2013年

8月

27日

特集:金持ち投資、貧乏投資 2013年8月27日号

 ◇31歳女性、服買うのも我慢して金先物/60歳男性、1億円をETFで分散投資

緒方欽一
(編集部)

 少額投資で一攫千金。お金に余裕がない人なら一度は見る夢だ。昨年末以降の円安を追い風に、その夢を金先物取引でつかんだ女性がいる。取引で増やした額は2000万円超。

 

 8月2日の夜、東京・江東区の居酒屋でその女性と落ち合った。事前のメールには「雇用統計なのでパソコン見ながらでもいいですか?」のひと言。この日の午後9時30分には米国の7月の雇用統計が発表されることになっていた。米国の雇用統計の結果で為替市場は大きく動く。投資家にとっては重要イベントだ。女性が投資している東京金先物の価格にも大きな影響を及ぼす。統計の発表まで、これまでの投資について話を聞くことにする。
 女性が投資を始めたのは2005年ごろ、現在31歳なので23歳の時だ。弟が買ってきた外国為替証拠金取引(FX)の本を読み、「これはもうかるかも」と思って飛びついたという。会社勤めの給料からためた元手10万円に約50倍のレバレッジ(てこ)をかけて投資していた(10万円を証拠金として預け入れることで500万円近くを運用)。
 最初、ビギナーズラックで1万8000円勝った。ところがその後は、買っても売っても為替が想定とは逆に動いて、すぐに損切りを迫られた。この繰り返しで「即死、即死、即死」という日々だったという。大きく損することはなかったが、このような投資が1年ほど続く。

 ◇50万円を2000万円に

 転機は、知り合いから投資歴20年超の投資家を紹介されたことで訪れた。金先物取引を勧められたのだ。この投資家が女性に金先物を勧めた理由は、00年代以降、金価格の上昇が続いており、短期の値動きをみてもFXより金の方が価格トレンドが出やすいからだった。また、金先物もレバレッジをかけられる。その分リスクも負うが、女性のように少額投資でもうけたいという人には向いていると判断したのである。
 だが、すぐに稼げるようになったわけではない。しばらくは大負けもしないが勝ちもしなかったという。それでも投資を続けた。給料からは毎月10万円を投じた。年収は多いときで400万円弱というから、女性にとっては大きな額だ。買いたい服も我慢して節約した。報われたのは金先物を初めてから6年後。昨年末から急速に進んだ円安が金の円建て価格を押し上げ始めてからだ。
 東京金先物は1枚(1キロ)から取引ができる。元手(証拠金)の何倍まで取引できるかというレバレッジは約30倍かけられる。金先物が1グラム当たり1円上がると、1枚で1000円得する計算だ(価格が下がったときはその逆)。東京金先物価格は13年1月4日には1グラム=4676円だったのが、約1カ月後の2月7日には同5079円の高値をつける。
 女性は4600~4700円辺りでまとめて買いを入れ、さらに4800円台で買い増した。それまでは短期で売り買いするデイトレードが中心だったので、1カ月近くポジションを持ち続けるのは初めての経験。早く利益確定をしたい思いにかられた。しかし、そこを我慢し、4950円近辺から利食い売りを始めた。約1カ月半の上げ相場で女性は2000万円超を手にした。元手の50万円が約40倍となった。
 後日、3000円しか残高がなかった銀行口座に2000万円を移した。「大金が入ると、すぐに銀行から電話がかかってくるよ」という話を聞いていたので、実際はどうなんだろうと思っていたら、入金から30分でかかってきた。「使途はお決まりですか。投資信託などどうでしょう」と勧められたという。
 そうこう話しているうちに、午後9時30分が近づいてきた。女性はパソコンを操作し、金価格だけでなく、ガソリン価格などもチェックする。今から発表される米国の雇用者数が市場の事前予想を上回っていればドル高要因に、予想を下回ればドル安要因となる。一般にドル安だと金価格は上がるが、同時に円高にも振れているので東京金にとっては価格下落要因となる。予測は難しい。
 女性は話しながらいつのまにかに取引注文を出していた。金額にすると400万円。金価格は一度下落し、その後反転上昇すると予想し、売りと下値での買いを注文したのだ。
 9時30分、雇用統計が発表。結果は市場の事前予想を下回り、ドル全面安の展開となる。予想とは逆の展開だ。女性の動作もにわかに慌ただしくなる。15分ほど経過した時点で「ロスカットします」と宣言。含み損となった売りポジションの解消と買い注文の取り消しを行う。その後も注文を入れたが、わずか50分ほどの取引で40万円ほどの負けとなった。
 女性は「『35歳で1億円』がいまの目標。50万円から2000万円にできたのだから、可能なはず」と話す。リスクを承知で当面は金先物で増やす考えだ。「今日の結果は悔しいけど、市場が開いている朝の4時までは起きています」と帰路についた。

 ◇試行錯誤し王道投資に

 翌日、新宿の喫茶店。今度は60歳の男性から話を聞く。男性は東証株価指数(TOPIX)といった市場全体の値動きを示す指数(インデックス)通りのリターンを目指す「インデックス投資」で、長期分散投資に徹している。王道といえる投資スタイルだ。金融資産は定期預金も含めて約1億円。
 男性は05年に転職、その際に3000万円の退職金を得た。低金利の銀行に預けるよりは少しでも増やしたいと思って投資の勉強を始めた。それまでの投資経験は1980年代のバブル前に電機メーカーなどの株を買った程度。しかも、そのときの株はバブル崩壊後の価格下落で最近まで塩漬けとなっていた。
 当初、男性は「何かもうかるものに投資したい」と考え、海外のヘッジファンドに投資することにした。インターネットで購入できる業者をみつけて、香港で海外口座を開いた。投資金額は1万ドルからだった。ヘッジファンドは、株式などの相場が上げ下げするなかでも絶対収益を目指すとする。男性も年10%のリターンは目指せると思っていたという。
 だが、違った。08年のリーマン・ショックに見舞われたこともあるが、「いくつもやった結果、意外ともうからないと分かった」という。直近で投資額から5割以上上がったファンドもあるが、3割以上減っているファンドもある。また、利益の2割とされる成功報酬も意外とばかにならない。「運用成績がどんどん上がるなら、そのうちの2割を払ってもいいと思っていたが、そうでもなかった」。
 その後も中国株などいろいろ試した結果、海外ETF(上場投資信託)を使って、日本の他に米国、欧州、新興国の各市場に投資する現在のスタイルに落ち着いた。
 海外の証券取引所に上場されている海外ETFは、米S&P500などの株価指数、債券指数、REIT(上場不動産投資信託)、金など投資対象が多岐にわたる。指数を構成する全銘柄への投資と同じ効果が期待でき、分散投資のポートフォリオが作りやすい。
 ETFは品ぞろえが多い米国の証券会社を通じて購入している。手数料も低く、売り買いが楽にできるという。投資先の比率は金融資産全体の53%が株式。18%が債券。その他は不動産や預貯金だ。日本株は株主優待狙いの銘柄にとどめている。日本国債は財政不安もあり、買わない。投資比率のバランスを保つために、いまは欧州債券や新興国債券を少し買い増そうと思っている。
 運用開始初期の06年当時、年平均7%のリターンを上げ、それを15年間継続するとの目標を掲げていた。それはリーマン・ショックもあって断念。しかし、退職金から始まった資産運用は、転職後の所得も投資資金に加えているとはいえ、1億円にまで増えた。
 解約するのは70歳になって収入がなくなったときだと決めている。なかには運用成績が芳しくないものもあるが、売却せずに保有している。現在は子供たちも独立して生活に余裕があり、無理に換金する必要もないからだ。
 今後は「年400万円程度を投資資金として継ぎ足しながら、年間リターン4%くらいで回して、68歳で2億円にできれば」という。
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 高いレバレッジで一気に値上がり益を狙う投資と、長期投資で着実に資産を増やす投資。女性と男性の投資スタイルは対照的だ。投資開始時の年齢や元手の資金、それまでに保有している資産によって、とれるリスクも異なる。自分に合った投資戦略をみつけたい。