2013年

4月

09日

特集:噴き上がる日銀バブル 2013年4月9日号

◇大胆緩和マネーが国債、株、不動産へ

 

濱條元保

(編集部)

 

「一度、やると決めたらとことんやる男。決して妥協はしない」


 大蔵省(現財務省)入省試験の面接官として黒田東彦(はるひこ)・日銀総裁と相対し、自身の卒論をテーマに議論を戦わせた元財務官僚の小幡績・慶応大学大学院准教授は、新総裁をこう評する。
 元財務官僚の伊藤篤BNPパリバ証券チーフ円債ストラテジストは2000年8月、速水優・日銀総裁(当時)が政府の反対を押し切ってゼロ金利を解除した直後、黒田氏が部下たちのいる部屋に飛び込んできて、「日銀はいつになったら金融緩和をするんだ」と居並ぶ幹部にぶちまけた姿を鮮明に覚えているという。
 15年間にわたりデフレに沈む日本経済を2年間で物価上昇率2%にまで引き上げるというコミットメント(公約)を掲げて、黒田氏がリフレ派経済学者の代表格、岩田規久男前学習院大学教授(副総裁)とともに日銀に乗り込んだ。デフレファイターとしての期待は高まるばかりだ。

 ◇期待インフレ率が急上昇

「質と量の両面から大胆な金融緩和を進める」
 3月21日午後6時からの就任会見で、黒田総裁がこう宣言すると、市場は敏感に反応した。翌22日、市場が推測する期待インフレ率を示すブレーク・イーブン・インフレ率が急上昇(図1)。
 その一方で、長期金利の指標となる10年国債利回りは低下を続け、3月27日時点で0・515%と03年6月の史上最低の0・433%に急接近している。黒田日銀による強力な金融緩和姿勢を受けて為替市場は1ドル=95円前後で推移し、日経平均株価は1万2493円台にまで上昇。株高と低金利が共存する政府にとって非常に都合のいい環境となっている(18ページ図2)。
 黒田日銀は、いかにして2年で物価目標2%を達成するのか。市場関係者の間では、一定の期待値を込めた基準ができつつある。
 JPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストは4月3、4日に開催される総裁就任後初の金融政策決定会合で、次の3点が最低ラインという。
 (1)白川方明(まさあき)前総裁時代に包括緩和(金融緩和)のために作った「資産買い入れ基金」と、通常の資金供給のために金融機関から国債を買い取る「国債買い切りオペ(輪番オペ)」の統合。(2)14年1月から実施する予定の無期限の資産買い入れを13年5月か6月からに前倒しする。(3)統合した「新基金」の資産純増額を、現状の月額3・2兆円程度から4兆円以上に増額する。

 ◇国債の日銀シェアは6割へ

 日銀は、政府の財政赤字のファイナンス(穴埋め)とならないよう国債の買い入れに制限を設け、長期国債の保有残高が、日銀が発行する紙幣(銀行券)の残高を超えないようにする「銀行券ルール」を定めている。ただし、これは通常の国債の買い入れについてであり、「資産買い入れ基金」は対象外。今回、(1)の統合が実現すると、両者の区別はなくなり、銀行券ルールは事実上取り払われる。日銀の資金供給の歯止めはなくなるわけだ。
「これらに加えて上場投資信託(ETF)などの購入の増額が表明されれば、市場にとってはポジティブサプライズだ」(菅野氏)
 黒田日銀の強力な金融緩和が、実体経済に波及して脱デフレを経て景気回復というシナリオが19ページの図3だ。国債だけでなく、ETFやJ-REIT(不動産投資信託)などリスク性資産を日銀が買い入れることで、物価上昇期待が国民の間に醸成され、実際に物価が上がり始める。
 すると消費や企業の設備投資が伸びる一方で、金融緩和に伴う円安で輸出が拡大し、製造業を中心に企業業績が改善、賃金が上昇すれば、さらに消費が伸びるという好循環が生まれる。
 しかし、これらの政策を日銀が採っても、「2年後の物価目標2%達成は困難」との見方もある。
 クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは、14年4月に消費税が5%から8%へ引き上げられることを前提に、「2%達成は消費増税の影響を除いて考えるべきだ。増税分を加えると上昇率は4%近く必要になる」と指摘。「そのためには、賃金はもちろん家賃をはじめサービス料金など幅広い分野で価格が上がらなければならない。今想定されている日銀の政策では難しいだろう」。
 国民から「日銀は常軌を逸している」と思われるぐらいに、マネーを供給し続けない限り、2%の物価目標の達成は厳しいということだ。

 ◇「中央銀行には、逆らうな」

 では、日銀の本気度はどうか。
 黒田総裁は、これまでにない大胆な買い入れを模索している。BNPパリバ証券の伊藤氏によると、12年度の2年債超の国債発行額に対する日銀の買い入れシェアは4割だが、13年度は6割に達する可能性があると予想する。金額にして実に70兆円を超える水準だ。国内総生産の約15%にも達する凄まじい規模である。
 買い入れる国債の中身も変わる。 白川前総裁時代の基金は、償還までの期間が3年以内の国債に限っていたが、輪番オペを統合した新基金では償還までの期間がより長い、10年、20年、30年という超長期の国債を買い入れるだろう。年限の長い国債を買って長期金利の上昇を抑え、政府の利払い費を抑制しながら、投資しやすい環境を整えるつもりだ。
「中央銀行には、逆らうな」
 買い向かってくる日銀に対して、金融機関の運用担当者は将来の国債価格の下落リスクを感じながらも、買い進むしかない。日銀は、国債と資産バブル作りに邁進している。