2013年

7月

30日

ワシントンDC 2013年7月30日号

 ◇チタン業界も日本を牽制 ついに幕開けるTPP交渉

及川正也
(毎日新聞北米総局長)

 日本の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉参加に向け、米政府は7月2日、ワシントン市内で利害関係団体を対象とした公聴会を開催した。23日にも交渉参加が承認される日本との協議において反映させるべき意見を聞く場だったが、米側の新たな揺さぶり戦略も垣間見えた。

「主要国で日本は最も閉鎖された自動車市場。多くの非関税障壁で外国車を閉め出している」。批判の急先鋒に立ったのは、米自動車大手3社(ビッグスリー)でつくる米国自動車政策会議(AAPC)のブラント会長。厳しい口調で日本の交渉参加に「反対」と明言すると、交渉参加を支持する日本自動車工業会(自工会)北米事務所のブックバインダー所長は「日本において輸入自動車の関税はゼロで、制限や規制はない。欧州車は売り上げを伸ばしている」と反論した。売れないのは努力不足といわんばかりだった。
 さらにブラント会長は日本の「円安誘導」が打撃になるとして「為替操作制裁条項」導入を求めたが、米日経済協議会のレーク会長が「それを持ち出せば交渉は極めて複雑になる」と反対を表明。一方、日韓欧の国際自動車メーカー協会は、米側の自動車関税撤廃の長期猶予について「できる限り早く関税撤廃を」と要請するなど激しい火花が散った。
 ただ、「米自動車産業は天地がひっくり返っても反対」といわれるだけに反発は想定の範囲内。公聴会では日本の参加に「明確な支持」を示したのが日米財界団体、日韓欧自動車団体、米農業、米保険団体など10に上ったのに対し、「明確な反対」はAAPCの1、「強い懸念」が3団体とNPO(非営利組織)1の計4、「態度不明確」が1だった。
 そうした中、自動車以外で懸念を示した唯一の業界があった。米最大のチタンメーカー「チタニウム・メタルズ(TIMET)」だ。

 ◇カギ握る「例外品目」

「関税が撤廃されたら、国内のチタン産業に深刻な影響を与え、国防関連産業にも大きな脅威となる。現在の輸入関税(15%)維持を目標に交渉してほしい」。TIMET代理人のホルガン弁護士は強調した。チタンは鉄の半分の重さで鉄と同じ強度を持つ。耐食や耐熱性に優れ、米国ではステルス戦闘機から核兵器まで最新鋭装備や兵器を下支えしている。
 チタンの中間原料スポンジチタンの生産は中国、日本、ロシアが3強。日本から米国への輸出は2002年からの10年間で約4000トンから約1万9000トンまで急増。米国と同じ製品水準で米国には脅威だ。TIMET側は質疑応答で「(スポンジチタンを)中国やロシアに頼りたくはない。日本はその中国やロシアと領土問題を抱え、北朝鮮は脅威を与え続けている」と答弁。尖閣諸島や北方領土問題まで持ち出し、地域の不安定化を理由に国内産業の保護と日本依存への危険を訴えた。
 チタン業界が注目され始めたのは、米国際貿易委員会(ITC)が6月に開催したTPP公聴会で証言してからだ。TPP交渉を担当するカトラー米通商代表部(USTR)次席代表代行が出席した公聴会にも招請されたことで、「米国は自動車に続き、チタンを貿易自由化の例外品目としたいのでは」との臆測を呼んでいる。
 日本政府は、コメなど農業の重要5品目を「例外品目」とする方針だが、「最後は政治判断によるバーターで決着する」(米TPP関係者)とされ、米側の例外品目が増えれば交渉の自由度は広がる。ただ、それだと高い自由化を目指すTPPの理念が骨抜きになるだけに、日本側は米側の出方を注視している。