授)


 東京電力福島第1原子力発電所事故を機に浮かび上がった日本のエネルギー問題を解決するためには、「S+3E」を進めて乗り切るしかない。政府は2014年4月、「Safety」(安全性)、「Economic Efficiency」(経済効率性)、「Environment」(環境適合性)、「Energy Security」(安定供給)をバランスよく実現するとした「エネルギー基本計画」を閣議決定しているが、その政策をさらに進化させるべきである。



 ◇きっかわ・たけお

 1951年、和歌山県旧椒村(現有田市)生まれ。東京大学経済学部卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。東大、一橋大学大学院教授などを経て現職。2030年の電源構成を議論する経済産業省の有識者会議で委員を務めた

 ◇無責任な運転期間延長

 安全性については、危険をはらむ原発をどう扱うかが最大の焦点となる。現在の原発立地状況の中でいかに安全を確保するかを考えた場合、今すぐ廃炉にできない以上は、危険を最小化するために最大限の努力をしなければならない。それが「最新鋭の設備」であることは多言を要しない。


今後も原発を使うのであれば、同一敷地内で古い原子炉の廃棄と並行して、最新鋭の原子炉に置き換える「リプレース」が最低限の前提となる。 

 日本には現在、福島第1原発を除いて43基の原発がある。そのうち福島と同型の沸騰水型軽水炉(BWR)22基のうち最新鋭のABWRは、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機など4基しか存在しない。

 21基の加圧水型軽水炉(PWR)に至っては、安全性の高い改良型のAPWRや東芝子会社の米ウェスチングハウスが開発した「AP1000」は皆無である。中国ですら、AP1000が間もなく稼働すると言われているにもかかわらず、である。

 改良型は、設備を簡素化することで安全性を確保する設計で、ポンプなどの動力設備を極力減らし、静的安全性(外部からの操作なしに危険回避する動作を行うシステム設計)を高めている。原子力規制委員会が震災後に定めた新基準で対策を義務付けられた放射性物質が漏れ出す「過酷事故」のリスクを最小限に抑えられる施設だ。

 しかし政府は、世論の反発を恐れてリプレースに関する議論から逃げ、12年の原子炉等規制法改正で定められた「原則40年」を破った小手先の運転期間延長で、原発への回帰を進めようとしている。このようなやり方は、無責任だと言わざるをえない。

 もちろん、リプレースを強調するだけでは、「原発依存度を可能な限り低減する」という安倍晋三首相の公約や、世論の期待と平仄(ひょうそく)が合わない。電源構成に占める原発比率は減らしながら、安全を考える発想に転換せよ、ということだ。

 使用済み核燃料は今、国内に1万7000トンある。全ての原発を止めたままでも、日本は過酷事故のリスクと隣り合わせにあるということだ。この使用済み核燃料の最終処理施設は国内に存在せず、各原発の燃料プールに保管されたままだ。青森県むつ市の乾式中間貯蔵施設と同様の設備を全国の原発に作り、電力消費地から保管料を徴収する制度に改めるべきだろう。そして、機能していない核燃料サイクルの高速増殖原型炉「もんじゅ」を、核のごみ減容炉に変更していくのだ。

 再生可能エネルギー比率を高めることで、30年の原発依存度を政府決定の20~22%から大きく下回る15%程度にまで抑制すべきである。可能な限り低い依存度で、使用済み核燃料を減らす取り組みを同時に行ってリスクを最小化することが、唯一の責任ある道だと言える。


 ◇LNGを安く買う


 日本のエネルギーの経済効率性を考えるうえでは、火力発電用化石燃料の調達コスト削減が重要な意味を持つ。

 政府は「電源構成における原子力比率を高めれば高めるほど、再エネ比率を低めれば低めるほど、電力コストは下がる」と強く主張しているが、それは大きくポイントを外している。

 政府が策定した30年の電源構成では、原子力と再エネの合計は44%にとどまり、残りの56%は火力が占める。さらに1次エネルギーで見ると、原子力と再エネは24%に過ぎず、化石燃料が76%に達する。経済効率性を左右するのは、化石燃料の調達コストであるのは明らかだ。

 原発依存度を減らし、再エネ比率を増やしても、常に化石燃料コストの急上昇という経済的なリスクにさらされる。現在、化石燃料として、数量、金額ともに最大のウエートを占めるのはLNG(液化天然ガス)である。今必要なのは、原発事故後に拡大した貿易赤字の元凶となったLNG調達コストを引き下げる取り組みである。具体的には以下の五つが考えられる。

(1)原発と石炭火力の選択肢を放棄しない。化石燃料を海外から購入する際の価格交渉で相手に足元を見られることになるからだ。

(2)海外で「日の丸ガス田」の開発を推進する。国際石油開発帝石(INPEX)が豪州で開発・生産に携わる「イクシス・プロジェクト」は、「日の丸ガス田」の最初の本格的な事例である。

(3)北米でシェールガスをまとめ買いする。東京電力と中部電力の間で、世界最大級となる年間4000万トンのLNGを調達する協定が成立したが、ここに東京ガス、大阪ガス、関西電力が加われば7000万トンとなり、さらに有利に購入交渉に臨むことができる。

(4)世界最大のLNG輸入国である日本と、第2位の韓国が連携して、購買交渉力を強化する。日韓両国の購入量の合計は、全世界の約半分に及ぶ。世界のLNG取引は、需給で価格が決まる取引市場として、北米のヘンリーハブと欧州のナショナル・バランシング・ポイントが中心だが、日韓両国が手を組めば、東アジアに世界で3番目の市場ができる。米欧と並び東アジアにも需給で価格が決まる市場ができれば、欧州並みの水準でLNGを調達することも夢ではない。

(5)LNG取引の約7割を占める長期契約の条件を買い手側に有利に改定する。通常、電力ガス会社のLNG取引は5~20年の長期の契約を交わされるが、15~17年にはその契約更改交渉が集中すると言われている。そこで上記四つを合わせ、▽原油価格の変動の影響を緩和する価格設定方式の再構築▽購入価格の上昇につながる仕向け地条項=荷揚げ場所を固定し、第三者への転売を禁止する不利益条項=の撤廃──などが不可欠だ。

 LNGの安価な調達が実現すれば、一定量の電力を安定供給できる「ベースロード電源」としてLNG火力を位置づけることができ、同じベースロードの原発比率を大幅に引き下げることが可能になるのである。


 ◇石炭火力が切り札


 環境適合性の面で重要なのは、地球温暖化防止に向け、温室効果ガスを日本国内でいくら削減しても、世界全体から見ると大きな効果が見込めないということである。

 国際的に見ると、世界の電源は石炭火力発電への依存度が圧倒的に高い。12年の電源構成で、中国は76%、インドは71%が石炭火力だ。そこで鍵を握るのが、環境負荷が低くエネルギー変換効率が高い日本の石炭火力技術である。石炭火力のエネルギー変換効率で、日本は世界トップクラスの42%の実績を上げている。アメリカは37%、中国とインドに至っては32%程度しかない。日本での最も効率的な発電技術が世界に普及すれば、それだけで、世界のCO2排出量は大幅に減少する。

 資源エネルギー庁の試算によれば、米国・中国・インドの3国で日本の石炭火力技術を活用すると、CO2排出量は年間15億2300万トン削減される。これは、日本の排出総量14億800万トン(13年度)を上回る。日本の石炭火力発電技術は、地球温暖化防止の「切り札」となるというのは、決して過言ではないだろう。

 そのためには「2国間オフセット・クレジット制度」を拡大する必要がある。この制度では、先進国が新興国に発電や製鉄、運輸などの分野で省エネや、CO2排出量削減技術を提供する代わりに、削減された排出量の一部を排出枠(クレジット)として受け取り、国内の温室効果ガスの排出量と相殺できる。

 2国間オフセット・クレジット制度が多国間に拡充された形で確立され、日本の石炭火力発電技術が海外で普及すれば、たとえ日本国内で石炭火力発電所が新増設され、CO2排出量が増えたとしても、地球全体で見れば、CO2排出削減が進む。

 国内の火力発電用化石燃料コストの削減と、地球規模での温暖化防止が両立するのである。環境適合性にとって本当に取り組むべき課題が、「高効率な石炭火力発電技術の海外移転」をいかに実現するかにあることは、誰の目にも明らかであろう。


 ◇送電網整備で再エネ拡大


 エネルギーの安定供給の点では、自給率を高めることが重要になる。そのためには、30年の電源構成における再生可能エネルギーの比率を、政府決定の22~24%から30%まで引き上げる必要がある。

 ここで考えておかなければならないのは、電力会社に一定額での再エネ買い取りを義務付ける固定価格買い取り制度(FIT)は、普及のきっかけとしては重要な意味を持つものの、それ自体が拡大の王道ではないということである。FITはあくまで弾みをつける役目で、最終的には市場で勝負できる電源にならない限り、再エネは持続可能な形で定着しない。再エネ拡大の根本原則は、市場での普及にあることを忘れてはならない。

 再エネはコストが高いイメージが定着しているが、30年には太陽光の発電単価は石炭火力より安くなる。海外では既に、1キロワット時当たり9円まで下がっている例もある。経済産業省の試算では、原子力の30年の発電単価は「10・1円以上」だ。再エネを使わない手はない。市場ベースで本格的に普及させるうえで鍵を握るのは、再エネを受け入れやすい送電システムを整備することである。

 まず、「不足している」と言われている送電線網のチェックだ。ここでは、今後廃炉となる原発で使っていた送変電設備の活用が焦点となる。「原則40年」に基づけば、現在ある43基の原子炉のうち25基は、30年12月末までに運転を停止することになる。再エネの本格的な拡大に不可欠な送電線問題は、原発廃炉によって「余剰」となる設備の徹底的な活用で解決できる。

 第二に、送電線を作る仕組みを構築することである。

「送電線はもうからないから誰も作りたがらない」という見方がある。しかし、分散型電源の普及や、広域な系統連系、つまり再生エネルギーや電力会社以外の民間の発電所などから電力会社への送電系統への接続が求められるこれからの日本にとって、送電線は欠かせない設備となる。投資対象としての送電線事業の利益率は低いかもしれないが、安定的な事業であることは間違いない。(1)金融市場が的確に評価する、(2)送電線投資に対して国が政策的に支援する──などの仕組みを構築し、送電網の拡大を後押しすることが極めて大切である。

 電力会社には、既存の送電設備の性能を向上させることで、送電規模を大きくする方法もあることを忘れないでほしい。

 第三は、そもそも送電線を必要としない方式を導入することである。全国各地でスマートコミュニティー(電力・熱・水などインフラの効率的な管理・最適制御を実現した社会)を拡大し、電力の「地産地消」ウエートを高めて、送電にかかる負荷を減らす。再エネの発電設備や、それと系統連系する変電設備で蓄電能力を高める。再エネ発電の現場で、余剰分の電力を使って水の電気分解を行い、水素の形で「電気」を消費地に運ぶ。これらはそれほど大規模な送電線敷設を行わなくても可能だ。

 ここで言及した解決策のなかには、時間が必要なものがある一方、すぐに進められるものもある。着実に送電システム問題を克服し、市場での普及を目指すことが、再エネを本格的に拡大する道なのである。

「S+3E」の進化は、大変壮大な計画である。関係する省庁や自治体も多く、新たな政策や、国際社会での取り組み、国家間の交渉力も必要だ。しかし、エネルギー小国として、原発事故を起こした今、国民の安全を確保しながら、エネルギー政策を再度、組み直していくには、こうした大胆な構想力と行動力が必要ではないか。

2015年

9月

01日

第1回 福島後の未来をつくる:泉田 裕彦 新潟県知事 2015年9月1日号


◇いずみだ・ひろひこ

1962年、新潟県加茂市生まれ。京都大学法学部卒、87年通商産業省入省、2004年10月新潟県知事就任、08年10月再選、12年10月3選、現在に至る

◇まず取り組むべきは事故原因の究明

◇複合災害の備えは今も手つか


泉田 裕彦(新潟県知事)


 7月16日で中越沖地震から8年がたちました。中越沖地震では柏崎刈羽原子力発電所が被災して原発構内で地震による火災が発生しました。このとき東京電力の自衛消防隊は柏崎刈羽原発3号機の外に設置された変圧器で起きた火災を消火できませんでした。何が起きていたのかと言いますと地震で地面に1メートルもの段差ができ配管が破断して水が出ませんでした。原発構内で火災が起きているのに、配管が壊れて水が出ないだけで所員みなが退避し周囲に誰もいない、そういう光景が世界にニュース映像として配信されたのです。映像は日本の危機管理がいかに緩いかを世界に知らしめました。

 この事件で新潟県は原発構内の消火体制の強化を国と東京電力に求め、これがきっかけで原発の敷地内に消防車が配備されるようになりました。福島第1原発でも消防注水ができました。もし新潟県が黙っていたら福島原発に消防車があったかどうかは疑わしいと考えています。


 中越沖地震ではもう一つ、県庁と柏崎刈羽原発のホットラインの電話がつながりませんでした。地震で緊急対策室へのドアが歪んで開かずホットラインに原発所員がたどり着けなかったのです。そこで作ったのが柏崎刈羽原発の免震重要棟です。それで同じ東電の施設で柏崎刈羽だけに免震重要棟があるのはおかしいという話になり、建設されたのが福島原発の免震重要棟です。完成したのは東日本大震災の8カ月前です。つまり中越沖地震を踏まえ新潟県が言うべきことを言っていなかったら、今、東京に人が住めたかどうかも疑わしいです。だからこそ東電も政府も福島原発事故の教訓をしっかり生かしてほしいと思います。


 ◇米宇宙開発に学べ


 大勢の人がかかわり、巨大な組織で最先端の技術を扱うものに宇宙開発があります。深刻な事故を起こした後、いかに国民への信頼性を確保するか、という点で宇宙開発は一つの見本となります。米国は1986年、スペースシャトル・チャレンジャー号が打ち上げ直後に爆発し、乗組員が死亡する事故を起こしました。原因の一つは氷点下の打ち上げの中でOリング(密封材)からガスが漏れたことによる引火でした。

 技術的な原因は判明しましたが、事前に低温時のOリングの弾性喪失について警告されていたにもかかわらず、それを無視した組織も問題であるとし、米国政府は事故が起きた原因としてヒューマンエラー(人為的ミス)、技術的問題、組織の問題、責任者を明確にしたうえで、NASA(米航空宇宙局)の人も組織も替えました。そして最後には、「問題を克服し、宇宙開発のチャレンジを続けていこう」と大統領が国民に呼びかけ、宇宙開発を再開するというプロセスを経ました。

 福島原発事故はどうだったのでしょうか。今もって事故の原因究明をしっかりやっていません。本来なら、どこに原因があり、何が問題だったから、ここを直し、今後想定されるリスクにはこう備える、となって初めて議論できる。にもかかわらず、原発の安全規制や事故発生時の対応を一元的に担う原子力規制委員会は、根拠もなく事故後の新規制基準を「世界最高水準」として、国民に対する説明会も実施せず、立地自治体の首長に会うことを拒否しています。まずやるべきことは福島原発事故の本質は何だったのか、国民全体で共有することです。


 ◇冷却失敗が事故の本質


 原因として津波や全電源喪失が言われていますが、それは枝葉末節の話です。事故の本質は冷却に失敗したということです。原発の安全確保の基本は「止める・冷やす・閉じ込める」。福島原発事故は、止めることに成功したものの、冷やすことに失敗しました。そして、原発は冷却に失敗すると自動的に閉じ込めに失敗し、放射性物質をまき散らすことになるということです。

 つまり、津波はきっかけで、電源喪失も引き金に過ぎません。この事故の本質を全国民に真正面から説明すべきです。そうすれば規制委が一生懸命やっている技術基準は本質的問題ではないということが分かります。規制委は、全ての冷却機能喪失は起こりえないという仮定で審査しているのです。それは第二の安全神話になるのではないでしょうか。

 86年に起きた旧ソ連チェルノブイリ原発事故は最後に「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物で原子炉を覆って放射能を閉じ込めました。日本も石棺にするか、原子炉格納容器を水で満たして継続的に冷却する「水棺」にするか、議論されていますが、「全ての冷却機能を喪失した時にどうするか」という想定を規制委が外しているため、多くの疑問に規制委が答えられません。

 県議会では「原発が航空機テロの被害を受けたらどうするのか」という質問が出ています。実は米国は2001年の9・11同時多発テロの後、原子力規制委員会(NRC)が原発事故・核テロに対する減災対策連邦基準・B5bを追加しました。その中に原発が航空機テロによる攻撃を受けた場合でも冷却できる新たな決まりを入れました。日本の原子力安全・保安院(現原子力規制委員会)はこの情報を承知していましたが、電力会社に伝えることも指導もしませんでした。もしB5bが電力会社に伝わり、対策を打っていたら福島も冷却できていたのではないでしょうか。

 そのことが9月に報告されるIAEA(国際原子力機関)のリポートで書かれるのではないか、と言われています。B5bを日本の原発に適用しなかったという背景・意思決定構造を直さない限り、福島の教訓を生かすことにはならないのです。

 そもそも東京電力は15メートルを超える津波が福島第1原発を襲う可能性は想定できていました。しかし対策を取りませんでした。なぜか。そこも議論されていません。規制委が「世界で最も厳しい基準」という幻想に入って本質を見ないとまた同じ過ちを繰り返すでしょう。


 ◇規制委の任務放棄


 原発の事故に対してIAEAは深層防護という考え方をとっています。事故の際にメルトダウン(炉心溶融)を防ぐまでが第1~3層。第4層は過酷事故が起きた時にいかに被害を拡大させないか、第5層は原発の外に影響が及んだ時に被害を最小限にとどめる対策です。しかし規制委は「第5層は所管外として確認しない」とし、第4層も機器の性能確認ばかりで会社組織や運営等を十分に見ていないのです。東電も7月にIAEAの自主確認を受けましたが案の定、「過酷事故時のマニュアルがない」という指摘を受けています。

 そもそも原子力安全・保安院から規制委に移行した時の最大の違いは独立性の高い「三条委員会」となったことです。そのポイントの一つに関係行政機関の長に勧告できる権限があります。しかし田中俊一委員長はこれを行使せず、自らの所掌範囲を狭めています。

 例えば原発事故が起きた場合に甲状腺被ばくを抑える近隣住民へのヨウ素剤の配布です。柏崎刈羽は半径5~30キロ圏内に約44万人がいます。

 福島では事故からわずか8時間半でベント(放射性物質を含む蒸気の放出)の判断をしました。被ばくする可能性があり、屋内退避指示が出ている時、それだけのヨウ素剤の配布を誰に命令するのでしょうか。厚生労働省に制度の見直しを求めるべきです。しかし、そうした勧告を規制委が放棄しているから、諸外国がしている当たり前の対策が日本ではなされていないのです。

 深層防護をしっかり考えて第4、第5層のための制度や仕組みを考え、そのために与えられている勧告権を規制委はしっかり使うべきです。

 そのうえで再稼働に向けた社会的なコンセンサスができるか改めて議論すべきなのです。

 もう一つ重要なことは福島第1原発がメルトダウンしているという事実が2カ月たった5月24日になってやっと公表されたということです。何時間も空だきしていればメルトダウンしていることは、原発の運転にたずさわる人にとっては常識です。しかも事故が起きた11日夜半から12日未明にかけて燃料棒の中のペレットにしか含まれていない物質を東電は検出しています。4月19日の枝野幸男官房長官(当時)の会見でもメルトダウンを認めていません。どこかで情報操作が行われていた可能性があります。これを明確にすべきで、東電はウソをついたことを認めて誰がどう情報操作したかを突きとめ、是正しないといけません。

 通常、工場で爆発事故があれば警察と消防が現場検証し、刑事責任を追及します。福島の場合、原発の構内で爆発事故があったのに現段階まで、強制捜査は行われていません(7月31日、東京第5検察審査会は東電元会長ら旧幹部3人の強制起訴を公表)。それはなぜなのか。そういったことが明らかにされなければ国民の信頼を得るのは困難です。

 事故後に公開された社内テレビ会議の映像には、危機的状況にあった2号機への海水注入という現場からの提案に対し、本社が「もったいない。真水でできないか」というやり取りが残っています。1基5000億円とも言われるプラントを守るか、被害拡大防止に力を入れるか、という判断を会社員である発電所長ができるでしょうか。仮に所長にその権限を与えるとしても、本社が一切口を出さずに所長に任せておけるでしょうか。やはり会社員がそういう判断をできる制度や仕組みも真正面から議論すべきなのです。

 放射性物質の拡散範囲を予測するSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)をどう活用するかという問題もあります。震災への救助・復旧のためのトモダチ作戦で福島県沖に入っていた米空母は、放射性物質を避けるため拡散予測をし、航行位置を決めていました。米軍が使っているのに、なぜ住民の避難に使えないのか。英独仏も緊急時に使うことになっています。これも極めて重要な問題です。

 しかも30キロ圏内のヨウ素剤の配布方法について内閣府と、規制委の言っていることが違います。内閣府は「放射線量が高いところから優先的に配る」、規制委は「予測の公表はかえって被ばくを増やすので使わない。実測値で逃げる範囲、配る範囲を決める」と言います。それではヨウ素剤を被ばくしてから飲めということになり、十分な防護対策になりません。そこに矛盾を感じないのでしょうか。


 ◇司令塔がいない日本


 こうした一連の問題、矛盾がなぜ放置されたままなのか。国も行政も誰も責任を取ろうとしないからです。規制委は技術的な部分と事業者行政だけやって後は知らないという形にしたいとしか考えられません。国民を守る行政を行ってほしいです。

 そもそも地震などの自然災害と原発事故が同時に起きる複合災害が起きた時、日本には総合的な司令塔がありません。これは国民にとっては極めて不幸な話です。その最大の原因は、自然災害に対応する法律と、原子力災害に対応する法律が2本立てになって別々の意思決定をする構造になっているからです。

 新潟県は世界で初めて原発構内での地震による災害を経験した自治体です。だから県民には複合災害のイメージが湧きます。地震と原発事故が同時に起きると何が起きるのか。道が壊れて原発まで緊急車両が簡単にたどり着けません。屋内退避指示が出ている時に誰が救助や復旧作業をするのか。困難な問題も生じます。そうした問題に直面した時に何もできず大混乱して、福島原発事故の二の舞いになってしまうのではないでしょうか。

 法律が整備されていないから、いざという時に警察、消防、自衛隊の誰が行くのかも明確でありません。自衛隊は災害派遣要請があると受動的に出動するのです。そうではなく、やはり事故時の原発収束のための装備を第一義的に対処する部隊に持たすということを意思決定し、複合災害にしっかり対応できるような制度、仕組み、予算、優先順位を作るべきなのです。屋内退避指示が出ている時に道路の補修や避難者の輸送、ヨウ素剤の配布など誰が行くのか。事前に個人の了解をどう取っておくのか。組織としての機能をどう維持するのか。そうしたこと全てについて法整備する必要があります。これはぜひ、規制委にまじめに取り組んでもらいたい課題です。

 結局、福島原発事故の検証と総括ができていなければ、何をやるべきか、社会的コンセンサスを得るための議論すらできません。現状では、特に、事故当事者である東電の再稼働の議論は到底できないのです。