2013年

5月

14日

ワシントンDC 2013年5月14日特大号

◇コストの壁に突き当たる

◇バイオエタノールの普及

 

堂ノ脇伸

(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 世界最大のトウモロコシ輸出国である米国で、バイオエタノールを取り巻く議論が活発化している。昨夏、米国は干ばつに見舞われてトウモロコシの生産量が予想を下回り、世界的な穀物相場の高騰を招いた。トウモロコシは家畜用飼料の主原料だが、同じトウモロコシを原料とし、環境保護庁(EPA)が進める環境政策の下に年々その使用義務量が増え続けるバイオエタノールにも、非難の矛先が向けられた格好だ。

 

 米国では、1977年に大気浄化法の改正に伴い、ガソリンへのバイオエタノールの混合が認可された。オイルショックとも相まって、エネルギー政策・環境政策・余剰作物問題の観点から推奨され、実施業者には連邦税が減免されるなど政治的に後押しされてきた。


 その後2007年に再生可能燃料基準(RFS)と呼ばれる環境政策が導入され、ガソリン販売者等に、バイオエタノールの使用義務量が義務付けられた。これを受け、今やトウモロコシ生産量の4割以上が、ガソリンに混合されるバイオエタノールの製造に使われている。


 しかしここにきて、その需要量は頭打ちになりつつある。生産量が「ブレンドの壁(Blend Wall)」と呼ばれるエタノール利用の飽和点に近づいたためと言われる。米国では現在かなりの地域で「E10」と呼ばれるエタノール10%混合ガソリンが売られるようになっている。


 ◇過剰な「使用義務量」


 仮に全ての給油機がE10となれば燃料エタノールの年間使用量はおおよそ140億ガロンとなり、EPAが定めるRFS基準の使用義務量が満たされることになる。ところが実際には、経済性の問題に加え技術的にも、全ての地域と季節でE10を販売することは難しい。


 E10以外では、フレックスカーと呼ばれる適合車に対してE85(混合率85%)という規格の燃料も販売されているが、普及はいまだ限定的だ。その他、一部の車種はE15(混合率15%)の給油も許可されているが、多くのガソリンスタンド販売業者は二の足を踏んでいる。


 設備投資だけでなく、セルフ給油が主体の米国において顧客が誤って非適合車に給油してしまうリスクや、これに伴う訴訟リスクも考慮しなければならないからだ。なによりE85、E15のいずれも現行のE10よりも高コストであることが普及を阻んでいる。


 こうした状況から、事業者の多くはエタノール生産や輸入時に発行される再生可能識別番号(RIN)という売買可能なクレジットを購入する。余剰のRINを不足業者が買うこの仕組みによって、RFS基準の使用義務量を満たしている。


 この結果、今年に入り当初1ガロン=7セントだったRIN相場は、3月末には70セントと10倍に跳ね上がった。実需に対して使用義務量が多いためと指摘されている。ガソリン業界や食品業界からは、実態に即さない使用義務量等の見直しを求める声が挙がっているが、EPAは今のところ応じる姿勢をみせていない。


 一方で、使用義務量が環境面へもたらす効果にも疑問の声が上がっている。例えば、カリフォルニア州が独自に定める土地利用(森林破壊等)の効果も加味した基準に従えば、トウモロコシ由来のエタノールによる温室効果ガスの削減効果はほとんどないことになってしまう。


 このような状況の下、RFS基準は石油、自動車、食品、環境団体、農業関係者等様々な利害関係者を巻き込んで、今後政治問題化していくことが予想される。オバマ政権の対応に注目だ。