2013年

7月

31日

第50回エコノミスト賞

■第50回(2009年度)エコノミスト賞決定

 エコノミスト賞選考委員会は「第50回(2009年度)エコノミスト賞」の受賞作に、花崎正晴著『企業金融とコーポレート・ガバナンス──情報と制度からのアプローチ』(東京大学出版会)を選んだ。花崎氏に賞金100万円と賞状、記念品、出版元の東京大学出版会に賞状と記念品を贈る。

 

◇エコノミスト賞選考委員(敬称略)

委員長 石弘光(放送大学学長)

委員(五十音順)/ 伊藤邦雄(一橋大学教授)/小川一夫(大阪大学教授)/奥野正寛(東京大学教授)/吉野直行(慶応義塾大学教授)

『企業金融とコーポレート・ガバナンス──情報と制度からのアプローチ』

(東京大学出版会)

花崎正晴 著

【はなざき まさはる】

日本政策投資銀行設備投資研究所長、一橋大学大学院商学研究科客員教授。1957年東京都生まれ。79年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業、日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行。同調査部、OECD経済統計局、ブルッキングス研究所などを経る。早稲田大学博士(経済学)。主要著書に『コーポレート・ガバナンスの経済分析─変革期の日本と金融危機後の東アジア─』(共編著、東京大学出版会)、『金融システムの経済学』(同)、『経済制度の生成と設計』(同)など。

■講評

◇独自データによる実証分析 東アジア企業も研究対象に

 

選考委員長 石 弘光(いし ひろみつ)

 

 1960年度に発足したエコノミスト賞は、09年度でめでたく50周年記念を迎えた。伝統的に(1)若手の研究者の研究業績、(2)日本経済分析に新たな貢献を加えた著書の2点を基準に選考を重ねてきた。 

 

 この間、該当作がない年度もあったが受賞作は昨年度までで57点に及び(含む特別賞)、それを執筆した著者の多くはその後、日本を代表する研究者として成長した。本年度から、(2)の基準をより拡張し、研究対象に世界経済も含めることにした。 


 この記念すべき年度に、エコノミスト賞にふさわしい著作を選考できたことをまず委員長として率直に喜びたい。選考のプロセスは、最初に出版社などに対するアンケートによりおよそ30点を選び出した。それを踏まえ、選考委員が第1回の会合で各自2~3点の推薦候補作を持ち寄った。今回は、比較的早い時点で候補作が3点に絞られた。 


 その後、委員各自がこの3点を持ち帰り各々慎重に眼を通し、第2回目の会合でかなり時間を費やし審査した末、最終的に全員一致で花崎氏の著作に決定した。 


 戦後日本経済の発展には、日本独自の制度や政策が寄与してきた。この日本型モデルといわれる仕組みのなかで、銀行中心のメインバンク制度と系列関係が重要な役割を果たしてきたとの通説が、これまで広く支持されてきた。花崎氏は、この通説の検証も含め、日本の金融システムを、コーポレート・ガバナンスの視点から将来展望まで含め広範に論じている。理論に基礎をおき独自のデータを用いた実証分析に見るべきものがあり、興味あるファクト・ファインディングも踏まえ、通説とは異なる主張もいくつか展開している。この点に、他の候補作を凌駕していたといえる。その特徴はおそらく、以下、3点にまとめられよう。 


 第1に、銀行とりわけメインバンクが企業経営を規律付けしてきたという通説を検証し、それが必ずしも成立していないことを示している。企業規模別に設備投資関数の推計でキャッシュフロー制約の影響を計測し、また「エントレンチ(塹壕)銀行」(上位3株主がすべて銀行や保険会社)が、他の銀行のパフォーマンスより劣ることなどを実証している。その結果、日本独自の風土に根ざしたメインバンク制度や系列関係が必ずしも顧客企業にモニタリングを行い、ガバナンス機能を発揮していないという説得的な論証をしている。 


 第2に、日本の法人企業の企業金融とコーポレート・ガバナンスの通説を検証し、それを批判し懐疑的な結論を導いている。日本の銀行は高度成長期にも有効なモニタリング機能を果たしておらず、またグローバル化の下、製造業にとって厳しい海外との市場競争こそが有効な規律付けになったという仮説をたて、パネルデータで検証している。近年、銀行の主要顧客が非製造業や個人・中小企業に移り、海外からの競争圧力が遮断され国内規制により保護され、市場による規律付けが期待できなくなった今日的な課題が示される。いずれにしろ、メインバンクの役割の低下と日本の金融システムの脆弱性が顕在化したとする通説批判の興味ある結論が導かれる。 

 

 第3が、東アジアの家族支配型企業のガバナンス問題を取り扱っている。日本の実態と異なる特定家族が株式を集中的に保有し、実質的な支配権を確保している家族支配型企業のパフォーマンスを東アジアの企業データを用いて実証的に分析している。この結果、支配株主の持株比率が高いほど、また支配権と所有権の乖離が大きいほど、アジア危機発生後の企業の投資環境が悪化したとする。日本以外にも研究対象を広げた今回のエコノミスト賞にふさわしい内容ともいえよう。 

 

 このような研究成果の他にも情報と制度からみた企業金融の現状分析や将来展望に関し優れた貢献が幾つも見られ、全体として選考委員は一致して高い評価を与えた。この点に関しては誰も異存はなかったが、しかし著作の形態に関し、1つ疑問が提示された。それは主要な研究内容のうちかなりの部分が、過去に発表された幾つもの共同論文の成果に負っていることである。つまりこの著作を通して、その成果の100%が必ずしも花崎氏個人の業績のみに帰属しえず、他に何人も存在する共同研究者の貢献も無視できない。 

 

 この点、著者のみの業績を受賞の対象とするエコノミスト賞にふさわしいか否かが、選考委員会でかなりの議論を呼んだ。とはいえ、研究書としての優れた成果はこのような欠点を凌駕する側面をもち、また最近の学界での共同研究の一般的な風潮も考慮に入れ、最終的に花崎氏の著作を本年度のエコノミスト賞に決定した。 

 

 最後までこの受賞作と争ったのは、次の2つであった。(1)畑農鋭矢『財政赤字と財政運営の経済分析』(有斐閣)(2)山田節夫『特許の実証経済分析』(東洋経済新報社) 

 

 あと一歩で今回の受賞を逃したが、若いお2人の次の著作に期待したい。

 

エコノミスト 2010年4月6日号