2013年

6月

18日

ワシントンDC 2013年6月18日特大号

◇オバマ大統領が示した新たな対テロ戦略の重要性


今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)


 政治家の歴史に残る名演説には、時を経てその価値が理解されるものがある。5月23日にオバマ大統領がワシントンの国防大学で行った対テロ戦略についての演説も、その可能性がある。

 オバマ政権1期目の対テロ戦略は、米軍のアフガニスタンとイラクからの撤収の進展、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン殺害という成果を上げたが、2期目に際して方針転換を求める声が強まっていた。保守派は、弱腰のテロ対策がアルカイダ関連組織の拡散を助長したと非難。リベラル派は、キューバ・グアンタナモ基地にあるテロ容疑者収容施設の閉鎖が実現していないことや、オバマ政権になって無人機攻撃の犠牲者が増えたことなど、ブッシュ前政権からの方針転換が不十分との不満を示していた。

 オバマ大統領は演説の中で、二つの現状分析を示すことで、根拠なき批判を明確に否定した。一つは、アルカイダ自体の攻撃力は大幅に低下していることである。無人機攻撃が多数のアルカイダ幹部殺害という目的で成果を上げていることを示し、中核組織の弱体化で2001年9月の同時多発テロのような大規模攻撃は不可能と強調した。この評価はおそらく正しい。米国内では同時多発テロ以降、大規模テロは発生していないし、アルカイダ関連組織も現在の警戒網を破れていない。

 もう一つは、今年4月に発生したボストン爆弾テロ事件のように米国育ちの国内過激派が新たなテロの脅威になっていることである。オバマ大統領はそうした事実を指摘した上で、最近のテロの脅威が国内過激派に戻ってきている可能性も語った。

 ◇対テロ戦争は終わらせる

「米国は岐路に立っている。今の戦争は、14年末のアフガニスタン政府への治安権限の委譲で終結させる。永遠の戦争などないことは、我々の歴史が教えることだ」と大統領は強調した。さらに、グアンタナモ収容施設の閉鎖を改めて主張し、愛国者法など戦時体制を支えてきた法律を修正、最終的に廃止することも求めた。

 テロとの戦争は終結しても、テロ組織の解体を目指す組織的な努力は続ける。そう語るオバマ大統領が、その手段として正当性を主張したのが無人機攻撃である。犠牲の多さも認めたうえで、今後の無人機使用は、切迫した脅威があり、かつ拘束手段がないものを対象とし、市民の犠牲がないことが確実な場合に限るなど基準の厳格化にも踏み込んだ。

 共和党などはテロの脅威を過小評価していると反発を示しているが、そこには対テロ戦争のコストの大きさとメリットの少なさ、新たな脅威への意識がない。リベラル派の無人機攻撃への批判も、代案を示せない現状では説得力がない。グアンタナモ収容施設の閉鎖の明確な時期を示していないとの批判もあるが、オバマ大統領の戦略が、対テロ戦争終結後の通常の法執行体制への移行期間を対象としている以上、それは困難である。

 オバマ大統領は演説の中で、テロへの恐怖ではなく、米国が歴史から苦労して手に入れた英知に基づく判断をすべきであり、それは現在の米国が直面する脅威を理解することから始まると語っている。

 新たな対テロ戦略の核心は、アルカイダ関連組織や国内過激派という現在の脅威の理解に基づき、同時多発テロに対する恐怖と怒りから始まった対テロ戦争の終結という判断であろう。

 新たな対テロ戦略が着実に実行されていくなら、オバマ大統領の演説は、同時多発テロ以来最も重要な対テロ戦略を語った歴史的な演説として、人々の記憶に残るだろう。