2013年

6月

11日

経営者:編集長インタビュー 高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO 2013年6月11日号

◇徹底したマーケティングで商品ブランド育成

 ネスレ日本は、スイスに本社を置く世界最大の総合食品飲料企業「ネスレ」の日本法人で、今年100周年を迎えた。チョコレート「キットカット」、インスタントコーヒー「ネスカフェ」、キャットフード「フリスキー」などの商品群を展開。2012年の売上高は前年比2・3%増、営業利益も同25%増と、業績は拡大を続けている。

── 成長の秘訣は何ですか。
高岡 当社は企業ブランドより商品ブランド育成に力を入れ、ネスレという会社より、商品が印象に残ることを重視しています。
 例えば、お客様にチョコレート菓子の商品名を聞くと、すぐ出てくるのは3~4種類までです。その中に「キットカット」など当社の商品名をどれだけ入れてもらえるか。常にマーケティング作業を最重視し、カテゴリーの中でシェアトップになるブランド育成に数十年かけて取り組んできました。マーケティングの会社と言われるゆえんです。
── キットカットのブランドはどのように構築してきましたか。
高岡 本物のブランドになるには、物質的な特徴だけでなく、精神的な特徴やイメージも必要です。キットカットは、おいしいウエハースチョコというだけでなく、「きっと勝つ」の語呂合わせで縁起も良いという、ブランドに付随する精神的なメリットが支持されています。その結果、チョコレートでシェア1位です。
── 受験生応援キャンペーンが成功しましたね。
高岡 日本に合ったイメージを作りたいと考えていた02年頃、九州を中心に「きっと勝つとぉ」の語呂合わせが広がっていることを知りました。お客さんが作ってくれた語呂合わせなので、私たちはそれをあえて宣伝しないというルールを作り、受験生の応援活動を地道に行うことで、支持を得ていきました。頭の中にキットカットというブランド名があったから実現したことです。
── コーヒーマシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」もヒット作ですね。
高岡 インスタントコーヒーをマシンにセットし、ボタンを押せばカプチーノなど5種類のコーヒーを作れるものです。09年4月の発売以来約4年、今年4月には販売台数が140万台を突破しました。
 お湯を入れてスプーンで混ぜるだけで飲めるネスカフェのインスタントコーヒーは、高度経済成長期の1960~70年代に急成長しました。ですが私自身、自分が飲むコーヒーではないと思い10年ぐらい飲んでませんでしたし、ネスカフェのギフトを贈ったこともなかった。
 でもヨーロッパでは、一流ホテルでもネスカフェを出していて、マシンで圧力をかけて抽出するので香りも良く、インスタントに思えません。このマシンを家庭用に小型化できないかと考え、スイスの本社に提案して一緒に開発しました。
 マシンの価格は日本で設定しました。発売当初は1万3000円程度でしたが、採算ギリギリの7980円まで下げたところ、ヒットにつながった。マシンでもうけるのはやめて、コーヒーの専用カートリッジでもうければいいと方針転換しました。
 オフィスに無料でバリスタを提供し、社員の方に管理をお任せする「ネスカフェ アンバサダー」も広がっています。これは日本独自のビジネスモデルです。オフィスに置かれたマシンでコーヒーを飲んで正直に20円とか払う国ってそうはありません。昨年11月の募集開始以来半年でアンバサダーは5万人を突破しました。
── コーヒーマシンには「ネスカフェ ドルチェ グスト」もあります。
高岡 こちらは1杯抽出型のカプセル式で、コーヒー以外にも宇治抹茶ラテなど、様々な種類を楽しめます。日本は人口が減り、高齢化で胃袋のサイズも小さくなる一方、世帯数は増え1~2人世帯が6割、東京は8割を占めます。バリスタも同様ですが、従来のようにコーヒーを一度に何杯分も作る必要がないので、ボタン一つで1杯分ずつ作るスタイルの方が合っていると思います。人口減少によって起きる消費の変化をチャンスと捉えています。

 ◇利益率10%未満は撤退

── ネスレの営業利益率は全世界で15%、日本ではそれ以上あります。高い利益率を維持する秘訣は。
高岡 3年を一つの目安に、利益率10%未満の商品は撤退するルールを作っています。利益に対する考え方はグローバル企業は総じてシビアで、もうからない商品は作らない。もうかるには、セグメントでシェア1位になることです。
 チョコレートは毎年、約2000種類の新商品が発売されます。メーカーが工場稼働率を維持するためです。しかし翌年にはその98~99%が消える。一方、キットカットのライン稼働率は80%で、売れすぎると生産が追いつかない。このギリギリを維持できているから利益率を高くできるのです。
── 売上高に占める新製品比率を目標に掲げる会社も多い。
高岡 ナンセンスですね。当社ではキットカットのバリエーションを増やすことは試しますが、新商品はできるだけ絞ります。強いブランドに集中するためです。キットカットをさらに広く売るためのアイデアがご当地限定のお土産でした。希少価値があるので買ってもらえ、かつ値崩れしない。利益率の高い企業は、新商品には頼りません。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=富田頌子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 乳幼児向け粉ミルクのビジネスを日本で一から始めることになり、30歳でそのプロジェクトチームのリーダーを任されました。この経験が今のリーダーシップの元となったと思います。
Q 最近買ったもの
A ランバンのジャケットとスーツです。昨年、政治・経済部門でベストドレッサー賞をいただいてから、おしゃれに一層気を配るようになりました(笑)。
Q 休日の過ごし方
A 生活に花がないとだめなので、ガーデニングをして過ごします。
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 ■人物略歴
 ◇たかおか・こうぞう
 1983年神戸大学経営学部卒業後、ネスレ日本入社。2005年ネスレコンフェクショナリー社長、10年1月ネスレ日本副社長飲料事業本部長などを経て、同年11月から現職。53歳。