2013年

4月

30日

経営者:編集長インタビュー 花井陳雄 協和発酵キリン社長 2013年4月30日・5月7日合併号

◇独自技術でグローバル展開進める

 

 協和発酵キリンはバイオ技術を駆使して、主にがん、腎、免疫疾患の領域で新薬開発を続けている。昨年5月、自社開発の抗体医薬「ポテリジオ」を発売して注目を集めた。

── ポテリジオ発売から1年が経ちました。手応えはいかがですか。花井 この薬は成人T細胞白血病リンパ腫の治療薬で、当社が初めて製造販売を承認された抗体医薬です。臨床試験段階で50%程度の治癒実績があり、化学療法などでは効果がなかった患者さんや再発した患者さんに処方されています。年間発症者数が国内で1150人程度の小さな市場ですが、医者も患者さんも待ち望んでいた薬です。今後、白血病の類似の病気に適応を拡大すると同時に、2016年前後に欧米での販売も目指しています。

── 技術的にはどこが優れているのですか。花井 コロンブスの卵のような発見だったのですが、抗体の一部の「フコース」と呼ばれる糖鎖を取り除くことで、がん細胞を殺す効果が100倍以上に上がりました。それなのに生産コストは変わらないというところがミソです。 ポテリジェントと呼ぶこの技術の特許を取得するとともに、世界中の製薬会社にこの技術を販売しています。欧米の製薬会社も続々とこの技術を使った抗体医薬の臨床試験に入っています。販売が承認されればライセンス収入が期待できます。── そもそも抗体医薬品は他の医薬品とどこが違うのですか。花井 抗体医薬は、免疫システムである抗体を主成分とした医薬品です。がん細胞などの標的だけに作用するため、副作用が少ないという利点があります。従来の医薬品は、がん細胞の狙い撃ちができずに周辺も傷つけてしまうので、吐き気や抜け毛などの副作用が強く出ます。── 株式市場ではだいたい10年周期でバイオブームが起きますが、実際はなかなか抗体医薬品は出なかった。なぜですか。花井 抗体医薬がブームになったのは1980年代後半から90年代前半にかけてです。その頃の抗体はマウス由来のもので、マウス実験では成功するものの人に投与すると拒否反応が起きていました。そのため90年代後半にブームが去りましたが、その後も当社はしぶとく技術開発を続けてきた。マウスの抗体を人の抗体にどれだけ近づけるか、コストをどれだけ抑えられるか──を中心にです。 その後、米国のメダレックス社の抗体技術と融合させることで完全ヒト抗体を産出するマウスを生み出しました。これにより、多種多様な完全ヒト抗体をつくることが可能になりました。


 ◇海外比率50%へ


── 抗体医薬品の今後の戦略は。花井 新薬開発の一方で、11年に富士フイルムさんと合弁会社を設立してバイオシミラー事業にも参入しました。 バイオシミラーとは、抗体医薬などを含むバイオ医薬品の後発品のことです。抗体医薬品は他の薬と比べて副作用が少なく効果も高いのですが、薬価が高いのが難点です。バイオシミラーとして販売することで、効果的な薬を患者さんにリーズナブルな価格で届けることができます。患者さんの経済的負担の軽減、医療財政の赤字縮減の両面で意味がある事業だと思っています。 例えば、リウマチによく効くヒュミラは世界で6000億円の売り上げがありますが、薬価がとても高い。大腸がんなどの治療薬であるアバスチンも世界的に4000億円の市場があります。このような先行品の特許切れに合わせてバイオシミラーを投入していこうと考えています。 当社の研究開発力と富士フイルムさんの工程管理のノウハウは、バイオシミラー事業には最適な組み合わせです。── 海外はどう攻めますか。花井 現在の海外販売比率は20%弱ですが、中長期的には50%程度までに高めていきます。 これを実現するためには、ポテリジオも含め三つの新薬を欧米で販売していくことが重要です。一つはパーキンソン病治療剤です。日本で3月に承認されたので6月を目処に発売したいと考えています。米国でも早期に臨床試験と承認申請をするつもりです。これまでのパーキンソン病薬は、病気の原因となるドパミン受容体に作用する薬でしたが、この薬はドパミン受容体を抑制するアデノシン受容体に働きかけるという全く新しいメカニズムです。研究に23年もかかりました。 あと一つはくる病の薬です。骨の発育が遅れて変形する遺伝性が高い病気です。多くの患者さんでFGF23というたんぱく質が作用して体の中からリンが大量排泄されていることが確認されたため、FGF23の働きを阻害する薬を開発しました。米国で臨床試験中なので、これをぜひ承認・販売に持っていきたい。── グローバル・スペシャリティファーマを標榜しています。花井 我々はメガファーマ(巨大製薬会社)ではないので規模は求めません。有効な治療方法がないなど、まだ満たされていない医療ニーズがある、スペシャリティな分野でグローバルに活躍していきたいと考えています。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=内田誠吾・編集部)


 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 抗体医薬の研究ばかりしていました。研究して薬になるのは千に一つ。私の研究も日の目は見ませんでした……。

Q 最近買ったもの

A ヒノキでできたお椀を買いました。そばが好きなので、一つだけ良い器をと思って。

Q 休日の過ごし方

A 土曜日は結構仕事が入っていますので、日曜日はスケッチを描いていることが多いですね。万年筆と墨で1時間ぐらいで描き上げます。………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇はない・のぶお

 1976年東京大学薬学部卒業、協和発酵工業(現協和発酵キリン)入社。研究畑を歩み06年執行役員。08年キリンファーマとの合併に伴い協和発酵キリン執行役員開発本部長。09年取締役、10年同専務執行役員を経て12年3月より現職。59歳。