2013年

6月

18日

経営者:編集長インタビュー 永井浩二 野村ホールディングスグループCEO 2013年6月18日特大号

◇大相場でも「顧客第一」で組織引き締め

 

 増資インサイダー事件で前任者が辞任し、急きょ登板したのが昨年8月。トップ交代会見で「根底から会社を作り替えたい」と誓った。

── 組織の引き締めが必要な時に大相場到来。社内の空気が緩むおそれもある。ジレンマはないですか。
永井 それが今一番の悩み。2016年3月期に税引き前利益2500億円、1株利益50円、預かり資産100兆円の目標を掲げています。これはマーケット環境が良い方が達成しやすい。実際、13年3月期の税引き前利益は2377億円でした。一方で、グローバルに選択と集中を進めて10億ドル(約1000億円)のコストカットを図り、国内リテール(個人客向け)の営業スタイルを顧客第一に変えるよう指示しています。市場環境が良いと、この目標は「本当にやるのか」と思いがち。そこを引き締めるのが私の今の仕事です。
── 10億ドルのコストカットはどの部門で?
永井 部門ごとにいくらとは公表していませんが、日本を除く海外でビジネスを絞ります。代表例は電子取引システムの集約。当社とインスティネット(07年に買収した米国企業)の2系統ありましたが、欧州と米国はインスティネットに一本化しました。投資銀行業務も今までは欧州、米国ともにほぼ全分野をカバーしてきましたが、当社の強みがある分野に絞りました。強化したのは、ファンド系や金融機関への対応、小売り・消費財セクター、資源セクターなどです。欧州では工業、米国では医療関連のセクターも強化しています。


 ◇欧州減らし、アジアに再配分


── リーマン・ブラザーズとの統合効果が出ていないようですが、欧州、米国での戦略は。
永井 欧州と米国の経営資源の比重を見直す必要があります。伝統的には英・ロンドンと米・ニューヨークに投入する資源は同じでしたが、06~07年の住宅ローン担保証券関連の損失でニューヨークを絞った。さらに破綻したリーマン・ブラザーズの欧州・アジア部門を買収したため、欧州の比重が大きくなり、いびつになっていました。その欧州が債務危機でしんどくなった。欧州危機は構造的な問題なので、回復にはかなりの時間がかかる。欧州の資源は米国、アジアに再配分していきます。
 投資銀行ビジネスの手数料総額では、米国が5割強、欧州が3割弱、日本は4%。やはり米国の存在は大きい。

── その米国での展開は。
永井 フルサービスの投資銀行にはなれないと思っています。そこで、日本の顧客のニーズに応える部分と、機関投資家向けの債券売買を手がけるフィクスト・インカム部門を強化する。米国は大きくオープンなマーケットなので、ビジネスチャンスはあります。
── アジアはどこで稼ぎますか。
永井 アジアではまだ簡単には稼げません。金融危機後、欧米のライバルがみな母国の市場に帰ったので競争は楽になりましたが、資本市場のインフラは脆弱で、市場規模はまだ小さい。ただ、今後成長するのは間違いありません。無視できないマーケットです。当社は日本で個人と法人の両輪でフルサービスを展開して成功してきました。このビジネスモデルに近い形をアジアでも展開していこうと考えています。
── すでに成功例はありますか。
永井 タイが成功例の一つです。38%出資しているキャピタル・ノムラ・セキュリティーズがバンコク市内に二十数店舗構え、個人向け営業も行っています。安定的な販売チャネルがあれば、株式の引受業務もできます。そういう例がいくつか出てきている。1人当たりGDP(国内総生産)が5000ドルを超えると個人消費が伸びると言いますが、金融機関は1万ドルぐらいにならないとビジネスになりません。それまでは投資するしかない。アジア戦略室を4月に新設しました。
── 目指すはアジアナンバーワンですか。
永井 そうですね。アジアでは最強プレーヤーになろうと考えています。これから世界的に金融規制が厳しくなります。欧州系が得意だった自己資本に高いレバレッジ(てこ)をかけて投資することはできなくなる。我々はそこは得意ではありませんでしたが、顧客対応は得意。欧米のライバルに対して優位に立てます。


 ◇ISAは実力試す試金石


── インサイダー事件以降の主幹事離れは戻りましたか。
永井 昨年の第3四半期までは影響はありましたが、その後は回復しているようです。
── 銀行系証券会社が強くなってきた日本の法人営業分野でどう戦いますか。
永井 もう必死です。銀行系証券は系列を生かした営業ができる。ただ、独立系であることは強みでもあります。しんどいけれど現場で頑張れば、系列にとらわれずにディール(案件)が取れます。
── 個人投資家向けの少額投資非課税制度(日本版ISA)への取り組みは。
永井 いい試金石です。今ある500万口座が当社に残るか、よそに移るか。少なくとも、既存の口座を守らなくては。2世代、3世代がそろって当社のファンになってくれるかを測るバロメーターにもなる。きちんと取り組んでいきたい。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=望月麻紀・編集部)

 

 ◇横顔


Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 前半は組合の専従で委員長を務めていました。後半は豊橋と岡山の支店長。大変でしたね。よく働いたなと思います。
Q 最近買ったもの
A 一眼レフカメラです。バシャバシャ撮れるのが快感で。
Q 休日の過ごし方
A お客さんとゴルフに行くか、犬の散歩です。
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 ■人物略歴
 ◇ながい・こうじ
 東京都出身。1981年中央大学卒業、野村証券入社。豊橋、岡山、京都の3支店長、企業金融本部担当執行役などを経て、2012年4月、野村証券社長に就任。同年8月より現職、野村証券社長を兼務。54歳。