2013年

5月

28日

ワシントンDC 2013年5月28日特大号

予測不能のサイバー攻撃は大量破壊兵器に並ぶ「脅威」

 

須内康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 米国政府のクラッパー国家情報長官は3月、「世界の脅威に関する評価報告書」を議会に提出した。米国の情報機関が世界の脅威を網羅的に分析したもので、連邦政府において情報機関を統括する国家情報長官が毎年米議会に出している。報告書提出を受け、3月と4月にわたり、上院・下院のそれぞれで公聴会が開かれた。

 今年の報告書は、冒頭でサイバー攻撃に関する脅威を取り上げ、目下の最重要課題としている点が大きな特徴だ。オバマ大統領は今年の一般教書演説で同攻撃の脅威に言及し、演説の同日(2月12日)には重要インフラのサイバーセキュリティー強化に関する大統領令に署名した。報告書はオバマ政権の問題意識を表した格好だ。同じ2月には、米情報セキュリティー会社であるマンディアントが企業などへのサイバー攻撃に関する報告書を発表、中国の関与が取り沙汰されて注目を集めた。
 報告書は、情報通信技術の発展と普及により、米国が予測不能なサイバーリスクに直面していると指摘。今後2年間のうちに、米国の重要なインフラシステムに長期かつ広範囲に障害が及ぶようなサイバー攻撃発生の可能性がわずかながら存在するとしている。また、攻撃者が高度な技術を有していなくても、攻撃対象が連結する他のネットワークシステムに影響が及び、大きな被害を引き起こす可能性があると警告している。
 公聴会でも、この点について多くの質疑が出され、議員の関心の高さがうかがえた。「大量破壊兵器と並んでサイバー攻撃が最も深刻な問題との認識か」との問いかけも見られ、ミュラーFBI(連邦捜査局)長官がこれに同意したうえでテロ集団によるサイバー攻撃の脅威に言及するなど、危機意識の高さを裏付けている。

 ◇米国単独での対応は限界

 テロリズムや大量破壊兵器による脅威も、報告書では「主要な脅威」として挙げられている。
 テロリズムについては、国際的な「ジハード(聖戦)運動」が次第に分散化しつつあるとし、派生グループや個々のテロ集団による攻撃の脅威を指摘。大量破壊兵器に関しては、イランと北朝鮮の核開発、シリアにおける化学兵器開発を大きな脅威として挙げた。実際、内戦が続くシリアでは、アサド政権が化学兵器を使用した可能性が高まっている。
 また、水や食料を含む資源の獲得競争や供給不足が各国・地域の政治体制の不安定性や緊張をもたらすリスク要因になると分析しているのも新しい傾向だ。公聴会における証言で、クラッパー国家情報長官は、「今回の報告書は現在の世界とその脅威がいかに劇的に変化しているかを示しており、さらに脅威が相互に連関している」と指摘した。
 世界の脅威となる事象の変化が早くなり、複雑化する一方で、米国内では情報機関の活動に対して財政事情が影を落とす。政府歳出の強制削減措置により情報機関の予算も削減を余儀なくされているのが実情だ。多極化の時代を迎える中で、複雑化するリスク事象に米国単独で対応するには限界があるともいえる。
 米国の国家情報会議は、昨年12月に公表した「グローバル・トレンド2030・未来の姿」において、2030年における世界の姿として4つの異なるシナリオを描いた。その中で「最も良好な状況」として、米・中を中心に地球規模の課題に協同して取り組む「連携」の姿を提示している。世界の脅威への対処においては、今まさにこの時から主要国の連携が求められている。