2013年

8月

06日

経営者:編集長インタビュー 加藤薫 NTTドコモ社長 2013年8月6日特大号

 ◇総合サービスで他社携帯利用者も取り込む

 今年5月、携帯端末の夏モデルの発売で、異例の策に出た。大幅値引きする機種を、ソニー製「エクスペリアA」と韓国サムスン電子製「ギャラクシーS4」の2機種に絞り込む「ツートップ」戦略だ。しかし、解約件数が新規契約を上回り、顧客流出は止まらなかった。


── 厳しい結果です。


加藤 残念でした。ですが、エクスペリアは5月の発売以来94万台、ギャラクシーは45万台とよく売れています。ツートップ戦略の目的の一つが、スマートフォンのお客様を増やすこと。エクスペリア購入者の63%が、ドコモのフィーチャーフォン(従来型の携帯電話)からスマホに移ったお客様でしたが、他の携帯事業者に移る方も残念ながら多かった。

── 原因は?

加藤 競合他社はツートップ戦略への警戒からか、他事業者から移ってきたお客様へのキャッシュバックを6月に増額しました。一方、当社は販売代理店がキャッシュバックなどに充てる販売奨励金を6月から減らしました。

── 最初が肝心。まずは数を追うというやり方もあったのでは。

加藤 ツートップ戦略が評価され、お客様は他社に移られないだろうと考えていたところがあります。他社へ移る方よりも、長く当社を使ってくださる方を大事にしたいという考えもあります。ですが競争上、他社に対向せざるを得ない局面と考え、奨励金を積み増しました。

── 他メーカーが悲鳴を上げるほどの大胆な戦略を取ったのはなぜ。

加藤 侃々諤々議論したのは半年前からですが、3年ぐらい悩んだ末の決断でした。この間、端末によっては売り上げ予想を大幅に下回ったり、機能面で他社に劣ったり、同じような故障が同一メーカーで続いたりといろいろありました。

── ツートップ戦略は利益面では上昇要因になりますか。

加藤 できるだけそうしたいですね。2機種を大量調達して価格が安くなった分は、お客様に還元しましたが、フィーチャーフォンからスマホに変わるとデータ通信料が上がります。その分、収益は増えるとみています。今年の営業利益目標8400億円はぜひ達成したい。

 

 ◇「ツートップ」組み替えも

── 冬モデルでも続けますか。

加藤 冬モデルをどうするかは決めていません。そもそもツーか。ワンか、スリーか。何機種に絞るかも決めていません。

── 2社は固定ではない?

加藤 固定ではありません。これから決めます。
 映画などのコンテンツ提供やネット販売といったスマホやタブレット向けの生活支援サービスを拡大している。目指すは「総合サービス企業」。7月1日には「スマートライフビジネス本部」を設立した。

── サービス拡大の狙いは。

加藤 スマホは手の平サイズのパソコン。家庭でも無線環境が整備され、家電やエネルギー消費の見える化などでスマホがハブ(集約装置)になる可能性があります。そこで、スマホを利用した便利な生活をエンジョイしてもらうために、端末とネットワーク、サービスの三つ揃えで提供します。ただ、サービスはドコモ1社でできることは限られます。業務提携や出資で外の力を借りる。それを推進するのがスマートライフビジネス本部です。

── 端末とネットワークだけでは成長できない?

加藤 これまでは、音声通話料とメールなどのデータ通信料で稼いできましたが、値下げに加えて電話は使用が減り、データ通信料の伸びもそれを補うほどではありません。新領域のサービスが新たな収入源です。iモード(既存の携帯電話向け情報配信サービス)でサービスを提供してきた経験も生かせます。

── 新領域の2015年度売り上げ1兆円の目標は達成可能ですか。

加藤 12年度末の目標は5200億円でしたが、5350億円に達しました。今年度末7000億円の目標も達成できると思います。

── 好調なサービスは?

加藤 月525円で映画1万3000タイトルが見放題のサービス「dビデオ」の契約数は1年半で450万件。6月に提供を開始した女性の健康管理サポート用アプリ「カラダのキモチ」の契約件数は、7月7日現在、8万3000件にまで拡大しています。今年度は健康サポートをサービスの柱にすえています。

── ドコモ携帯の利用者以外にもサービスを提供するとか。

加藤 回線もサービスの一つにすぎないと考えれば、より多くのお客様を対象として考えることができます。そのために、お客様の識別を従来の携帯電話番号から会員制のドコモIDに変更します。IDの運用開始は11月を予定しています。

── ドコモ携帯利用者以外のサービス利用目標は。

加藤 立てていません。急に増やせるとは思っていませんが、複数のサービスをパッケージで提供するなど工夫をしていきたいと思います。

── 米アップル社「iPhone(アイフォーン)」の販売は目指していますか。

加藤 (その質問は)もういいんじゃないんですか(笑)。この4年、答えは変わりません。まだ結論は出ていません。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=望月麻紀・編集部)

 ◇横顔

Q 30代のころはどんなビジネスマンでしたか。
A 1985年の日本電信電話公社民営化と同時に誕生した移動体通信事業部(現ドコモ)で初めて管理職を経験後、NTT神戸支社副支社長に。神戸青年会議所で異業種の方々と交流を深めたことは、今でも財産です。
Q 最近買ったものは。
A 藤原真理さんのCD「J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)」
Q 休日の過ごし方は。
A 兵庫県内の自宅に戻り、妻と食事やショッピングを楽しみます。
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 ■人物略歴
 ◇かとう・かおる
 大阪府出身。名古屋工業大学大学院工学研究科修了後、1977年旧日本電信電話公社入社。民営化に伴う分社化で誕生した旧NTT関西移動通信網に94年に移り、05年にNTTドコモ特別参与。経営企画部長などを経て12年6月より現職。62歳。