2013年

8月

06日

ワシントンDC 2013年8月6日特大号

 ◇フードスタンプ削減策巡り下院共和党指導部が混乱

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 5年ごとに改正される農業法を巡って、下院共和党の対応が米議会で波紋を広げている。最大の争点は「フードスタンプ」と呼ばれる食料費補助プログラムだ。同法は昨年9月に当初の期限を迎えたが、上下両院の「ねじれ」状況が災いして改正法の成立には至らず、暫定的に今年9月末まで延長されている。

 

 農業法は農業従事者の所得、農産物の価格や作物保険を規定する種々の制度に加えて、低所得者層への食料補助を目的とした食料費補助プログラムも包含する。これは一定の所得水準に達していない一般世帯を対象に、食品スーパーなどでプリペイドカードのように使える「ETB」と呼ばれるカードを支給するものだ。
 2008年のリーマン・ショック以降、その受給対象者は急増し、12年時点で4000万人を超えた。これは米国の総人口の約13%にあたる。支出額も年間800億ドル(約8兆円)近くと過去5年間で倍増している。農務省の支出総額の半分以上を占めるこのプログラムの管理・運営は原則各州政府に委ねられているが、抜け穴が多く、不正受給も相当規模に上ると言われる。財政赤字削減が喫緊の課題であるなか、不正防止と受給者の削減を通じて支出規模をいかに削減するかが改正法案における最大の争点であった。
 民主党が過半数の議席を占める上院ではすでに昨年6月の時点で、食料費補助プログラムによる支出を今後10年間で40億ドル削減するとした法案が可決されていた。一方、共和党が過半を占める下院では、ルーカス委員長(共和党)率いる農業委員会が策定した160億ドル規模の削減案を巡り、調整がつかないまま昨年の第112議会では本会議への上程が見送られた。同じ共和党だが、ティーパーティーや「経済成長クラブ(Club for Growth)」といった保守勢力から、「削減規模が不十分、受給資格者の大幅削減も必要」という声が上がったからだ。

 ◇党執行部からも反対票

 今年1月に招集された第113議会では、改正法の早期成立を望む農業関係者側からの強い圧力もあり、上院案は昨年とほぼ同じ内容で早々に可決された。下院でも上院案との整合性や最終的な成立を意図しながら種々の調整や下院民主党との折衝が行われ、削減規模を10年間で205億ドルとした法案が6月に本会議に上程されたが、共和党側から62人の反対が出たために195対234で否決となった。
 先述の党内保守勢力のみならず、党執行部に属する複数の委員会委員長も反対に回った。このことから、図らずもベイナー下院議長やカンター下院院内総務の調整・議事運営能力や党内での指導力が問われるような事態にまで至ったのである。
 7月に入り、カンター院内総務を中心とする指導部は巻き返しを図り、調整協議の相手である下院民主党の反対を押し切る形で改正法案を二つに分断し、食料費補助プログラムを除いた農業部分のみでの法案を上程、可決することで辛うじて指導部としてのメンツを保った。ただし、結果的に党内保守系勢力におもねる形となり、民主党との溝はますます深まったことになる。ホワイトハウスも下院案に対しては拒否権をちらつかせていることから、改正農業法が成立する可能性はむしろ遠のいたという声も聞かれる。
 ましてや食料費補助プログラムを巡る議論は置き去りのままだ。党内保守派と民主党との狭間に立つ下院共和党指導部の今回の混乱は、党としての結束に時間がしばらくかかりそうだという印象だけを残してしまったようである。