2013年

4月

09日

ワシントンDC 2013年4月9日号

◇安全を巡って反対意見も

◇機内手荷物の規制緩和

 

堂ノ脇伸

(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 全米の空港で荷物検査を司る米国運輸保安庁(TSA)は3月5日、混雑の軽減策として機内持ち込み手荷物の規制を一部緩和する方針を発表した。米国では折しも3月1日に政府歳出の強制削減措置が発動されたばかり。空港でも当直職員が縮減され、荷物検査と入国審査の大幅遅延、それに伴う混雑悪化の可能性が懸念されていた。

 

 4月25日以降、従来持ち込み禁止とされていた刃渡り6㌢以下で刃幅1・27㌢以下の折りたたみナイフ、子供用のバット、ゴルフクラブ(2本まで)などが許可される。荷物検査にかかる時間も大幅に短縮されるという。


 2001年の9・11テロでは、ハイジャック犯がかみそりやカッターを用いたとされる。同事件を受けて米国では、機内持ち込み荷物についての規制が厳しくなった。空港でのセキュリティレベルも全体的に上がった。

 

 事件直後は聞き慣れない苗字の乗客は搭乗券にそれとなくマークが付されていたようで、筆者などは毎回別の場所で追加のボディチェックと荷物検査を受けた記憶がある。当時8歳だった筆者の娘も検査対象とされた。現場レベルでは何でもマニュアル通りの米国のシステムに苦笑しながら長蛇の列に並んだものである。


 9・11から10年以上が経過し、かみそりやカッターは引き続き持ち込み禁止とするが、TSAの方針変更には反対意見が出ている。異を唱えているのは一部航空会社と、航空保安官を擁する連邦法執行官協会、客室乗務員組合など。特にナイフの持ち込みは客室内での安全性の確保を無視するとして反対の声があがっている。


 議会でもチャールズ・シューマー上院議員(民主)やリサ・マコウスキー上院議員(共和)らが、超党派で緩和措置を見直す方向で協議を開始している。


 ◇爆発物発見を重視


 しかし、TSAはそもそも自らの警戒対象を飛行機の爆発やテロによる攻撃と限定している。小型ナイフではこれらの重大事故は起こりえないとして、方針転換はなさそうだ。米下院国土安全保障委員会の公聴会で、ピストールTSA長官は、「職員は小型ナイフを見つけることに時間を費やすよりも、さらなる危険をもたらす爆発物の発見にこそ注力すべき」と述べている。


 また、超党派の議論も合意を得られるかどうかは全く不透明だ。緩和措置を取りやめるとなれば、手荷物検査にこれまでと同様の経費と時間がかかることになり、歳出削減中の政府予算にも影響するとみられる。しかも歳出削減では民主・共和両党が真っ向から対立していた。


 機内持ち込みを禁止された物品については、乗客は預け入れ荷物に入れ直すか、放棄するなどしなければならない。放棄された物品は法により州政府への寄付と見なされ、ネット競売にかけられたり、州政府直営の不要資産販売ストアで販売されたりする。


 販売物品の中でも売り上げの上位を占めるのがまさに今回規制緩和の対象となるスイスアーミー式の折りたたみナイフ。一部の州ではあまりの数のため量り売りにかけられるそうである。ペンシルベニア州などでは04年以降、これら物品の売り上げ累計が70万㌦(約6300万円)以上に達しており、州政府の財源にも若干ながら貢献しているようだ。


 なお、蛇足ながら全米平均では1日4丁の拳銃が持ち込み荷物の検査で発見されており、これらは州政府への寄付ではなく連邦航空保安局に押収されるとのことである。