2013年

6月

04日

経営者:編集長インタビュー 松井道夫 松井証券社長 2013年6月4日号

◇ネット証券のビジネスモデルをぶっ壊す

 

 1918年創業の老舗証券会社ながら、99年の株式売買委託手数料自由化に伴い、支店、営業職員を廃止してインターネット取引に集中したネット証券の先駆者。今年1月からは、手数料および金利を原則としてゼロにするデイトレード限定の信用取引サービスを始めた。

 

── 今の相場をどうみていますか。
松井 87年から証券界にいますが、一番大きな相場は90年のバブル崩壊です。これに匹敵するものはまだ起きていない。その後ITバブル(2000年前後)と小泉郵政改革(05~06年)があった。今回はこの二つに匹敵する相場だと思います。安倍政権が第三の矢の成長戦略を本気でやる覚悟があれば、大相場になっていくでしょう。
── 売買金額が膨らんでいます。
松井 指標とされる東証1部の売買代金は、昨年11月はいいときでも1・5兆円。それが現在は4兆円を超え、約3倍に膨らんでいます。当社の4月は11月比で約6倍です。売買代金が増えたのは、まずは今まで損していた投資家が、上昇相場で損を取り戻して「やれやれ」と売ったため。その後も相場上昇が続き、株式投資に慣れ親しんだ60歳以上の投資家が積極的に信用取引をしている。今年1月に信用取引の規制緩和があり、同じ担保を使って1日に何度も売買ができるようになった影響も大きいです。

 

 ◇手数料、金利ゼロの意味

 

── 一部の信用取引で手数料、金利ともにゼロ。これで儲かりますか。
松井 全ての信用取引でゼロにしたわけではないので十分利益は出ています。それに、これは戦略的にやっていることですから。
 99年の自由化以降、手数料が劇的に下がったのは投資家にとって良かったのですが、今では価格競争の次元を超えて安くなりすぎています。システム投資などで質を高める努力をしないで、量をこなして儲けようとする。その結果、会社によってはシステムダウンを起こして顧客に迷惑をかける。安さだけをウリにした商売をしていると、結局投資家のためになりません。私が創り上げたネット証券ビジネスですが、終焉を迎えていると思っています。
── ということは、手数料、金利ゼロは今の業界へのアンチテーゼ?
松井 当社は他社と比較して手数料が高かったので、少しでも安い手数料を求めるデイトレーダーを他社に奪われてしまった。だから「ゼロ、ゼロ」にして取り戻しています。また取り戻したければ、他社もゼロにすればいい。
 価格競争だけでお客を囲い込もうとする会社を「ゼロ、ゼロ」で振るい落としてしまえば、今後はつまらない競争を続けなくてすみます。
── では松井証券はこれからどこで稼ぎますか。
松井 経営の多角化は否定しています。一番得意とする所に太い柱を立てるのが経営の基本です。株式取引を中心に、関連するデリバティブなどをしっかりやる。
 FX(外国為替証拠金取引)も手掛けていますが、収益構造でいうと、株式関連が9割以上を占めます。そのうち売買手数料と金利収入の割合は前期では2対1です。ただ前期末2500億円の信用取引残高が過去のピークである6000億円程度になったら、金利収入は手数料収入に匹敵する規模になります。今後の経営において金利ビジネスの存在感はますます大きくなっていきます。
── 「営業や支店を率先してやめた。次にやめるのは株式売買の取り次ぎ業務ではないか」と別のところで発言している。これが次のイノベーションですか。
松井 あれはやや極端な言い方でしたが、情報技術が発達して売り買いの決済が即時にできれば、我々のような取次業者はいらなくなるかもしれない。そういう将来も描きながら、イノベーションを考えています。イノベーションとは、極めて専門性が高く、周到な準備が必要です。経営者として、どのタイミングでどういう手を打っていくか。日々考えています。そのための軍資金として自己資本800億円を積み上げているのが当社の強みです。
── 日本版ISAについてはどう見ていますか。
松井 株式等の売却益や配当金には10%の軽減税率が適用されていますが、これが年末で終了して来年からは預金金利と同じ20%になる。その代わりに導入される制度ですが、効果は未知数です。短期的には年末にかけて20%課税を嫌う個人の売りが出るかもしれません。それを飲み込むほど相場が好調であればいいですね。
── すでに社長業18年です。長期政権は続きますか。
松井 思い描いているイノベーションを実行すれば、結果は1~2年で出てくるはずです。その結果、コストしか差別化要因がないようなネット証券業は潰して新しいビジネスを構築する。それが成功するまでは辞めません。
── 99年の手数料自由化以上の変化が起きますか。
松井 あれ以上の変化をもたらしたいですね。あの時は義父が築いたものの否定だったので楽でした。今度は自分が築いたものの否定になります。思い入れもあるので勇気がいりますが、絶対、やり遂げます。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=富田頌子・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 35歳で松井証券に入社しました。仕事オンリーの生活で、寝ても覚めてもずっと会社にいましたが、楽しかったです。
Q 最近買ったもの
A お金はあまり使いませんね。お昼ご飯も野菜ジュース1本で済ませます。仙人のような生活ですが、美大に入って、日本画を勉強している娘と絵の具を買いに行ったりしています。
Q 休日の過ごし方
A 油絵が趣味なので、娘と一緒に絵を描くこともあります。
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 ■人物略歴
 ◇まつい・みちお
 長野県出身。1976年一橋大学経済学部卒業後、日本郵船入社。87年妻の父が社長を務める松井証券入社。90年常務取締役などを経て、95年から現職。60歳。