2013年

5月

21日

経営者:編集長インタビュー 岩本太郎 大塚製薬社長 2013年5月21日号

◇失敗を恐れず挑戦するビッグベンチャー

 大塚製薬は大塚ホールディングスの連結売上高の8割を叩き出すグループ中核企業。収益を支えるのは、同社が開発した統合失調症などの抗精神病薬「エビリファイ」。2011年度に世界医薬品別売り上げトップ10に入り、12年度の売上高は約4000億円を見込む。

 

── エビリファイが成長した理由は。
岩本 副作用が少なく、安全性が高く、毎日飲み続けられるという世界初の抗精神病薬であることが、広く受け入れられた理由です。再発を避けられれば、患者さんが社会復帰できる可能性が高まる。よく効いても副作用が強く、継続的に使用できない薬では満たすことができなかった患者さんや医師、家族のニーズに応えることができました。
 さらに、米国での開発・販売の提携先である米ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社と、対等な関係の中で互いに率直に意見を出し合ったことも米国市場での成功につながりました。

 ◇患者の課題を発見、解決

── 患者のニーズはどうやって把握したのですか。
岩本 マーケット調査で顧客にニーズを尋ねれば、とかく「もっと安く」「もっと小さく」「もっと使いやすく」という三つの要望になりがちです。入院している患者さんに会い、解消されていない課題をこちらで発見して真のニーズを把握しました。
 34歳で大塚製薬に入社したときに、当時社長だった大塚明彦会長から「うちの会社はマーケティング部門は作らない」と聞かされました。随分と野蛮な会社に入ったものだと思いましたが、後に気づきました。マーケティングだけの担当者は、商品の育成を考えた戦略は立てられない。社長になり、マーケティング部門がないからこそ自由に選択できるということを実感しています。

 外資系製薬会社の米国中央研究所で研究員をしていた岩本社長は、1994年、同研究所を視察した大塚会長にスカウトされて大塚製薬に入社。米国で臨床試験中だったエビリファイを世界70カ国以上の承認薬に育て上げた。同薬1剤で大塚HDの12年度売上高の約3割を占める。

── 02年の米国発売以来、売り上げは右肩上がりです。
岩本 最初は米国で統合失調症治療薬として発売しました。高い安全性が評価されたことで、小児の中枢神経系疾患にも使ってもらえるはずだと考え、適応症の拡大に取り組みました。
── 最初から売れるという手応えがあった?
岩本 当初の業界内の評判は「売り上げは最大でも50億円」でした。世界の大手製薬会社7社が競合する中枢性疾患薬の市場に、日本の四国発の小さな大塚製薬が参入しても売れるわけないと見られていました。ですが、当社は「そんなのうまくいくわけない」と言われることに挑戦するのを好む会社です。「ヒット間違いない」と言われるものは二番煎じか三番煎じで、そこに大きな成功はありません。我々は常にビッグベンチャーであることを目指しています。
── エビリファイの米国での特許は15年に切れます。その後の戦略は。
岩本 会社が提案する価値と顧客の満足が一致するイノベーションを最も大切に考えています。特許切れが待っているからといってこの哲学を捨て、売り上げを追いかけることはしません。エビリファイが売り上げを伸ばし、全処方箋薬で米国で一番売れている薬(12年)に成長したことからも、失敗を恐れず、もの真似をせずに挑戦し続ける大塚の企業文化は正しかったことを意味しています。
 もちろん様々な手も打っています。デンマークのルンドベック社(中堅製薬会社)との業務提携を拡大するなど、国内外の多くの会社との水平アライアンスで会社を成長させようとしています。
 たとえばルンドベック社とは、月1回の注射で効果が持続するエビリファイの新しい形の薬を開発しました。飲み忘れによる再発防止に大きく貢献するでしょう。また、アルツハイマー病の治療薬の共同開発も進めています。
 再発防止という観点では、IT(情報通信技術)の利用も進めています。錠剤に埋め込んだマイクロチップが胃液に触れると電波を発し、医師が服薬時刻や薬の飲み忘れを把握できる仕組みです。

 ◇消費者向け事業で学ぶ

── 成長する医薬事業に対して、ポカリスエットやカロリーメイトなどの消費者向け事業は、売り上げ、利益ともに頭打ちです。
岩本 病気を抱えている人を健康に。これが医薬の目標です。健康な人をより健康に、それが消費者向け事業の目標です。アナリストからは「事業の選択と集中をした方がよい」と指摘されますが、全くそうは思いません。消費者向け事業で培われた「満たされない課題を探して、解決するための商品を提供する」という姿勢を医薬事業に生かすことができるからです。
 医薬との両軸で健康を管理する。健康についてのトータルソリューションを提供していきます。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=望月麻紀・編集部)

 ◇横顔

Q 30代はどんなビジネスマンでしたか
A 米国の会社から大塚製薬に転職しました。研究者以外でも自分が果たせる役割はあると実感したころです。
Q 最近買ったもの
A iPadミニ2台とサムスン電子のスマートフォン。紙のノートを使うのをやめて、片方のiPadをノート代わりに、もう片方を情報収集のスクリーンとして使っています。
Q 休日の過ごし方
A フィットネスジムで倒れそうになるまで体を動かし、シャワーを浴びて食事をする。これが一番のリラクゼーションです。
………………………………………………………………………………………………………
 ■人物略歴
 ◇いわもと・たろう
 静岡県出身。1983年静岡大学農学部卒業。92年岐阜薬科大学で博士号取得後、米国製薬会社勤務。94年大塚製薬入社。在米の初期臨床研究所長や米国法人の最高経営責任者などを経て2008年6月より現職。52歳。