2013年

6月

11日

特集:景気の壁 2013年6月11日号

◇市場の変調が突きつける「アベノミクス」の試練

緒方欽一
(編集部)

 市場が不安定化している。5月23日は大荒れとなった。債券市場では長期金利が一時、1・0%まで急騰(国債価格は急落)。日経平均株価は一時1万6000円に近づいた後に一転、一日で1143円急落し歴代10位の下落率となった。株価は30日、今年2番目の下げ幅となる前日終値比737円安をつけ、1万3600円台を割り、ほぼ1カ月前の水準に戻した。インフレ期待に働き掛ける安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の推進力は失速寸前だ。

 アベノミクスはデフレ脱却と経済成長を図るため、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、成長戦略を「三本の矢」とする。特に、日銀による「量的・質的金融緩和」は、円安・株高と同時に長期金利の低位安定化で、個人消費、企業の設備投資、輸出を増加させる狙いがある。
 経済が活性化すれば、日本経済全体の需要と供給の差を示す需給ギャップが縮まり、2%の物価上昇目標が達成できるという公算だ。低迷する欧州、減速している中国や新興国に代わる世界経済のエンジンとして、アベノミクスへの期待は高い。経済協力開発機構(OECD)は5月29日、2013年の日本の実質成長率を前回見通し比0・9ポイント高の1・6%に修正したばかりだ。しかし、市場の変調は、このシナリオを揺るがしかねない事態である。
 変調が一時的なもので済むならいいが懸念はくすぶる。特に債券市場が問題で、ある機関投資家の役員は、「日銀とマーケットにはもはや信頼関係はない。『国債を買わなくていい』と言っている中央銀行は信用できない」と辛辣だ。

 ◇債券市場の「日銀不信」

 日銀は4月から政府が市場で発行する国債の約7割を購入している。あまりにも巨大な「買い手」は、銀行や保険会社が取引できる国債の量を大幅に奪い、いったん売りが出ると国債価格は下がりやすい(金利は上昇しやすい)不安定な状況を作った。
 先の役員はこう指摘する。多額の借金を抱える日本が債務危機に陥らないのは、財政規律を守ろうという政府の姿勢と、国内機関投資家を中心とするマーケットとの信頼関係だった。ところが日銀が率先して市場の機能を低下させ、金融システムを直撃する国債価格の下落も度外視している。それなら身を守るしかない――。日銀は異次元緩和と同時に投資家の国債離れを一時的なものとできるか。
 一方、株価下落はより深刻だ。株安・円高に再び戻れば、アベノミクスが描く好循環の流れを断ち切ってしまう。もとより、円安が進んでも、海外生産比率を高めた国内企業が輸出増につなげるには一段の景気の加速が必要だ。
 実際、円安効果で輸出数量が増えているわけでもない。財務省の貿易統計をみると、4月の輸出金額は5兆7774億円と2カ月連続の増加となった半面、数量はマイナス5・3%と11カ月連続で減少が続いている。企業の設備投資も13年1~3月期GDP統計で、5四半期連続の前期比マイナスとなった。
 景況感は上向いたものの、期待先行で終わるなら、薄明かりが見え始めた景気も再び停滞しかねない。これまでは順風だったアベノミクス。この先は本格的な景気回復に向けた試練が待ち構えている。