2013年

8月

06日

特集:食える弁護士、食えない弁護士 第1部 弁護士業界編 2013年8月6日特大号

 ◇就職難は弁護士増加が原因?進む「食える」「食えない」の二極化

秋本裕子
(編集部)

 花形職業とされてきた弁護士の世界に、異変が起きている。
 その一つが、所得の減少だ。弁護士白書(2012年版)によると、10年調査では収入は平均3304万円と、00年調査(3793万円)より低下。それに伴い、所得も平均1471万円と、00年(1701万円)より減った。
 同10年版で09年の所得(弁護士業務以外も含む)の内訳を見ると、200万円未満が3・2%、500万円未満だと16・4%を占める。高所得のイメージが強い弁護士でも、年収200万円未満の人が出始めている。このような弁護士を表現し、最近は「ワーキングプア弁護士」という言葉も使われるようになった。

 ◇就職難で“即独”や“軒弁”に

 ワーキングプア弁護士とともに、弁護士業界の厳しい実態を示すのが新人の就職難だ。
 日本弁護士連合会のまとめによると、12年に司法修習を終えた2080人のうち、6月3日時点で78人がまだ弁護士登録をしていない。そのうち21人は企業や官庁への就職者、6人は登録見込みだが、10人が就職活動中、41人は理由不明などという。
 司法研修所での司法修習を終えても、日弁連に登録しないと弁護士にはなれない。その際、登録料や弁護士会への入会金のほか、毎月の会費が必要だ。初年度には数十万円程度かかり、2年目以降も年数十万円の会費を払い続けなければならない。当然、「会費の支払いに見合うだけの収入を継続的に得る見通しが立たなければ、登録しても意味がない」ことになる。まだ登録していない人には、こうした事情もあるのかもしれない。
 弁護士の就職活動は、司法試験結果が出る前に始まっている。4大事務所が内定を出すのは6月ごろ。「初年度で年収1000万円」といわれる4大事務所の人気は当然高いが、入ることができるのは、全体からみればごく一部だ。
 それ以外の人は、中堅規模の法律事務所、外資系事務所、さらには「マチ弁」と呼ばれる小規模な事務所、企業などの選択肢を探ることになる。そのほか、組織には所属せず、「即独」と呼ばれる個人事業主として、独立開業の道を選ぶ人もいる。
 法律事務所を経営する「ボス弁」に雇われて給料をもらう「イソ弁(居候弁護士の略)」は昔からいるが、最近は法律事務所の一角を貸してもらうだけの「ノキ(軒)弁」も珍しくはなくなった。軒弁は事務所を間借りしているだけという個人事業主であり、仕事はすべて自分で取ってこなければならない。ここ数年はさらにその先をいく、電話一本で仕事を受注する「ケータイ弁」という概念も生まれている。

 ◇弁護士の横領が急増

 厳しいのは、新人だけではない。「食えない中高年弁護士が増えている」という証言も多い。
 今年5月、元東京弁護士会副会長の70代の弁護士が、成年後見人として管理していた女性の預金を着服したとして業務上横領罪で逮捕、起訴された(公判中)。これ以外にも、成年後見人の立場を利用した横領事件は頻繁に起きており、こうした事件で逮捕や起訴された弁護士・元弁護士は、昨年5月以降10人近くに上る。こうした異常事態が起きるのは、弁護士の所得が減っている影響があるのかもしれない。
 あるベテラン弁護士は、「法律は毎年変わるので、常に勉強会に出席したり、他の弁護士と情報交換して、知識をアップデートすることが重要。昔は努力しなくても仕事がきたが、今はそれができないとどんどん取り残される」と話す。
 このように、弁護士業界で就職難や低所得者増がクローズアップされるようになった背景には、司法制度改革による弁護士の急増が要因とされている。同改革は、訴訟数増や役所・企業への弁護士進出が増え、それに伴い弁護士のニーズも高まると想定し、司法試験合格者を大幅に増やす計画を掲げた。だが、「合格者が急増する一方、訴訟は思うように増えなかった」と、かつて内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員として法科大学院制度の設計に携わった牧野和夫弁護士は話す。最高裁によると、裁判所が新たに受理した訴訟などの事件数は11年には406万件で、03年の612万件から大きく落ち込んでいる。
 需給のアンバランスを受け、弁護士を減らすべき、との意見は多い。日弁連は、司法試験合格者数を現在の年約2000人から1500人程度にすべきだと提言。それを受け、司法制度見直しを議論してきた政府の法曹養成制度検討会議は7月、年3000人程度としていた合格者数目標を撤回することを決めた。
「弁護士を減らすべきだ」との主張には、「これ以上増えると自分の仕事が減る」という弁護士たちの危機感も透けて見える。
 だが、こうした流れに反論する弁護士もいる。

 ◇努力不足の見方も

 会社法で有名な中村直人弁護士は、「仕事がないから弁護士の数を減らせ、という議論はおかしい。食えないなら、食えるようになるまで努力すべき。努力すれば、普通に生活できるぐらいにはなれるはずだ」と話す。また、約6000人の弁護士が登録する弁護士紹介サイト「弁護士ドットコム」を運営するオーセンスグループの元榮太一郎弁護士も、「中小事務所でもスポットの訴訟案件を積み重ねたり、インターネットで法律の質問サイトに答えて顧客を探すなど、営業努力をすれば食っていける。弁護士を甘やかす必要はない」と主張する。
 実際、弁護士の中では依然、年収数億円を稼ぐ人も多い。こうした「食える弁護士」にとっては、「努力不足」という見方も当然出るだろう。食える弁護士と、食えない弁護士の二極化は、進む一方だ。
 結局、弁護士になってからも、努力がないと生き残れないという、当たり前のことが顕在化しただけではないか。村上政博・成蹊大学法科大学院教授は、「もう弁護士は特別な資格ではなくなった。自分のキャリアアップにつなげるための一資格にすぎないと、受け止めるべきだ」と話す。昔のように、「ヒマワリのバッジさえ手に入れば何とかなった」(大手事務所のベテラン弁護士)という時代は、もう終わった。