2013年

7月

23日

特集:新興国投資の終わり 第1部 投資の見直しどき 2013年7月23日特大号

 ◇ドル高のマグマが奪い去る高収益の新興国投資のウマミ

桐山友一
(編集部)

 新興国経済が大きく揺れている。米金融緩和の縮小方針に伴って新興国からマネーが流出し、中国経済の減速も暗い影を落とす。高成長期待で人気を集めた日本人の新興国投資だが、再考を迫られる時がやってきた。

新興国経済が大きな岐路を迎えている。

国際通貨基金(IMF)は7月9日発表した世界経済見通しで、13年の新興国の成長率予想を5・0%と、前回4月時点から0・3ポイント引き下げた。中国を0・3ポイント引き下げて7・8%としたほか、ブラジルは0・5ポイント下方修正して2・5%とするなど、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を中心に総崩れの様相を帯びている。

 IMFが今後の懸念材料として指摘したのが、米金融緩和の縮小に伴う新興国からの資金の流出だ。市場は5月ごろから米金融緩和縮小を織り込み始めると、それまでの傾向は一変し、対米ドルで新興国通貨安が進んだ。さらに6月19日、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長が量的緩和第3弾(QE3)の縮小に具体的に言及すると、2・2%台だった米長期金利はその後、一時2・6%台へと急騰。相対的に金利が下がった新興国の債券などが値を下げ、新興国は通貨安と債券安、株安のトリプル安に見舞われ、関連した投資信託は急落した。

 バークレイズ証券の高橋祥夫マネージングディレクターは「過去10年間続いてきたドル安・新興国通貨高の本格的な反転期にある」と分析する。インフレ率の影響を除いた米ドルの実質実効為替指数の水準は現在、対新興国通貨では1997年のアジア通貨危機前より低い水準にある。まさに「反転のマグマが相当蓄積された状態」(高橋氏)と言える。

 ◇ハイリスクだった人気商品

 この結果、これまでハイリターン商品として人気を集めた新興国投信は逆にハイリスク商品になろうとしている。

 投資信託評価会社モーニングスターによると、今年6月末時点で海外資産(株・債券)を投資対象とする日本国内の投資信託は23・1兆円。そのうち、新興国は8・8兆円と4割弱もの比重を占めている。しかし、新興国株式市場を巡っては6月、米国へのマネーの逆流に伴って上海総合指数が14・0%下落、ブラジル・ボペスパ指数も11・3%下落した。

 このあおりで、新興国投信はほぼ総崩れとなった。金融情報会社イボットソン・アソシエイツ・ジャパンが6月末時点で純資産総額30億円以上のファンドを対象に「通貨選択型」(177本)、「株式」(173本)、「債券」(202本)、「コモディティ(商品)」(25本)の4パターンの新興国投信を調べたところ、コモディティ2本を除く他のすべてで、この1カ月間のトータルリターンがマイナスになった。例えば、投資対象が新興国債券の投信は1年前に人気ランクの上位を占めたが、今回の資金引き揚げで債券安に見舞われて急落するなど、ハイリスクだったことを示した。

 モーニングスターの朝倉智也社長は「そもそも個人資産の運用は、安定した収益が見込める先進国を中核とするのが基本だが、新興国投資の高いリターンに目を奪われ、その分のリスクを過小評価している個人投資家が多い」と話す。販売する金融機関側も、目先の高いリターンを実現するよう商品を複雑に設計し、その対価として高い手数料を設定する。高いリターンが見込めなくなると、別の新たな商品を売り込むきらいがある。

 リーマン・ショック後、低迷する先進国を尻目に、新興国が大きく成長してきたため、過去に設定された新興国投信は中長期のトータルリターンがプラスのものは多い。だが、かつての高収益を今後回復するかどうかは見極めが必要だ。

 ◇成長パターンの崩壊

 新興国経済の不安要因の一つとしてIMFが挙げるのは、中国経済自体の減速だ。中国税関総署が7月10日発表した6月の貿易統計で、輸出は前年同月比3・1%減と、春節(旧正月)以外では3年7カ月ぶりのマイナスに転じた。投機資金を国内に持ち込むための実体を伴わない「ニセ輸出」が指摘され、5月から急減した。当局が輸出統計を調整しているとの観測もあるが、見かけほど外需は高くない可能性を示す。

 これは“世界の工場”として資源を買い集め、輸出を通じて世界経済を牽引してきた中国と、資源価格の高騰で恩恵を受けてきた資源国をはじめとする新興国の成長パターンの衰えを示す。三井物産戦略研究所の小村智宏・経済調査室長は「中国の高成長を前提とした世界経済の仕組みが成り立たなくなった」と指摘する。高収益が当たり前だった新興国投資は、終わりを迎えようとしている。