2013年

7月

02日

特集:金利動乱 2013年7月2日特大号

◇広がる日銀への不信感 見えない金利水準の落ち着き先

秋本裕子
(編集部)

「外国人投資家にとって、今一番の関心事の一つが日本の国債市場の動向だ」

 6月上旬まで欧州やアジア各国を訪問し、多くの投資家とミーティングの機会を持ったというゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストはこう話す。その高い関心が、金利系のみならず、株式投資家にまで広がっていたことに驚いたという。

 ◇ぶれる黒田発言

 外国人投資家の関心は、(1)日本の長期金利が不安定になった理由、(2)黒田東彦日銀総裁の政策意図に関する発言のブレ、(3)財務省は国債市場の不安定さを許容するのか──などだ。馬場氏は「外国人は財政への懸念を意識しながら日本株に投資してきた。それだけに最近の金利のボラティリティー(変動率)の高まりを、日本人が思う以上に深刻にとらえている」と解説する。

 アベノミクス到来により、昨年末以来の日本の株式市場を牽引(けんいん)してきた外国人投資家。だが今、彼らの日銀への信認は揺らぎ始めている。

 長期金利は、4月4日に日銀の黒田総裁が「異次元緩和」を発表したことを受け、翌5日に過去最低の0・315%まで下落した後、5月23日に一時1%をつけるなど、大きなボラティリティーにさらされた。

 株式市場でも6月13日、日経平均株価が今年2番目の下げ幅を記録し、終値は1万2445円まで下落、同日は為替市場でも一時1ドル=93円台に円高が進むなど、異次元緩和の効果はほぼ喪失した。長期金利の不安定性は、株式・為替市場の不安定性も高める負の連鎖を招いている。

 もちろんその理由としては、米国で量的緩和第3弾(QE3)からの出口が近いとの観測が大きい。実際、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が6月19日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、年内にも証券購入の購入ペースを減らし始め、来年半ばにもQE3を終了させる可能性について言及したことを受け、日本の長期金利は20日、小幅に上昇し、日経平均は一時1万3000円を割り込んだ。

 ただ、最近の金利の大きなボラティリティーや株価下落の背後には、外国人投資家による日銀への信認の揺らぎがあることも否定できない。

 さらに、日銀への不信感は日本の機関投資家にも広がっている。債券市場は株式市場とは違って限られたプレーヤーの世界であり、「これまでは政府・日銀とのあうんの呼吸で運用してきた」(銀行運用担当者)。その距離感が4月4日を境に変わり、「もはや日銀と市場との信頼関係はなくなった」(生命保険会社関係者)と話す投資家もいる。それだけ日銀への不信感は増幅している。

 背景には、新発長期国債の7割を日銀が買い上げることによって生じた市場流動性の低下がある。さらに、黒田総裁は、国債の大量買い入れで「イールドカーブ(利回り曲線)全体の低下を促す」と宣言したが、意図に反して金利が短期から長期まで上昇すると、今度はインフレ期待や成長期待の上昇が背景にあるため問題ない、と説明。発言が一貫していないと見られたことも、投資家が不安を抱く要因になっている。

 さすがに日銀も、4月4日以降の金利のボラティリティーに驚き、市場との対話を重視している。それが長期国債の一回の買い入れ額を小さくする市場運営につながっており、一定の評価をする意見もある。

 だが、今後はさらにコントロールが難しい局面を迎える。「黒田総裁の発言の真意が、まだよく見えない」と指摘する関係者は多く、日銀によるブレのない説明が、市場関係者には何よりの安心材料となるだろう。

 ◇長い目で見れば金利上昇

 長期金利はこのところ0・8%台で推移し、落ち着きを取り戻したようにも見える。だが、その足元には火薬庫を抱え、いつ火がついてもおかしくない状況だ。

 みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミストは、「長い目で見れば、国債暴落(金利急上昇)局面に入っている。金利上昇を一旦、市場が織り込み始めると、金利が急に跳ねる可能性がある」と警鐘を鳴らす。

 GDP比2倍以上にのぼる日本の債務残高は積み上がるばかりで、投資家の頭の片隅には常に財政破綻リスクがよぎっている。格付け会社ムーディーズやスタンダード・アンド・プアーズの日本国債格付けは既に上から4番目の水準まで下がっており、仮にさらに下がるようなことがあれば、ショックが増幅しかねない。政府による財政立て直しと同時に、日銀は金融緩和にどのような副作用が伴うかを注視し、金利を絶妙にコントロールすることが重要になる。

 金利の落ち着き先はどこか。「日銀と市場による水準模索への旅」(高田氏)は、既に始まっている。