2013年

7月

09日

ワシントンDC 2013年7月9日号

◇個人情報収集に賛否 政治駆け引きの材料にも

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 6月7~8日の米中首脳会談の席上、米国のオバマ大統領は中国のサイバー攻撃に対して懸念を表明した。これに中国の習近平国家主席は調査を約束しつつも、一方で中国自身も同様の攻撃の被害者であると応じた。この首脳会談と相前後して暴露されたのが、米国によるサイバー空間での大規模な情報収集活動である。

 今回明らかになった「プリズム」と呼ばれる監視プログラムは、米国家安全保障局(NSA)が主導するもので、アップル、グーグル、フェイスブック、ヤフーなどのインターネット企業の顧客データ収集が目的であるとされる。クラッパー国家情報長官によれば、同プログラムは米議会の承認を得た法律の範囲内のもので、運用にあたっては特別に設置された外国情報監視裁判所の監督下、合法的な活動のみが行われているという。

 極秘だったこの活動を暴露したのは、元CIA(中央情報局)職員のエドワード・スノーデン氏。「個人のプライバシーの侵害に対する義憤」(本人談)による告発によって、オバマ政権も渋々その存在を認めざるを得なくなったが、情報収集の対象は米国民や米国内に居住する個人を対象にしておらず、プライバシーを侵害しないようあらゆる面で保護措置が取られていると弁明している。

 米国では、2001年の同時多発テロを契機にテロ対策を目的とした「愛国者法」が成立。これを法的根拠にNSAは電話やインターネットの通信記録の収集強化に乗り出した。当初は膨大なデータの分析に手間取ったものの、その後の技術的進歩、特に「プリズム」プログラムの進展に伴い、情報解析が容易になったとされる。

 NSAのアレグザンダー局長は米議会上院の公聴会で、情報収集活動が過去数十件のテロ事件の阻止に貢献したと証言し、その効果と正当性をアピールしている。

 ◇脆弱だった管理体制

 今回の暴露を巡っては、米国内でも受け止め方がさまざまだ。人権擁護団体である「米自由人権協会」は、大規模な通話監視が愛国者法で認められた権限を越えているとして政府を相手取って訴訟を起こしている。一方で世論調査機関のピュー・リサーチ・センターと『ワシントン・ポスト』紙の合同世論調査によれば、回答者の56%がテロ捜査の手法として「容認できる」と答え、「容認できない」の41%を上回った。

 米議会では、一部リバタリアン(自由至上主義)系の議員が政権への攻撃を試みている。だが、ベイナー下院議長(共和)も含め多くの議員は、NSAのシステムがテロ対策として必要なものであるとコメントしている。今回の件が民主・共和党間の大きな政争の具として利用される可能性は低そうだ。

 問題はむしろ米情報機関の情報管理体制の脆弱さが露呈したことであろう。告発者のスノーデン氏は民間企業から契約スタッフとしてNSAに勤務していた。政府の情報データベースにアクセス可能な政府系情報機関に派遣されている民間企業の契約スタッフ数は現在、数千人規模に上るとされる。今後その内容と規模、情報管理のあり方等が問題視されていくことになろう。

 なお、スノーデン氏は告発後、米国を離れ、香港を経由して第三国への亡命を求めていると伝えられる。米政府はその身柄確保に躍起になっているが、関係国からの協力は得られていない。引き渡しを巡る米政府と関係国との駆け引きは外交上の新たな緊張を生んでおり、今後の展開が注目される。