経営者:編集長インタビュー

2016年

12月

13日

経営者:編集長インタビュー 長門正貢 日本郵政社長 2016年12月13日号

◇地方自治体と同じ感度で地域のニーズに応える

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 日本郵政の2016年9月中間連結決算は最終(当期)利益が前年同期比3割減でした。

長門 前年同期には(子会社の)日本郵便で保有株式の売却による特別利益があったことなどを勘案し、もともと厳しい営業計画を立てていました。その意味では順調という評価ですが、日本郵政グループの経営課題が凝縮して現れた決算でもあります。

 

減益要因は大きく三つ。一つ目は、上場に伴って日本郵政が保有するゆうちょ銀行、かんぽ生命の株式11%を売却し、日本郵政に帰属する純利益がその分、減少したことです。

 

ゆうちょ、かんぽの株式は今後も売却するので、この減少分をどう補っていくかが課題です。二つ目は、日銀が16年1月に導入を決めたマイナス金利政策の影響で、ゆうちょ、かんぽの運用益が下がっています。三つ目は日本郵便の業績が落ちていること。株式売却の特別利益がなくなったほか、(15年5月に買収した豪物流事業の)トール・ホールディングスが期待通りの業績を上げられていません。

 

── どう対処していきますか。

長門 一つはゆうちょ、かんぽの運用の深掘り(収益力の強化)です。ゆうちょの保有資産は他の銀行に比べても内容が良く、まだリスクを取ることが可能です。そこで、未公開株ファンドやヘッジファンド、不動産というオルタナティブ(代替)資産への投資も始めました。こうしたオルタナティブ投資を含め、サテライト・ポートフォリオ(社債、外国証券、株式など)の残高は16年9月末現在ですでに64兆円と、中期経営計画(15~17年度)の最終年度の目標60兆円をクリアしています。

 

── リスク管理も重要ですね。

長門 ゆうちょの運用部門では15年、元ゴールドマン・サックス証券副社長の佐護勝紀氏を副社長とするなど、積極的に専門人材を外部から採用する一方、16年1月には「リスク管理部門」を新設し、担当の専務を置くなどしてリスク管理も強化しています。かんぽはゆうちょほど運用の切迫度は高くないため、取り組みはゆっくりですが、方向性はゆうちょと同様です。こうした手をすでに打っているので、いずれ収益は底上げされるでしょう。

 

 官民挙げた15年11月の上場時、日本郵政、ゆうちょ、かんぽとも売り出し価格を大幅に上回る初値を記録し、市場は大きく盛り上がった。しかし、16年に入って世界経済への懸念が広がると、一転して下落基調に。着実な株価上昇に対する株主の期待は高い。

 

 ◇タンス預金を動かした

 

── 3社の上場で初めて株を買った個人も多いと聞きます。

長門 郵便局には145年の歴史があり、141年前からは貯金も集め出しました。かんぽは16年10月、100周年を迎えています。こうした歴史に親しみを覚えていただき、中にはまさにタンス預金となっていた聖徳太子の旧1万円札で、株を買った人もいたと聞きます。郵便局は全国津々浦々に2万4105局(16年9月末)あり、ゆうちょ、かんぽは国内最大の銀行、保険会社です。郵政民営化は一大国家プロジェクトで、非常に国民から期待されている仕事だと感じます。

 

── 手数料収入確保も課題です。

長門 ゆうちょでは、三井住友信託銀行などと合弁で設立した運用会社「JP投信」が16年2月、投資信託の新商品の販売をスタートしました。誰にでも分かりやすく損をしにくい商品を開発したのですが、そのうち1商品はマイナス金利の影響で販売をあきらめました。ただ、国内全体の投信残高は落ちている中で、ゆうちょでは1兆1628億円(16年9月末)へと増えています。

 

市場環境の悪化もあり簡単に投信の残高は伸びませんが、16年は準備期間と位置づけています。お客様にまずは投信口座を開いてもらおうと、営業現場に口座開設のインセンティブをつけることも始めました。また、10月からは、ATM(現金自動受払機)の口座間送金を4回目以降から有料としましたが、できるだけお客様にご迷惑をおかけしない範囲で手数料収入を増やしていきたいと考えています。

 

── トールはどう立て直しますか。

長門 天然資源の豊富な豪州で、資源価格の下落がトールの業績にも影響しています。しかし、日本国内の市場では収益機会が減っており、成長するアジア太平洋地域で勝負していかなければならず、トールの買収はそのために打った手の一つです。(日本郵政の提携先の)イオンが扱う豪州のタスマニアビーフを日本に輸送する際にトールを使ってもらうなど、収益向上や経費節減の取り組みを現に始めており、業績立て直しに向けて行動で示していきたいですね。

 

── グループ43万人の従業員にどのような意識改革を訴えますか。

長門 カスタマー、コミュニティー、カンパニーという「3C」のための意識を浸透させたいと思っています。お客様はやっぱり神様で、顧客のニーズがあるところに仕事があります。また、郵便局は地域に根ざしており、地方自治体と同じような感度で地域のニーズを捉え、それに応えていくことも大切です。さらに、企業として競争力がなければ評価もされません。数字に厳しく、事業の選択と集中を通していい業績を求めていきます。皆が同じ方向を向いて進むため、3Cを言い続けるつもりです。

(構成=桐山友一・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米南部ヒューストンで、資源関係の顧客開拓のため興銀の事務所を立ち上げました。その後、中国で初のプロジェクトファイナンス案件を担当し、涙が出るほど楽しかったです。

Q 「私を変えた本」は

A 『アメリカにおける秋山真之』(島田謹二著)です。『ニュー・エンペラー 毛沢東とトウ小平の中国』(ソールズベリー著)は読み物として絶品です。

Q 休日の過ごし方

A 土曜午前はジム、午後は老人ホームに入った母と散歩。日曜はひたすら雑誌や新聞を読んでいます。

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 ■人物略歴

 ◇ながと・まさつぐ

 東京都出身。学習院高等科、一橋大学社会学部卒業。1972年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほコーポレート銀行常務執行役員、富士重工業副社長、シティバンク銀行会長などを経て、2015年5月にゆうちょ銀行社長。16年4月から現職。68歳。

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事業内容:日本郵政グループの経営戦略策定

本社所在地:東京都千代田区

設立:2006年

資本金:3兆5000億円

従業員数(常勤):25万876人(16年3月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:14兆2575億円

 営業利益:9662億円

 

2016年

12月

06日

経営者:編集長インタビュー 呉文精 ルネサスエレクトロニクス社長 2016年12月6日号

◇買収で自動運転やIoT分野を強化

 

◇Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 半導体業界におけるルネサスの特徴は。

 半導体の中でも、人間の頭脳に相当する「マイコン」を中心に設計・製造する日本で唯一の会社です。三菱電機、日立製作所、NECの三つの会社の半導体部門が一緒になってできました。半導体を含めた日本の電機業界は、製品のデジタル化が進むなかで、新興国の追い上げに苦戦しているところが多い。当社は、積極的にマーケティングして、特定の分野で付加価値のある製品を作っていきたいと考えています。

 

── 米半導体のインターシルを買収しました。

 シナジー(相乗効果)は非常に明確です。我々は汎用(はんよう)のマイコンに強い。彼らは電圧制御用の半導体やアナログ信号をデジタル信号に変換するミックスシグナル半導体に強い。車が自動運転になると、どんどん電力を消費します。だから、省電力、低発熱で車を制御する電圧制御用の半導体の存在が低燃費につながります。

 

また、ミックスシグナルについては、現実の世界をマイコンが判断するためには、レーダーやカメラ、圧力センサーなどからのアナログ情報をデジタルに転換し、マイコンで演算後、再び、アクチュエーター(駆動装置)にアナログ情報として戻す必要があります。買収で当社はその両方を手に入れました。

 

── 2011年の東日本大震災時は、工場の被災で、世界の自動車生産に影響を及ぼしました。

 ご迷惑をお掛けしましたが、それだけ当社が必要とされていることの表れだとも思います。自動車用のマイコンでは世界トップシェアですが、実は売り上げや利益は自動車向け以外からの方が多い。例えば、プリンターやエアコン、冷蔵庫用のMCU(メモリー制御装置)でも世界トップシェアです。難しいことをする頭脳部分なので、他社の半導体では簡単には置き換えできません。この教訓を受け、今年の熊本の震災では熊本工場が被災しましたが、5年前と比べはるかに早く復旧しました。

 

── 製品のポートフォリオは、今後、どのようにしていく考えですか。

 当社の売り上げは、分野別では自動車向けが全体のほぼ5割弱を占めます。残りは産業機器やオフィス機器向けです。しかし、特にどちらに比重を置いていくか考えていません。自動車は主要顧客がはっきりしており、戦略や技術は明確です。ただ、自動運転などの分野は、自動車メーカーと共同開発してから量産に至るまで費用が先行し、収益化するのに時間がかかります。一方でプリンター向けなどのビジネスは、今日の収益につながります。そのバランスを考えながら経営する必要があります。

 

だから、モノをインターネットにつなげる「IoT」、白物家電、オフィス機器、通信基地局などの産業向けは積極的にやっていこうと思います。携帯電話やゲーム機向けなどの浮き沈みが激しいところは撤退の方向です。

 

 ◇人工知能をチップに

 

── 自動運転やIoTへの具体的な対応は。

 両方とも非常に面白いと思いますが、ある意味、太平洋にこぎ出すような話で、片っ端から手がけるわけにはいきません。自動運転は、車単体ではなく、車同士、あるいは車と街が通信していくようになると、規格の標準化が非常に大事になってきます。日本はここが得意でないので、「ガラパゴス」にならないよう、注意しながらやっていきたいと思います。

 

IoTで今注力しているのは、ユーザーの近くにサーバーを分散し、通信遅延を短縮する「エッジコンピューティング」や人工知能をチップに埋め込む「エンベデットAI(人工知能)」の分野。例えば工場の機械で異常な振動が出て、すぐに止めないといけない場合、いちいち、クラウドのサーバーまで戻り、命令を受けていたら、間に合いません。だから、チップの中にAIの膨大なデータを埋め込む。そうすると、指先に頭脳があることになり、末端だけで物事を判断できます。今後、こうした分野に力を入れようと思います。

 

── 今後の買収の計画は。

 まずは、インターシルの買収後の統合をしっかりとやり遂げます。今後の買収については、IoT、製造業の高度化を目指す「インダストリー4・0」、自動運転がキーワードになります。無線・通信の分野、あと暗号化などのセキュリティー技術は面白い。将来的には、エクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)を視野に入れながら、次の買収を考えていきたいです。

 

── 成功する経営のコツは。

 本社の大きな戦略、意思決定のプロセスや基準を明確に示すことです。右なら右と決めたら、そちらの方向で自信を持って進む。やると決めたら優勝を狙うことです。また、グローバル経営に踏み出すのですから、海外の人の立場を理解できないとうまくいきません。

 

── 産業革新機構が筆頭株主です。出口戦略については。

 産業革新機構が保有する当社株について、コメントする立場にはありません。ただ、私から革新機構に申し上げたいのは、ルネサスはマイコンという半導体の頭脳部分を持っている唯一の日本企業と言うことです。こういう産業を日本に残せるかどうかは、重要です。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本興業銀行(現みずほ銀行)のニューヨーク支店にいました。帰国後は興銀証券で、グローバル債券の引き受けや資源開発のプロジェクトファイナンスを担当しました。

 

Q 「私を変えた本」は

A ジム・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』です。データに基づいているので、学んだことが多いです。

 

Q 休日の過ごし方

A あるようでありません。今の仕事が非常にチャレンジングなので…。

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 ■人物略歴

 ◇くれ・ぶんせい

 東京都出身。神奈川県栄光学園、東京大学法学部卒業。1979年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2003年GEフリートサービス社長、08年カルソニックカンセイ社長、13年日本電産副社長を経て、16年6月より現職。60歳。

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事業内容:半導体の設計・製造

本社所在地:東京都江東区

設立:2002年11月

資本金:100億円

従業員数:1万9160人

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:6933億円

 営業利益:1038億円

2016年

11月

29日

経営者:編集長インタビュー 落合寛司 西武信用金庫理事長 2016年11月29日特大号

落合 寛司 西武信用金庫理事長

 

◇「雨の日に傘貸す」協同組織金融機関目指す

 

Interviewer 金山 隆一(本誌編集長)

── 西武信金はどのような金融機関ですか。

落合 「利用者保護」が基本理念である協同組織金融機関の働きを最大限に追求した、コンサルティング機能を持つ金融機関です。顧客の課題を徹底的に解決します。

 

── なぜ、「コンサル」なんですか。

落合 日本は今、二つの大きな変革期にあります。まず、世界経済の主役が先進国から新興国に変わりました。二つめは少子高齢化です。このような変革期は、これをチャンスにできる企業と、ピンチにする企業がはっきりと分かれます。だから、コンサルが必要です。 

── 具体的にはどのように課題解決を支援しているのですか。

落合 例えば、中小企業の半分が海外進出で失敗しています。そこで、当金庫は、ベトナムの工業団地に出資をしています。団地には、進出した中小企業へのコンサル機能があり、材料の購入や現地社員の採用などについてアドバイスします。また、人材のマッチングもしています。一例を挙げると、中小企業にベトナム人の留学生を紹介し、3年間徹底的に教育したうえでベトナムに社長候補として送り込んでもらいます。

 

── 国内向けは。

落合 取引先を紹介するビジネスマッチングが一番多いです。年間6500件紹介しています。企業が一番欲しいのは売り上げです。だから、紹介すると、多くの顧客は元気になります。また、変革期ですから、企業はビジネスモデルを変える必要があるので、その支援をしています。ただ、経営者には、「自分で変えないでください」と話しています。

 

── なぜですか。

落合 会社を良くしようと一生懸命努力した結果が、今ですから。だから、第三者の専門家に見てもらうのです。当金庫は、東京大学や中小企業診断協会など外部の組織と連携し、3万人のネットワークがあります。ゴルフのフォームと同様、欠点や長所は第三者が一番よく分かります。

 

── 不動産賃貸向けの融資も前年比17%増と大きく伸びています。

落合 地域を活性化するためです。これから、不動産は「持たざる」時代に入ると考えています。少子高齢化で東京などの一部都市を除いて、日本の不動産価格は下がるでしょう。不動産は賃貸が中心になる。だから、遊休不動産を持っている人に、賃貸物件用の貸し出しをしています。

 これは、資産管理対策にもなります。日本の相続税率は世界最高の55%です。何もしなければ、保有不動産の半分以上が税金に消えます。だから、例えば、八百屋の店舗の上に賃貸物件を作ってもらいます。家賃が入れば、本業も強化できます。

 

◇「ブティック」目指した

 

── 業績はどうですか。

落合 2016年3月期は、貸出金が1232億円増えましたが、今年

度は1600億円伸びそうです。預貸率は昨年度は76%ですが、今年度は現時点で78%。なぜなら、顧客が元気だからです。元気になれば食欲が出るように、企業もお金が必要になります。不良債権も減ります。昨年度の不良債権比率は1・74%と、業界平均の6%の3分の1以下です。前期の当期利益は74億円ですが、日本で初めて正常債権に42億円の引当金を積んだので、それを除くと、実質的に110億円強になります。

 

── 正常債権になぜ、引当金を積んだのですか。

落合 顧客を潰さないためです。リーマン・ショックのような大きな経済変動が訪れると、中小企業はすぐ赤字になります。債務超過になると「破綻懸念先」に分類され、貸し出しが実行できなくなる。ですが、あらかじめ、引当金を計上していれば、いざというときにお金が貸せる。要は「雨の日に傘を貸す」真の協同組織金融機関を目指すための体制を作っているのです。

 

── なぜ、ほかの金融機関はまねができないのですか。

落合 我々は「百貨店」ではなく、「ブティック」を目指しました。メガバンクが一番不得意なのは、顧客の戸別訪問など、手間がかかることです。しかし、非効率な戸別訪問もコンサルにより付加価値を高めると「効率」に変わります。ただ、そうは言っても、これを運営する従業員が元気でないと、実現できないので、人事制度を改革しました。

 

── それは、いつからですか。

落合 私が理事長に就任した2010年以降です。徹底的に個人の潜在能力を生かす体制にしました。まず、年齢による定年を無くしました。60歳を過ぎても、昇進や昇格は今までと全く同じで、自分が能力の限界を感じるまで勤められます。中途採用も年齢の制限はありません。これまで採用した人の最高齢は70歳です。他の金融機関で肩たたきにあった55歳くらいの人も結構入庫しています。今、どんどん出店しているので、この人たちは1〜2年で支店長になります。また、新人も支店長のポストを目指して立候補し、社内の試験に合格すると、いきなり支店長になれます。

 

── ITを活用した金融サービスの「フィンテック」の取り組みは。

落合 決済サービスを提供するベンチャー企業の「コイニー」(東京・渋谷区)と業務提携しました。スマホでクレジットカード決済ができるので、これを、地域の商店街に導入しようと考えています。2020年に東京でオリンピックがあるのですから、商店街に免税店があってもよいはずです。

 

◇横 顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 金融業に必要なコンサル業務を職場内や顧客に提供する仕組み作りに努力していました。

Q 「私を変えた本」は

A 本ではないですが、小学校の時、同級生の女の子の死をきっかけに、二度と無い今を真剣に生きようと考えました。「前向きな心」が大好きな言葉です。

Q 休日の過ごし方

A ガーデニングをしています。面倒を見ればすぐに結果が出るのが好きです。

(構成=稲留正英・編集部)

 

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 ■人物略歴

おちあい かんじ

神奈川県出身。神奈川県立津久井高校、亜細亜大学卒業。1973年西武信用金庫入庫。2002年常勤理事、05年専務理事を経て、10年6月より現職。66歳。

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事業内容: 金融業

本店所在地:東京都中野区

設立: 1969年6月

資本金:1173億円(2016年3月期・連結)

従業員数:1192人(9月30日時点)

業績(2015年度)

 経常収益:317億円

 

 当期利益:74億円

2016年

11月

22日

経営者:編集長インタビュー 新野良介 ユーザベース社長 2016年11月22日号

新野良介 ユーザベース社長 

 

◇ビジネス情報プラットフォームの世界標準目指す

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── ユーザベースはどんな会社ですか。

新野 日本発のビジネス情報のプラットフォームとして、世界に通用するものを作り出すことが目標です。

 

インターネットの普及に伴い、一般ユーザー向け情報プラットフォームは、グーグルなどの検索エンジンからフェイスブックなどソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)へと劇的に変わりました。

 

一方でビジネス情報に目を転じると、使いやすいものが少ない。例えば、世界企業の中での時価総額ランキング一つとっても調べるのは大変な作業です。業界における企業の位置づけなど重要な情報なのに収集が難しいというストレスを、技術革新によって解決したいのです。

 

── ユーザベースが考えるビジネス情報とはどのようなものですか。

新野 株価や為替、企業の合併・買収(M&A)といったものだけではありません。例えば、ある企業へのインタビュー記事を読んだことがきっかけで志望する学生がいます。そうした自分の人生で下す決断に影響を与えるような経済情報です。

 

2002年に大手商社に入り食品部門を担当していた新野氏は、プレゼン向け資料の作成に膨大な時間がかかることを疑問視、ユーザー側に立った情報プラットフォームの必要性を感じていた。外資系証券会社に転職後、梅田優祐氏(現ユーザベース共同経営者)と意気投合し、08年、数人の仲間とマンションの一室でユーザベースを立ち上げた。翌09年には「SPEEDA」(スピーダ)の提供を開始。創業8年目の今年10月21日には東証マザーズに上場を果たす。

 

── 主力の情報プラットフォームの内容を教えてください。

新野 法人向けのスピーダと、子会社が運営する一般向けニュースサイト「NewsPicks」(ニューズピックス)の二つです。法人向けと一般向けの両方のプラットフォームを持つことが当社の強みです。

スピーダが提供する情報は、(1)世界200カ国以上、上場・非上場合わせ約380万社の企業情報、(2)550のカテゴリに分類した業界情報、(3)企業のM&A情報の3種類です。各社がどんな戦略を取っているかといった情報を集約して表示します。株式トレーダーに特化したデータベースのような狭い範囲の経済情報でなく、より広い範囲を対象とした基礎リサーチのツールとして顧客に認知されています。

一方、ニューズピックスの特徴は「ソーシャル」、つまり一方的なニュース配信でなく利用者も情報を発信できる点です。一人一人が発信者になれるのがネットの強み。例えば、利用者の意見それ一つでは影響力は小さいですが、それに同意や反対意見を加えることで、世論が形成されていくこともあります。

 

── 配信するビジネス情報はどう集めていますか。また、差別化は。

新野 スピーダは経済データを配信している国内外の約50の企業と提携しています。情報を提供してもらうと同時に、相手が持つ情報のマネタイズ支援も行います。加えて、自社独自のコンテンツも作っています。ニューズピックスも自前の記者がいます。

既存の法人向けサービスを見ると、データ量で勝負しているものが多く、一般向けのさまざまなプラットフォームほど使い勝手がよくないと感じていました。そこで「ユーザビリティー」(利用者の使いやすさ)に価値を転換し、ほとんどの情報はスピーダで取れるという「ワンストップ」を目指しました。

スピーダは企業情報の地図のようなもので、例えば、ある国のある業界を知りたいとき、企業のデータやニュースのほか、さらに深い情報を得たいときに、誰にアクセスすればいいかといった情報も提供します。

 

◇アジアでトップを目指す

 

── 売り上げ構成は。

新野 16年12月期は、およそ30億円の売り上げを見込んでいます。うち20億円がスピーダ、10億円がニューズピックスという内訳です。スピーダの加入ID数は国内外で約1400。売り上げの9割は国内で、残り1割が海外です。業種別に見ると一般企業が35%、銀行、証券会社、コンサルティング会社といった、プロフェッショナルファームが65%です。

 

ニューズピックスの収益源は主に三つあります。一つ目は現在、約2万人の会員がいる月額1500円の有料サービスで、これが3分の1を占めます。二つ目は企業のブランド広告、三つ目はニューズピックスを使った求人サービスです。

 

── 海外展開を含め、今後の戦略を教えてください。

新野 スピーダにとって最大の市場は、経済規模が圧倒的に大きい米国だと考えています。ただ、競合するプレーヤーも多く競争も激しいので際立った力が必要です。

現在、アジア市場でシェアを伸ばせているのは、日本のビジネス情報でナンバーワンという位置づけを取れたことが大きいと思います。スピーダの試用版への海外からの問い合わせでは、香港、シンガポールに次いで多いのが米国です。つまり、アジア情報でナンバーワンになることが米国に進出する際の最大の差別化要因になります。まずはアジア市場を押さえることが、次の展開につながると考えています。

(構成=大堀達也・編集部)

 

◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30歳までに起業することが目標だったので商社に入り、起業がしやすい小さい商材を扱う生活産業分野で経験を積みました。

Q 「私を変えた本」は

A リカルド・セムラー著『セムラーイズム』、ケネス・クラーク著『ザ・ヌード』、共和政ローマ期の政治家カエサルの自伝『ガリア戦記』です。

Q 休日の過ごし方

A ジムに通っています。

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 ■人物略歴

 ◇にいの・りょうすけ

 1977年生まれ。暁星国際高校、慶応義塾大学卒業後、2002年三井物産入社。UBS証券を経て08年にユーザベースを設立し、共同経営者に就任。

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事業内容:ビジネス情報プラットフォームの運営

本社所在地:東京都渋谷区

設立:2008年

資本金:23億300万円

従業員数:178人(8月31日時点、ニューズピックス含む)

業績(2015年12月期・連結)

 売上高:19億1500万円

2016年

11月

15日

大野直竹 大和ハウス工業社長 2016年11月15日号

◇「戸建ての心」で顧客と長い付き合いをする

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 現在の主力事業は何ですか。

大野 もともとは戸建てを中心に出発しましたが、今では、賃貸住宅・商業施設・事業施設の建設・運営をするコア3事業が連結売上高の6割以上を占めるようになりました。しかし、「戸建ての心」は忘れていません。戸建ての特性は、「顧客の夢を我々が預かる」こと。建物の完成後も、何十年も顧客とお付き合いします。この「戸建ての心」を持って、賃貸住宅・商業施設・事業施設を展開しています。

 

── どのように「戸建ての心」を生かしているのですか。

大野 たとえば、賃貸住宅はどんなに大きなものでも2~3年で完成します。しかし、オーナーは住宅を貸して家賃収入を得ることが目的ですから、我々の役割は建物の完成で終わるわけではありません。オーナーには賃貸事業がうまくいくかが最大の関心事です。そのため、たとえば、入居者からアンケートをとって、どのように建物を評価しているかを検証しながら次の商品開発に生かしています。これは戸建てメーカーでなければなかなかできない発想です。

 

── オーナーにはどう対応していますか。

大野 当社はオーナー会を作って、建物の完成後も経営がうまくいっているかをチェックします。仮に部屋が空いてしまった場合は、募集を掛け、空き部屋がゼロになるまでお付き合いします。オーナー会は全国に2万人の会員がいますが、時々「大和ハウスほど面倒見が良い会社はない」と言ってくれます。我々としては大変うれしい言葉です。

 

── 商業施設はどのような経緯で始めたのですか。

大野 今から40年ほど前、創業者の石橋信夫が、自動車社会の到来で消費者が車で商業施設に行って買い物をする時代になることを予想し、事業をスタートしました。最初は土地を購入して建物を造るやり方でしたが、それでは創業間もない企業は資金負担できません。そこで、道路沿いに土地を持っている地主と、店を持ちたいテナントを仲介する仲人の役をしていきました。我々が地主から建物の建設を請け負い、テナントには毎月の賃料を払ってもらう。地主は自分の土地を売ることなく、資産として運用できます。

 

── どんな会社がテナントですか。

大野 有名なところでは、「ユニクロ」のファーストリテイリングの郊外店舗の8割は当社が手がけています。紳士服の青山商事やコンビニエンスストア、ドラッグストアと非常に多くの顧客がいます。「とにかく長いお付き合いをする」ことが基本です。

 

── テレビコマーシャルで「物流施設の大和ハウス」というイメージも定着しています。

大野 物流施設などが主体の、新たな手法を用いた事業施設は15年前から開始しました。食材を加工できる食品物流倉庫やeコマースで即日配送に対応する物流倉庫と、倉庫の役割はどんどんと変化しています。当社の強みは、相場より少し低い賃料を提供しながら、テナントと長期契約を結んでいることです。テナントの8割は長期です。我々のやり方が正しいと思ったのは、2008年のリーマン・ショックの時。圧倒的な業界ナンバーワンの外資系企業が経営破綻しました。しかし、当社のテナントは長期契約でしかも優良企業ばかりなので影響は最小限でした。

 

 ◇売り上げ目標は前倒しで

 

── リーマン・ショック前の営業利益は900億円弱でしたが、16年3月期は2400億円強です。

大野 商業施設、事業施設などは時代を先取りしていたと思っています。私は営業本部副本部長、本部長を経て社長になりましたが、就任する1年前から、事業拡大へ手応えを感じていました。まず、地方での営業をかなり重視しました。関連事業も賃貸住宅・商業施設・事業施設のコア3事業を助けるような形で伸びてきました。人事もさまざまなことを考え手を打っています。

 

── 18年度を最終年度とする中期経営計画が始まりました。

大野 消費税率の10%への引き上げを前提に計画を組んだので、今では、少し保守的な目標ではないかと思います。政府・日銀の低金利政策も追い風となり、18年度の目標売上高3兆7000億円は、前倒しで達成したいです。コア3事業とその周辺事業で伸ばしていきます。たとえば、当社の建設した賃貸住宅を管理している大和リビングは、インターネット配信などの付帯ビジネスによって売り上げを伸ばすことができます。

 

── 米住宅会社スタンレー・マーチンの買収を発表しました。海外展開はどうですか。

大野 最終年度に2000億円を目指しています。国内での人員配置で手いっぱいで、海外への人材の供給が足りないなか、がんばってもらっています。今までは中国の分譲マンション開発が中心でしたが、これからは米国での賃貸住宅事業や、東南アジアでの事業用のレンタル工場やレンタル倉庫などを伸ばしていきたいと考えています。

 

── 社内でのコミュニケーションをどのようにとっているのですか。

大野 私は営業本部の副本部長と本部長を合わせて7年ほど務めました。当社には全部で80以上の支店がありますが、そのほとんどの支店長とはツーカーの間柄です。だから、何か問題があった時は、コミュニケーションが電話1本で可能です。支店に出かけると、社員たちと酒を酌み交わします。とにかく、現場の声を聞くことがものすごく大事です。これは、「戸建ての心」を持つこととも通じます。

(構成=稲留正英・編集部)

 

 ◇横顔

Q 社長業とは

A 世の中をしっかり見ながら明確な考えを持ち、自分自身に収れんしていく存在です。

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎の『坂の上の雲』。『ノルウェイの森』の村上春樹も好きです。

Q 休日の過ごし方

A 映画や野球、芝居を見たりと、できるだけストレスのかからない過ごし方をしています。

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 ■人物略歴

 ◇おおの・なおたけ

 愛知県出身。愛知県東海高校、慶応義塾大学卒業。1971年大和ハウス工業入社。2000年取締役、07年副社長を経て、11年4月より現職。68歳。

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事業内容:戸建て・賃貸住宅、商業・事業施設の建設・運営

本社所在地:大阪市北区

創業:1955年

資本金:1617億円

従業員数:3万9736人(2016年6月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:3兆1929億円

 営業利益:2431億円

 

週刊エコノミスト 2016年11月15日号

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2016年

11月

08日

福田三千男 アダストリア会長兼最高経営責任者(CEO) 2016年11月8日号

◇「カジュアル衣料のR&Dを強化」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 アダストリアは、グローバルワークやローリーズファームなど、17のカジュアル衣料ブランドを、国内外に約1300店舗展開している。売上高は、2000年上場時の100億円から、16年2月期通期は2000億円と、低迷する小売業界で急成長を遂げている。

 

── 創業は1953年と、長い歴史があります。

福田 当社は、父が創業した「福田屋洋服店」で紳士服販売から始め、これまで環境の変化に応じて、メンズカジュアル、ジーンズカジュアル、ファッションカジュアルチェーンへとビジネスモデルを変えてきました。規模が拡大するにつれ、競合との差別化や店舗運営など、現在まで苦難の連続でした。現在の市場に進出したのは、92年にローリーズファームの展開を開始してからです。

 

── ローリーズファームの展開でも苦戦しましたか。

福田 最初は全く売れず、大苦戦しました。単品のヒット作を狙った商品作りをしていたため、お客様へのコーディネート提案などが難しく、なかなか大きな売り上げにつながらなかった。ブランドのストーリーがなかったことがその原因でした。

 

── どう打開しましたか。

福田 当時、一番売れ行きが良かった福岡店で、流行に敏感な社員を集めて「何が着たいか」徹底的に追求しました。パンツの丈の長さから幅まで細かくこだわり、そうして生まれたオリジナルジーンズは、あっという間に15万本以上を売り上げる大ヒット商品となりました。

 この経験から、「ストアブランド(小売業者独自のブランド)」の重要性に気付きました。「お客様に勧められるもの」「自分が着たいもの」を理念に商品を企画し、ローリーズファームを当社独自のストアブランドとして育てていきました。

 

 ◇誇り持てる商品作る

 

── 14年2月期までに純利益は5期連続で減少していました。

福田 当社はこれまで、企画・生産などの商品作りを全て外部の業者に委託して、仕入れた商品を販売する受託生産(OEM)供給体制でやってきました。しかし、株価が何十倍になった頃から、競合他社が次々とまねをしてOEMに移行し始めたのです。同じような商品が出回り、市場は同質化して価格競争となってしまいました。

 

── どうしましたか。

福田 10年に、一部のブランドや商品を企画から生産、販売まで一貫して自社で行う製造小売り(SPA)体制に仕組みを変える「チェンジ宣言」を行いました。13年には、取引先の一つで、生産機能を持つ「ナチュラルナイン」と、雑貨の小売りに強い「トリニティアーツ」を買収。同年、それまでの「ポイント」から、これらの会社を「アダストリアホールディングス(HD)」として経営統合し、競合と差別化できるよう、それぞれの機能を連携させ、商品力強化に取り組みました。

 ただ、それまで企画・生産を業者に頼りきりだったため、すぐにはうまくいかず、作っても売れない時期もあり、それまでにたまった不良在庫を処分したことで、14年は最終赤字となってしまいました。

 

── その後は。

福田 現在の自社生産比率は4割まで上昇し、一連の改革効果が実を結び、16年2月期にV字回復しました。社員にとっても、お客様から反響を頂き、自信を持って商品を勧められることはうれしいことです。一番重要なのは、社員が誇りを持って売れる商品があるかどうかですから。

 

── 15年に、HD体制を解消して1社に統合したのはなぜですか。

福田 商品力を高めるためには、企画・生産・販売、各機能の一体感が不可欠でした。それぞれの企業文化を尊重してHD体制としましたが、やはり各機能が垂直に連携しなければうまくいかないと思いました。「利益」も「お客様」も、立場によって見方も意味も異なります。皆が一つの目標を持ち、言葉を一つにすることが必要でした。

 

── 次の3カ年に向けた目標は。

福田 18年2月期までの中期経営計画目標である営業利益148億円は、初年度に達成しました。次の3カ年では、既存事業の年率成長率を5%以上とすることを目標にしています。具体的な数値目標はあえて設定していません。人間は大体、達成できそうな数字を言いますし、目標数値よりも1~2割増しで達成できてしまうものです。大きく成長するために、17年はできそうもないことを考えなければなりません。また、SPA体制も更に強化していきます。この仕組みなくして成長はありません。

 

── 海外展開は。

福田 既に海外進出はしていますが、現在、「なぜ進出するのか」という「意味」が不透明です。意味をしっかりと理解せず、「なんとなく」進出すれば必ず失敗します。過去、シンガポールに進出した時は大失敗しました。まさしく攻める「意味」が欠けていた。現在、この部分を深く追求しているところです。

 

── 通期の見通しは。

福田 17年2月期通期は、純利益予想を上方修正し、過去最高益を更新する見通しです。9月から、デザイナーやパタンナーなどのマネジメント人材を集結させ、商品企画や情報収集、発信機能の強化を行う研究開発(R&D)室を新設しました。今後は、R&D室の向上など、成長事業のための投資に力を入れていく予定です。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ポイントを始めた頃で、一番苦しかった時期です。失敗の連続で、毎日お金の心配をしていました。

 

Q 「私を変えた本」は

A 片平秀貴著『パワー・ブランドの本質―企業とステークホルダーを結合させる「第五の経営資源」』です。消費者のことを知り、理解しなければ、物も作れないのだということを学びました。

 

Q 休日の過ごし方

A 大体本を読むか、クラシック音楽を聴いています。

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 ■人物略歴

 ◇ふくだ・みちお

 茨城県出身。茨城県立水戸第一高校、同志社大学商学部卒業後、1969年紳士服メーカーに入社。71年、家業の福田屋洋服店に入社し、93年に社長就任。15年6月から現職。70歳。

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事業内容:衣料品・雑貨等の企画・製造・販売

本社所在地:東京都千代田区

設立:1953年

資本金:26億6000万円

従業員数:4686人

業績(2016年2月期・連結)

 売上高:2000億3800万円

 営業利益:160億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年11月8日号<10月31日発売>4~5ページより転載)

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2016年

11月

01日

経営者:編集長インタビュー ハロルド・メイ タカラトミー社長 2016年11月1日号

 ◇0歳から100歳まで楽しめるおもちゃを作る

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 有力商品は何ですか。

メイ 長く売れ続けている定番のおもちゃが、発売から46年たったトミカ、57年のプラレール、来年50年のリカちゃんです。グローバルに通用する定番として、車がロボットに変形するトランスフォーマー、ベーゴマが進化したベイブレードがあります。子供の本能に訴える定番商品が多いのが強みです。

── 少子化は逆風では。

メイ 日本で子供だけを相手にしていればそうです。消費者は誰かを考えなければなりません。おもちゃの定義を変えようとしています。

 今までは、おもちゃといえば遊ぶものでした。でも役に立つもの、集めたくなるものも立派なおもちゃです。0歳から100歳までが楽しめる商品を作っていきます。

 例えば、生卵を混ぜるクッキングトイです。フライパンで焼くと分厚いオムレツができます。使うのは主婦でしょう。ロボットの「オハナス」はスマートフォンなどを介してネットにつながり、高齢者の話し相手になります。

── 海外展開は。

メイ 今、売り上げの海外比率は4割です。日本の玩具市場は世界の6%に過ぎませんから海外比率の理想は9割ですが、当面の目標は国内と半々です。日本の高い品質と技術、発想力をぶつけていきたい。

 トミカで約500の安全チェックポイントがあるほど品質を気にしています。ポケモンなど二次元のアニメを三次元のおもちゃにするのは難しいのですが、そのまま再現できる技術があります。そして、例えばガチャの「自由すぎる女神」シリーズなど、いい意味でバカバカしいものを考えられる発想力です。

 世界各国で人口動態も購買力も違います。どの商品を、どの地域に、いつから販売するかが重要です。例えば、あるアジア向けのトミカは日本と材質を替え、値段を下げています。

 

 ◇第4の創業

 

── 創業家出身の前社長に最高執行責任者として招かれました。

メイ 入社前に調べると、タカラトミーは「商品は良いけれど商売は下手」と評されていました。マーケティング力を高めようと考えました。

 世の中は大きく変化しています。皆がデジタル機器を持つなかで、当社は商品も売り方も100%アナログです。アナログにデジタルの要素を付け加えていくことが大事です。

 これまで会社のホームページがある程度でしたが、ネット販売を始めました。PRでもツイッターや動画のユーチューブを使い始めました。

── デジタルを加えた商品とは。

メイ ベイブレードの新商品は、コマを回して遊んだ記録をスマートフォンのアプリを通じて管理したり、全国の値と比べたりできます。

── 改革を担っているのですね。

メイ 当社が大きく変わろうとするのは初めてではありません。30年ごとに3回、変貌を遂げてきました。

 92年前の創業時はブリキのおもちゃを職人が手作りしていました。プラスチックで大量生産するようになったのが第2の創業です。第3の創業でアニメはじめマスメディアと連動するようになりました。今、第4の創業がデジタルとグローバル化です。今後30年の道を描いています。

── 改革の要は。

メイ 商品改革に加え、社員の意識改革、それに構造改革です。

 社員の意識改革のキーワードは、0歳から100歳を対象に考える「エージレス」、日本だけを見ず、ネーミングをはじめ世界で売れるように設計する「ボーダーレス」、商品は発売して終わりではなく、進化を続ける「エンドレス」の三つです。

 構造改革は意思決定を早める目的です。部署と階層が多いため、アイデアが平社員から社長まで届くのに時間がかかり、丸くなってしまっていました。ヒットするような尖(とが)った商品が生まれないのです。部と課を20%減らし、階層を減らしました。

── 改革の手応えは。

メイ 改革が全部まとまった成功例がリカちゃんです。知名度は高いのですが、子供が人形で遊ぶ年齢が下がり、売り上げは減っていました。

 そこで、空想の世界のお姫様のような人形ではなく、大人でも欲しくなる商品として、街を歩いていてもおかしくないような髪形や服装の「リカビジューシリーズ」を6月に発売しました。ビジューとはフランス語で宝石です。また、リカちゃんのツイッターを作り、各地を旅した様子や、服やバッグのことをツイートしました。タレントとしてデビューさせたのです。化粧品の広告キャラクターにもなりました。リカちゃんの売り上げは50%伸びています。

 リカちゃんでできるなら、定番の商品全部でできるはずです。単に商品を売ろうとするのではなく、ブランドとして展開すべきです。

── 日本語が堪能ですが、日本で各社の経験を重ねて思うことは。

メイ 日本企業では社員が自分で判断しようとせず、上司に判断を求めます。外資系では決めて報告します。変化が早いなか、社員が即時に独自で判断できなければなりません。

 残念なのは、日本企業に野心がなくなったことです。最近「日本はこんなにすごい」というテレビ番組が多いですが、常に先を行かなければいずれ追いつかれます。コストでは勝てませんから、あとは発想力とブランドだと思います。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本リーバ(現ユニリーバ)で日本でのリプトン紅茶の販売をすべて任され、やりがいがありました。ワンマンだったかもしれません。

Q 「私を変えた本」は

A 歴史が好きです。学べるものがたくさんあります。社長は、決断も責任も1人で寂しいものですが、歴史の本を読むと古今、トップは皆同じなのだと思います。

Q 休日の過ごし方

A 山でサバイバルキャンプをします。持っていくのはナイフとトイレットペーパー、それにお酒だけ。自分で寝場所を作り、食料を探します。

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 ■人物略歴

 ◇H.G.Meij

 オランダ出身。米ニューヨーク大院修了。1987年ハイネケン・ジャパン入社。日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ副社長を経て、2014年4月タカラトミー最高執行責任者、15年6月より現職。52歳。

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事業内容:玩具・雑貨等の企画・製造・販売

本社所在地:東京都葛飾区

設立:1953年1月

資本金:34億5953万円

従業員数:2042人(16年3月末現在・連結)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:1630億円

 営業利益:26億円

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2016年

10月

18日

経営者:編集長インタビュー 出澤剛 LINE社長 2016年10月18日号

◇LINEで何でもできる世界をつくる

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

── 今年7月に上場を果たしました。
出澤 2011年6月にスマートフォン向けコミュニケーションアプリ(メッセンジャー)の「LINE」を提供し始めて5年がたち、成長戦略、収益性、組織力の三つに自信がついたところで上場しました。

日本には6200万人の利用者がおり、LINEはインフラ化しつつある自負があります。上場することで、会社の透明性が増し、より安心して利用してもらいたいと思っています。

── 米国の「ワッツアップ」や中国の「ウィーチャット」など他のメッセンジャーとの違いは。
出澤 米国のメッセンジャーは、コミュニケーションに特化し、他の機能をなるべくそぎ落としています。一方、LINEは、メッセージのやりとりを中心として、ゲームをしたり音楽が聴けたりする多機能型サービスを展開しています。
 海外でも事業展開をしていますが、各国のニーズをくみ取り、現地で使いやすい形にしています。たとえば、LINEを使ってタクシーを呼ぶ配車サービスは、バイクが多いインドネシアではバイクが中心です。渋滞が激しいタイでは、ランチを届けてほしいというニーズがあったので、LINEから宅配サービスを頼めます。
── 日本でLINEアプリがヒットした秘訣(ひけつ)は。
出澤 スマートフォンに特化したメッセンジャーのニーズがあり、いち早く対応できたからだと思います。パソコンを使ったインターネットサービスを振り返った時、最初に掲示板などコミュニケーションサービスがはやりました。スマホでも同じことが起こるだろうと考え、10年秋くらいから集中的にサービスを開発しました。
── 収益構造は。
出澤 広告、ゲーム、LINE上でのチャットで利用できるステッカー(スタンプ)の3本柱です。15年はゲームの収益が最も大きかったのですが、16年4~6月期で、広告の収益が一番になりました。
── 広告収益が伸びた理由は。
出澤 今年6月から本格展開したタイムラインへの広告掲載が好調だからです。これまでは、企業がLINEに公式アカウントをつくって、そのフォロワーに商品情報などを送っていました。しかし、このモデルでは、まず利用者が企業アカウントを能動的にフォローしてくれないと情報を届けることはできません。
 一方、タイムラインはLINE利用者全員が見るページなので、より多くの利用者に広告を見てもらえます。さらに、利用者の性別と年齢から、広告効果が高そうな属性の人のタイムラインにだけ広告を出すこともできます。
── 上場による調達資金の用途は。
出澤 LINEを通じて何でもできる世界、「スマートポータル」の実現に向けた投資をします。スマホで最も利用されているアプリは世界共通で、メッセンジャーです。利用者は、使い慣れているメッセンジャーをポータル(入り口)として、タクシーを呼んだり、ニュースを読んだりしたいのです。
── 他にスマートポータルでできることとは。
出澤 例えば、日本でコールセンターのサービスをLINEに置き換えようという動きが出ています。旅行代理店や不動産会社、銀行などへの問い合わせがチャットでできれば、電車の中など場所を選ぶ必要もなくなります。
 企業にとっても、LINEは画面を複数立ち上げれば同時並行で対応できるので、1対1の電話応対よりも1人が処理できる件数が増えます。ホームページのアドレスや画像を送ることができますし、LINEでのやりとりをそのままログ(記録)として引き継ぎ作業に使えます。
 LINEを導入したコールセンターの事業者が求人を出したところ、通常より5倍の応募がきました。働く側も電話よりLINEで問い合わせられる方が良いようです。

 ◇決済事業に期待

── 海外展開は。
出澤 現在は、日本、台湾、タイ、インドネシアの4カ国に事業を集中しています。メッセンジャーの利用者は多くの人とコミュニケーションを取りたいので、利用者数が多いメッセンジャーを選びます。そして、ある国で特定のメッセンジャーがトップシェアを握ると、それをひっくり返すのは難しいです。投資の効率性を考え、現在はこの4カ国に事業を集中させています。
── 今後の成長の核は。
出澤 決済事業がこれから大きくなっていくと思います。14年12月から「LINE Pay」というモバイル送金・決済サービスを行っています。LINE Pay口座にクレジットカードの登録や銀行口座などからチャージすることで、Eコマース(電子商取引)での決済やLINEの有料コンテンツの購入に利用できます。LINE Pay口座間での送金は無料で、友人同士で飲み会の清算をしたり、仕送りをしたりできます。
 今年3月からは、JCBと提携し、「LINE Pay カード」というデビットカードを発行しはじめました。国内外のJCB加盟店で利用できます。100円ごとに2ポイントと、2%のLINEポイントが付くので、一度使った人はメリットを感じて使い続けてくれます。カードの発行数、取扱高ともに伸びています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 33歳の時にライブドア事件が起き、その後、社長に就任しました。事件後もネット事業のコアメンバーは残っており、皆、再建に燃えていました。その後NHNジャパンの取締役になり、濃い30代でした。
Q 「私を変えた本」は
A 司馬遼太郎の『国盗り物語』。中学生の時に読んで、歴史が好きになりました。
Q 休日の過ごし方
A 土曜日は妻が仕事をしているので、0歳と3歳の娘を公園に連れて行ったりしています。
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 ■人物略歴
 ◇いでざわ・たけし
 長野県出身。長野県野沢北高校、早稲田大学卒業。2001年ライブドアの前身オン・ザ・エッヂに入社。07年ライブドア社長、12年同社を買収したNHNジャパン(現在LINE)取締役。15年4月より現職。43歳。
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事業内容:コミュニケーションアプリ「LINE」、ポータルサイト「Livedoor」などを運営
本社所在地:東京都渋谷区
設立:2000年9月
資本金:125億円
従業員数:1114人(単体)
業績(2015年12月期・連結)
 売上収益:1206億円
 営業利益:-95億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月18日号<10月11日発売>4~5ページより転載)

2016年

10月

11日

経営者:編集長インタビュー 平岡昭良 日本ユニシス社長 2016年10月11日特大号

◇社会問題をITシステムで解決する

 

── 2017年3月期は増収増益の計画です。好調な事業は。

平岡 コンビニなどで売っているプリペイドカード向けのIT(情報技術)システムです。アマゾンやアップル、グーグル、任天堂、DeNAなどのサービスで使うプリペイドカードは現在、約100種類あり、その約5割は、当社が提供するカードの発行元と販売元をつなぐ仕組み(プラットフォーム)で動いています。プリペイドカード市場は、米国では10兆円規模になり、まだ統計がない日本でもインターネットで買い物する市場が拡大するなかで伸びていくとみています。

── そのビジネスモデルは。

平岡 プリペイドカード事業が好調なのは、カードが普及すればするほど、当社の手数料収入が上がるビジネスモデルにできたのが大きいです。つまり、普及しなければ赤字プロジェクトになるため、お客様と同じ方向を向くことができます。

 これまで、当社の売り上げはプロジェクトの工程に対して、それに取り組む人の数で計算していました。ただし、当社の売り上げが上がると、お客様にとっては投資額が上がってしまいます。これからは、お客様の初期費用は少なく、当社のシステムを利用して手数料をいただくような、ウィンウィンの関係を作っていきます。

 

 日本ユニシスは、18年に創業60周年を迎える。主な事業は、銀行ATM(現金自動受払機)、電力会社向けの顧客情報管理や料金計算のシステム、航空・鉄道乗車券の予約・購入など、社会基盤の根幹を支えるITシステムだ。さまざまなメーカーの製品を最適に組み合わせて提供するため、機器のメーカーにこだわらない「ベンダーフリー」が強みだ。顧客層は大きく、金融、製造・流通、公共サービスの三つに分かれる。

 

── 既存のビジネスはどうか。

平岡 顧客の要望に応じて、ITを使ったサービスやシステムを提供する従来の事業は、足元も好調です。どの業界でもITが経営の武器になることは共通しており、IT需要は増えています。

ただし、従来の事業では、生産性を上げて70%の力で取り組もうとしています。そのために、開発の速度を速めたり、協力会社との協業比率を増やしたりして、原価構造を変えています。

── 生産性を上げた分は。

平岡 将来のために使います。当社はこれまで、電力やATMなど止まると大きな問題になる社会システムを手がけてきたので、プロジェクトが失敗しないように、堅く堅くリスクを評価していくのが企業文化でしたが、今はイノベーション(技術革新)を起こすことが必要です。

 一つの取り組みとして、私が常務時代の11年に私塾を始めました。「今の仕事をしながら、何かおもしろいことをしようよ」と呼びかけました。1期が3カ月間で7期まで続き、その卒業生が約200人います。この私塾から、タクシー配車システムや保育園の支援システムなどのアイデアが生まれました。また、今広がっている電気自動車向けの充電ネットワークシステムも私塾の卒業生が取り組んでいます。この私塾は好評で、社員が独自に新事業を企画する「裏・私塾」まで生まれました。これは驚きでした。社内が「こんなこともしていいんだ」という雰囲気になっています。

── 新規事業は。

平岡 医療分野で、地域医療における情報連携を支えるシステムに取り組んでいます。医者、薬局、介護施設などの間で医療情報を共有する仕組みを、第1弾として新潟県・佐渡島で始めています。また、今年4月にスタートした電力の自由化では、新規参入者向けに、契約の受け付けから顧客向けの請求紹介までさまざまな段階がある共通システムを提供しています。

 

◇マンションの電力に強み

 

── 電力自由化以外のエネルギー分野は。

平岡 当社はマンション全体でエネルギー管理・節電を支援する「マンション・エネルギー・マネジメント・サービス(MEMS)」のシステムで7割近くのシェアを持っています。このMEMSを導入する専門業者向けのシステムを提供しています。今は、個別で電力会社と契約している人が多いですが、マンションごとで契約すれば電気代は安くなります。今後、新築マンションはほとんどこれに変わるとみられています。

── リオ五輪では、御社所属のバドミントン選手が活躍しました。

平岡 現地に行き全試合観戦しました。金メダルを取った女子ダブルスの高橋礼華選手と松友美佐紀選手の「タカマツペア」は、決勝の終盤で1点取られるとマッチポイントという場面でも、リスクを恐れずにコートの端を狙い続けました。経営としても、あきらめない姿勢だけでなく、リスクを取って攻めに出たことを見習わないといけません。

 私は社員に向けて、「成功のKPI(評価指標)は失敗の数」として「失敗から学ぼうよ」と呼びかけています。百発百中で失敗を許さない文化から、失敗を許容できるように会社を変革していきます。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=谷口健(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A システム畑から営業畑に変わり、金融や製造業、流通など一通りの業種を経験しました。その時に学んだのが、金融機関に金融の話を持っていっても勝てないので、異業種の取り組みを紹介することです。

Q 最近買ったものは

A 「ダブル」という車輪付きのロボットです。大人の背の高さくらいの棒の先端にiPadが付いていて、WiFiを通じて遠隔操作できます。専務時代に一度、私の代わりに役員会に出ました(笑)。

Q 休日の過ごし方

A 3連休の時はオープンカーでドライブします。

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■人物略歴

◇ひらおか・あきよし

石川県出身。金沢大学附属高校、早稲田大学理工学部を卒業後、1980年4月、日本ユニバック(現・日本ユニシス)入社。2002年6月、執行役員。常務、専務を経て、16年4月に社長就任。60歳。

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事業内容:ITシステム、ITソリューションサービス

本社所在地:東京都江東区

設立:1958年3月

資本金:54億円(単体)

従業員数:4241人(単体)、8103人(連結)

業績(2015年度)

売上高:2780億円

営業利益:125億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月11日特大号<10月3日発売>4~5ページより転載)

2016年

10月

04日

経営者:編集長インタビュー 高谷康久 イー・ガーディアン社長 2016年10月4日特大号

高谷康久 イー・ガーディアン社長

◇ネットサービスの守護神になる

 

 イー・ガーディアンは、SNSの投稿監視などを行うネットサービスのセキュリティー会社。9月16日に東証マザーズから東証第1部に市場変更した。

── 売上高が2010年9月期の13億円から15年9月期に30億円と倍増しています。急成長の理由は何ですか。

高谷 インターネット関連の市場が急拡大しているからです。ブログやSNSが普及し、それに伴ってネット関連のトラブルが増えました。ネットサービスは、24時間365日動いていますから、それを個別企業で運用・監視するのは大変です。ブログやSNSのプラットフォーム(基盤)を提供する会社の代わりに、そのサービスを監視しています。

── どのように監視しますか。

高谷 ブログやSNSの投稿、EC(電子商取引)サイトにおける商品のレビューや口コミで誹謗(ひぼう)中傷や児童ポルノ画像がないか、ECサイトで違法な薬物や模造品が売買されていないかなどを監視しています。

 システムによるテキストと画像の解析と、人間の目視確認を行っています。システムは、画像を認識するAI(人工知能)を東大と共同開発し、業界で初めて導入しました。

── ネット監視事業を始めたきっかけは。

高谷 私は、以前、京セラで携帯電話のコンテンツ事業を担当していました。当時は、ドコモの「iモード」や、KDDIの「ezweb」といったインターネットサービスの黎明(れいめい)期。ネットサービスが拡大するのに伴って、ネットに関連する事故・事件も起き始めていました。

 今後インターネットサービスにおけるセキュリティー会社が必要になると思いました。イー・ガーディアンという社名には、「インターネットの守護神」になるという思いを込めています。

── 投稿監視の他には、どんな事業をしていますか。

高谷 ECサイトやソーシャルゲームなどに掲載されるネット広告に、違法な誇大広告がないかを確認しています。

 最近増えているのが、ソーシャルゲームの問い合わせ対応の代行です。電話やメール、チャットによる問い合わせの対応を多言語で24時間行います。「課金したのにアイテムが買えない」「ゲーム中に嫌がらせをしてくるユーザーがいる」など問い合わせは多いです。

── 顧客数は。

高谷 700社を超えます。国内だけでなく、中国、タイ、フィリピンにも提携しているサポートセンターがあります。

── 御社の強みは。

高谷 グループ全体で、多岐にわたるセキュリティーサービスを提供できることです。たとえば、15年に買収したベンチャー企業のHASHコンサルティングは、Webアプリのセキュリティーホール(安全面での穴)を見つける会社です。また、14年に会社分割して設立したトラネルは、ゲームのバグ(プログラムの誤り)を見つけます。

 ゲームの開発段階でトラネルがバグを発見し、リリース後にイー・ガーディアンが問い合わせ対応をするなど、グループ間の連携で成長スピードを加速していきます。

 

◇今期も2桁成長

 

── 業績見通しは。

高谷 16年9月期は、売上高、営業利益ともに前期比で2桁成長の見込みです。市場が拡大しているので、2桁成長は最低限だと思っています。

 

 イー・ガーディアンは、今年4月に設立されたブロックチェーン推進協会に発起メンバーとして参画している。ブロックチェーンは、複数のコンピューターが分散して管理する台帳で、金融機関などが注目している。

 

── ブロックチェーンに取り組む理由は。

高谷 改ざんがしづらく、システム構築のコストが小さいブロックチェーンは、今後あらゆるECサイトやシェアリングサービスのプラットフォームになると考えています。

 そこで、第三者によるセキュリティーチェックが必要となります。たとえ、ブロックチェーン自体が安全だとしても、その仕組みを使ったサイトやサービスが安全とは限りません。

 サービス開始前にセキュリティーホールがないか検証する必要があるのです。具体的な取り組みはこれからですが、ツールを使ったセキュリティー診断やハッカーを装った攻撃テストなどが考えられます。

── 他にも新しい技術が次々と登場していますが、対応は。

高谷 顧客であるゲーム会社で活用される新技術について、プログラムに誤りがないか、サービスに問題がないか検証していきます。

  VR(仮想現実)、AR(拡張現実)の対策専門チームを社内に発足しました。ゲーム世代である若いメンバーが中心となって、取り組んでいます。

── 今後の目標は。

高谷 安心・安全のシンボルになりたいです。建物にセコムのマークがあると安心しますよね。同じようにWebサイトにイー・ガーディアンが監視中、またはチェック済みというマークがあれば、ユーザーに安心して使ってもらえるようなブランドになりたいです。

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長) 構成=金井暁子(編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 36歳の時に、会社を立ち上げました。当時は売り上げが少なく、「地獄の30代」と言うくらいしんどかった。でも、30代に苦労すると、次の10年が大きく変わります。

Q 「私を変えた本」は

A 稲盛和夫さんの『心を高める、経営を伸ばす』です。何のために働くのか、生きるのか人生哲学が明確に書かれていて、これを読んでジョンソン・エンド・ジョンソンから京セラに転職しました。

Q 休日の過ごし方

A 土曜日に日本拳法という武道塾を主宰しています。

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■人物略歴

たかたに・やすひさ 大阪府出身。大阪府立摂津高校卒業。関西学院大学法学部を卒業。1995年に京セラ入社。仕事で関わりのあったホットポットからコンテンツ監視事業を譲渡され、2005年にイー・ガーディアンとして分社化、06年社長就任。48歳。

 

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事業内容:ブログ、SNSの投稿監視。オンラインゲームのカスタマーサポート。

本社所在地:東京都港区

設立:1998年5月

資本金:3億4000万円

従業員数:723人(グループ)

業績(2015年度連結)

 売上高:30億1800万円

 営業利益:3億2800万円

 

 

(『週刊エコノミスト』2016年10月4日特大号<9月26日発売>4~5ページより転載)

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2016年

9月

27日

経営者:編集長インタビュー 張店(デビッド・チャン) BTCボックス社長 2016年9月27日号

◇「仮想通貨IPO」の時代が来る

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

  日本円でビットコインを購入・売却するための取引所を運営する。月間の取引規模は62万9416BTC(BTCはビットコインの単位)、約440億円(7月)。

 

── ビットコインが活況ですね。

 張 理由の一つは、日本の国会で5月末に仮想通貨の悪用を防ぐための規制を定めた改正資金決済法が可決されたことです。法整備が進み仮想通貨に対するイメージが良くなりました。

  もう一つは、4年に1度、新たな通貨の供給量が半減するという、ビットコイン特有の仕組みの影響です。通貨価値を担保するための半減期が7月にあり、それを見越して6月に価格が2倍に急騰しました。

 

  さらに、ビットコインの基盤技術である「ブロックチェーン」の応用技術開発に大手金融機関が乗り出したこともあります。ブロックチェーンとはインターネット上の巨大な台帳で、世界中のビットコインのユーザーによって共有され、新たな取引が行われる度に取引記録が書き加えられる仕組みです。

── 取引所を作った理由は。

 張 2013年ごろ、世界中で取引されるようになったビットコインに通貨の未来を感じ、興味を持ったのがきっかけです。

  しかし、当時は日本でビットコインを買いたくても、日本の仮想通貨取引所は対応が遅く、また、海外の取引所から買う場合は、英文の身分証などを用意する必要があり、入手手続きに時間がかかりました。

  そこで、もっといいサービスを提供できる取引所を自分で作ろうと考え、14年3月にBTCボックスを創業しました。取引所に口座開設の申し込みをしたら、翌週にはビットコインを入手できるサービスを日本で初めて作りました。

── サービスの内容は。

 張 現在、ビットコイン含め三つの仮想通貨と日本円の交換の場を提供しています。ユーザーは口座を作れば、仮想通貨と円の取引が自由にできます。

── 収益源を教えてください。

 張 一つ目は、ビットコインと円の取引手数料ですが、現在は、国内取引所間で競争が激化しているため、2年前から各社ゼロに設定しています。ただ、こうした状況は健全とは言えません。

  二つ目は、ユーザーがBTCボックスの口座にある日本円を、自分の銀行口座に出金する際にかかる0・5%の手数料です。

  三つ目は、ビットコインの短期売買で利ザヤを抜くといった、いわゆる信用取引をしたいユーザーにビットコインを貸し出す際の手数料です。最低利率は0・1%で、貸出量に応じて大きくなります。あくまで一時的な貸し出しで、長期的なサービスは考えていません。

── 他社と比べて強みは。

 張 他の取引所は、システム関係で何らかの不具合を起こして取引を停止した経験がありますが、BTCボックスは、取引所の開設以来、サーバーがダウンするといった事故を一度も起こしていません。理由の一つは、取引システムが強固なことです。システムの構築は外注せず、すべて内製しています。それを可能にする技術スタッフがいます。

 

◇ブロックチェーン2.0

 

── 9月から始めた新サービスはどのようなものですか。

 張 日本円を介さずに仮想通貨同士を直接売買する取引所「BTCボックス・ドットコム」を開設しました。取り扱うのはビットコインとイーサリアムの通貨ペアです。

  イーサリアムは、昨年夏に仮想通貨市場に登場した比較的新しい仮想通貨です。そのブロックチェーンを構成する各ブロックには、ビットコインなどに比べてより大きな情報を記録できるため、決済のほかさまざまな用途に活用できます。これまでの通貨目的の技術が「ブロックチェーン1・0」と呼ばれるのに対し、「スマートコントラクト」という電子契約が可能になるイーサリアムは「ブロックチェーン2・0」と呼ばれ注目されています。

── 具体的に何ができますか。

 張 契約情報を盛り込むことができるので、期日までに指定の口座にこれだけ入金するということをあらかじめ書き込めば、期日に自動的に支払いが実行されます。証券や不動産の取引に使えます。今、大手銀行などが開発中の技術は、すべてブロックチェーン2・0で、いわゆる「フィンテック」(ITを活用した金融技術)の一つです。

  現在、仮想通貨は利殖目的で買われることが多いですが、投機目的ではなく、仮想通貨同士の売買を仲介することで、ブロックチェーン2・0の活用領域を広げることがBTCボックス・ドットコムの目的です。8月には技術者派遣業の夢真ホールディングスと資本業務提携しました。フィンテック領域でブロックチェーン技術者の育成・派遣を行う新事業を立ち上げるのが目的です。

── 今後の目標は。

 張 株式新規公開(IPO)のように、イーサリアムのような有望な仮想通貨を新規公開する「ICO」(イニシャル・コイン・オファリング)が目標です。ICOした通貨を使った新たなサービス創出のプロジェクトへ出資を募る役割も担いたいです。また、大手金融機関が提供するアプリケーション開発を受注できれば、新たな収益源になります。

 (構成=大堀達也・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本の電機メーカーでアップルの製品の共同開発に携わっていました。

Q 「私を変えた本」は

A 米ペイパル共同創業者エリック・ジャクソンの『The PayPal Wars』です。ペイパルとイーベイの競争は、仮想通貨取引所の競争に似ていて、目標設定や決断の参考になります。

Q 休日の過ごし方

A 2歳の息子と公園に行ったり、読書や映画鑑賞をしたりすることが多いです。

 

■人物略歴

◇デビッド・チャン

 中国山東省出身。2004年遼寧省大連開発区第8高校卒業、08年瀋陽工業大学卒業後に来日し、日本の電機メーカーに入社。14年3月に独立し、BTCボックスを設立。31歳。

 

◇BTCボックス

事業内容:仮想通貨と日本円の取引所運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2014年3月

従業員数:13人

月間仮想通貨取扱高(ビットコイン):約440億円(16年7月実績)

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2016年

9月

20日

経営者:編集長インタビュー 山本良一 J.フロントリテイリング社長 2016年9月20日特大号

 ◇時代に合った新たな百貨店へ転換

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 来年で統合から10年がたちます。振り返っていかがですか。

山本 2007年に大丸と松坂屋ホールディングス(HD)が経営統合し、持ち株会社として発足した当初から、百貨店を中核とした小売業のリーディングカンパニーを目指すという明確なビジョンを持ち、事業展開を行ってきました。12年にパルコを子会社化したり、通販大手の千趣会と資本提携を結ぶなど、マルチリテイラーとして、目標イメージに近い会社へ変化しています。

── 一番苦労したことは。

山本 統合して、まずは同じような子会社を1業種1社に統一していくことから始めました。最後に大丸と松坂屋の統合に着手しましたが、人事制度や給与体系、情報システムなどの統一はもちろん、社員がどの店舗でも同じように仕事ができるよう、業務の進め方なども作り変えなければならず、その作業にとても苦労しました。最終的な完了までには2年半ほどかかりました。

── 訪日外国人観光客による「爆買い」の影響は。

山本 16年2月期連結決算の免税売り上げは、前年比2・2倍増の338億円と、過去最高となりました。しかし、円高や中国経済の低迷に加え、中国の関税の大幅な引き上げで、16年3~5月期の免税売り上げは前年比25%減少しました。

とはいえ、16年3~5月期の客数は前年比0・5%減と、ほぼ減っていません。当社に来店される訪日外国人観光客の約10%がリピーターであることなどから、客数は増加するとみています。今後は爆買いをあてにするのではなく、訪日外国人観光客のニーズをしっかりと捉えたビジネス展開を行っていくことが重要だと思います。

── 消費全体ではどうですか。

山本 富裕層の消費は比較的安定しているものの、消費全体は足踏みしています。特に、中間層の購買意欲が薄れてきており、当社の中級価格帯の婦人衣料品などの売れ行きは厳しい状況が続いています。今後はどれだけ中間層を獲得していけるかが課題です。

── 課題に向けた取り組みは。

山本 多くの人は、通勤経路や居住地などで生活行動範囲が決まり、買い物の場所もおのずとその範囲の中で決まります。そうしてできた「脳内ショッピングマップ」の一つに追加されるためには、来店するきっかけを作り、認知してもらい、行動範囲や習慣を変えてでも来店していただけるような仕掛けが必要です。そのために、売り場構成を常に変化させ、これまでの百貨店のイメージとは少し違うテナントも誘致することで、新しい客層の掘り起こしに取り組んでいます。

── 具体的には。

山本 松坂屋名古屋店では、婦人服と住生活用品の売り場を圧縮し、そこに従来の百貨店にはないカテゴリーだったヨドバシカメラを誘致したり、手の届きやすい価格帯のブランドを充実させたりして、お客様のニーズや時代に対応した商品のカテゴリーや、ブランドの入れ替えを行っています。

 

◇オムニチャネル強化

 

── 15年には千趣会と資本提携しました。

山本 電子商取引(EC)サイトとカタログを中心とした販売チャネルを持つ千趣会は、ECサイトからの受注が80%で、そのうち40%をスマートフォン(スマホ)が占めています。スマホの普及で販売チャネルが多様化するなか、ウェブに対応した通販ビジネスの知見や、商品の受注、調達、配送といった物流システムの充実度は、当社にはない強みです。

── どんな展開がありますか。

山本 現在、千趣会との共同開発で、モデルの黒田知永子さん監修のファッションブランド「Kcarat(ケイカラット)」を、千趣会のカタログや両社のECサイト、大丸6店舗で展開しています。オリジナルブランドの開発・販売は、店頭のみの展開では販売量が限られるため、その分価格が高くならざるを得ません。今回、千趣会の販売チャネルも活用することで、ある程度の販売量が見込め、中間層にも手の届く価格帯にできました。

 また、千趣会のオリジナルブランド開発の知見も活用し、百貨店とECサイト両方の顧客ニーズを取り入れた商品開発を行いました。実店舗を持っていない千趣会にとっても、相互補完し合える資本提携ができたと思います。

── 松坂屋銀座店跡地を再開発しているそうですね。

山本 現在、17年4月の開業を目指し、売り場面積4万6000平方メートル、約240のテナントを誘致する、銀座エリア最大級の複合施設の建設を進めています。銀座という土地の性質上、世界中から訪れるお客様に楽しんで頂けるワールドクラスクオリティの商業施設を目指し、お決まりの百貨店の形にはこだわらない店作りをしていきます。「松坂屋」の屋号も使いません。

── 松坂屋上野店の建て替えは。

山本 17年秋の開業を目指し、パルコや映画館、オフィスが一体となった、地上23階建ての複合ビルを建設中です。当社は14年から、店舗を核に地域とともに成長するビジネスモデル「アーバンドミナント戦略」を推進しています。既に進行中の上野・御徒町地区の再開発を同時に進め、上野の街全体を活性化させ、百貨店を中心としながら成長を促していけるビジネスモデルの構築を目指していきます。

(構成=荒木宏香・編集部)

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A その頃は大丸梅田店開業のための新店準備室にいました。その時が、店作りにおけるノウハウや考え方、百貨店とは何かを一番学んだ時期でした。

Q 「私を変えた本」は

A稲盛和夫編『地球文明の危機(環境編)』、『同(倫理編)』です。現代文明と地球環境の危機に警鐘を鳴らす内容に、現代人の生き方について考えさせられ、感銘を受けました。

Q 休日の過ごし方

A 全国の店舗を見て回ることが多いです。松坂屋上野店にはよく行きます。

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■人物略歴

 ◇やまもと・りょういち

神奈川県出身。横浜市立桜丘高等学校卒業。1973年明治大学商学部卒業後、大丸に入社。2007年にJ.フロントリテイリングの取締役、10年に大丸松坂屋百貨店の代表取締役社長を経て、13年J.フロントリテイリング代表取締役社長に就任。65歳。

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 ◇J.フロントリテイリング

事業内容:百貨店・パルコ事業のほか、卸売事業、クレジット事業などを運営

本社所在地:東京都中央区

設立:2007年9月3日

資本金:300億円

従業員数:7277人(連結、2016年2月29日現在)

業績(2016年2月期・連結)

売上高:1兆1635億円

営業利益:480億円

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2016年

9月

13日

経営者:編集長インタビュー 長谷川敦弥 LITALICO社長 2016年9月13日号

◇障害があっても幸せな社会に

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

  LITALICO(以下、リタリコ)は、障害者の支援をビジネスとして実現する日本唯一の上場会社だ(2016年3月上場)。内閣府の『平成28年版 障害者白書』によると、日本にいる障害者は860万人。一方、障害者の労働者数は、36万6000人にとどまる。

リタリコは、障害者の就労や学習支援を通 して、この課題に取り組む。

── 障害者の支援事業を始めたきっかけは。
長谷川 学生時代に、障害者施設で働く脳性まひの若い女性に会ったことをきっかけに、障害があっても 幸せになれる社会をつくりたいと決めました。リタリコは、先代の社長が2005年12月に設立した会社です。彼が仙台市長選挙に出馬することになり、後任 として09年8月に私が社長に就任しました。当時は入社2年目でした。

── 入社2年目での社長抜てきに重圧は感じませんでしたか。
長谷川 元々、経営者になりたいと考えていたので、不安やプレッシャーはありませんでした。
 ただ、社長を引き継いだ当時は、毎月700万~800万円ほどの赤字がありました。そこで、売り上げを伸ばすために就労支援事業の拠点の拡大に力を入れました。10年8月時点は、全国で6拠点でしたが、半年後の11年3月には15拠点と倍増。翌12年3月には34拠点となり、現在は58拠点です。
── なぜ、株式会社の形態をとっているのですか。
長谷川 日本では、非営利団体よりも株式会社の方が、資金も人材も集まるからです。また、近江商人の「三方良し」のように、昔から会社が社会貢献を行う考え方があります。
── ビジネスモデルは。
長谷川 以前は、企業に障害者を紹介し、企業から人材紹介料をもらう事業モデルでした。しかし、これでは就職できるのは障害が軽度な一部の人だけです。障害者の雇用を増やす抜本的な解決になりません。
 そこで現在は、障害者に就労支援サービスを提供し、その料金の1割を利用者から、9割を国と自治体からもらっています。病院や介護施設と似たような形態です。実際には、利用者の大半は前年度の収入がないため、無料でサービスを受けています。サービス料は、1日約8500円からです。
── 就労支援の中身は。
長谷川 利用者は、約1年間でパソコンの使い方やコミュニケーションのとり方などを学んだり、企業で実習をしたりします。面接対策など就職活動の支援もします。また、障害者の中には、ようやく決まった就職先の環境に過剰に合わせすぎてしまう人が多いので、就職後も半年間のフォローアップを行います。
── どのような人が利用していますか。
長谷川 利用者のうち約6割が精神障害を持ち、約2割が発達障害を持っています。身体障害と知的障害を持つ人も、1割ずついます。
 昨年度は、月平均で約1800人が利用し、そのうち894人が就職しました。就職者数は、事業を開始した08年から累計で約4000人。

 ◇多様な人が働く環境を

── 行政による障害者の就労支援と違う点はどこですか。
長谷川 従来の障害者支援は、福祉施設の中で働く場を提供していました。1人30年、40年と長い期間施設で働くため、その分、社会福祉のコストがかかります。
 一方、リタリコのサービスは、社会に出て働くことを目的としています。就労支援の期間は費用がかかりますが、就職後は企業から給与をもらい、自立します。
 つまり、長期的に見れば、リタリコのサービスが拡大することで、社会保障費は減らすことができます。
 また、日本の人口が減少する中、生産性を高めるためには、多様な人材が働き、イノベーションを生み出すことが重要です。その点でも、障害者を含む多様な人材が働ける環境が大切だと思います。
── 環境を整えるため、他にどんな取り組みを。
長谷川 自閉症やアスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの発達障害を持つ子ども向けに教室を運営しています。集団生活を送るための練習をしたり、基礎学力をつけるための教育を受けます。料金は、週1回利用の場合で月額約2万円です。就労支援と同じく社会保障費から補助がでるケースと、100%自己負担のケースがあります。
 現在、70の拠点があり、約8000人が通っています。しかし、教室が満員のため、待機者が数千人います。それくらい切実なニーズがあるのです。
── 新たな事業の柱はありますか。
長谷川 プログラミングをしてゲームやロボットなどをつくる子ども向け教室を運営しています。この拠点はまだ五つですが、時流に乗っています。利用者の8割は、障害がない子どもです。
 元々は、発達障害の子どもの得意分野を伸ばす場を提供したいと始めました。彼らの中には、ITなど特定の分野に才能を持つ子がいます。学校ではうまく適応できない子も、リタリコの教室では活躍できます。
── 今後の目標は。
長谷川 障害者にとっての社会インフラになりたいです。障害があってもリタリコに出会ったら安心できる、そういう存在を目指しています。
(構成=金井暁子・編集部)

 ◇横顔

Q 20代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 入社2年目の24歳で社長に就任しました。就任直後は、とにかく忙しかったです。
Q 「私を変えた本」は
A 18、19歳の頃に読んだ『志高く 孫正義正伝』です。それまで、社会で活躍できる人は優等生だと思っていましたが、型破りな人間が活躍できるのだと感銘を受けました。
Q 休日の過ごし方
A 休日を含め毎日10キロ走っています。
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 ■人物略歴
 ◇はせがわ・あつみ
 1985年岐阜県出身。岐阜県立多治見高校卒業。2008年名古屋大学理学部を卒業後、同年LITALICO入社。09年8月より現職。31歳。
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事業内容:障害者の就労支援、障害児の教育支援
本社所在地:東京都目黒区
設立:2005年12月
資本金:3億2900万円
従業員数:1270人
業績(2015年度)
 売上高:72億6400万円
 営業利益:5億6200万円
 

(『週刊エコノミスト』2016年9月13日号<9月5日発売>4~5ページより転載)

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2016年

9月

06日

経営者 編集長インタビュー  越智仁 三菱ケミカルホールディングス社長

◆化学3社統合を機に、総合力強化

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 三菱ケミカルホールディングス(HD)は、石油化学事業(石化)の三菱化成と三菱油化が合併した三菱化学が原点の総合化学メーカー。2005年のHD設立以降、M&A(合併・買収)で事業を拡大。石化のほか、三菱樹脂や三菱レイヨンの樹脂製品、田辺三菱製薬の医薬品、大陽日酸の産業ガスなど多様な事業を展開している。

 

── 足元で伸びている事業は。

越智 コーティング材など自動車の部材が安定して伸びています。電機業界向けでも、フラットパネルディスプレーに使うポリエステルフィルムなどが堅調です。医薬品では、自社製品を海外の会社に委託したロイヤルティー収入で年間数百億円を得ています。15年度は、糖尿病治療薬「インヴォカナ」や多発性硬化症治療剤「ジレニア」が伸びました。

── 他の分野はどうですか。

越智 合成樹脂では、アクリル樹脂原料「MMA」が、世界で約40%のシェアがあります。エタンガスから作る他社にない低コストの製造法のため、競争力がある製品です。これも自動車や、欧米の住宅でコーティング材として重宝されています。また、アクリル樹脂の「PMMA」は、発光ダイオード(LED)の材料としてメーカーに提供しています。

 

 ◇石化再編にめど

 

 石油化学事業では、エチレンプラントの削減などの事業再編を進めている。16年は、採算が悪化した合成繊維原料「PTA」事業で中国・インドから撤退する。

 

── 石化の構造改革の状況は。

越智 11年度から15年度までの中期経営計画で事業を再編し、構造改革は一段落した状態です。伝統ある事業なので抵抗感はありましたが、ポリエチレンなどで収益性の低い事業を縮小してきました。この3年で4基あったエチレンプラントは2基を停止しました。現在、プラントの稼働率は100%を超えており、低コストの運営を実現しています。

── 現状の収益力の評価は。

越智 まだ不十分です。現在、約4兆円の売り上げですが、営業利益は2800億円です。16年度から5年間の中計では、20年度で3800億円の営業利益を目指しています。

── 収益力をどう高めますか。

越智 海外展開と新事業の2軸で進めます。海外売上比率で当社は43%程度で、米化学大手デュポンなどより低い水準です。中国経済が減速した14年度以降、世界的に低成長の状況ですが、拡大している海外市場を取り込むことは欠かせません。炭素繊維やプラスチック製品、医薬品など、高性能で競争力のある商品を拡大していきます。MMAでも、サウジアラビアに新たなプラントを作り、17年に稼働する予定です。

── グローバル化の体制は。

越智 今後、200以上ある海外拠点のうち、地域ごとの統括拠点を設立し、現地市場の把握や地域間の連携を強化していきます。従来の日本主導ではなく、現地の主体性を尊重する方針です。グループで約6万9000人の従業員のうち、約2万4000人いる海外人材の活性化にもつながると考えています。

── 新事業で期待する分野は。

越智 電機産業向けの製品は、次世代の事業と位置づけ、将来の収益拡大に向けて改善しています。その一つが、LEDに使う「窒化ガリウム」の基板です。LEDの輝度が高くなり、光を遠くまで飛ばせるので、自動車のヘッドライトには欠かせません。有機太陽電池の部材も、フレキシブルに形状を変えられ、軽いものに改善していきます。

── 大陽日酸を14年に買収しました。

越智 同社は収益が安定しており、16年度で四百数十億円の営業利益を見込んでいます。また、産業ガスは社会インフラなので、さまざまな製品や顧客とのつながりが期待できます。実際、三菱レイヨンが医療用で提供している炭酸泉(二酸化炭素が溶け込んだお湯)では、大陽日酸の炭酸ガスを使います。三菱化学が作る窒化ガリウム基板の生産設備も大陽日酸の製品です。

── 17年4月に、三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社が統合し、三菱ケミカルが発足します。統合に伴う改革は。

越智 統合する3社で4万人の従業員がいますから、各事業部門に権限を委譲し、スピード感のある経営を促します。3社で60の事業部門を10に再編し、統合会社を含むグループ全体で技術や販売チャンネルを共有、グループの総合力強化を図ります。

── 統合に向けた課題は。

越智 これまでは、グループに数ある事業会社や事業部門が単独で動き、研究開発の知見や販売チャンネルなどを十分に共有していませんでした。例えば、自動車用製品を欧州で販売する際、現地の販売チャンネルに強みがある三菱樹脂と連携すれば、さらに拡大できるはずです。

── M&Aの方針は。

越智 今後、グループ内で連携を進めて新たなニーズを探るようになれば、既存の事業から少し離れたニーズも見えてきます。その際、自社にない経営資源は、他社との提携やM&Aで取り入れます。単なる規模拡大ではなく、グループとしての事業ポートフォリオ(構成割合)の観点でシビアに見定めていきます。

(構成=藤沢壮・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 1970~80年代だったので、オイルショックで石化が大変な時期でした。アンモニア製造の課長代理として、作業効率改善や要員削減といった現場の合理化に取り組んでいました。

Q 「私を変えた本」は

A 2000年ごろ、製造畑だった私が初めて事業部長になったときに読んだ『マネジメント』(ピーター・ドラッカー)です。

Q 休日の過ごし方

A 妻と買い物に行くことと、スポーツクラブに通っています。

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 ■人物略歴

 ◇おち・ひとし

 愛媛県立西条高校卒、京都大学大学院卒。1977年三菱化成工業(現三菱化学)入社、2009年三菱ケミカルホールディングス取締役執行役員経営戦略室長を経て、15年6月社長就任。63歳。

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事業内容:三菱系の総合化学持ち株会社。傘下に石油化学、合成樹脂、医薬品などの製造・販売会社を持つ

本社所在地:東京都千代田区

設立:2005年10月3日

資本金:500億円

従業員数:6万8988人(連結、2016年3月31日現在)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:3兆8230億円

 営業利益:2800億円

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2016年

8月

30日

経営者:編集長インタビュー 津谷正明 ブリヂストン会長兼CEO 2016年8月30日特大号

◇技術、サービス組み合わせ解決型ビジネス

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── タイヤの世界シェア1位(売上高ベース)の日本企業ですね。

津谷 一口にタイヤと言っても、用途は広いです。自転車、二輪、自動車の他、航空機や鉱山掘削トラクター用のタイヤも製造しています。大型で、耐性も必要とされるこれらの特殊なタイヤは、新興国のタイヤメーカーにはない技術を持つからこそできます。当社は、大型航空機(座席数100程度)向け新品タイヤで、世界シェア4割(自社推計)を占めており、トップの座を仏ミシュラン社と争っています。

── 手がけるのはタイヤのみですか。
津谷 タイヤに限らず、建物の免震ゴム、工場設備の配管用ホース、鉱石輸送用のコンベヤーベルトなど、ゴムを使った製品も作っています。また、製造だけにとどまらずに、サービスも提供しています。たとえば、航空会社向けのビジネスでは、一度新品タイヤを提供しておしまいではありません。飛行日程の合間に、空気圧や溝の深さを定期的に検査します。安全上、必要とあらば、タイヤの表面のゴム(トレッド)を削り、新しいゴムと張り替える「リトレッド」もします。
── もはやメーカーの概念ではありませんね。
津谷 昨年10月に発表した中期経営計画では「商品単体からソリューション(課題解決)へ」というスローガンを立てて、さまざまなビジネスモデルを確立しています。ソリューションとは、新品タイヤの供給▽タイヤ以外のゴム製品供給▽維持管理▽その他のサービス、を組み合わせて顧客の課題を解決するビジネスモデルです。従来は、新品タイヤを売る→古くなれば新たなタイヤを売る、というビジネスでした。しかし、今やタイヤにかかわるあらゆる技術を駆使したソリューションを提供しています。
── ビジネス領域が広がりますね。
津谷 鉱山会社には、車両用のタイヤ、コンベヤーベルト、設備用のホースを一括して売り始めました。従来は、これらの商品を別々に供給していました。今はワンストップ体制に改め、価格交渉などの手間も省力化できます。また、運送会社向けに、新品タイヤの供給、空気圧などの管理、24時間体制でタイヤ交換をできるサービスを組み合わせて提供しています。「車両を、休みなくいかに効率的に稼働させるか」という運送会社の経営課題に取り組むサービスと言えます。
── 世界シェア1位をミシュランと激しく競り合っています。世界一の座をつかむカギは。
津谷 タイヤ業界は、規模の経済がはたらきます。このため、製造・販売・サービス拠点の網を世界に張り巡らせるグローバル化が必要です。1988年に米タイヤ製造・卸売り会社「ファイアストン」を買収したのもグローバル化を進めるためでした。当時の売上高は6200億円なのに対して買収額は3300億円。賭けでした。しかし、経営者が「将来のためには必要な買収だ」と判断したのです。当社にとっては第二の創業です。ただ、当初は同社の設備老朽化や技術力不足で高性能のタイヤが製造できないことなど、問題もありました。「この買収はうまくいかないかも」と不安になった時期もありました。老朽化設備更新などのために同社に増資するなど、高い授業料は払いました。しかし振り返ると、グローバル企業として必要な経験でした。
── 規模拡大以外に重要なことは。
津谷 技術力も必要です。当社は、原料のゴムをゲノム段階から研究していますし、彦根工場でAI(人工知能)を使って製造自動化を進めています。ただ、拠点網と技術力があっても、それで良しとはしません。車向けも航空機向けも、より軽くより安全なタイヤが求められます。難しい技術が必要だから当社の存在意義があります。大きな変革の前に、先を読んで、競争力を付けようという気概が必要です。

 ◇買収断念褒められた

 昨年、米タイヤ販売大手「ペップ・ボーイズ」の買収を表明した。しかし、「もの言う株主」として知られる投資家のカール・アイカーン氏が対抗して買収を表明し、買収合戦に発展。その結果、ペップ・ボーイズの買収を断念した。

── 買収断念をどう振り返りますか。
津谷 6月に、米国で機関投資家と対話しました。その際「あの買収は降りて正解だったね」と褒められました。当社は、事業の一環としてペップ社の買収を計画しました。しかし、アイカーン氏による買収提案は別の意図があったのではないでしょうか。アイカーン氏が買収価格を数度引き上げたことで、「深追いはしない方がいい」と判断しました。
── 一方で、6月にはフランスの販売会社「スピーディ社」を買収しました。狙いは。
津谷 フランスでは、当社グループの店舗は300しかない上に、ミシュラン社の影響力が大きい国です。買収によってグループの店舗は800店にまで増加します。しかも、これらの店舗は、収益は高いが、新規ならば出店が難しい街中の店舗が中心です。当社の欧州の売り上げは全売上高の1割と小さいので、今回の買収で欧州の売り上げを伸ばしたいです。

(構成=種市房子・編集部)

◇横顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 生意気でした。ファイアストン買収の戦略立案に事務局としてかかわり、経営陣と議論もしました。一部から反発もありましたが「若い時は生意気でなければ」という上司の言葉に助けられました。
Q 「私を変えた本」は
A マックス・ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』。こういう考え方があるのだ、すごいな、と感じました。
Q 休日の過ごし方
A 掃除とお使い。妻と一緒のことも、単独でやることも。健康のためにやらせてもらっています(笑)。
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■人物略歴
◇つや・まさあき
東京都出身。都立青山高、一橋大卒業、シカゴ大経営大学院修了。1976年ブリヂストン入社。主に国際渉外畑を歩み、2012年代表取締役CEOに就任(この年に社長職廃止)。13年から会長職兼務。64歳。
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事業内容:タイヤ製造・販売
本社所在地:東京都中央区
設立:1931年
資本金:1263億円
従業員数:14万4303人(連結)
業績(2015年度連結)
 売上高:3兆7902億円
 営業利益:5172億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月30日特大号<8月22日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

23日

経営者:編集長インタビュー 境 正博 ジャパンミート社長 2016年8月23日号

◇「M&Aで成長する肉のプロフェッショナル」

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

ジャパンミートは、茨城県に本社を構え、関東で「生鮮館」や「肉のハナマサ」などのスーパーを展開する。1978年に食肉卸業として創業して以来、肉のプロとして事業追求してきた。またM&A(合併・買収)を通じて事業拡大し、今年4月に東証2部に上場を果たした。

 

── 上場を決めた理由は。

 M&Aなどで売上高1000億円が見えてきて、今後の成長戦略として上場を決めました。2013年に買収をした花正の運営する「肉のハナマサ」の体制も整ってきたので、更に攻めの経営に出ました。

 上場で集まった約40億円は、東京本部ビルと茨城県の新加工物流センターの拠点づくりに使います。

── 現在、いくつの店舗がありますか。

 肉を中心とし、主に関東でスーパーマーケットを76店舗、外食店を15店舗運営しています。

 スーパーマーケットは、出店場所と店舗の大きさによって、四つに分かれます。大型商業施設内にテナントとして出店する「生鮮館」、ロードサイドに単独で店舗を構える「卸売市場」、北関東の地域に密着したスーパー「パワーマート」。そして、東京23区内を中心に出店する業務用食品を扱う「肉のハナマサ」です。

 最も店舗数が多いのは、肉のハナマサで49店舗。花正の買収前は、生鮮館を中心に成長してきました。 外食事業は、14店舗ある「焼肉や漫遊亭」が中心です。

── 足元の業績は。

 2016年7月期の予想は、売上高958億円、営業利益43億2400万円です。見込みどおり、順調に進捗しています。営業利益率は4・5%と、高い水準にあります。

── 肉のハナマサを持つ強みは。

 都内を中心とした49店の店舗網があることです。例えば、銀座、赤坂、麻布など新規に出店することが難しい土地に、ハナマサは既に店舗を持っています。

また、ハナマサは業務用の大きいサイズの商品を売る点で、コンビニやミニスーパーとは異なる独自性があります。業務用商品を売っていますが、ハナマサに来るお客様の7割は、業者ではなく一般家庭の人です。

 消費者は昔に比べ、業務用の大型商品を買うことに抵抗が少なくなりました。また冷蔵庫の性能が向上したため、まとめ買いをした後、小分けにして冷蔵庫で保存することができるようになりました。ハナマサの売り上げに占める生鮮食料品の構成比は60%に上り、コンビニなどと比べると圧倒的に高いです。

── 他社に勝ち抜くコツは何ですか。

 「売れ筋売価発想」です。つまり、お客様が最も欲しいものを、買ってもらえる値段で並べます。

 たとえば、お客様が最も買う肉は、ブランド肉ではなく、豚のひき肉や細切れ、鶏の胸肉などです。それら売れ筋商品を多く陳列しました。花正を買収後、肉のハナマサにも、この「売れ筋売価発想」を取り入れるようアドバイスしました。

── 肉へのこだわりは。

 ジャパンミートは、祖父が1945年に丸八肉店という精肉店を創業したのが始まりです。小売店に肉を卸しており、78年には食肉卸企業のジャパンミートを設立しました。 その後、肉の小売店をやらないかと言われ、肉の仕入れから加工、販売までを全て自社で行うようになりました。それまで、他社のために行っていた肉の加工を、ジャパンミートのために行うようになったのです。83年に小売りの1号店を開設し、93年からはホームセンター「ジョイフル本田」内に出店しました。

 ホームセンター内には、さまざまな食品専門店が入っていて、それらをその後、ジャパンミートがM&Aしました。だから、ジャパンミートはプロの集団だと思っています。

── M&Aで苦労はありませんでしたか。

 買収先とは、良好な関係を築けています。M&Aの目的は他社を征服することではなく、自社を成長させることです。買収後も各社の特徴や良さを残し、ジャパンミートの肉が売れるように、各々の専門業を頑張ってもらいます。

 特に、花正は、同じ肉屋としてDNAの型がジャパンミートと合うんです。

── 外食事業は好調ですか。

 焼き肉を中心に展開しています。焼き肉は、牛、豚、鶏の部位ごとに、また内臓まで含めて提供できるので、精肉の強みを最も発揮できます。客単価は約2200円ですが、5000円分食べた満足感を与えます。

── 今後の出店計画は。

 生鮮館や卸売市場も、人口の多い東京23区内に出店していきます。これまで拠点は茨城の本社でしたが、東京に本部を構えたことで、重心を東京に移すことができるようになりました。

 ここ最近は、肉のハナマサを手に入れたこともあり、出店ペースはスーパーと外食店を合わせて年間4店舗でした。しかし、今後は出店ペースを上げていきます。

── 今後の目標は。

 お客様目線の「売れ筋売価発想」で、ブレずにやっていきます。数値目標としては、営業利益率4・5%という水準を維持します。

 また、M&Aの手法も有効活用していきたいです。

(構成=金井暁子・編集部)

 

 ◇横 顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 食品部部長と営業本部長を経て、34歳で社長になりました。会社の売り上げが右肩上がりの時代で、がむしゃらに商売をしていました。

Q 「私を変えた本」は

A 本はありませんが、仕事の現場でさまざまな言葉を聞き、商売を学んできました。

Q 休日の過ごし方

A 家族と過ごしたり、ゴルフの練習をしたりしています。

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■人物紹介

 ◇さかい まさひろ

茨城県出身。1996年東京商科学院専門学校卒業後、食肉企業のダイリキに入社。99年に同社を退職し、ジャパンミートに入社。2009年から代表取締役社長(現任)。40歳。

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事業内容: 精肉・一般食品などの小売り

本社所在地:茨城県小美玉市

設立: 1978年8月

資本金:22億2950万円

従業員数:4897人(グループ)

業績(2015年度・連結)

 売上高:915億円

 

 営業利益:34億7600万円

(『週刊エコノミスト』2016年8月23日号<8月16日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

09日

経営者:編集長インタビュー 澤田道隆 花王社長 2016年8月9・16日合併号

◇「基盤研究が花王のDNA」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 6期連続増収増益、26期連続の増配です。

澤田 当社は「絶えざる革新」を理念のベースとし、消費者のニーズの半歩先を見て、驚きや感動を与える付加価値の高い商品を提案してきました。提案して終わりではなく、そこから5年、10年かけて継続的に研究を重ね、繰り返し商品を改良し、受け入れられる商品作りをしてきたことが、業績好調の大きな要因です。

 例えば、ヘアケアシリーズ「メリット」は、40年以上続く商品です。最初はフケに特化したシャンプーとして発売しましたが、より高付加価値のものを突き詰めるうちに、地肌ケアもできる弱酸性シャンプーにシフトしました。研究・改良を重ね、現在は子供も使える「家族シャンプーメリット」に生まれ変わりました。

── 好調の要因は。

澤田 当社の単体の従業員数は6970人で、そのうちの約3分の1が研究員です。研究開発に年間約520億円、競合他社は大体売上高の2%台であるのに対し、当社は3・5%を費やしています。また、そのうちの半分を、身体の本質や泡などの物質を解明する基盤研究が占めており、これが成長のベースにあります。

── 具体的には。

澤田 例えば、特定保健用食品 (トクホ)の緑茶である「ヘルシア」は、もともと「エコナ」というトクホの油の研究から生まれた商品です。

 エコナの主成分で、脂肪を燃焼する働きを持つジアシルグリセロールという物質を研究する過程で、お茶に含まれるカテキンが、同様の働きをすることがわかりました。それなら飲料でも、脂肪を燃焼する商品を開発できるのではないかという発想から、ヘルシアの発売に至りました。

 一つの物質の発見から派生的な知見が得られ、その知見の蓄積があるからこそ、新製品を生み出すことができます。こうした基盤研究が、当社のDNAの一つとなっています。

── 足元の事業環境は。

澤田 事業分野でそれぞれ異なります。家庭用品、化粧品は、単月でみれば低迷している月もあるものの、2016年1~6月の市場伸長率は家庭用品が103%、化粧品が101%となり、市場はそんなに悪い環境ではありません。

 ケミカル事業は、中国を含めたアジアの建設・インフラ関連の需要の減少で伸びは鈍化しており、上向くのに時間がかかるでしょう。ただ、中国の過剰生産や新興国の成長は行き過ぎた面もあり、今後適正な水準へ調整されていくと思います。今は着々と準備を進め、いずれ景気が好転してきた時に、一気に成長できる状態にしておくことが大切です。

 

 ◇世界初のインクを開発

 

── ケミカル事業の取り組みにはどんなものがありますか。

澤田 ケミカル事業の柱は、界面化学技術です。特に、二つの物質が接する境界である「界面」に作用して性質を変化させる界面活性剤に強みがあります。

 例えばコンクリートは、水や砂などをセメントで固めて形成しますが、水が少ないと固まりやすくなる一方で流動しにくく、逆に水が多いと弱くなります。当社は、界面活性剤を生かし、水中に分散するのを防ぐコンクリート混和剤の開発に成功しました。この製品は、東日本大震災後の福島第1原子力発電所のメンテナンスにも役立ちました。

── 他分野にも応用できますか。

澤田 印刷技術の分野でも、世界初のフィルム印刷への水性インクジェット用顔料インクを開発しました。これまで、環境汚染につながる揮発性有機化合物を使用した油性インクが主に使われていました。これを水性にし、環境負荷を低減しながら、界面制御技術を使い、従来難しいとされてきた高品質なフィルム印刷ができるインクの開発に成功しました。今後これが普及すれば、印刷の世界は大きく変わる可能性があります。こうした日本発の技術や、研究の力を世界に示していきたいです。

── 今後の海外展開はどうしていきますか。

澤田 現在、海外は欧米、アジアで主に展開しています。全体の売上高比率は、日本が65%、海外が35%と日本が中心です。しかし、アジアの売上高は、10年前と比較すると3倍の規模に成長しており、今後は、ミャンマーやカンボジアなど、海外事業の主力地域のタイに近い拠点を利用して、まずはアジアの家庭用品の展開を加速していきたいと考えています。

 一方、ケミカル事業の売上高は65%を海外が占めています。今後は、家庭用品で過去に撤退したフィリピンに再挑戦するつもりです。

── カネボウとの共同研究棟が16年秋完成します。

澤田 カネボウと当社の化粧品ブランド「ソフィーナ」それぞれの研究の知見や技術を高度化するため神奈川県の小田原事業場敷地内に新たな研究棟の建設を進めています。これまでに研究、生産などの各部門の一体運営を進めており、販売部門は、16年1月に花王グループの国内販売などの子会社を統合した持ち株会社体制に移行しています。

 15年12月期の売上高構成では、四つの事業分野のうちビューティケア事業が41・3%、そのうちの多くを化粧品が占めています。15年にはソフィーナ、16年からはカネボウの大改革をスタートさせました。共同研究棟は、改革を象徴する建物になります。

(構成=荒木宏香・編集部) 

 

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A グループリーダーとして、和歌山工場で毎日必死になって素材開発の実験、研究を行っていました。

Q 「私を変えた本」は

A (本ではないが)大学院修士1年の頃、当時の当社の丸田芳郎社長との面談の際に聞いた「本質の追究が研究の基本」が私を変えた言葉です。

Q 休日の過ごし方

A 3通りあります。時間がある時は和歌山に帰り、孫と過ごします。二つ目は生活者の購買行動を知るため、お店を回ります。もう一つは、オペラなどの感性を刺激される場所に行くようにしています。

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■人物略歴

 ◇さわだ・みちたか

 大阪府出身。桃山学院高等学校卒業。大阪大学大学院工学研究科プロセス工学専攻修士課程修了後、花王石鹸株式会社(現花王)入社。取締役執行役員などを経て、2012年より現職。60歳。

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事業内容:家庭用品、化粧品、工業用製品の開発、製造、販売

本社所在地:東京都中央区

設立:1887年6月

資本金:854億円

従業員数:3万3026人

業績(2015年12月期・連結)

 売上高:1兆4718億円

 営業利益:1644億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年8月9・16日号<8月1日発売>4~5ページより転載)

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2016年

8月

05日

経営者:編集長インタビュー 市川秀夫 昭和電工社長 2016年8月2日号

◇先端化学でリチウムイオン電池材料に商機

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 昭和初期に設立された総合化学メーカー「昭和電工」は、時代に合わせて、事業を転換してきた。現在はどのような事業が稼ぎ頭なのか。

 

── 御社はどのような会社か。

市川 約100年前、国内化学産業が近代化する以前は、日本は多くの素材を海外からの輸入に頼らざるを得なかった。そこで創業者の森矗昶(もりのぶてる)らが「化学素材を国産化する」という信念の下、築き上げた事業が当社の源流だ。その後、時代に合わせて事業転換を繰り返しながら領域を拡大してきた。例えば、当社の祖業の一つがアルミニウム製錬事業だが、製造する過程で原料を溶解する電炉が必要だ。そこで、電炉の熱源となる黒鉛電極事業を始めた。黒鉛は、導電性が高く、高熱にも耐えられる素材だ。現在は国内にアルミニウム製錬事業は残っていないが、黒鉛電極はスクラップ鉄の溶解に不可欠な材料として世界的に展開する事業となっている。現在は石油化学、化学品、無機(黒鉛電極など)、アルミニウム、エレクトロニクス(ハードディスクなど)の五つの大きなセグメントで展開している。

── 足元の経営環境は。

市川 2016年12月期は360億円の営業利益を予想しており、必達目標だ。ハードディスク事業ではサーバー向け需要が拡大している。しかし、パソコン向けの需要減をカバーしきれていない。一方、原油安と旺盛な中国での需要に支えられている石油化学が好調だ。新たな成長事業としては、リチウムイオン電池(LIB(リブ))材料に期待している。

── リチウムイオン電池材料事業とは。

市川 負極材、電池の持ちを長くする正負極の強化材、電池包装材が当社の主要商材であり、国内外の電池メーカーに供給している。特に人造黒鉛を使った負極材が好調だ。黒鉛電極で培ってきたノウハウが新たな用途開発につながっている。また、従来のリチウムイオン電池は筒形・角形が中心だったが、最近はEV(電気自動車)など大型向けにも袋状のパウチ形が増えている。パウチ形は電池の薄型化に加え形状の自由度も格段に上がるからだ。

 当社は、そのパウチ形電池向けに、アルミと樹脂の複合フィルムを包装材料として開発し、この2年ほどの間に急速に売り上げを伸ばしている。リチウムイオン電池は日本メーカーが先行していたが、最近は中国や韓国の競合メーカーがシェアを拡大しつつある。せめて材料は日本メーカーが海外品に対する優位性を持った製品を供給し続けないと、産業が丸ごと海外に流出してしまうという危機感がある。その意味でも、化学技術を駆使した先端材料の開発は我々の使命だと考え、取り組んでいる。

 

 ◇EV向け伸びる

 

── なぜ販売量が伸びているのか。

市川 EV市場が伸びているからだ。これまでは、スマホやパソコン用など小型リチウムイオン電池向けの需要が主流だった。しかし、EV用の大型リチウムイオン電池に使用される材料の使用量は圧倒的に大きい。特に中国では環境規制の観点からEVの普及を政策として進めており、ドイツなど欧州市場でも大型リチウムイオン電池需要が拡大している。当社のリチウムイオン電池材料の売上高は、今年、自動車用などの大型電池向けが小型電池向けを上回ることになりそうだ。

── リチウムイオン電池の市場をどう見るか。

市川 リチウムイオン電池材料の世界市場は、現在は年間1兆円強だが2020年には2兆円近くまで伸びる。当社も18年には、年間売上高300億~500億円の事業に育てていきたい。ただ、有望市場だけに、中国では新しい電池メーカーの参入ブームとなっている。「需要が増えている」と調子に乗って設備投資を急激に増やすのは事業リスクを抱えることになりかねない。中国市場全体の見極めと同時に、個々の企業の動向を見極めることが、今後当社の事業展開にとって極めて重要な要素になる。単に「いいモノ」を作るだけでなく、事業モデル全体の設計がより重要になってくる。

── 石油化学の状況は。

市川 しばらくは強気だ。国内のエチレン生産能力は15基あったエチレンプラントがこの3年間で3基休止し、年産610万トンまで減少した。海外では、特に中国では人口増加と生活レベルの向上によりエチレン需要は拡大している。輸入需要も強く、それが東アジア全体のエチレン需給バランスを逼迫(ひっぱく)させ、エチレン市況は高止まりしている。このように原料安と旺盛な需要でエチレンはしばらく高稼働と安定した利益が期待できる。しかし、この状態はあと2年程度しか続かないと見ている。米国では、17年以降安価なシェールオイルを使ったエチレンプラントが稼働を開始する。また、現在のような高いスプレッド(原料と製品の価格差)が続けば、中国でも新たな石油化学の新増設が計画され、遅くとも19年以降には稼働を開始するだろう。それまでに、当社石油化学の製造拠点である大分コンビナートに、エチレン由来の製品製造など関係事業を集積してよりバランスの良い、競争力のある事業拠点として強化していく。

(構成=種市房子・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 人事や石化事業再編を担当した。変革の中にあって、ひたすら働いた。

Q 最近買ったもの

A 5月にベトナム工場視察に行った際に、英国の帆船模型(長さ110センチ)を買った。ベトナム人の器用さがうかがえる良品だ。

Q 休日の過ごし方

A 最近はDIY(業者に頼らず自身で行う大工仕事)に凝っている。料理も好きで、専用のパンで作るパエリアはお勧め。

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■人物略歴

◇いちかわ・ひでお

長野県立長野県須坂高校、慶応義塾大学法学部卒。1975年、昭和電工入社。主に経営企画畑を歩み、2010年取締役兼常務執行役員、11年1月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。64歳。

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事業内容:総合化学メーカー

本社所在地:東京都港区

設立:1939年

資本金:1405億円

従業員数:1万561人(連結)

業績(2015年度)

売上高:7809億円

営業利益:336億円

2016年

7月

26日

2016年7月26日号 仲尾功一 タカラバイオ社長

 

◇「コツコツ続けた遺伝子治療が実用化へ」

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── 宝酒造の一事業部門から発展した会社ですね。

仲尾 宝酒造はビール事業から1967年に撤退しました。残った発酵技術者という資産を生かし、新たなビジネスを模索しました。当初は発酵技術を使った医薬品原料を作って他社に納めたりしましたが、当社が主導権を握れるビジネスを作ろうと始めたのが遺伝子工学を中心としたバイオテクノロジー事業です。

 79年に売り出した研究用試薬が、現在も主力製品です。大学や病院、研究機関向けに販売しています。初年度の製品は7品目でしたが、今では7000品目に上り、国内のバイオ試薬分野ではトップシェアです。2016年3月期の研究用試薬の海外の売り上げは74%を占めます。

── どう拡大してきたのですか。

仲尾 93年に中国・大連市に工場を設立し、今、研究用試薬の9割を生産しています。市場としても中国は拡大しており、当社がシェア1位です。

 02年に「タカラバイオ」として分社化した後、05年に研究用試薬の老舗、米クロンテック社を買収しました。バイオ研究の中心地であるアメリカで、当社が得意ではない分野を手掛ける同社の買収は大きかった。欧米に販路を持ち、技術・販路両面でシナジー効果がありました。

 14年には幹細胞生物学の先端研究に取り組むスウェーデンのセラーティス社を買収しました。今、バイオ研究は遺伝子から細胞へと広がっていますが、当社は遺伝子に長(た)け、細胞に強いのがセラーティス社です。バイオの世界ではM&A(合併・買収)が活発で、技術のシナジー効果が望める提携は日常茶飯事です。

── 今後の事業展開は。

仲尾 現在の主力は、遺伝子・細胞を扱う技術をもとにした研究支援で、その技術をそのまま用いる治療法を開発しています。90年代に開発した、体の外で細胞に遺伝子を効率よく導入する技術をベースに、コツコツと続けてきました。

 一つは、体外遺伝子治療です。ヒトの細胞を取り出し、目的の遺伝子を導入して患者に投与します。現在、開発しているのは、がん患者から採った血から、がん細胞を攻撃する免疫をつかさどるリンパ球を取り出して、がんを攻撃する命令を出す遺伝子を入れ、体内に戻す治療です。遺伝子の種類で、si─TCR遺伝子治療、CAR遺伝子治療があります。

── iPS細胞(人工多能性幹細胞)よりすごい技術なのでは。

仲尾 山中伸弥先生は、体から取り出した細胞に特定の遺伝子を入れると、どんな細胞にも分化できるiPS細胞となることを発見し、iPS細胞を利用した網膜や臓器の再生が研究されています。

 体外遺伝子治療も、体から細胞を取り出して遺伝子を入れ、患者に投与する点は同じですが、がん細胞を攻撃する免疫力を再生します。臓器ではなく体の機能の再生です。

── 遺伝子治療はほかの形もあるのですか。

仲尾 もう一つ開発しているのは、腫瘍溶解性ウイルスHF10です。がん患部に注入すると、がん細胞の中だけで増え、がん細胞を破壊します。正常細胞には影響しません。アメリカで臨床試験がフェーズ2まで進んでいます。メラノーマ(悪性黒色腫)患者の皮膚の腫瘍が消えたばかりでなく、転移した内臓のがんも、直接このウイルスを打ち込んでいないのに小さくなった症例がありました。

── 実用化の目標は。

仲尾 腫瘍溶解性ウイルスHF10は18年度、si─TCR遺伝子治療、CAR遺伝子治療は20年度です。それぞれの治療法は複数の疾患を対象に開発していますが、プロジェクトの選択と集中の方針をこの春に打ち出しました。最初の実用化を目指す疾患については、日本で再生医療製品の条件・期限付き早期承認制度を利用して自社単独で行い、他の疾患では他社と提携します。いろいろな社と提携の話をしています。

 

 ◇最先端の細胞加工施設

 

── 実用化に向けて、どのような手を打っていますか。

仲尾 14年に新しい開発・製造拠点の遺伝子・細胞プロセッシングセンターが稼働しました。施設の目的の半分は、開発中の遺伝子治療薬の製造や細胞加工ですが、今は収益源として、細胞加工や遺伝子検査の受託サービスを行っています。

 14年に施行された再生医療関連法では、医療機関だけでなく、企業が細胞加工をビジネスとしてできるようになりました。当社は法律整備の前から設計を進め、施行と同時に届け出ました。再生医療の関連施設で細胞と遺伝子、両方を扱う企業は日本で当社だけです。

 昨年受託した遺伝子検査は10万サンプルを超え、間違いなく日本一でしょう。一般の人が口の中の粘膜をもとに体質を調べる検査や、腸内フローラの検査も請け負っています。

── ほかに特色ある事業は。

仲尾 キノコ事業ですね。ビール事業撤退後に発酵技術を生かせる分野を探すなかで、医薬品の酵母とよく似た微生物がキノコの菌だったのです。基本特許は既に切れていますが、実はブナシメジは当社が人工栽培法を開発しました。今はより付加価値の高いハタケシメジやホンシメジを生産しています。

 昨年、分社化後に初めてキノコ事業が黒字化しました。バイオ支援事業に次ぐ第2の収益源に育て、両事業の収益をもとに遺伝子治療の開発を進めたいと考えています。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 中国にバイオ工場を設立する分野横断のプロジェクトに加わっていました。当時のビジネススタイルは“領空侵犯”。周りには嫌われたかもしれません。

Q 「私を変えた本」は

A 大学時代に『利己的な遺伝子』で知られるリチャード・ドーキンスの『生物=生存機械論』に出会いました。関心が当初の食糧問題から遺伝子工学に向かい、その延長線に今があります。

Q 休日の過ごし方

A 健康法としてのゴルフです。スコアは聞かないでください(笑)。

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 ■人物略歴

 ◇なかお・こういち

 京都市出身。洛星高校(京都市北区)、京都大学農学部卒、1985年宝酒造(現・宝ホールディングス)入社。2002年タカラバイオ取締役、09年5月より現職。宝ホールディングス取締役を兼任。54歳。

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事業内容:バイオ産業支援、遺伝子医療、医食品バイオ

本社所在地:滋賀県草津市

設立:2002年4月

資本金:149億円

従業員数:1273人(2016年3月31日現在)

業績(2016年3月期・連結)

 売上高:297億円

 営業利益:26億円

2016年

7月

19日

経営者:編集長インタビュー 大橋徹二 コマツ社長 2016年7月19日号

大橋徹二 コマツ社長

◇「断トツ」の建機サービスを作り上げる

 

 コマツは、油圧ショベルやブルドーザーなど建設機械で国内1位、グローバルでは米キャタピラーに次ぐ2位。ほぼ全世界で事業を展開しているため、「世界経済の景気敏感株」とも言われる。

 2016年度の業績見通しは、新興国経済の減速を受けて、売上高が15年度比9・2%減の1兆6850億円、営業利益は同28・1%減の1500億円とする。

── 現状の世界経済をどう認識していますか。

大橋 今は、世界のマネーが新興国から先進国へ、特に米国に向かっているという認識です。

 建設機械の世界需要を見ると、02年ごろまでは、先進国が6~7割を占めていましたが、03年ごろから新興国ブームが始まり、6割が新興国の需要となりました。リーマン・ショック後には、新興国が7割を占める時もありました。当社の地域別売上高も、14年度は日・米・欧が46%で新興国が54%でしたが、15年度は日米欧が52%で新興国が48%となり、先進国と新興国がひっくり返りました。

 先進国の景気循環は、10年周期とも7年周期とも言われます。今は中国などの新興国の成長鈍化に注目が集まっていますが、新興国もいずれ先進国のような景気循環的な動きをしていくのだと思います。

── 中国経済の行方はどう見ますか。

大橋 目の前の状況が厳しいのは間違いありませんが、悲観はしていません。確かに、石炭やセメント、鉄鋼など、過剰生産状態の産業があるのは事実ですが、すべての会社が同じ事業をしているわけでなく、それぞれで中身はかなり異なります。この違いをしっかり見極めないといけません。

 中国は人口13億人の大国で、今後もそれは変わりません。リーマン・ショック後の政府による4兆元対策で急激に成長した反動で今は落ちています。ただ、今後もインフラや製造業での雇用は必要で、どこかでリバウンド(再成長)すると思っています。

── GPS(全地球測位システム)やセンサーによって車両の稼働状況がリアルタイムで把握できる管理システム「コムトラックス」も、その判断に生かされていますか。

大橋 例えば、04年には、中国政府の政策で建設機械の新車販売が急激に減った時期がありました。ただ、コムトラックスのデータでは、現場での稼働が続いており、実需は減っていませんでした。今も、中国経済のすべてが悪くないというのは確認できています。

── 今年4月には、18年度までの新しい中期経営計画が始まりました。何に注力しますか。

大橋 他社より競争力のある「ダントツ(断トツ)」の商品やサービスを提供し、さらに、お客様の課題解決を提案する「ダントツ」のソリューション(解決法)も提供していきます。我々にとっては、「コマツと付き合っていると仕事がうまくいく」とお客様に言ってもらえるのが一番うれしい。

── 中計では「スマートコンストラクション」の名の下、IoT(モノのインターネット)の活用を掲げています。この進捗(しんちょく)は。

大橋 建設機械などのハードウエアに、センサーやドローン(小型無人機)の活用、図面の3次元化などIoT技術を活用していきます。

 この3年間、IT技術を活用した「情報化施工」に対応する機械を約1000の現場で使いました。人工衛星からの情報で、経度・緯度、高さなどを正確に取得したり、設計通りに土を削れるため、「これまでにない効率的な機械だ」という評価もあります。ただし、施工の作業工程で生産性が上がることは確認できましたが、測量や検査などの工程も同時に生産性を上げないといけません。そこが課題です。

── 自動運転の取り組みはどうでしょうか。

大橋 完全無人運転のダンプトラックが約90台稼働しています。08年より少量で販売し、現在は主に新興国(チリや豪州など)の鉱山で動いています。次の成長分野と位置づけています。

 

 ◇半導体装置も好調

 

── 建設機械と建設車両以外で、好調の事業はありますか。

大橋 当社は、実は産業機械や工作機械でも世界トップクラスの製品群を持っています。自動車向けの大型プレス機、自動車エンジン関連の工作機械などがそうです。当社が発祥した時の事業がプレス機で、今も大事にしています。

 また、最近では、半導体を作る際に必要な「レーザー光源発生装置」が好調です。これを(11年に買収した)子会社のギガフォトンが世界で展開、トップを走っています。建機だけでなく他の製品も、世界1位、2位のトップクラスです。

── キャタピラーとはどう競争しますか。

大橋 競争は、競合メーカーを見るのではなく、お客様を見てするもの、という考えです。この意識で価値を訴求していきます。ものづくりへのこだわりを持って、コマツの機械というより、コマツという会社をお客様に選んでもらえるように取り組みます。お客様にとって、なくてはならない存在になることを目指していきます。

 

Interviewer=金山隆一・本誌編集長 構成=谷口健・編集部

 

■横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 英米で現地生産の準備のために奔走していました。特に英国では、拠点をどこに作るかという場所探しの段階から取り組んでいましたので、印象的です。

Q 「私を変えた本」は

A 塩野七生の本が好きで、『ローマ人の物語』はずっと読んでいます。あと、学生時代に読んだ『成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』は勉強になりました。

Q 休日の過ごし方

A のんびりしたり、本を読んだり、ゴルフやジムに行ったりします。

 

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■人物略歴

おおはし・てつじ

 千葉県生まれ。東京・麻布高校、東京大学工学部卒。1977年4月、小松製作所(現・コマツ)入社。2007年、執行役員。常務、専務を経て、13年4月に社長兼CEO(最高経営責任者)。62歳。

 

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■企業データ

事業内容:建設機械・車両、産業機械などを生産、販売

本社所在地:東京都港区

設立:1921年5月

資本金:678億円

従業員数:4万7017人

業績(2015年度)

 売上高:1兆8549億円

 営業利益:2085億円

 

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2016年

7月

12日

編集長インタビュー 辻孝夫 JVCケンウッド社長 2016年7月12日特大号

 ◇音響、通信、映像の技術を医療にも生かす

 

 Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

── カーナビや車内音響などの車載事業に大きく舵(かじ)を切っています。

辻 現在、売上高の47%を占めています。2008年に日本ビクターとケンウッドが統合した時の二十数%から増えて続けています。20年度には60%にする計画で、基本的に想定通りの動きになっています。

 

── どう拡大させるのですか。

辻 例えば、国内の新車市場は、年間500万台くらいの規模です。そのうちの約6割がOEM(相手先ブランドによる受託生産)、つまり、工場から車が出荷される時にカーナビやステレオ機器などが搭載されています。残りの4割、約200万台弱が各販売店(ディーラー)でお客様が選べるディーラーオプションです。

 当社はディーラーオプションの市場で急速にシェアを拡大させています。15年9月にホンダとも契約し、昨年の下半期からディーラー向けに出荷し始めています。社名は公表できませんが、他にも大手2社と契約し、今年夏ごろから出荷予定です。

 

── デンソーが3%の大株主です。御社のカーナビがトヨタの車に純正で入ることはありますか。

辻 そこまで単純な話ではありません。当社は市販というアフターマーケットでは強いですが、一足飛びに純正を受注できるわけではありません。将来は純正で稼ぐ計画ですが、その前に(市販と純正の間に当たる)ディーラーオプションの仕事があり、これを増やすことが重要です。

 

── 車向けで伸びている製品は。

辻 カーナビ以外では、運転中の映像を記録する「ドライブレコーダー」です。日本市場は、昨年が100万台弱で、今年は150万台くらいになると言われます。当社は一昨年の夏に最後発で参入しました。当社製品は現在、4機種ですが、有名価格サイトの人気ランキングでは、市場に出回る120機種のなかでいずれも上位です。

 他社の製品は1万円以下が多いなか、当社のドライブレコーダーは数万円と安くはありません。車線から大きく外れたり、前方の車に接近し過ぎたりすると警報が鳴るなどの先進運転支援システム(ADAS)機能が優れており、当社のノウハウが生きています。

 

── 自動運転の戦略は。

辻 自動運転とADASを分けて考えています。自動運転は、要素技術を自動車メーカーに適切に提供することはあるでしょうが、我々が先頭に立って開発できる立場にはありません。

 一方、ADASは、特に「デジタルコックピット」、つまり次世代の運転席に注目しています。コックピットのデジタル化は、航空機で最初に標準化され、今は高速鉄道にも採用されています。それがいよいよ車の世界にも採用され始めています。

 その重要な要素を占めるのが、フロントガラス面に道案内などの情報を表示する「ヘッドアップディスプレー(HUD)」です。これからどんどん採用されると見ています。当社は英マクラーレンと、HUDを含めたデジタルコックピットを共同製作し、1月に米ラスベガスで開催された家電見本市「CES」で発表しました。

 

── 差別化要因は。

辻 遅延の少なさです。車の後方を見るカメラで映像を撮って、画像を圧縮して通信で送り、画面(ディスプレー)に映し出すまで遅延が起こります。例えば、高速道路で時速100キロ出すと秒速は27メートル。つまり、遅延が1秒でも起こると27メートルも異なる映像が映し出されることになります。当社の技術は他社より優れており、3・3ミリ秒にまで遅延を縮めています。

 

 ◇「尖った技術」を応用する

 

── 今の御社の強みをひと言で言うと何でしょうか。

辻 音響、通信、映像の三つの領域に強みを持っています。さまざまな経験や知見に基づく埋もれた技術があります。そういうものを新たな発想や新たな領域で活用できれば、まだまだ成長の余地があります。尖(とが)ったソリューション(解決法)を世に出していきたい。

 

── 「尖った」とは。

辻 例えば、血液などにあるエクソソーム(たんぱく質の一種)の診断機器を、3月から医療用検査機器大手のシスメックスと共同開発しています。これでがんの早期発見につながるかもしれません。この診断機器は、ブルーレイディスクの技術を応用しており、50~100ナノメートルのエクソソームを正確に数えることができるようになっています。知っている限りでは、我々の技術が進んでいます。

 また、自閉症など発達障害の早期発見につながる補助装置の開発も進めています。これは、カメラと画像解析の技術を応用し、子供の視線を検出し、分析します。すでに関西や九州などの自治体が18カ月健診で採用しています。日本医療研究開発機構(AMED)からも補助金をもらい、開発を続けています。このほか、頭外定位という技術を使い、音が前方から聞こえる高級ヘッドホンも市販に向けて開発中です。

 

── 進む道は見えてきましたか。

辻 当社は経営再建の時期を終え、“社会復帰”するところです。これから売り上げが減ることはないでしょう。あとはイノベーション(技術革新)。想像力と技術力を掛け合わせたのがイノベーションなので、結局、想像力をどこまで働かせられるかが重要です。想像力があれば、今の技術でほとんどのことが解決するはずです。

(構成=谷口健・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日商岩井(現・双日)時代、33歳で米国に赴任し、電機関連の輸出入に関わっていました。ちょうど日本経済もバブルに向かう時で、日本を背負う感覚でやっていました。

Q 「私を変えた本」は

A トム・クランシーの『レッド・オクトーバーを追え』です。私が米国にいた時に初めて著者が出したのがこの本。彼の本はほとんど読みました。

Q 休日の過ごし方

A 朝、コーヒーショップで新聞を読んで、その後ジョギングやテニスをします。ゴルフは月に2、3回します。

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 ■人物略歴

 ◇つじ・たかお

 大阪府立北野高校、大阪大学卒。1973年、日商岩井入社。2013年、JVCケンウッド社外取締役。14年、社長兼最高執行責任者(COO)。16年6月、社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。66歳。

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事業内容:車載製品、業務用無線機器などの製造・販売

本社所在地:横浜市神奈川区

設立:2008年10月

資本金:100億円

従業員数:1万7884人

業績(2015年度)

 売上高:2922億円

 営業利益:42億円

2016年

7月

05日

経営者:編集長インタビュー 高岡本州 エアウィーヴ会長 2016年7月5日特大号

 

 ◇眠りを研究し、寝具を極める

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 ベッドの上に乗せて使う高反発マットレスパッドの製造・販売を手掛けるエアウィーヴ(本社・東京都中央区)。浅田真央さん、錦織圭さんなどスポーツ選手を起用したテレビCMでおなじみだ。

 

── ベッドに置くマットレスパッドで急成長しています。

高岡 当社は質の良い眠りをお届けすることをミッションにした会社です。人生の3分の1を占める眠りの質を上げることは、残り3分の2の質を上げることにつながります。公益性の高い会社だと思っています。

── 足元の業績は。

高岡 2015年度の売上高は120億円、今期は新商品を積極的に投入するので、130億~140億円を目指しています。主力のマットレスパッドの価格帯は3万~20万円で、百貨店の寝具売り場など150カ所以上で販売しています。

 

 ◇異業種から参入

── 設立のきっかけは。

高岡 伯父が経営していたプラスチックの機械製造会社を04年に引き継ぎ、赤字の経営を再建するため、射出成型の技術を使って寝具の素材製造へと切り替えたのが始まりです。

── なぜ寝具に着目したのですか。

高岡 若い頃にむち打ちになった経験から、反発力の弱い寝具は体に負担がかかると感じていました。反発力が強いクッション材を使えば、良い寝具ができると考えました。

── 寝具業界への参入障壁は。

高岡 極めて高いです。洋服を買うときは試着しますし、食べ物は試食しますよね。しかし寝具は売り場で寝心地を体験できますが、一晩寝た後の感覚までは比べられません。同じ商品をリピートしがちなので、売り場を押さえた企業が勝ちます。

── どのように販売を伸ばしたのですか。

高岡 売り場にベッドを置いてもらうのは難しいので、ベッドの上に乗せる薄いマットレスパッドを作りました。人間が横になったときに沈み込むベッドの上の数センチの部分を徹底的に研究しました。

 開発に当たり、眠りに敏感な人に使ってもらおうと、いろいろな方に製品をお配りしました。中でも即座に良い反応をいただけたのがアスリートでした。そこで07年から国立スポーツ科学センターで、08年から元水泳選手の北島康介さんをはじめとした水泳選手が使い始めました。

── アスリートの反応は。

高岡 テニスの錦織圭選手からは、腰の持病が軽減されたとのメールを09年にいただきました。フィギュアスケートの浅田真央選手は携帯用のパッドを使っていただいたので、ご自宅用をお持ちしたところ、「自宅用も携帯用と同じ硬さのパッドが欲しい」とご要望をいただきました。実は、携帯用と自宅用のパッドの硬さは、微妙に違います。普通の人にはわかりにくいですが、浅田さんはその違いを感じ取った。それだけ体が敏感だということだと思いました。

 

 ◇株式上場も視野

 

── 支持される理由は。

高岡 通気性の良さと筋肉疲労が少ないことです。エアウィーヴはポリエチレン樹脂繊維を絡め合わせた素材で、マットの大半が空気の層からできており、通気性が高いです。

 また適度に反発力がある素材なので、寝返りを打つときの体への負荷が少ないという特徴もあります。人間は寝ている間に平均20回寝返りを打つといわれており、それ自体が筋肉の疲労になります。低反発マットレスは疲れが残りやすいといわれているのはそのためです。

── 素材、商品を他社にまねされる可能性はありませんか。

高岡 未来永劫(えいごう)まねされない技術はありません。だから、付加価値を高める取り組みを進めています。

 一つはどのような寝具が質の高い眠りをもたらすかを調べる睡眠研究です。11年から米スタンフォード大学とともに、睡眠中の体温の下がり方などを研究しています。エアウィーヴは他社製品に比べて寝てから体温の下がり方が速く、入眠がスムーズなことがわかっています。また米国のスポーツ養成学校「IMGアカデミー」に所属する子どもたちを対象にした調査も行っています。

── 研究をどう生かしますか。

高岡 一つは研究データを基に、個人ごとに体重・体形などを測定してカスタマイズする商品を3月から売り出しています。

 また、オリンピックは商品の良さを伝える良い機会です。リオデジャネイロ五輪では日米の選手、2000~3000人に使っていただきます。

 マットレスで米オリンピック委員会や、20年の東京五輪・パラリンピック組織委員会のオフィシャルパートナーになっています。豪州、ドイツ、中国のオリンピック委員会ともパートナー契約を結んでいます。

── パートナー契約は高額では。

高岡 米国市場の扉を開けるための費用ととらえています。一方で豪州などはマットレスパッドを現物支給する形なので、当社の費用負担はそれほど大きくありません。

── 今後の展開は。

高岡 最大の目標は米国での販売です。進出にあたり、資金需要が出てきました。株式の上場やマーケティングに強い企業とのアライアンスなども視野に入れています。

(構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 37歳で、父から引き継いだ日本高圧電気の社長に就任しました。

Q 「私を変えた本」は

A デール・カーネギーの『道は開ける』、藤原正彦さんの『国家の品格』。松尾芭蕉『奥の細道』の序文の句「草の戸も住替る代ぞひなの家」は米国で挑戦する今の気持ちと通じるものを感じています。

Q 休日の過ごし方

A 体力維持のためにトレーニングをしています。以前はトライアスロンにも挑戦しました。

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■人物略歴

 ◇たかおか・もとくに

 愛知県出身。東海高校卒業。1983年名古屋大学工学部卒業。98年5月日本高圧電気社長(現任)、2004年11月中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)設立、14年9月からエアウィーヴ会長(現任)。55歳。

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事業内容:マットレスパッド・クッション材の製造・販売

本社所在地:東京都中央区

設立:2004年11月

資本金:3000万円

従業員数:約350人(グループ)

業績(2015年度)

 売上高:約120億円

 

(『週刊エコノミスト』2016年7月5日号<6月27日発売>4~5ページより転載)

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2016年

6月

28日

経営者:編集長インタビュー 山本謙 宇部興産社長 2016年6月28日号

◇化学部門の復活目指す

 

Interviewer 金山隆一(本誌編集長)

 

 1897年、山口県・宇部の炭田を開発するために地元の人たちが出資してつくった「沖ノ山炭鉱組合」が原点。採掘された石炭が工業用として質が良くなかったため、石炭採掘以外の事業にも取り組んできた。現在、「化学」「医薬」「建設資材」「機械」「エネルギー・環境」の5事業を展開している。

 

── さまざまな製品を扱っていますが、事業戦略は。

山本 非化学部門の収益基盤を強化しながら、中核産業の化学部門を原動力に、グループ全体の成長を図っていくことを目指しています。

 復興需要やインフラ更新需要などにより、建設資材など非化学部門が伸びている一方、化学部門は2008年のリーマン・ショック後の中国国内の設備過剰から悪化していて、厳しい状況が続いています。

── 化学部門の取り組みは。

山本 ナイロン、合成ゴム、セパレーター、高機能コーティングの4事業を化学部門の積極拡大分野と位置付け、重点的に資源投入していく予定です。19年3月期に営業利益200億円レベルまでの回復を目標としています。

 化学部門の営業利益は08年3月期に過去最高の327億円だったところ、16年3月期は120億円になっていて、立て直しが道半ばです。16年3月期は設備の定期修理がなかったことや原燃料安などが寄与して一定程度回復してきたので、更なる収益の改善を目指します。

── 化学部門で事業再編を行ったそうですね。

山本 15年に化成品・樹脂カンパニーと機能品・ファインカンパニーを統合し、化学カンパニーとして再編しました。また、家電などの部材に使うABS樹脂国内首位のテクノポリマーと2位のUMG・ABS(宇部興産が50%出資)が17年10月の経営統合を目指して協議を始めました。国内外の競争激化を背景に、製造効率やコスト競争力を確保するのが狙いです。

 欧米などと比べると日本の化学会社は小さく、汎用(はんよう)品は海外展開は難しい状況となっています。提携はどの部門でも起こってきます。

── 注力していく分野は。

山本 リチウムイオン電池(LiB)の主要部材セパレーターです。車載用LiBの国内外市場の需要が高まっています。セパレーターはリチウムイオンを透過させる多孔質フィルムです。トヨタ自動車「プリウス」などのハイブリッド車や電気自動車をターゲットにしています。

 また、日立マクセルと連携し、塗布型セパレーターの加工能力も高めています。

── 資源投入するナイロン事業は。

山本 国内は宇部市、海外ではスペインとタイに、原料のカプロラクタムなどの生産拠点を設けています。食品の包装用フィルムでのグローバルナンバーワンを目指し、スペインとタイの工場でそれぞれ4万トンの増強を計画。燃料電池自動車の水素漏れ防止の役割を担うライナー(タンクの最も内側の層)用のナイロン材料などは、全世界どのエリアでも供給可能な体制を整えていきます。

 

◇ICTも導入

 

── 好調な建設資材は。

山本 セメント需要は約20年前が最盛期で、現在はその半分くらいになっています。以前から製造の合理化を図ったり、セメント製造の際に廃棄物を原燃料に使用し、処理コストを得たりすることで利益を支えてきました。一部で輸出もしています。

── 17年3月期の業績見通しは。

山本 連結売上高が前期比2%増の6550億円で、化学事業で車のタイヤに使われる合成ゴムなどの販売が増えています。営業利益は同15%減の350億円で、ナイロン原料などとして用いられるアンモニアの製造設備の2年に1度の定期修繕があり、その分、利益が下がります。

── 17年3月期から3カ年の中期経営計画が始動しました。

山本 投資額は前中期経営計画(14年3月期~16年3月期)比3割増の1500億円で、ナイロンやLiBのセパレーターなどの生産拠点の能力増強や基盤事業のコスト競争力向上にあてる予定です。最終年度の19年3月期に、連結売上高7500億円(16年3月期比17%増)、営業利益500億円(同21%増)を目指しています。

── 今後の海外戦略は。

山本 化学部門のナイロンは食品の包装用フィルムなどをスペインやタイで増産します。合成ゴムはタイヤメーカーに高機能材を拡販し、国内に加えて、タイやマレーシアの既存工場で増産を計画しています。新しい工場については、立地を含めて将来的に実施するか検討している段階です。

── 製造現場でも改革を行っているそうですね。

山本 宇部工場でICT(情報通信技術)を使った化学プラントの異常予兆検知システムを試験導入して現在改良中です。プラントに取り付けた約1000個のセンサーから集めるビッグデータを解析し、不良品の発生などを未然に防ぐのが狙いです。

── 会社の将来像は。

山本 当社は技術力や製品化する力はあるのですが、市場につなげて利益にする力が足りていませんでした。それを改善し、利益ベースで一番良かった時代を凌駕(りょうが)したいです。

 そのためには、市場調査しながら、既存の事業分野や製品の裾野を広げ、あるいは従来と異なるマーケットに商品を投入しながら、顧客ニーズに合った形の商品を提供します。

(構成=丸山仁見・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A メカニカルエンジニア(機械の専門技術者)として船を動かす歯車など回転体の設計を担当していました。

Q 「私を変えた本」は

A 日本や中国などの歴史書です。今まで文化として伝わっているもののルーツが何かを知ることが好きです。

Q 休日の過ごし方

A 近所のジムに行って体を動かしたり、美術館に行ったりします。春には庭園を見に行きました。

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■人物略歴

◇やまもと・ゆずる

広島県出身。広島県立福山誠之館高校卒業。1977年京都大学大学院修了後、宇部興産入社。2003年宇部興産機械社長、07年宇部興産常務、10年専務、13年代表取締役。15年4月から現職。63歳。

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事業内容:化学、建設資材、機械など

本社所在地:東京都港区、山口県宇部市

設立:1942年3月

資本金:584億3500万円(16年3月末現在)

従業員数:1万764人(16年3月末現在・連結)

業績(16年3月期・連結)

 売上高:6417億5000万円

 営業利益:414億800万円

 

 

【訂正しました】この記事は、本誌2016628日号の67ページを転載しています。本誌では、食品の包装用フィルムについて、スペインとタイの工場でそれぞれ増産するのは「40万㌧」となっていますが、正しくは「4万㌧」でした。また、合成ゴム生産について、「マレーシアで新工場の建設も検討しています」なっていますが、正しくは、立地を含めて将来的に実施するか検討している段階のため、本文を訂正しました。

2016年

6月

21日

経営者:編集長インタビュー ガブリエル・ベルチ アストラゼネカ・ジャパン社長 2016年6月21日特大号

 ◇研究開発重視、がん領域で新薬開発に挑む

 

── 売り上げが短期間で拡大しています。

ベルチ 2015年度の日本法人の売上高は3232億円(薬価ベース)で、国内製薬企業の売上高ランキングでは、12年の12位から16年第1四半期は7位まで浮上しました。主力の高脂血症治療薬「クレストール」、抗潰瘍薬「ネキシウム」などが好調だったほか、新薬も貢献しました。今後はがん治療薬の新薬も加わるので、売り上げ倍増を見込んでいます。

 アストラゼネカは新薬の承認件数が米欧日で最も多い企業です。14年から15年にかけては米国で七つの新薬が承認されました。さらに17年末までに世界で60件以上の承認申請に向けて研究を進めています。日本国内でも約300人体制で開発に取り組んでいます。14年の研究開発費は約100億円で、研究開発費の規模は日本国内の製薬会社で3番目というデータもあります。

── 研究開発の重点領域は。

ベルチ 現在進める研究の大半ががん治療に関する研究です。がん治療薬は社会にとって重要度が高い研究であり、肺がん、卵巣がん、乳がん、血液がんなどの新薬の開発を進めています。また呼吸器、循環器の疾患に関する新薬開発にも取り組んでいます。

 これまで製薬会社は、ランダムに化合物を組み合わせることで、新薬を開発する方法をとってきました。当社はその逆です。まず疾患をよく理解して、たんぱく工学などで特定の疾患に狙い撃ちで効く化合物をつくります。他社も同じようなアプローチを始めていますが、当社は豊富な人材と、積極的なM&A(合併・買収)で新薬開発を進めています。

── がん治療で話題の「がん免疫療法」の開発は。

ベルチ 当社でも研究を進めています。免疫療法治療薬は、化学化合物を使ってがんをたたくのではなく、免疫力を高めてがんと闘わせるという賢いアプローチの新薬です。ただし、すべてのがんに対して一つの対策が効くわけではありません。分子標的薬もあればDNA損傷修復、抗体薬物の複合体、がん免疫療法の四つのアプローチで対応できるのが当社の強みです。

 

 ◇肺がんの新薬発売

 

── 莫大(ばくだい)な費用を投じる新薬開発はリスクも伴います。

ベルチ 確かに大きなリスクですが、その分利益も大きいです。新薬開発では、効果が期待できない場合には早い段階で勇気を持って研究開発をやめる判断も必要です。また部門横断的に話ができる環境も必要です。

 私が日本法人に来た当初は、部門ごとにオフィス内の空間が分かれていました。それを取っ払い、ガラス張りでオープンなスペースにして、プロジェクト単位で机を並べる配置に切り替えました。

 その効果の一つが日米のドラッグラグ(新薬承認の審査期間の差)の短縮です。以前は7年だったものが今は4カ月まで縮まりました。研究開発部門と医療機関担当者や営業担当者が話をして、どこの施設に患者がいるのかを把握し、その施設で治験を行うなど、コミュニケーションを増やすことで時間を短縮することができました。

── 5月に肺がんの新薬を発売しました。

ベルチ 肺がん治療薬の「タグリッソ」を発売しました。当社には「イレッサ」という肺がん治療薬があり、多くの患者が使用していますが、長期間イレッサで治療するとがん細胞の遺伝子が変異し、抵抗を持ってしまって薬が効かなくなるという課題がありました。タグリッソはそのようなイレッサが効かなくなってしまった患者の2次治療薬です。

 治験では肺がん患者の6割で効果を発揮し、平均生存期間を9・7カ月に延ばした実績があります。既存薬は約4カ月なので大きな効果です。日本で対象になるのは約1万人で、早期承認の要望をいただいていました。効果が高いということで厚生労働省から優先審査の指定を受け、申請から7カ月という異例のスピードで製造販売の承認が下りました。

── イレッサは副作用が問題になりました。教訓をどう生かしますか。

ベルチ 医療機関の先生方に副作用の可能性について丁寧に説明し、また専門の医療機関で適切に使っていただくことを呼びかけています。24時間対応のコールセンターを設置するなど患者さんの支援も配慮しています。

 

 ◇MR出身から社長へ

 

── 新薬の薬価が高く、医療財政を圧迫しているとの指摘もあります。

ベルチ 高齢化による医療費の増大が先進国共通の課題になっていますが、医療費=薬剤費ではありません。医療財政については、薬剤費だけではなく、入院期間の短縮化など医療費を包括的に見て議論すべきです。

── ベルチ社長は医療機関に自社医薬品の情報を提供する医薬情報担当(MR)ご出身だそうですね。製薬会社では珍しいのでは。

ベルチ そうかもしれません。しかし、MRの仕事を理解していないと製薬会社の経営はできません。

 経営に当たっては、明確な成果主義を打ち出しています。年齢、性別、社歴を問わず、成果で評価します。

 女性管理職が多く、CFO(最高財務責任者)も女性です。開発でも販売でも、全てのスタッフに成功の機会を与える経営を心掛けています。

 

Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成=花谷美枝・編集部

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A ベトナムに赴任して、アストラゼネカの現地法人をゼロから立ち上げました。350人採用して、現地で4番目の規模まで育てました。すばらしい経験でした。

Q 「私を変えた本」は

A ジャック・ウェルチ氏の著書です。実行力について説いた本でした。高いところから俯ふかん瞰して、同時に細かなところもよく見る、という姿勢を学びました。

Q 休日の過ごし方

A ダイビングやスキーを楽しみますが、最近はもっぱら2歳の娘と過ごします。日本生まれのメード・イン・ジャパンです(笑)。

 

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■人物略歴

 ガブリエル ベルチ

 スイス出身。1996年スイス・ヌーシャテル大学理学部卒業、生物学修士号取得。製薬企業のMRとしてキャリアをスタート。99年、アストラゼネカスイス法人入社。ベルギー、スウェーデンでの勤務を経て、2006年よりベトナム&インドシナ法人社長、09年タイ法人社長、11年ドイツ法人社長。13年4月より現職。42歳。

2016年

6月

14日

経営者:編集長インタビュー 柿木厚司JFEスチール社長 2016年6月14日号

柿木厚司 JFEスチール社長

◇技術開発、職場改革で存在感示す

 

 世界的な供給過剰・市況悪化に見舞われている鉄鋼業界。国内2位のJFEスチールも2016年3月期は、売上高2兆4451億円(前期比4287億円減)、経常利益は278億円(同1607億円減)の減収減益だった。同社の柿木厚司社長は「中国の動向には引き続き注意を要する」と話す。

 

── 足もとの事業環境は。

柿木 2017年3月期は経常利益で100億円の減益を予想する。これは事業計画を立てた1~3月の鋼材価格が底値だったことが原因だ。その後、4月に鉄鋼価格が上がった。鋼材価格が底値だった時に立てた業績予想なので、外部からは「上ぶれする」とも言われる。しかし、やはり中国の動向は気になる。

 

── その中国の鉄鋼業界の動向をどう見るか。

柿木 鋼材市況が底値だった1月以降の価格では、中国メーカーも採算が取れないと判断したのだろう。生産量を控えるメーカーが出てきたので1~2月の粗鋼生産量は落ちた。しかし、3月ごろから需給が締まり、価格が回復しはじめた。すると、今度は生産再開の動きが出てきて、同月の粗鋼生産量が過去最高の7065万トンに達した。ただ、以前から「市況が好転すれば生産量は必ず増える」とみていた。市況悪化で生産が減り、市況が好転すれば生産再開をする、というジグザグのサイクルを通して、徐々に生産設備が削減に向かっていくと期待している。ただし、何年かかるかが問題だ。

── 中国が今年に入って打ち出した「ゾンビ企業」の駆逐の実現性をどうみるか。

柿木 2月の国務院意見書や、3月の全国人民代表大会(全人代)で鉄鋼業の過剰生産能力の解消方針が打ち出された。この中で「2016年からの5カ年で粗鋼生産を1億~1・5億トン削減」と具体的な数字を出し、雇用調整への財政措置も打ち出した。本気度は感じる。ただ対策には、中央政府だけではなく、雇用問題を気にする地方政府の意向も作用する。一筋縄ではいかないだろう。

── 日本の鉄鋼業界も雇用調整の歴史でした。

柿木 当社の前身・NKK(日本鋼管)と川崎製鉄には最大で8万人の従業員がいた。しかし、今や当社の従業員は1万4000人だ。かなりの年数をかけて雇用調整をしてきた。中国には、鉄鋼産業で180万人もの雇用があると言われる。ただ、日本と違い政府主導で雇用移転を進めれば迅速に進む余地はある。地方で汎用(はんよう)品しか作らない鉄鋼メーカーには利益が出ないところもある。そういう利幅の小さいメーカーが、サービス業などの産業に転換して成功する例を今後2~3年で見せられるかがカギだ。

── この夏にはベトナムで参加する一貫製鉄所プロジェクトの高炉がいよいよ動き出します。

柿木 これまで海外展開する際は、高炉は国内に置いたままで鋼板を国内生産し、海外で加工していた。しかし国内に高炉を置いたままでは、運搬費用などコスト面や機動性で制約もあった。今回は高炉から加工までの一貫製鉄所への出資だ。出資額は5%だが、海外に高炉を持つということに意義を感じて出資を決めた。第1高炉と第2高炉で粗鋼生産量年間700万トンを計画している。需要の伸びる東南アジア向けに鋼材を生産し、JFEの存在感を高める拠点としていきたい。

 

◇女性活用、積極的に

 

── 大口需要家の自動車では、炭素繊維など先端素材採用の動きが出ています。

柿木 炭素繊維は軽いし、強度は高く立派な素材だ。しかし、コストはどれだけ低くできるのか。またリサイクルや溶接も難しい。ただし、鉄鋼業界も楽観できる立場にはない。軽量でも強度が高い高張力鋼「超ハイテン」など独自開発の材料をさらに改良して信頼してもらうことが必要だ。

── 鉄鋼業界は男性職場のイメージが強いです。

柿木 当社は現在、女性の比率について、総合職事務系で35%、総合職技術系で10%、現業職で10%以上の目標を掲げている。昨年の採用(今春入社)では目標を上回り、総合職事務系43%、総合職技術系13%、現業職14%を採用した。製鉄所など現場では男女の体力差を問わずに働ける改革も進めている。たとえば、「重機は20キログラムまでならば自身で持ち上げられる」という前提で設計してきたため、棚からの上げ下ろしは自身でやってきた。しかし女性の「機材を持ち上げるのは体力がきつい」という現場の声に応えて、機材の昇降器具を開発・設置した。こうした取り組みは、現場で湧く要望を受けてのものだ。

── ソフト面での取り組みは。

柿木 子育て支援では法定より手厚い制度を用意している。たとえば、育児休業は法定1年に対して3年まで、時短勤務は法定3歳までに対して小学校卒業までとしている。女性を部下に持つ幹部の相談窓口もある。「部下の女性との宴席での接し方」「部下が妊娠した時にどう対応するか」などの相談に乗る。まだ「時短勤務期間中の昇進はどうするのか」など検討課題は多い。試行錯誤の中でよりよい職場を作っていきたい。

 

Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成=種市房子・編集部

 

■横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 川崎製鉄の人事部門で半導体や新素材など新規事業の立ち上げに携わりました。半導体の工場設立のために人を集めるなど、鉄鋼とは異質の世界を見るいい機会でした。

Q 「私を変えた本」は

A 司馬遼太郎『竜馬がゆく』です。学生時代、30代と2回読み、大きな転換の世界を感じました。

Q 休日の過ごし方

A 仕事でゴルフの時もあります。それ以外は都内で妻と散歩して、いいお店を見つけてランチを取ります。

 

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■人物略歴

かきぎ こうじ

茨城県出身。水戸第一高校卒業。1977年東京大学経済学部を卒業後、川崎製鉄に入社。主に総務・人事畑を歩み、2007年JFEスチール常務執行役員、12年副社長を経て、15年から現職。63歳。

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2016年

6月

07日

経営者 堀場厚 堀場製作所会長兼社長 2016年6月7日特大号

◇世界の産業を支える「はかる」プロ集団

 

── まず、御社の強みや特徴を教えてください。

堀場 固体や液体、気体をより正確に測るための分析・計測装置を作っています。1945年に父の雅夫が創業して以来、開発型企業として事業を続けてきました。

 決して大きな企業ではありませんが、事業分野は多岐にわたり、自動車や半導体など主要産業を支える「マザーツール」を手掛けている自負があります。取引先には主要企業の研究開発担当者も多い。社員は、こうした優秀な技術者と対等にわたり合わなければなりませんから、個性や才能を持つとんがった人間でなければ務まりません。

 社是に「おもしろおかしく」とうたっているのは、興味を持って自発的に仕事に取り組まないと、よいモノを作れないと考えたためです。

 

 2015年12月期の売上高は前年比11・7%増の1708億円、営業利益は同12・5%増の193億円と、ともに2年連続で過去最高を更新した。2月に発表した新しい中期経営計画では、2020年に売上高2500億円、営業利益300億円の目標を掲げる。

── 新しい計画の狙いは。

堀場 既存の概念を打破し、次のステージに一歩踏み出したいと考えています。従来の目標は、私が掲げた数字を見て社員が驚くことが多かったのですが、新しい計画では、反対に私が「えっ、だいじょうぶなの」と言ってしまったほど、高い目標を社員が提案してくれました。といっても、十分達成できると思っています。独立系企業として生き残るには、少なくとも3000億円の売上高が必要だと考えてきましたから。

 

── 具体的な取り組みは。

堀場 牽引(けんいん)の柱は、自動車計測部門と半導体部門です。

 まず自動車計測部門では、昨年7月に買収した英MIRA(マイラ)社への投資を利益に変えていきたいと考えています。当社のエンジン排ガス測定装置は世界シェア8割を占めますが、モノを売るだけでは成長にも限界があります。買収によって車両開発コンサルティングやエンジニアリング事業をカバーできました。より付加価値の高いサービスを展開します。

 MIRA社は東京ドーム60個分に相当する広大なテストコースを持ち、研究施設内には自動車関連企業約30社が開発拠点を置いています。自動車業界では自動運転車や燃料電池車など次世代車の開発が進んでいますので、こうした企業の開発を後押しすることで当社の事業拡大にも結びつけたいと考えています。

 

── 買収には御社にとって過去最大規模の155億円を投じました。

堀場 買収額が高いと指摘されることもありますが、30~40年に1度のチャンスと考えて決断しました。

 当社の合併・買収(M&A)のユニークな点は、MIRA社を含め過去に買収した主な海外の4社のいずれも、相手先企業から提案されたことです。当社の技術や事業内容だけでなく、企業理念や事業精神にも共感してもらったのだと思います。

 

── 自動車業界では三菱自動車の燃費不正問題が発覚しました。

堀場 問題の背景には企業そのものが抱える課題だけでなく、大学や小中高校など教育面の課題もあるように感じています。

 最近の若手の傾向として、知識は豊富でも、「ハート」が追いついていない印象です。その理由の一つに、学校教育で実験科目が軽視されるようになったことがあるのではないでしょうか。

 我々も同じモノづくり企業ですから、同様の問題を起こす可能性もゼロではありません。社員一人ひとりのモラルと探究心が問われます。

 

 ◇人重視の開発投資

 

── 人づくりが大事ですね。

堀場 特に当社の場合、5~10年の長い期間をかけて進めるビジネスが多い。今教えたことでも、芽が出るのは5年も10年も先になります。そのため研究開発投資は、モノよりも人を育てることを重視しています。

 技術や経験、知恵を社員同士で共有できるような仕掛け作りも進めています。5月に滋賀県大津市で本格稼働したばかりの生産拠点には、建物中央部に吹き抜けの階段エリアを設け、業務部門やフロアの枠を超えて自然にコミュニケーションを取れるスペースを作りました。新しい価値を生み出したり、若手が先輩から技術を受け継いだりする場にしたいですね。また京都本社では毎月、東京支店では3カ月に1回程度、その時期に生まれた社員を集めて誕生会を開いています。私も毎回出席し、社員と直接顔を合わせています。

 

── 半導体部門については。

堀場 半導体や液晶パネルを作る際にシリコンウエハーに吹き付けるガスや液体の重さや量を高精度に制御する主力の「マスフローコントローラー」は、世界シェア55%です。景気サイクルに影響される部分もありますが、部品単体だけでなく、システムとして提供することで、顧客により大きく貢献したいです。

 

── 医療分野では2月に日本電子と提携しました。

堀場 血液検査装置と試薬の販売事業を展開しています。日本電子と提携したことで、同社製の生化学自動分析装置を堀場ブランドで展開できるようになりました。製品ラインアップの拡充を弾みに、世界の検体検査市場の7割を占めるといわれる欧米で事業拡大を目指します。

 

( Interviewer 金山隆一・本誌編集長、構成=池田正史・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 30歳目前に米国から帰国し、海外技術部長に就任。苦手な料理の多い韓国事業に携わりました。キムチやニンニクをおいしく感じられるようになったら、不思議なもので仕事もうまくいくようになりました。

Q 「私を変えた本」は

A 本ではありませんが、20代の頃、米国で受けた飛行機のパイロット免許試験です。悪天候もあって緊急着陸を余儀なくされましたが、合格。「失敗は財産」と評価する米国の懐の深さに触れました。

Q 休日の過ごし方

A ヨットやゴルフなど、アウトドアが中心です。

 

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 ■人物略歴

 ◇ほりば・あつし

 

 京都府出身。京都府立山城高校卒業。1971年3月に甲南大学理学部卒業後、渡米しオルソン・ホリバ社に入社。77年6月にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科修了後、帰国し、堀場製作所海外技術部長に就任。92年に現職。68歳。

2016年

5月

31日

経営者:編集長インタビュー 大西洋 三越伊勢丹ホールディングス社長 2016年5月31日号

◇百貨店受難の時代を「ものづくり」で生き残る

 

 百貨店大手の三越伊勢丹ホールディングスの2016年3月期決算は、売上高1兆2872億円(前年比1・2%増)、経常利益367億円(同6・2%増)で売り上げ・利益ともに微増となった。大西洋社長は「中間層の消費減退が顕著」と危機感をあらわにする。

 

 ◇製造小売りを拡大

 

── 足もとの事業環境は。

大西 中間層の消費の落ち込みを富裕層の旺盛な消費でカバーしてきたが、その富裕層の消費も3月ごろから落ちてきている。円安によりモノの価格が上がる一方で、多くの人は可処分所得が増えず、消費にまわすお金が減っている。

 全国の百貨店売上高は1990年代初頭のバブル崩壊直前まで10兆円近くあったが、現在は6兆円まで減少している。百貨店は全国に約240店あるが、毎年数店閉店している。業界で危機感を共有する必要がある。

── 百貨店不振の原因は。

大西 根本的な問題は、百貨店の同質化が進むとともに、ネット通販(EC)の普及などによって、20代、30代の層が百貨店から離反していったことにある。

 お客様を取り戻すには、百貨店同士で品ぞろえなどが横並びになっている同質化の状況から抜け出さなければならない。ECの強化も必要だ。一般に百貨店の売り上げに占めるECの比率は1~1・5%程度で非常に低い。当社はもう少し多いが、十分な水準ではない。ECサイトの品ぞろえを、2、3年前まで、7万点程度だったものを30万点程度まで拡充し、専用倉庫の設置や専門事業部の立ち上げなども進めている。

── 小売業ではこの数年間でユニクロなどのファストファッションが伸張しました。

大西 ファーストリテイリングは素材の手配から製造・販売まで自社で行うSPA(製造小売り)のため原価率が40%程度と高い。百貨店はその工程の中に多数のプレーヤーが入りコストがかかるので最終的に20%台になる。お客様から見れば、百貨店よりもSPAのファストファッションなどの方が価格と価値のバランスが優れている。百貨店も自分たちでものをつくって売っていかなければならない。

── 具体的には。

大西 最も成功しているのは婦人靴のオリジナルブランド「ナンバートゥエンティワン」だ。4年前に伊勢丹新宿店で始めた当初は3000万円規模だったが、16年3月期は9億8000万円になり、年間で6万から7万足売れている。

 台東区浅草にある工場だけでは製造が間に合わなくなり、全体の3割は中国とベトナムでつくっている。現在、韓国の百貨店にも商品を卸しており、今秋からは欧州の百貨店にも一部卸す。秋からはハンドバッグの取り扱いも始める。

 SPAをやっていかなければ、百貨店の利益率はどんどん下がってしまう。今は洋服が売れない時代で、食品部門の売上高に占める比率が上がってきている。だが食品は利益率が一番低い。

 

 ◇AI、ロボットも活用

 

── 外国人旅行者による「爆買い」の影響は。

大西 海外のお客様による売り上げは全国で約600億円で全体の5%程度だが、銀座三越は20~25%、伊勢丹新宿店は9~10%と高い。店舗の売り上げの10%を超えると、そのお客様の層を意識した店づくりをしないと失礼になる。銀座三越につくった関税や酒税も免税になる空港型免税店を、伊勢丹新宿店の周辺にもつくりたいと考えている。

── 百貨店離れが進む日本人の若者層をどう取り込みますか。

大西 若者は給与が上がらない一方で、通信費の負担が増えている。モノの消費よりもエンターテインメントなどのコトへの消費を重視する傾向があるので、若者に支持されるブランドやモノ・コトを増やす仕掛けに取り組んでいる。

 その一つとして、衣類・雑貨などに関するプロジェクトをクラウドファンディング(ネット経由の資金調達)で支援する展示を伊勢丹新宿店で行っており、少しずつ反応がでてきた。百貨店は自分たちが買うものがある店だということを認知していただき、20代、30代の来店客のシェアを高めていきたい。

── 10年後、20年後の百貨店像は。

大西 商圏が広い首都圏はなんとかやっていけるが、成長にはそれなりの施策が必要だ。地方や郊外は今までのビジネスモデルが成り立たなくなる。モノ・コトが半分くらいの百貨店にするくらいの変革が必要だ。地方では店舗の中に健康や美容をトータルで体験できる医療モールのようなものをつくることも検討している。

 ロボットや人工知能(AI)、決済方法などITを駆使した店づくりをリモデル予定の店舗で試験的にやってみるなど、思い切った取り組みが必要だ。例えば恵比寿三越(東京都渋谷区)は専門店化しているが、もう一度あの場所に恵比寿三越を復活させて、一番新しいお店にしたい。

── かなり大胆な計画ですね。

大西 残念ながら、売り上げは今以上には上がらないと考えなければならない。利益率も下がっている。5年後には会社がなくなってしまうかもしれない。それくらいの危機感を持たないとだめだ。

 

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=花谷美枝・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 29歳のときに全く新しい店舗をつくるという特別なプロジェクトに異動しました。そこからの4年間がキャリアを変える機会になりました。その後はマレーシア伊勢丹に4年間赴任しました。

Q 「私を変えた本」は

A ドラッカーの著書です。35歳で経営者に近いポストに就いたとき、シンガポールでドラッカーの講演を聞き、考え方が変わりました。

Q 休日の過ごし方

A 先日は六本木を散歩して、カフェでお茶をしたり、当社の店に寄ったり。常に新しいネタを探しています。

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 ■人物略歴

 

 ◇おおにし・ひろし

 東京都出身。麻布高校卒業。慶応義塾大学商学部卒業後、1979年伊勢丹入社。紳士部門を歩んだ後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長を歴任、2009年伊勢丹社長執行役員、12年から現職。60歳。

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2016年

5月

24日

経営者:編集長インタビュー 池田育嗣 住友ゴム工業社長 2016年5月24日特大号

 ◇常に先を見て

  欧米のビジネスチャンスをつかむ

 国内シェア2位、世界シェア6位のタイヤメーカーで、「ダンロップ」や「ファルケン」ブランドでグローバル展開している。2015年12月期は売上高が前期比1・3%増の8487億円、当期純利益が同4・9%増の558億円と、ともに過去最高。昨年10月には提携効果が薄れたことなどから、1999年から続けてきた米グッドイヤー社との資本・業務提携を解消した。

── 提携解消で何が変わりましたか。
池田 制約のあった欧米でも生産、研究、開発などの拠点を自由に持てるようになりました。今までやりたくてもできなかったビジネスチャンスをつかむことができます。
── 20年に売上高1兆2000億円、営業利益1500億円を目指す長期計画「ビジョン2020」達成に向けた取り組みも変わりますか。
池田 ビジョン達成に向け16~21年度が対象の中期経営計画に「欧米事業の拡大」を加えました。
 特に、最も市場の大きな北米は20年に15年比60%売り上げを伸ばす計画です。まず、自動車やトラック・バス用タイヤを生産するバッファロー工場(ニューヨーク州)を買収しました。グッドイヤーとの提携解消後、米国では日系自動車メーカー向けの新車用タイヤでダンロップブランドを使えるようになりました。そのための対応を強化します。
 欧州は20年に15年比40%売り上げを引き上げる目標です。ある程度成熟した市場ですが、東欧やロシアなど伸びる余地があります。供給力強化のため昨年6月にトルコ工場の生産を開始しました。
 米国と欧州では17年に製品の開発拠点となるテクニカルセンターを本格稼働させます。今後は市場のニーズや利用者の好み、条件に合ったタイヤを現地に近いところで研究・生産できるようになります。
── 他の地域は。
池田 インドに注目しています。タイヤ市場は2桁成長が続いています。販売体制を整えながら毎年10%ずつ売り上げを伸ばし、近い将来、インドにも生産工場を置きたいと考えています。
── 展開地域が広がりますね。

池田 当社の売り上げは、地域別で日本が4割と最も多く、アジアが2割、北米が約16%、欧州が約7%です。国内外の主要拠点には年1回訪問するようにしていますが、出張の機会が年ごとに増えています。現地で得られる情報を基にいち早く行動に移せるよう、これまで国内に集中していた意思決定体制を4月に「アジア・大洋州」「欧州・アフリカ」「米州」の3極体制に移行しました。
── 研究開発にも熱心です。
池田 スーパーコンピューター「京」など国内の最先端装置や研究施設を使って、タイヤの原料であるゴムの挙動を分子レベルで再現できるシミュレーション解析技術を用いた新材料開発技術を確立しました。
 タイヤは転がり抵抗を抑えることで低燃費化を目指す一方、グリップ性も維持しなければいけません。転がり抵抗をただ下げるだけでは燃費がよくなってもグリップ性が落ち、雨天走行時に滑りやすくなってしまいます。同時に、摩耗に対する耐久性を高める必要もあります。
 この三つの性能のバランスをいかに取るかが重要です。新しい開発技術によって、三つの性能をより高いレベルに引き上げると同時に、どれか一つの性能を伸ばすなど、顧客の好みや条件に合わせたタイヤを作ることができるようになります。
── 13年には100%天然資源由来のタイヤ「エナセーブ100」を発売しました。
池田 従来のタイヤの原料の6割は石油資源に由来したものでした。エナセーブは発売後も性能を高めるための研究を続けています。
 例えば昨年、ゴム分子と結合する軟化剤を開発し、グリップ性や耐久性を長く維持できるようになりました。オイルなどを使う従来の軟化剤は使ううちにオイルが抜け、タイヤの性能が落ちる課題がありました。

 ◇余震に強いゴム

── タイヤ以外の事業は。
池田 制震と医療の両分野に力を入れています。当社の事業分野別の売り上げはタイヤが86 %で、スポーツ用品が9%、産業品が5%。産業品の中でも制震と医療は重要な位置づけです。
 制震分野では、地震の揺れを最大70%吸収・低減できるゴムを使った制震ダンパーが戸建て住宅向けを中心に好調です。ただ、4月の熊本地震をみて、もっとPRを強化しなければと感じました。
 当社の製品は強い地震が複数回起きても、そのたびに揺れを吸収できるので余震に強い。熊本地震の被害を少しでも少なくできていたのではないかと悔しい思いがしました。
── 新しいことに積極的に取り組んでいますね。
池田 常に先を見て経営を考えてきました。当社の源流は、1888年に世界で初めて空気入りタイヤを発明したアイルランド人、J・B・ダンロップ氏にさかのぼります。彼がつくった英ダンロップ社は、日本でも1913年に初めて自動車タイヤを作りました。こうした先進性に富んだ血が脈々と受け継がれています。加えて、第二次世界大戦後に資本参加した住友グループの「信用を重んじ確実を旨とする」といった事業精神をうまく融合できている点が当社の強みです。
(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=池田正史・編集部)


横 顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 29~30歳にマレーシアの大きな工場に日本人ただ一人で駐在した後、神戸、福島、米国と2年ごとに職場が変わりました。国それぞれの仕事の進め方や考え方の違いなど、いろいろなことを学びました。
Q 「私を変えた本」は
A マキャベリの『君主論』です。リーダーにとって大事なこと、してはいけないことを改めて学びました。
Q 休日の過ごし方
A 休みはほとんどありませんが、時間ができれば甲子園球場でプロ野球の阪神タイガースを応援することが息抜きになります。

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■人物略歴

 ◇いけだ いくじ
香川県出身。香川県立高松高校卒業。1979年京都大学工学部を卒業後、同年住友ゴム工業入社。2000年1月タイヤ生産技術部長、07年3月取締役常務執行役員、10年3月同専務などを経て11年3月に現職。59歳。

(『週刊エコノミスト』2016年5月24日特大号<5月16日発売>4~5ページより転載)

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2016年

5月

17日

経営者:編集長インタビュー 林野宏クレディセゾン社長 2016年5月17日号

 ◇アジアのネオファイナンス企業を目指す

 

 流通系カード会社の首位を走るクレディセゾン。2015年3月期の営業収益は2590億円、16年3月期の予想は2730億円。近年は、フィンテック(金融とITの融合)にも積極的だ。

 

── 他のカード会社との違いは。

林野 クレジットカード会社を銀行系、流通系、信販系と分けると、クレディセゾンは流通系カード会社を確立させたと言えます。

 カード会社には増益増収の時代がありましたが、06年からの貸金業法の改正などにより業界は壊滅しました。倒産したり、買収される会社が相次ぐ中、クレディセゾンが生き残れたのは、他社がやらなかった業界のタブーを行ってきたからです。

── 業界のタブーとは。

林野 従来、クレジットカードを作るには審査が厳しく、発行に時間がかかりました。しかし、「即与信、即発行、即利用」を1982年に実現させたのです。

 われわれは、女性をターゲットに据えて展開してきました。一番買い物をするのは女性だからです。女性はすぐにカードを作って、すぐに使いたい。高額な買い物はあまりしませんから、キャッシング枠は5万、10万円など少なめでも問題ありません。

── 他にどのような挑戦をしましたか。

林野 90年からは、クレジットカードでの支払いに、サインも暗証番号も不要な「サインレス」を導入しました。スーパーで買い物をする主婦は時間がなく、またサインをするためにレジに列ができることを嫌うためです。

 また、これまで1、2年で消滅していたクレジットカードのポイントを無期限の「永久不滅」にしました。これは、他社にはまねできないことです。なぜなら、ポイントのために600億円、700億円規模の引当金を準備しないといけないから。私が社長に就任した00年からは、キャッシングの金利も段階的に下げました。

── カードの会員も女性が多いですか。

林野 以前は女性の割合が高かったのですが、06年のUCカードの会員事業統合や、法人系カードの会員増加などで男性会員も増えています。

 

 ◇経営を多角化

 

── 足元の業績は。

林野 クレジットカード決済の取扱高が伸びています。提携している商業施設が新たにオープンして新規会員が増えたためです。また、スマートフォンの通信費をクレジットカードで継続決済する人が増えたことも理由です。

── クレジットカードの伸びしろは。

林野 日本は、個人消費におけるクレジット利用は15%で、現金払いが50%強です。米国ではクレジットの割合が約27%なので、日本にはまだ伸びしろがあります。

 もうひとつの伸びしろは、法人需要です。クレジットカードで決済を行う企業が増えてきました。これまでクレジットカードの利用は個人が多かったのですが、これからは法人も増えると考えています。

── 今後の戦略は。

林野 クレジットカードだけに頼らない経営の多角化を進めています。カードビジネスに加え、リースやローンなどのファイナンス事業、企業間決済や経費精算サポートなどのソリューション事業などをグローバルに展開します。

 目指すのは、アジアにおけるネオファイナンス企業です。事業の柱を五つ作り、各事業で200億円、計1000億円の営業利益を出します。

── フィンテックにも積極的です。

林野 もともとITベンチャー企業に出資するなどIT企業と付き合いがありました。しかし、最近は業界の動きが速い。

 そこで、起業の初期段階で投資するためにコーポレート・ベンチャーキャピタルの「セゾン・ベンチャーズ」を昨年設立しました。協業が期待できるベンチャー企業を発掘し、投資します。カード会社の中では、一番フィンテックの取り組みが進んでいると思います。

── たとえば、どんな取り組みですか。

林野 クラウド経費精算の米コンカーと連携し、クレジットカードを使った経費精算の簡略化を法人に提供しています。スマートフォンで経費精算ができるので、企業側は伝票を作成する必要がなくなり、出張先からも精算ができます。精算業務の時間が短縮できれば、その分他の業務に充てることができますし、伝票などの管理コストがなくなります。

── 海外展開は。

林野 12年に初めてベトナムに駐在員事務所を開設し、昨年、現地のHDバンクと提携して個人向け金融サービスの会社を設立しました。ベトナムに営業拠点を約5500カ所持ち、二輪車ローンや家電用ローンなどを展開しています。

 他にも、中国、シンガポールなどアジアに複数拠点があります。インドネシアでは、セブン-イレブン・インドネシアと提携し、プリペイドカードを発行。各マーケットのニーズに最も適したサービスを提供して

います。

 現在、インドやミャンマーでも新規事業を計画中です。1年後には、形が見えてくると思います。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=金井暁子・編集部)

 

横 顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 西武百貨店の人事部から企画室に異動し、奔走していました。

Q 「私を変えた本」は

A シュムペーターの『経済発展の理論(上)(下)』です。資本主義の本質である「創造的破壊」が重要だと考えています。

Q 休日の過ごし方

A 1日は体を動かすためにゴルフ、もう1日は休養しながら本を読んだり、仕事をしたりしています。最近は、大谷翔平投手に倣って目標達成用紙を作成しました。

 

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■人物略歴

 

◇りんの ひろし

 

京都府出身。埼玉県立浦和西高等学校卒業。1965年埼玉大学文理学部卒業、西武百貨店(現そごう・西武)入社。82年西武クレジット(現クレディセゾン)入社。2000年6月より現職。73歳。

 

(『週刊エコノミスト』2016年5月17日号<5月9日発売>4~5ページより転載)

2016年

5月

03日

経営者:編集長インタビュー 田口三昭 バンダイナムコホールディングス社長 2016年5月3・10日合併号

田口三昭 バンダイナムコホールディングス社長

 

◇日本のキャラクターで世界をつなぐ

 

「機動戦士ガンダム」「ドラゴンボール」など人気アニメーション・マンガを中心にプラモデルや玩具を展開するトイホビー、家庭用・業務用ゲームを中心とするネットワークエンターテインメント、既存の人気映画・音楽のほか新作にも取り組む映像音楽プロデュースの3領域を事業の柱に据える。

── ガンダム、ドラゴンボールは世界的な人気を得ていますね。

田口 日本の人気キャラはアジアでも人気があります。欧米にもファンがいます。フランスで開かれる、日本のコンテンツを楽しむイベント「ジャパンエキスポ」では、海賊マンガ「ワンピース」、忍者マンガ「NARUTO」の登場キャラのコスプレ(扮装)をする人も多いです。

 最近では、アニメ風の架空アイドルグループ「ラブライブ!」がヒットしました。その声優がユニットを作ってライブ活動をしたところアニメファン中心に注目を集めました。東京、中国の上海、台湾などでチケットが完売、昨年末はNHKの紅白歌合戦にも出場するなど、ガンダムに匹敵する人気が出てきました。

 キャラクター商品を提供するだけでなく、国境を越えてファン同士がコミュニケーションを取ってつながるといった共通の文化を作る役割も担っていると考えると、ぞくぞくするようなやりがいを感じます。

── 腕時計型おもちゃ「妖怪ウォッチ」が大ヒットしました。

田口 妖怪ウォッチだけで14年度は552億円、15年度は300億円以上を見込んでいます。ウォッチは累計で530万個、ウォッチにはめ込んで遊ぶメダルは約4億枚売れ、文字通りのお化け商品になりました。14年度に売れすぎたので、さすがに15年度は反動減がありました。

── 経営戦略の軸は何ですか。

田口 キャラクターコンテンツという知的財産(IP)で稼ぐ「IP軸戦略」です。旧バンダイのころから競争力のある多くのコンテンツを有してきました。また、旧ナムコも良質なゲームコンテンツを持っていました。加えて、最終的におもちゃにするか、ゲームにするか、という出口戦略も豊富です。おもちゃにすると売れるがゲームにすると売れないコンテンツがあれば、その逆もあります。それを把握して魅力的な商品に育てようという戦略です。

 

バンナムHDは、玩具メーカーのトップ企業だったバンダイとゲームソフトメーカーの雄、ナムコが2005年に経営統合して誕生した。統合当初は企業風土の違いから伸び悩んだ時期もあった。

 

── バンダイとナムコの統合の効果を感じたのはいつごろですか。

田口 実は、統合後の10年3月期には、赤字に転落しました。もともと、バンダイはスピード優先の経営でした。というのも、キャラクタービジネスは人気があるうちに消費者に届けなければなりません。一方、ナムコは、じっくり時間をかけて面白いゲームを生み出してきたクリエイティブ集団でした。この異なる二つの企業文化が混ざった開発陣に対し、「最速で良質なものを」と要求した結果、互いの長所が失われました。

 コンテンツごとの出口戦略は異なります。それに応じて開発も異なるということを社員が理解するには時間がかかりました。15年3月期ごろからようやく、経営目標に掲げた数字が出せるようになりました。

 

◇アジアに注力

 

── 海外展開はどうですか。

田口 11年から始めたガンダムの海外向け情報発信サイト「ガンダムインフォ」では、ガンダムシリーズの無料映像を配信しており、まだ進出していない国や地域にも視聴者がいて、視聴数は累計6億回以上に上ります。そうした国にきめこまかく商品を送り込んでいきます。

 海外でのイベントを増やし、販売の拠点としてショーケース的な機能を持たせた旗艦店を開設する構想もあります。全世界を視野に入れていますが、まずアジアに注力します。

── 新規分野の開拓は。

田口 ゲーム分野の新しいユーザーを取り込むため新製品を投入しています。当社が運営する屋内型テーマパーク「ナンジャタウン」などに導入したのが、壁一面を画面に使う釣りゲーム「爆釣りスピリッツ」です。画面に向かって釣り竿型コントローラーを振ると巨大なサメなどがかかって大迫力で暴れます。その衝撃が竿を震わせるという仕組みで、臨場感が受けています。

 さらに、VR(仮想現実)エンターテインメント研究施設「VRゾーン・プロジェクト・アイ・キャン」を4月15日から半年間、東京お台場に開設します。眼鏡型のVR装置を着けると、例えば電車の運転手の視点が上下左右、全方位で再現され、まるで電車を運転している気分を味わうことができ、大人も楽しめます。

 アニメ風のアイドルキャラの育成シミュレーションゲーム「アイドルマスター」は一から作ったコンテンツで、映像やゲームで展開しています。これまでターゲットに入っていなかった「大人女子」と呼ばれる30歳前後の女性向けに男性アイドル版を作ったところ人気になりました。

── 今後の目標は。

田口 一定規模の収益の軸を作り、新しいキャラクターコンテンツに再投資できる財務体質を目指します。18年3月期に売上高6000億円、営業利益600億円が目標です。

 

                Interviewer=金山隆一・本誌編集長 構成=大堀達也・編集部

 

■横 顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 係長として一番働いていたころです。アパレル、トイ、カード、そのほか新規事業など幅広くチャレンジしました。

Q 自分を変えた本は

A 新田次郎の山岳小説『孤高の人』です。登山が趣味なのと、主人公が一人で何かをやり抜く物語が好きです。

Q 休日の過ごし方

A 会社のイベントに出かけていって、ユーザーの反応を見ていることが多いです。

 

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■人物略歴

たぐち みつあき

秋田県出身。1977年秋田県立角館高校卒業。1982年明治学院大学法学部卒業後、バンダイ(現バンダイナムコホールディングス)入社。2003年6月取締役。15年6月に社長就任。57歳。

 

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2016年

4月

26日

経営者:編集長インタビュー エバ・チェン トレンドマイクロ社長 2016年4月26日号

◇情報セキュリティーは絶えず進化している

 

 1991年に発売を開始したセキュリティーソフト「ウイルスバスター」が国内市場で高いシェアを誇る。

 

── ウイルスバスターを普及させるまで、どのような苦労がありましたか。

チェン なぜセキュリティーソフトが必要なのかということを顧客が認識していなかったので、まず最初に重要だったのは危険性を周知することでした。名前が映画の「ゴーストバスターズ」に似ていたので、親しみを持ってくれたこともあったかもしれません。米マイクロソフト社のパソコン用基本ソフト「ウィンドウズ95」の導入とともに市場に浸透しました。

 

── 最初はどのような製品を市場に投入したのですか。

チェン 創業当初、まず最初に手がけたのは、ソフトウエアが不正にコピーされないようにするための「ティーロック」という製品でした。ソフトウエア開発者向けに販売していました。

── ウイルスバスター開発の経緯は。

チェン ティーロックを使っていたソフトウエア開発者から電話を受け、「あなた方のプログラムが我々のプログラムをだめにした」と苦情を言ってきました。私と同僚のエンジニアが訪問して確認したところ、

我々のプログラムが原因ではなく、ウイルスが問題を起こしたことを発見しました。それが最初に発見したウイルスでした。やがて、ウイルスの脅威にはあらゆる人が直面していると分かったので、セキュリティーソフトを開発したのです。その後は、コンシューマー向けのビジネスを強化し、ウイルスバスターの開発につながりました。

── その後はどのような製品を。

チェン 我々はLAN(構内情報通信網)経由でウイルスが急速に広まることを発見しました。サーバーに格納されているファイルを他の人がダウンロードすると感染が広がるのです。サーバーにインストールするプログラムを我々が開発し、ファイルがコピーされる際に不審なウイルスがないかをチェックする製品を作りました。これを米半導体大手のインテルと提携して主に米国や欧州で販売しました。

── 1996年に日本に本社を移した理由は。

チェン インテルが多くのシェアを占めていた米国や欧州以外で最も大きい市場が日本だったので、日本に進出して、トレンドマイクロの名前で販売しようと考えました。

 

◇IoT向け製品も

 

 コンシューマー向けのウイルスバスターのイメージが強いが、世界の売上高の約7割は法人向けの製品が占めている。

 

── 法人向けにはどんな製品を売っていますか。

チェン 企業のサーバー向けの対策ソフト「ディープセキュリティー」や、企業のネットワーク内の不審な通信を検知する「ディープディスカバリー」などがあります。また、昨年10月には米ヒューレット・パッカードから情報セキュリティー部門を買収し、ネットワークの出入り口でサイバー攻撃を防ぐ技術を手に入れました。

── 日本企業のサイバーセキュリティーへの意識は高まっていますか。

チェン そう思います。日本年金機構の情報流出問題やマイナンバー制度の開始などにより、より多くの人がセキュリティー上の課題に注目するようになったと思います。

── 最新のサイバー攻撃はどのくらい高度化していますか。

チェン 同じ攻撃者でも、攻撃ごとにウイルスを変えているため、一つのパターンが分かっても、別の攻撃の時に把握することができません。自分を識別できないように、マスクを常に変えているようなものです。

── スマートフォンのセキュリティー対策は。

チェン ウイルスを運ぶ媒体として、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や電子メールが使われます。SNSのアカウントを乗っ取り、乗っ取ったアカウントの友人に対して、ウイルスをばらまくことが考えられますが、ウイルスを検知するスマホ向けの製品も販売しています。

── IoT(モノのインターネット)化が進むことによって新たな対策も必要ですね。

チェン IoTのセキュリティー上の課題はウイルスだけではなく、各機器に設定されているパスワードだと考えます。例えば、インターネットにつながっているカメラ付き製品にログインして、カメラをコントロールしてしまうことが想定されます。ユーザーが初期設定のパスワードを変えることは少ないので、ハッカーは容易にログインできるのです。そういったことを防ぐような製品を今年中には発表したいと考えています。

── 今後の事業方針は。

チェン アフリカに注目していきたいですね。新たにインターネットに接続する人口が最も多いと考えるからです。情報セキュリティーは絶えず進化して変化しており、これからも今までやってきた通り、良い製品を提供していきたいですね。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=松本 惇・編集部)

 

横顔

 30代の頃はどんなビジネスウーマンでしたか

 技術系の人間として、エンジニアチームを管理し、ソフトウエア製品の開発を手がけて、いくつかの特許を取得しました。

Q 「私を変えた本」は

 ビジネス本の『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)です。自分が快適に過ごすために必要なことが書かれています。

 休日の過ごし方

 絵を描くことが多いです。景色や人など何でもモデルにしています。

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■人物略歴

 

 ◇えば ちぇん

台湾出身。1988年テキサス大学(米国)でMBA(経営学修士)を取得。同年米ロサンゼルスで親族とともに創業。94年に業務執行役員に就任し、監査役や取締役技術開発部門統括責任者などを歴任。2005年1月から現職。57歳。

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2016年

4月

19日

経営者:編集長インタビュー 兼元謙任 オウケイウェイヴ社長 2016年4月19日号

◇兼元謙任 オウケイウェイヴ社長

◇いじめ根絶の思いが国内最大級Q&Aサイトへ

 

 国内最大級のQ&Aサイト「OKWAVE」では、家電の使い方から病気の悩みまでさまざまな話題について、会員同士が質問と回答を無料で投稿できる。非会員でも閲覧することができ、月間利用者は3500万人に上る。

 

── Q&Aサイトを作ったきっかけは。
兼元 小学生の頃に経験したいじめをなくしたい思いがベースです。社会に出て、ホームページの作成方法をインターネット上の掲示板で質問したところ、そこは質問をする場ではなかったので、非難を浴び、話を聞いてもらえませんでした。いじめられた時も同じ。誰かに相談をすることもできませんでした。だから、対話のできる質問専門のサイトがあればいいと思いました。

── サイトの人気が出たのはいつですか。
兼元 1999年に設立しましたが、3年間は収益がなく赤字でした。ただ、設立3カ月後くらいに、インターネットの掲示板で「面白いサイトがある」と取り上げられ、アクセスが増えました。また1年後に、入学式、新学期に関するQ&Aがまとまっているとして雑誌に取り上げてもらい、知名度が上がりました。
 3年目の頃、ネット上で皆が英知を絞って助ける仕組みを企業の問い合わせシステムにも利用できないか、という話を頂きました。そして、顧客からの問い合わせの中でよくある質問(FAQ)と回答を提供する仕組みの特許を取り、提供を始めました。その1年で黒字化しました。
── 現在の収益構造は。
兼元 企業向けのFAQサービスが6割です。その他に広告収入と、企業向けにQ&Aサイトのデータやシステムを提供しています。
── 2015年6月期の営業利益は1300万円と前年度から反転しましたが、数年間業績がふるいませんでした。
兼元 多言語コールセンターのブリックス社を買収したためです。日本にいる外国人は苦労することが多い。20年に向けて多くの外国人が来日するので、日本人の理解を深め、外国人の悩みを解消するQ&Aの場が必要だと思います。外国語の専門用語など多言語コールセンターがもつノウハウを、今後、Q&Aサイトにも生かしていきます。

 ◇人工知能を活用

── 他社のQ&Aサイトとの違いは。
兼元 人工知能(AI)を使って、誹謗中傷をする言葉がないか監視しています。コンテンツの価値を高めることを目的に、2、3年前から投稿内容を自動チェックしています。
── 他にはどのような事業を。
兼元 著名人に質問ができるサービス「OKWAVE Premium」を有料で行っています。月額324円で、片付けコンサルタントの近藤麻理恵さんなどが回答してくれます。回答自体に価値があるので、閲覧は会員制です。
 更に、弁護士など専門家が回答するサービス「OKWAVE Professional」を行っています。一般の会員が投稿する質問に対して、専門家の視点から回答してもらいます。歯科医、心理カウンセラーなど3000人の回答者がいて、回答と共に連絡先を掲載できるので、専門家の宣伝になります。そのため、回答者からお金を頂いており、回答の閲覧者は無料です。徐々に収益の柱となってきています。
 また、サイトの月間利用者が月3500万人いるので、これはビッグデータだと思います。彼らが何を見ているのか、どういうことに困っているのかが分かります。そういう情報を企業に提供すれば、商品開発に役立つ。
── いずれグーグルを超える?
兼元 最近、そう言ってもらえるようになりました。世界においては、まだ追いかける立場ですが、Q&Aサイトの強みを生かして挑戦していきます。製品などについて、企業のFAQと、一般ユーザーの回答と、専門家の回答を一緒にまとめるサービスを考えています。グーグルの検索結果は上位に表示されるよう企業が対策をしているため、必ずしも欲しい情報が上位にはきません。オウケイウェイヴが世界中の属性の異なる回答を集めて再構築すれば、より良いQ&Aを提供できます。「Miracle Answers」というサービスで、米国で準備中です。
── ブロックチェーン(ネット上で情報を保持する台帳)技術を使った取り組みは。
兼元 1月にブロックチェーン技術をもつテックビューロ社と事業提携しました。ブロックチェーンというのは、誰が何の情報をどう渡したのか、時系列で追うことができます。Q&Aは知財です。この知識(回答)を最初に出した人は誰か、という情報をずっと保持できることは、知財管理において重要です。いろいろな派生情報があるけれど、オリジナルの情報元はこの人だと分かると、その人にビットコインでお礼することもできます。
── 今後、どのような会社にしたいですか。
兼元 世界企業にしたいです。質問者の回答に対するお礼コメント数と、閲覧者の回答に対するありがとうボタン数の合計で、18年までに15億個を目指しています。現在5000万個。将来的にはサイト内のページの価値でグーグルを超えたいです。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=金井暁子・編集部)


横 顔
Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 一時ホームレス生活をし、会社設立のため奔走していました。
Q 「私を変えた本」は
A フランクルの『夜と霧』です。たまに読み返し、今の幸せを思い出します。ガス室の手前まで生きることを考える姿勢を、自分も忘れてはいけないと思います。
Q 休日の過ごし方
A 仕事をしています。最近パソコンをMacに買い替え、創造性を刺激される良い環境で働いています。

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■人物略歴

◇かねもと かねとう

愛知県出身。愛知県立瑞陵高等学校卒業。愛知県立芸術大学卒業後、プロダクトデザイン会社などを経て、1999年にオウケイウェイヴの前身、有限会社オーケーウェブを設立。2000年2月より現職。49歳。

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2016年

4月

12日

経営者:編集長インタビュー 芦田 信 JCRファーマ会長兼社長 2016年4月12日特大号

◇芦田 信 JCRファーマ会長兼社長

◇「難病治療薬の開発に存在意義がある」

 

 JCRファーマは、遺伝子組み換えや細胞培養といった最先端の領域で、医薬品の開発から製造、販売まで手がける。

 

── 強みは何ですか。

芦田 1975年に創業し、人間の尿からたんぱく質を精製して薬を作りました。酵素やホルモンといったたんぱく質の精製技術が強みです。

 その後、主流になった遺伝子工学で開発するうえで、私は研究部門に一つ要求しました。通常は培養の際に牛の血清を使いますが、クロイツフェルト・ヤコブ病などのリスクがあるため、動物由来の成分を使わずに開発してほしい、と。研究部門は見事にやってくれました。第1号が2010年に発売した、透析患者の腎性貧血を治療するための「エポエチンアルファBS注JCR」です。

 この製品はバイオシミラー(バイオ後続品)のため、当社は世間からバイオシミラーの会社として見られることが多いのですが、これは遺伝子工学において動物由来の成分を使わず開発できるか、一つの実験でした。現在、希少・難治性疾患を対象に新薬を開発しています。

── 難病を対象とする理由は。

芦田 抗がん剤やリウマチ薬など大きな市場で、多大な開発費を投じる大企業と競合して勝てるのか。患者さんの少ない疾患を目的とした方が当社の存在意義があると考えています。難病の多くは子どもの頃に発症が分かり、寿命が限られます。

── 主な対象は何ですか。

芦田 先天代謝異常であるライソゾーム病です。これは体内で不要な物質を分解する酵素を作ることができないため糖質や脂質が蓄積し、さまざまな症状を引き起こす病気です。

 酵素を補充する既存の薬では身体の症状は改善しますが、脳には物質をはねのける血液脳関門(BBB)があるために酵素が届きにくく、脳に糖老廃物が蓄積して知能が低下

し、死に至るケースが多いのです。

 我々はどうすれば酵素を脳に届けられるかと考えました。薬が脳の関門を通りやすくするために開発した技術が「J -Brain Cargo」です。この技術を用い、ライソゾーム病の二十数種類のなかで八つを対象に研究を進めています。今後はライセンス供与や共同開発によって、グローバル化を考えています。

 

◇利益を開発費に

 

── 現在の売り上げの中心は。

芦田 14年度の売上高168億円のうち、メインは先天異常による低身長の子どもに投与する遺伝子組み換え成長ホルモン剤「グロウジェクト」と「エポエチンアルファBS注JCR」です。グロウジェクトは外資系5社と競合し、現在3位です。

── 再生医療の早期実用化を図る改正法のもとで、昨年9月に初承認された「テムセルHS注」とは。

芦田 この薬は急性白血病の骨髄移植の際に起きる合併症を抑える薬です。1人の健康人から採取した骨髄液の間葉系幹細胞を培養したものです。2月に国内で販売を始めました。他人の細胞を用いた他家由来細胞製品の販売は世界で初めてです。

 13年前に米オサイリス社で社長を務めていた知人から話を聞いたことがきっかけで、同社から技術導入しました。細胞を培養したものが医薬品として扱われるかどうかもまだ分からない時代に、試行錯誤しながら作り、臨床試験を進めました。

── 再生医療法は追い風ですか。

芦田 今回の法改正では、臨床試験の途中で条件付き承認を得て、販売しながら残りの臨床試験を進めることが可能になりました。ですが、当社のテムセルHS注は臨床試験を全て終えて正式な承認を得ています。

── 業績への貢献は。

芦田 骨髄移植は年間3500人が受けますが、合併症を発症した人のうち、テムセルHS注の対象は特に重篤な300人と限られます。

 薬価(保険償還の際の基準)は1回投与分約86万円で1治療につき8?12回投与しますが、マイナス150度下での輸送費などコストを考えると、12年間の臨床開発費は回収できません。薬価の再交渉をする選択肢もありましたが、待っている患者さんがいます。当社は利益を開発費に充てていますから、薬価を受け入れました。

── 資金を集めて開発し、製造は他社に委託するという一般的な製薬ベンチャーとは違うのですね。

芦田 当社は創業以来、インターフェロンの開発中止で減損を出した2年を除いて黒字です。利益の範囲内で研究をしてきました。コストが大きい臨床試験では他社と提携し、得意分野に注力しています。

 当社はものづくりを大切にしています。当社の製造技術で効率的に薬を生産し、できるだけ安く世の中の人に届けるよう努力しています。遺伝子工学や細胞の薬は、開発した作業手順書を工場にもっていくだけでは作れません。プロセスのすり合わせが必要です。

── 今後の成長のカギは。

芦田 研究部門にはテーマを与え、自由に時間を使って仕事をしてもらっています。若い人がいい仕事をしています。営業部門には外資系製薬から移ってくる人が多いです。給料は当初減りますが、同僚は競争相手という外資系と違い、チームとしてがんばる雰囲気に引かれるようです。全社的に離職する人はほとんどおらず、出産した女性社員も復職します。そういう風潮をいかに保っていけるかが必要だと思います。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 32歳で創業し、韓国に行って寒い中、集めた尿をかぶりながら作業していました。その頃から精神状態は変わっていませんね。

Q 「私を変えた本」は

A 宮城谷昌光、井上靖、司馬遼太郎など歴史小説を読みます。自分の経験からもそうですが、「物事は思い通りには運ばない」ということを感じます。

Q 休日の過ごし方

A ゴルフですね。もっとスコアを伸ばしたいので食事に気をつけたり、家で筋トレをしたりします。

 

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■人物略歴

 ◇あしだ しん

 東京都出身。愛知県立岡崎高校卒業、1968年甲南大学理学部卒業。同年大五栄養化学(現・日本製薬)入社。75年に退社し、日本ケミカルリサーチ(現・JCRファーマ)設立、代表取締役社長に就任。73歳。

2016年

4月

05日

経営者:編集長インタビュー 加留部淳 豊田通商社長 2016年4月5日特大号

 ◇自動車以外の事業も成長を目指す

 

 豊田通商はトヨタグループの総合商社。2015年3月期の連結業績は、売上高8兆6634億円、営業利益1694億円と過去最高だった。20年3月期の目標として、当期(最終)利益1400億円、ROE(株主資本利益率)10~13%を掲げている。

── 特に自動車関連が強いです。

 

加留部 自動車バリューチェーンを確立しています。例えば、新素材・先端技術の開発、関連資源の調達、部品の製造販売、タイヤの組み付け、使用済み自動車の資源の再利用など、自動車ではあらゆる事業を行っています。販売面では、代理店がある国でトヨタ車の販売戦略をつくっているほか、ディーラーでの販売、自動車の販売金融や中古車販売まで手がけているのが強みです。

 

── トヨタグループの強みですね。

加留部 豊田通商という会社や商社のビジネスには、わかりにくい面があると思います。当社をわかりやすく表現するため、本籍地はトヨタグループ、現住所は商社と説明しています。トヨタのための商社にとどまっていたら強みである自動車も強くならないし、自動車生産の周辺ビジネスだけをしているようではグループの期待に応えられない。グループのビジネスにとどまらない役割を目指しています。

── 自動車以外の事業を拡大しています。

加留部 自動車と自動車以外の割合は、現在6対4です。自動車以外の成長を目指し、事業分野を「ライフ&コミュニティ」(生活産業関連など)、「アース&リソース」(地球環境や資源など)、「モビリティ」(自動車関連など)の3分野に分け、20年に向けて事業規模を1対1対1にするビジョンを掲げています。

 分野間をまたがる事業領域も重要です。例えばリチウムやヨード。リチウムは電気自動車などの蓄電池として、ヨードはレントゲンの造影剤として使われます。ヨードはチリ、米国、日本の3カ国に偏在していますが、当社の取扱量は約8%。大手商社が扱わないようなニッチな分野に強いのは豊通らしさと言えます。

 マグロ、コメ、パプリカなどの食料にも力を入れています。15年には、ブラジルで穀物インフラ事業会社に投資し、穀物集荷・輸出事業に参入しました。

── 仙台での空港運営事業にも乗り出しました。

加留部 空港事業はインフラと航空事業という二つの観点があります。1999年からラオスで国際線ターミナルを運営しており、ノウハウを蓄積してきました。仙台にはトヨタの工場があり、当社も事業をしているため効果を見込めると判断し、東急グループや前田建設工業と仙台国際空港の運営に乗り出しました。

 航空事業は、リースではなく、部品の物流や物づくりを行っています。米国から輸入した物を日本の部品メーカーに収めているほか、部品メーカーの旭金属工業と組んでマレーシアに航空機用メッキ工場を作り、今年4月から本格稼働予定です。

 

 ◇アフリカに注力

 

── アフリカでの事業にも力を入れています。

加留部 従来注力してきた北中米、欧州、豪州、東アジアに加え、15年4月からアフリカを第5極と位置づけ、強化しています。12年には2345億円を投じて、仏商社CFAOに資本参画しました。当社は元々、アフリカ東南部でトヨタ車の販売をしていたため、中西部に強い同社と地域的な補完ができます。

 CFAOは自動車やビールの「ハイネケン」の生産・販売のほか、医薬品・医療器具にも強く、27カ国で病院、診療所、薬局に納入しています。新たに小売り事業にも参入し、コートジボワールでは15年12月、仏カルフールとスーパーの1号店を開店しました。20年までに西アフリカ8カ国で80カ所以上のスーパーやコンビニなどを展開予定です。

── トーメンとの合併(06年)から丸10年です。

加留部 事業ポートフォリオと人材の面で、メリットがありました。旧豊通は自動車の利益貢献が大きく、いわば農耕民族の文化でした。そこにトーメンのような狩猟民族が入り、新しい事業ポートフォリオ、例えば電力やエネルギーが新しく加わったわけです。

 人材面では、トーメン出身者が旧豊通の部隊に入ったりその逆もあります。交流を図る中で、両方の良さを持ち合わせた人材も生まれています。旧トーメンからトヨタに出向し、トヨタ生産方式を学んで自動車以外のカイゼンを担当する人材もいて、関連会社の第一屋製パンのカイゼンに取り組み、業績改善に成功しました。

── 長期的な経営目標は?

加留部 20年3月期の目標として、最終利益1400億円という計画を掲げています。15年3月期は資源価格下落もあって675億円にとどまりましたが、1000億円突破は視野に入っています。

 ただ、私は数字にこだわるつもりはありません。トヨタグループの「PDCA(計画→実行→評価→改善)サイクル」のように、何をすべきか、その結果何が良くて何が悪かったのかをつかんで「カイゼン」する。数字を追うよりその過程を繰り返すことが、豊通をより強くすると考えています。

(Interviewer金山 隆一・本誌編集長、構成=秋本裕子・編集部)

 

横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 米国駐在から30歳で帰国。主にデンソーのバーコードリーダーを米欧で売る仕事をしていました。朝から晩まで働くモーレツ社員でしたね。36歳で再び米国駐在になり、トヨタとGMの合弁会社(当時)NUMMI向けの自動車部品販売を手がけました。

Q 最近買った物

A 若手女流画家の油絵です。妻と近所にパンを買いに行った時、たまたま見かけて衝動買いしました。

Q 休日の過ごし方

A 名古屋に単身赴任中ですが、なるべく東京で妻と過ごすよう心がけています。

 

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■人物略歴

 ◇かるべ じゅん

 神奈川県出身。県立湘南高校卒業。1976年横浜国立大学工学部卒業、同年豊田通商入社。2004年取締役、08年常務執行役員などを経て、11年から現職。62歳。

 

2016年

3月

29日

経営者:編集長インタビュー 松本大マネックス証券会長CEO 2016年3月29日特大号

松本大マネックス証券会長CEO

◇新しい投資体験のために技術革新を続ける

 

── マネックス証券の強みは。

松本 当社は常に利用者の選択肢を広げてきました。日本株、香港株、米国株、世界中の投資信託、為替など幅広く取り扱っています。米国株については、他社が1000銘柄程度に対して、当社は約3000銘柄、つまり米国のほとんどすべての銘柄を扱っています。米国株の取扱時間も他社に比べて圧倒的に長い。そこが最大の特徴かな。

── マネックスグループとしては。

松本 グローバル化を進めています。2010年に香港の「BOOM証券」というアジアで最も古いネット証券会社を、11年に米国6位のネット証券「トレードステーション」(本社・フロリダ州)を買収しました。950人のグループ社員のうち約7割が外国人になり、そのほとんどが米国法人の従業員です。米国には技術系のエンジニアが多く、グループ内でシステムや取引ツールの内製化を進めています。

 そして、中国では我々が49%出資して、15年2月にオンライン証券の合弁会社を杭州で作りました。個人向けの証券ビジネスを持っている外資系証券会社は、我々が知る限りマネックスだけです。

── 中国というと去年の株暴落があって心配になる。

松本 中国は日本や欧米などとは全く違う国で、いろんなリスクがある。ですが、だからやめておこうとはならない。食品やビール、自動車など消費財の企業で、中国市場を無視する会社はない。当社は消費財の会社と同じ発想で中国を見ている。マーケットは巨大だから、ポテンシャルがあるのには変わりありません。

── グループの15年3月期売上高は509億円。現在の海外比率は。

松本 今は3~4割が海外で、中国は1%くらいです。将来的には、売り上げで日本が5割、米国が3割、中国が2割。利益では、日本が7割、米国2割、中国1割くらいを目指したい。

 

 ◇1万円、1%という革命

 

── 今春に、米投資信託運用大手バンガード・グループと、クレジットカード国内大手のクレディセゾンと組んで設立したラップ口座(一般個人向けの投資一任サービス)の新会社が始動する。その狙いは。

松本 マネックス・セゾン・バンガード投資顧問という会社で、ラップ口座サービスを提供します。現在、大手証券が提供しているラップ口座は、300万~500万円が最低金額で、手数料も合計で約2・5%取られることがほとんど。一方、我々は、最低金額が1万円、手数料は合計しても1%にする予定です。

── いつ開始するか。

松本 開業は5月くらいの予定です。バンガードは、米ブラックロックに次いで世界で2番目の運用会社。バンガードの品質で、最低1万円、手数料は1%。僕は「ウルトラ革命的」だと思っています。

 日本は大相続時代のなかにあります。今後20年間で、不動産を含めて毎年50兆円規模の相続が起きると言われています。

 現在、野村証券には約110兆円の預かり資産がありますが、20年でその名義はどうなるか。僕の勝手な想像ですが、仮に半分が変わるとすると55兆円規模になります。その時にラップ口座が「500万円から」では敷居が高い。そこでバンガードの品質で、1万円から1%ならお客さんが来やすいだろうと。すごく戦略的で大事な新会社です。

── 金融と技術の融合「フィンテック」の可能性はどう見るか。

松本 我々は金融とテクノロジーの交わる場所で生まれたという意味で、フィンテックの第1世代だと思っています。テクノロジーを使って書斎で取引ができるようにして、「投資体験に革命を起こすんだ」と起業しました。今もそれは同じ。フィンテックでどれだけ体験を変えられるかが本質です。例えば、スマホのカメラで「これを作った会社の株を買いたい」とかざすとその会社の株が買えるなどです。

── ベンチャー出資にも注力している。

松本 我々が社内ですべてやっていくのは限界があるので、若いスタートアップ企業に頑張ってもらって、応援する形。彼らはおもしろいアプリ(ソフト)を作っても食べていけないが、150万以上の口座を持っている我々がユーザーになれば違う。出資したり、ユーザーとして使用料を払って、エコシステム(生態系)を作っていきたいです。

── 11月にマネックス証券の社長CEO(最高経営責任者)から、会長CEOになった。なぜか。

松本 グループにおける社長CEOは変わっていませんが、子会社のマネックス証券では会長CEOにしました。米国も含めグループ全体をまとめていくなかで、日本については社長職を分け、経営層を厚くしようというのが一つの狙いです。

 もう一つの狙いは、イノベーション(技術革新)です。社長にブレーキ役になってもらい、僕が思い切ってイノベーションをしていける仕組みにしました。

 米国と中国は将来的には大事で、国内の他の証券会社が参入しない間に、当社はせっせと準備をしています。また、このIT時代に自社でシステムを持っていないと寝首をかかれるので、せっせと内製化を進めています。そして、預金者という巨大市場にアクセスするためにバンガードと組みました。手前みそですが、かなり戦略的に動いています。

Interviewer 金山隆一・本誌編集長 構成 谷口健・編集部

 

■横 顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 35歳で起業しましたが、あっという間でした。とにかくひたすら働きました。その頃の記憶がないぐらい完全に仕事に没頭していました。

Q 最近買ったもの

A 大発会に行くために色紋付きの和服を買いました。先日社員の結婚式があり、それにも着ていきました。

Q 休日の過ごし方

A 夫婦でマッサージですかね。

 

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■人物略歴

まつもと おおき

1963年埼玉県生まれ。開成高校、東京大学法学部卒業後、87年にソロモン・ブラザーズ・アジア証券に入社。90年ゴールドマン・サックス証券に入社。94年同米国本社の共同経営者に就任。99年に独立し、マネックスを設立。52歳。

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2016年

3月

22日

経営者:編集長インタビュー 江崎勝久 江崎グリコ社長 2016年3月22日号

 

 ◇一生付き合える商品をつくる

 

 1921年に創業者の江崎利一氏がグリコーゲンを主成分とする栄養菓子「グリコ」を製造販売する江崎商店を創立。菓子のビスコ、プリッツ、冷菓のパピコ、乳製品のプッチンプリンなどのロングセラー商品を生み出してきた。勝久社長は利一氏の孫にあたる。

 

── 創業以来の理念は何ですか。

江崎 「おいしさと健康」は当時から変わらない理念です。「グリコ」には開発当時、「毎日食べることによって健康な体になる」というコンセプトがありました。子どもの2大天職は「食べること」と「遊ぶこと」と考え、両要素を入れるため、27年からおもちゃを付けました。菓子とおもちゃで一つの商品と考えています。

── 商品が多岐にわたりますが。

江崎 菓子をはじめとした加工食品、アイスクリームなどの冷菓、乳製品のほか、化粧品、天然原料、麺のコシを出すデンプン、グルテンなどの食品原料なども扱っています。コンビニで販売されている麺類の中には当社の原料が使われているものもあります。粉ミルクは、2001年に製造販売を行っていた米ワイスを子会社化、アイクレオに社名変更し、事業に進出しました。

 

── 販売形態は。

江崎 ほとんどが卸売りです。一部、置き菓子の「オフィスグリコ」といった直接消費者に届ける販売方法もあります。

── ロングセラー商品を生み出す秘訣(ひけつ)は。

江崎 「グリコ」開発当時から、販売ターゲットが何を求めているかを客観的に理解するためにリサーチを行ってきました。販売層をどのように広げていくのかということも課題です。大切なのは、お客様が潜在的に持っているニーズや欲求をいかにつかんで商品化するかです。

 企業スピリットとして、「創る・楽しむ・わくわくさせる」があります。新しいものを創り出すのは苦しい仕事です。それを楽しみに変えるためにどう乗り越えるか、創意工夫が必要となります。過去には多くの失敗も経験してきました。ロングセラー商品でも、今の売り上げに満足しないよう戒めています。

 売り上げ以上に広告や営業にも力を入れてきました。よい商品は売れるから投資を行わなくていいという考えはありません。ロングセラー商品は進化させなければならないと考えています。「ポッキー」は15年に発売から50年を迎え、9月にシリーズを大幅にリニューアルしました。

── 最近の売れ筋商品は。

江崎  バンホーテン製ココアパウダーを使った「バンホーテンチョコレート」や一口チョコレート「神戸ショコラ」などが売れています。

 法人向けでは、好きな写真を「ビスコ」のロゴにのせて印刷し、オリジナルのビスコが作れる「スマイルビスコ」も人気です。

 アイスクリームは国内市場において、3年連続で過去最高の売り上げとなりました。大人向けに濃厚な味わいにしたアイスの発売が好調だったことや、住宅の気密性が上がって室内が暖かくなったことなどが要因です。

 

 ◇国内にも設備投資

 

── 足元の業績は。

江崎 16年3月期は売上高3375億円、営業利益165億円を見込んでいます。業績に大きな変動はありませんが、競争が激しい市場の状況を見ると、広告や営業などの経費を投下していかなければならないと考えています。

── 千葉県の工場拡張など国内の設備投資に積極的です。

江崎 完成すると、グループ最大規模のアイスクリーム工場となる予定です。設備投資は商品をつくるためには必要なことで、販売前に先を読んで投資するためリスクも高いです。生産ラインの稼働率を高め、営業やマーケットなど全ての部門で協力していきます。

── 今後の販売戦略は。

江崎 少子高齢化などで菓子や冷菓の売り場が減少傾向にあります。気を抜くと、小売店の商品棚が他のブランドに取られてしまいます。新しい売り場を開拓するため、アイスクリームは自動販売機での販売を拡大したいと考えています。

 15年には、ヨーグルト「朝食BifiX」シリーズ4品を機能性表示食品としてリニューアル発売しました。機能性食品は遅れている分野なので強化していきます。

── 海外での事業展開は。

江崎 現在、売り上げの約12%が海外事業となっています。方針としては、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムなどで商品を展開していきます。

 中国は菓子を中心に、販売網を拡大していきたいです。タイは77年から進出し、15年に新会社のグリコフローズン(タイランド)を設立、本格的に冷菓事業に乗り出しました。

 米国やフランスにも進出しています。ポッキーは欧州で「MIKADO(ミカド)」という商品名で親しまれています。合弁先の米食品大手モンデリーズ・インターナショナルと業務提携して、欧州での菓子の販売を強化していきます。

── これからどんな会社にしていきたいですか。

江崎 社会に対しても貢献できるような会社にしていきたいです。「これもグリコか」と言われるような、いつもお客様の身近にある、世代を超えて一生付き合ってもらえる商品をつくっていきます。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=丸山 仁見・編集部)

 

横 顔

 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

 広告部門でCMを担当していました。

 最近買ったもの

 デジタルカメラです。Wi-Fi(ワイファイ)でデータを飛ばすことができます。

 休日の過ごし方

 ゴルフ、散歩、買い物などをして過ごします。

 

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■人物略歴

 

◇えざき かつひさ

兵庫県出身。灘高校卒業。1964年神戸大学経営学部卒業、松下電器産業(現パナソニック)入社。66年江崎グリコ入社。72年取締役秘書室長、73年代表取締役副社長、82年代表取締役社長に就任。74歳。

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2016年

3月

15日

経営者:編集長インタビュー 森下 一喜 ガンホー・オンライン・エンターテイメント社長 2016年3月15日号

 ◇「パズドラ」でスマホゲームトップ

 

 スマートフォンやパソコン、家庭用ゲーム機など、幅広い機種を対象にゲームソフトを開発・販売するガンホー・オンライン・エンターテイメント(ガンホー)。主力は、2012年に配信開始したスマホ向けオンラインゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」だ。

 

── パズドラの特徴は。
森下 スマホやタブレット端末で遊べるオンラインゲームです。画面上に表示されたパズルを三つ以上組み合わせると、味方のキャラクター(モンスター)で敵を倒すことができます。直感的に楽しめます。次のステージに進んだり、新たなモンスターを手に入れたりといった要素を盛り込み、継続しやすくしています。

── 利用状況はいかがですか。
森下 消費者が作品を手に取ったことを示すダウンロード数は、16年1月時点で累計4000万件を超えました。

日本のスマホ契約数7237万(15年9月末時点、MM総研調べ)の半数を超える数字です。幅広い層が楽しんでいて、スマホ向けゲームとしての国内における認知度はナンバーワンを自負しています。
── 開発段階でのこだわりは。
森下 開発していた11年ごろは、ネットを介して人が交流するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を重視したゲームがはやっていましたが、それに逆らい、直感や達成感を意識して作りました。ガンホーの社員に多い、30代後半の「ファミコン世代」をターゲットとしたためです。
 パズドラが従来のパズルゲームと違うのは、一定時間の間に自分で自由な方向にパズルを動かせる点です。ファミコンの「スーパーマリオ」で画面そのものが動いたときは衝撃を受けましたが、これもルールそのものを変えたゲームです。私自身、元々人を楽しませるために新しいことを考えるのが好きでした。小学校の頃、法事で親戚の子どもが集まって鬼ごっこをするのですが、私はよく変わったルールを提案して遊んでいました。


 ガンホーは、パズドラなどスマホのゲームを無料配信し、作品を有利に進められる有料アイテムを購入してもらい、収益を得る。パズドラの売り上げが寄与し、15年度決算(15年1~12月末)では、売上高1543億円、営業利益724億円を計上した。スマホ向けオンラインゲームの開発企業でトップを走る。

◇海外でも成長

── パズドラが売り上げの約90%を占めますが、懸念はないですか。
森下 パズドラを常に進化させているので、継続して利用しているアクティブユーザーは高い水準を維持しています。利用者がスマホにダウンロードした後も、ゲーム内の期間限定イベントなど、新たな要素を常に加えています。現在数万種類を超えるゲーム内のモンスターは、配信当初から大幅に増えました。
 有料アイテムを重視して顧客単価を上げることはしません。たとえ無料でも、長く楽しんでもらえる人を増やすことで、全体として売り上げを拡大させていきます。
 配信開始から4周年を迎えた今年2月には、パズドラに連携する新たなソフトとして、GPS(全地球測位システム)を応用した「パズドラレーダー」を発表しました。利用者が、自分が訪れた位置に限定したパズルやモンスターを手に入れられる仕組みです。パズドラを持つ人同士がすれ違うと特典も得られます。この春に配信を開始する予定です。
── 他作品の状況は。
森下 新作の開発に常に取り組んでおり、パズドラの他にもヒット作があります。裏返しのカードをめくり、同じ絵柄を素早く組み合わせる「ディバインゲート」は、累計ダウンロード数500万件を超え、女性に人気があります。4×4のマス目上でキャラクターを動かし戦う「サモンズボード」は、累計400万件以上ダウンロードされています。現在放送している人気俳優のムロツヨシさん出演のテレビCMは、代理店任せにせず、キャスティングから自分たちで検討しました。
 新作の開発にあたっては、366人の社員のうち、開発担当に約180人を割いています。開発段階の作品はすべて、社長の私自身が企画責任者として統括し、2~3人で検討します。
── 海外展開は。
森下 米国・カナダの北米ではパズドラが累計900万ダウンロードを超え、右肩上がりで成長しています。近く1000万件を超える見込みです。台湾・香港と、韓国がそれぞれ累計200万件あり、北米も合わせて累計1300万件を超えています。今後も地域を拡大していく方針で、16年度第1四半期中には中国でも展開する予定です。
── 5年、10年後の会社の目標は。
森下 パズドラの生涯顧客を増やしていきたいと思います。よく「パズドラの会社」と言われますが、それでもいいです。無数にあるゲーム作品で、98%は興味を持たれることなく消えていきます。しかもゲームは生活に絶対に必要なものではありません。だからこそ、開発に妥協はしません。
 パズドラを、10年20年続けて孫の世代も遊ぶような作品に育てていきたいと思います。 

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=藤沢 壮・編集部)

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 2005年の上場に伴い会社の経営に専念していましたが、09年から開発も統括しています。

Q 最近買ったもの

A 禁煙のために買った電子タバコの「アイコス」です。しばらく使ってみると本物のたばこの味が気持ち悪くなり、吸いたいと思わなくなりました。

Q 休日の過ごし方

A  家族サービスや、外でスポーツをして過ごしています。夏はサーフィン、冬はスキーを楽しんでいます。

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■人物略歴

 ◇もりした かずき
新潟県生まれ。1992年千葉商科大学付属高校卒。ソフトウエア開発会社を経て、2002年ガンホー・オンライン・エンターテイメント最高執行責任者(COO)、04年より現職。42歳。

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2016年

3月

08日

経営者:編集長インタビュー 中村吉伸 セイコーホールディングス社長 2016年3月8日特大号

◇「スイスに並ぶ世界の高級ブランドへ」

 

── 高級時計が売れています。
中村 商品と流通、広告宣伝が三位一体となってうまく回転しています。国内市場が好調なところに、訪日外国人(インバウンド)の買い物需要が上乗せとなりました。
 当社は2012年に世界で初めてGPSソーラー時計(衛星から電波を受信して時刻を補正)、アストロンを発売しました。中心価格帯は20万~30万円で、それを機に消費者の目が高価格帯の時計に向かいました。
 流通では、グランドセイコーとクレドール、ガランテの三つの高級ブランドを扱う「セイコープレミアムウオッチサロン」を国内の百貨店や専門店に30カ所展開しています。
 広告宣伝はこれまで他社ほど投資していませんでしたが、ここ2、3年、力を入れています。
── なかでもグランドセイコーの人気は高いですね。
中村 針一本の磨きまで粋を極めた、実用時計の最高峰です。1960年の誕生から基本は変えていませんが、ようやく花開いてきました。
 14年にスイス・ジュネーブの時計グランプリで、日本の機械式時計では初めて「小さな針」部門賞を受賞しました。クオーツ時計で壊滅的な打撃を受けたスイスにとって、クオーツを開発したセイコーは許しがたい存在です。それが機械式時計で認められたのですから感動的でした。

── 携帯電話の普及で腕時計をしない人が増え、身に着ける情報端末、ウエアラブル端末も登場しました。
中村 時刻を知るだけだけなら、スマートフォンで十分です。時間を見るだけではない、プラスアルファを醸し出す時計を提供していきます。
 機械式の時計には200~300もの部品が入っていて、匠(たくみ)の技で調整すると命が入ったように動き出します。水深3000メートルでも動く気密性や正確に時間を計るストップウオッチは、実際にその機能を使うわけでなくてもワクワク、ドキドキ感があります。当社は「時代とハートを動かす」をスローガンに掲げています。精度を極めたものを身に着ける喜びを追求していきたい。
 今、若い人の半分は時計をしないそうです。それがウエアラブル端末で左手に何かを巻く習慣ができれば、いいものを着けたいという気持ちも生まれてくるでしょう。グランドセイコーは若者が買って伸びています。ウエアラブル端末は脅威だけではなく、チャンスでもあります。
── 海外展開はどうですか。
中村 海外ではまだセイコーに高級時計のイメージはありません。でも、製品や開発力ではスイスのメーカーに負けていないという自負があります。スイスのシェアを崩していきたい。海外でのブランド価値を高めようと取り組んでいます。
 実際に時計を手にとってもらうため、直営の路面店をはじめセイコー専門店を増やしています。欧州・アジアを中心に60数店舗に達しました。一昨年には米国に初出店しました。

 

◇半導体でM&Aも

 

── 電子デバイス事業の拡大は時計のイメージからすると意外です。
中村 源流は腕時計の加工組み立てにあります。時計は細かな部品から成り立っています。微細加工技術を培い、元の工作機械から作ってきました。時計が進化するにつれて生み出された水晶振動子やマイクロ電池、半導体、精密加工機械を外販するようになりました。電子デバイス事業の売り上げはホールディングス全体の3割強を占めます。たとえば水晶振動子はクオーツ時計で使われる部品ですが、いまやパソコンやカーナビなどさまざまな電子機器に欠かせません。
── 半導体を分社化しました。
中村 半導体は電子デバイス事業の主力で、安定した品質が要求される車載部品として採用される技術力があります。分社化した「エスアイアイ・セミコンダクタ」が1月に事業を開始しました。日本政策投資銀行が共同出資し、M&A(合併・買収)の可能性もあります。ずっと自前でやってきた当社としては今までにない決断です。
 今は300億円程度の売上高ですが、他社の力を借りながら、アナログ半導体で世界の5本の指に入る存在となることが目標です。将来的には上場します。
── どのように伸ばしますか。
中村 医療やエネルギー、先進運転支援システムを備えた車、介護向けをはじめとしたロボットといった需要拡大が見込まれる市場に展開していきます。これらの分野ではアナログ情報を取り込んでデジタルに変換するセンサーが使われます。当社の部品で貢献できれば幸せです。
── 時計、電子デバイスに続く第三の柱として、システムソリューションを挙げています。
中村 ソリューション事業も時計の生産管理から生まれ、外販するようになりました。タクシーの無線端末でクレジットカードを読み取り、センターで決済処理するシステムや、飲食店で注文を端末から入力し、集約するシステムを開発しています。専用端末だけでなくスマートフォンでも操作したり、電子マネーや多通貨カード決済にも対応したりとさまざまな展開があります。
── 今後の目標は。
中村 長期的な数字を口にするのは簡単ですが、半導体を分社化し、事業のポートフォリオ自体を変えています。常に時代をリードする先進性と革新性をもって、期待を超える製品やサービスを提供していきます。

(構成=黒崎亜弓・編集部)

 

◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 目覚まし時計を作りたくて入社したのに、好きではない経理で大変な思いをしていました。生意気な社員でしたから上司は扱いづらかったことでしょう。
Q 最近買ったもの
A 木彫りの招き猫をデパートで衝動買いしました。左手を上げています。右手は金運を、左手は人を招くそうです。
Q 休日の過ごし方
A 庭をいじったり、散歩をしたりしています。ほっとしますね。
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 ■人物略歴
 ◇なかむら・よしのぶ
 千葉県出身。市川学園高校卒業、1972年慶応義塾大学工学部卒業。同年精工舎(現・セイコークロック、セイコープレシジョン)入社。セイコープレシジョン取締役、セイコークロック社長などを経て、2012年から現職。66歳。

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2016年

3月

01日

経営者:編集長インタビュー 津田純嗣 安川電機社長 2016年3月1日号

 ◇産業用ロボットで世界トップを走り続ける

 

── 売上高約4000億円のうち、約21%が中国市場です。最近の中国経済減速をどう見ますか。

津田 中国には1990年代に参入し、製鉄所の大型高炉に使うドライブシステム(モーターと速度を制御するインバーターで製造工程ラインを効率的に動かす装置群)、セメントや鉱山向けのコンベヤー、素材産業の産業用ロボットなど当社の製品が多く使われています。そして、自動車、スマートフォン、半導体、太陽光パネル、液晶パネルを製造するロボットが伸びてきましたが、各分野で設備過剰になっています。市場拡大の後に過剰設備に陥る歴史が繰り返されているという認識です。

 中国市場での量の拡大は間違いなく収束していきます。これはマイナスです。ただ、設備の更新需要がこれから始まります。中国政府は自動化・ロボット化を進めており、実際にかなり速いスピードで導入が進んでいます。プラス面もマイナス面もあるのが中国市場です。

── 更新需要は、どういう産業で起きますか。

津田 特に鉄鋼は、設備が古く効率が悪いです。2015年に年間8億㌧を超えた粗鋼生産が今後、下落するとしても7億㌧の水準は続くでしょう。更新需要は大きく、むしろ安定した形になると見込んでいます。

 また、中国の経営者は、人手不足に強い危機感があります。長期的な思考で動いており、「今10万人いる工場が10年後に1万人足りなくなると、現状の生産さえ維持できなくなる」などと今の問題として考えています。だから、安川電機がこれから中国ですることは山ほどあります。

 安川電機は、産業用ロボットメーカー世界大手として、ファナック、独KクーカUKA、スイスのABBの3社と激しく競っている。安川電機のコア技術は、モーターとその制御。製品では、モーターの回転を効率よく制御し省エネに貢献する?インバーター?、半導体の基板や食品の仕分けなど位置決めの制御を精密に行う?サーボモーター、関節にサーボモーターを組み合わせた産業用ロボットなどがある。いずれも世界トップクラスの座にある。

 業績は好調だ。15年4月から12月までの業績は、売上高が前年同期比で6・6%増の3064億円、営業利益は同23・3%増の272億円と過去最高を記録している。

── 安川電機のロボットの強みは何ですか。

津田 お客様には、多数のロボットを一体で制御できるのが圧倒的に強いと言われます。あとは、ロボットが正確な軌跡を描きながら動くので、溶接やペイントの精度が高いという評価をもらっています。ウオータージェット加工(超高圧水で切断する)やレーザーなど最大で6台のロボットを制御できる技術は世界トップレベルです。

── モーターはどうですか。

津田 自画自賛にはなりますが、当然、ハードウエアの強みはあります。大きさはこの20年で10分の1になり、制御する装置も応答性や効率が格段に上がっています。また、当社はただ製品を作って売るのではなく、それぞれの産業に合った使い方を提案します。その仕事ぶりがグローバルでも認められています。

── 安川電機のモーターはどこで使われていますか。

津田 家電用は入っていませんが、産業用にはかなり入っています。例えば、立体駐車場、ビル空調の制御装置、コインランドリー、自動車などです。動くものでスピードが変わる大きなものには必ず安川電機が入っています。工場や機械にとっての「産業の米」と言ってもいいでしょう。理想の工場や理想の機械を作るのが使命ですから、我々は常に走り続けないといけません。

 

 ◇AI活用はヒト中心

 

── 新しい分野の取り組みは。

津田 太陽光発電や風力発電などの「創エネ」。蓄電池や水素などいろんな方式が議論されている「蓄エネ」。エネルギーをムダにしない「活エネ(省エネ)」の3分野に注力します。

 日本では、あと15年で1000万人くらい労働人口が減るとも言われるなか、人手がかかっている業界を強化します。特に、食品業界は人手がかかりすぎているので、ロボット化を進めていきたい。

── 人工知能(AI)の活用は。

津田 無人の自動運転のように使うことはありません。ものづくりはなぜ失敗したかを分析できないと、改善につながりません。AIに考えさせるとそれができません。最後は、人間がAIのアルゴリズム(計算方法)を検証しなければいけません。

── 25年に売上高を8700億円、営業利益率を10%以上という長期目標を掲げています。M&A(合併・買収)も選択肢でしょうか。

津田 当然、買収が必要になります。今後10年で不況が2回くらい来るでしょう。そのなかで売り上げが2000億~3000億円ほど足りません。コア技術としっかりつながっているところと一体になるM&Aで、シナジー(相乗効果)を出すというのが大前提になります。

── 3月21日付で会長職に専念します。小笠原浩新社長には何を託しますか。

津田 権限は100%渡します。ちょうど新しい中期経営計画も始まります。産業は今、AIやIoT(モノのインターネット)、インダストリー4・0などを旗印に大きく変わろうとしています。より技術系の発想ができる小笠原の方がいいと考えています。

(Interviewer 金山 隆一・本誌編集長、構成=谷口 健・編集部)

 

■横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 大阪で繊維業界を担当する営業でした。繊維業

界が作る高級フィルム系の制御はほとんど安川電機に

なりました。楽しかったです。

Q 最近買ったもの

A アコースティックギターです。

Q 休日の過ごし方

A 休日はあまりありませんが、ゴルフと読書くらいです。

 

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■人物略歴

 ◇つだ じゅんじ

福岡県生まれ。福岡県立修猷館(しゅうゆうかん)高校卒。1976年、東京工業大学工学部機械工学科を卒業後、安川電機製作所(現・安川電機)に入社。2012年6月社長に就任。13年3月会長兼社長。64歳。

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