2013年

8月

27日

経営者:編集長インタビュー 横山周史 リプロセル社長 2013年8月27日号

 ◇海外展開に力点、2年後の黒字化目指す

 ヒト由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)の研究試薬などを手掛けるバイオベンチャー。2003年に設立され、今年6月26日、ジャスダックに上場した。初日は買いが殺到して売買が成立しないほどの人気だった。

── 会社立ち上げの経緯は。


横山 03年に京都大学物質細胞統合システム拠点長の中辻憲夫教授が、日本で初めて、体の組織や臓器の細胞に分化するES細胞を作りました。その中辻教授を中心に、ES細胞の技術を利用して再生医療や次世代の医療ビジネスをやっていこうと、ベンチャーキャピタルの出資を受け、当社を立ち上げました。事業を本格化させるために経営者を探していて、05年に私が社長に就任しました。
 ES細胞は、受精卵を使って作るので、倫理的な問題があります。この問題を解消し、皮膚細胞からiPS細胞を作ることに成功したのが、京都大学の山中伸弥教授です。山中教授がiPS細胞を作る時に使ったのが、たまたま当社のES細胞の培養液でした。


── 事業内容は大きく分けて二つに分かれますね。


横山 そうです。iPS細胞およびES細胞の技術を基盤とした「iPS細胞事業」と臓器移植などで必要になる「臨床検査事業」の二つです。売上比率は、だいたい8対2です。
 iPS細胞事業はさらに二つに分かれていて、一つは、iPS・ES細胞の研究に必要な培養液などの各種研究試薬の製造販売です。もう一つは、iPS細胞から作製する心筋、神経、肝臓などの細胞製品の製造販売です。臨床検査事業は、臓器移植をする際に必要な血液などの検査を病院から受託しています。


── 研究試薬事業の業績は。


横山 iPS細胞の培養液は、山中先生に使ってもらった効果が大きく、国内市場では圧倒的な存在です。ただ、海外市場は、海外の試薬メーカーの販売力が強く、まだ拡大できていません。海外市場の開拓・強化が今後の課題です。

 ◇豊富な品揃え

── 品質面の強みは。


横山 基本的に大きな違いはありませんが、他社に比べ品質管理が厳しいのが特徴です。培養液については、ほとんどのメーカーは、菌や異物が入っていないかを調べる簡易検査だけです。しかし当社では、生産単位ごとに実際に細胞が培養できるかまで検査しています。
 品揃えが豊富なのも強みです。培養液は、例えて言うなら細胞の餌です。毎日与えないと細胞が死んでしまう。このため研究者は土日も休めません。そこで週3回与えるだけで細胞が育つ培養液を作りました。
 それから、動物由来成分を含まない次世代培養液「ReproXF」を7月16日に発売しました。


── なぜ動物由来成分を含まない製品を作ったのですか。


横山 製薬会社のニーズがあるからです。動物由来だとその動物が感染症にかかっていた場合、培養したiPS細胞に感染し、移植後に発症するリスクがある。それを避けるためです。


── iPS細胞事業の中の「細胞製品」のビジネスモデルは?


横山 iPS・ES細胞から作製したさまざまな細胞を製薬会社に販売しています。主力は、製薬会社のニーズが高い、心筋、神経、肝臓の3種類です。製薬会社はその細胞を使って、新しい薬が効くか、効かないか、副作用や毒性はないかといった薬の評価をしています。この手法によって、製薬会社は薬の開発期間を短くできるメリットがあります。
 細胞製品も品質が大切です。こちらも生産単位ごとに検査を徹底しています。例えば、心筋細胞であれば、解凍して実際に動くかどうか必ずチェックしています。


── 臨床検査事業はどうですか。


横山 主に、腎臓や骨髄移植などの移植で、臓器提供者と移植を受け取る患者さんの血液や白血球の型が適合するかどうかの検査を手がけています。移植数はそんなに増えるものではないので、臨床検査も急成長するものではありません。また、昔からあるビジネスモデルなので、大手の検査会社がやらないようなところに重点を置いています。
 安倍首相は4月19日の成長戦略スピーチで、iPS細胞研究に対し、10年間1100億円程度の研究支援を行うことを発表した。


── 現在のiPS細胞の市場規模はどの位ですか。


横山 グローバルで見ると、細胞製品は今は数億~10億円規模。試薬はもう少し多くて、もしかしたら100億円以上あるかもしれない。将来的には、細胞製品も試薬もそれぞれ数百億円の市場になると思います。


── 今後の課題は。


横山 製品はある程度開発できたので、それをきちんと市場拡大の流れに乗せることです。当社の日本と海外の売上比率は、試薬が9対1、細胞が半々位です。しかしグローバル企業を目指すならば、この比率を市場規模に合った1対9に逆転させる必要があります。海外の販売拠点は、現状ボストンだけですが、さらに増やしていくつもりです。
 13年3月期の連結売上高4億2000万円を16年3月期には14億7700万円に伸ばし、連結黒字化を目指しています。今は2年後の拡大に向けて、投資のアクセルを踏む時期です。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=富田頌子・編集部)

 ◇横顔

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか
A 36歳の時にこの会社に入りました。30代前半は住友スリーエムでサラリーマン、後半はここの社長です。住友スリーエムでは、薄型テレビ関連の新規プロジェクトを担当していました。
Q 最近買ったもの
A 自宅用に画面サイズ23インチのパソコンを買いました。画面が大きいとスクロールの回数が減り、作業効率があがるからです。
Q 休日の過ごし方
A 土日のどちらかは、スポーツジムに行き、筋トレと水泳をしています。あとは、子どもと買い物に行きます。
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 ■人物略歴
 ◇よこやま・ちかふみ
 大阪府出身。1996年東京大学工学部応用化学科博士課程修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーや住友スリーエム株式会社で勤務。2004年株式会社リプロセル入社。事業開発部長を経て、05年から現職。45歳。