2013年

8月

20日

ワシントンDC 2013年8月13・20日合併号

 ◇金融危機後初となるFRB議長人事の難しさ

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 来年1月末でバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の2期目の任期が切れる。その後任人事を巡る論争に火が付いた。きっかけは『ワシントン・ポスト』紙の人気ブログ。7月23日に次期議長の最有力候補はサマーズ元財務長官と報じたのだ。ホワイトハウスが「次期議長の指名は秋までない」とリークしたことで論争は水入りになったが、過熱した議論と報道合戦からは、金融危機後初となるFRB議長交代の難しさがみえてくる。

 

 後任人事を巡っては、金融市場やFRB周辺ではイエレンFRB副議長で決まりとの見方が大勢で、主要メディアの関心はやや盛り上がりを欠いていた。そこに飛び込んできたのが『ワシントン・ポスト』の新進気鋭コラムニスト、エズラ・クライン氏による一報だった。しかも、その根拠はオバマ政権の候補者選定に関わる関係者への取材だという。
 市場がイエレン氏を推しても、サマーズ氏が適任とオバマ大統領が判断すればそれまで。議長人事への影響力の限界に気づいた市場参加者やFRB関係者の焦りは、その後の「反サマーズ、親イエレン」が露骨に表れた報道の多さにみられる。だが彼らが驚いたのも無理はない。
 過去のFRB議長人事の多くは、もともと関係が深い市場やFRBとホワイトハウスの経済チームの間で絞り込みが進められ、その意をくんだ大統領が市場の納得する指名をしてきたからだ。FRBや市場が支持しない人物を議長に指名すれば、金融政策の決定に混乱が生じ、政権の経済運営にも悪影響が及ぶリスクが大きい。今は市場やFRBにとってはあり得ない展開なのだろう。

 ◇最悪の展開は中傷合戦

 サマーズ氏が最有力候補と報道された後にCNBCテレビが行ったエコノミストへの調査によれば、イエレン氏の支持は5割超。一方、サマーズ氏は3%に満たない。
 これだけ市場に不人気のサマーズ氏が、オバマ大統領と経済チームから絶大の信認を得ているのは、オバマ政権1期目に同氏が国家経済会議委員長に就任して、深刻な金融危機からの経済立て直しを主導したからである。しかし、市場とFRBにとっては金融危機の克服を主導したのはバーナンキ議長であり、この間の金融政策に関わっていないサマーズ氏との距離は近くない。
 オバマ政権と市場とFRBの間では、次期FRB議長に求められる役割は、経済の安定を保ちつつ超金融緩和政策を終わらせるという点で一致している。しかし、それを誰に託すかで違いが生じる。オバマ大統領と経済チームは距離が近く最も信頼できるサマーズ氏、市場やFRBは近年の金融政策の形成と決定に深く関わってきたイエレン氏である。
 問題はそれぞれが妥協・容認する機運が生じにくい点だ。FRB議長人事を承認する上院の与党民主党のリベラル派は、クリントン政権下で財務長官だったサマーズ氏が推進した金融規制緩和が金融危機の一因だとして、イエレン氏を次期議長に推す書簡のとりまとめに動いた。これに親サマーズ派は反発しており、サマーズ氏とイエレン氏の中傷合戦が始まりかねない情勢である。
 市場からの信認が極めて重要なFRB議長の人事を巡り、有力候補者間の中傷合戦に火が付く事態はオバマ政権にとって絶対に回避すべきこと。状況次第では「第三の候補」の検討を始めるだろう。候補が両氏に絞り込まれる場合も、イエレン氏はオバマ大統領や経済チームとの距離、サマーズ氏は金融政策の決定に直接関わった経験の不足と、それぞれ弱点を抱える。オバマ大統領は決断に時間を要しそうだ。