2013年

7月

16日

ワシントンDC 2013年7月16日号

◇下院共和党に委ねられた移民制度改革法案の成否

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 オバマ政権2期目の重要課題の一つであり、ほぼ30年ぶりとなる包括的な移民制度改革が、実現に向けて大きく一歩前進した。議会上院が6月27日の本会議で法案を可決したのである。

 米国の不法移民は1100万人以上と推定される。上院の法案は、(1)納税など一定の条件を満たした不法移民に13年かけて市民権申請の資格を与える、(2)先端技術者や農業労働者など現在の米国に不足する分野での移民受け入れ規模の拡充──を柱としている。時代遅れで合理性を失ったといわれる現行制度の刷新を目指す内容だ。

 同法案に中立的な立場である議会予算局(CBO)は、制度改革が経済成長や雇用拡大を誘発し、財政赤字が今後10年間で1970億ドル減り、その後の10年間でさらに7000億ドル減ると試算。また、実質GDPが「改革なし」の場合と比べて2023年に3%強大きくなると一定の評価を示す。一部の保守系シンクタンク等は、市民権を取得する元不法移民への社会保障給付が増える恐れを指摘していたが、CBOは個人消費や税収の増加など経済活性化効果の方がはるかに大きいと評価したのである。

 しかし、上院での審議と採決を通じて明らかになったのは、共和党保守派の制度改革へのかたくなな反対姿勢であった。これは、改革実現にとっての最大の障害になるとともに、同党自らを混乱に巻き込む可能性を高めている。

 ◇上院案は審議もしない?

 共和党は制度改革の条件として、メキシコ国境警備の強化を求めた。ただ、メキシコ国境での不法入国による逮捕者数は12年が37万人弱。00年の170万人から大幅に減っている。しかもメキシコの経済と雇用が堅調に拡大していることで、最近はメキシコから米国への移民の純流入数はほぼゼロに近い。

 それでも民主党は合理性を度外視して要望に応じた。警備予算を400億ドル近く増額し、監視要員を現在の約2倍となる4万人に増やすという相当な譲歩である。その結果、上院採決は賛成68人、反対32人となり、共和党からは14人が賛成に回った。ただ、下院共和党に同法案の可決を迫るほどの圧力を生むには少し足りなかった。

 下院では共和党のベイナー議長が「上院の法案を審議も採決もしない」という意向を示している。議長は下院共和党が独自に取りまとめる法案を審議すると説明しているが、報じられているその内容は、上院の法案からはかなりトーンダウンしている。不法移民に市民権取得の道を開く内容ではなく、制度改革には程遠いレベルと見る向きも多い。

 一方、ベイナー議長は、実は制度改革に強く反対する下院共和党の姿勢に懸念を強めているという指摘もある。改革法案を潰してしまえば、昨年秋の大統領選の敗因にもなった中南米系有権者の反発と不人気がより強固になり、次回大統領選での政権奪還が困難になるからである。

 だが、下院共和党議員にとっては、自らとは直接関係のない3年後の大統領選よりも来年秋に控える中間選挙での再選が最優先の課題だ。そして彼らが選出されている選挙区の大半は、有権者の多くが白人であり中南米系は少ない。しかも地元の共和党支持者は制度改革に敵意を抱くほど反対している。制度改革の支持はあまりにリスクの大きい選択なのである。

 当面の移民制度改革の行方を左右するのは下院共和党であり、オバマ大統領と民主党も共和党に揺さぶりをかけてくるだろう。今後の下院共和党の動向には要注意である。