2013年

9月

03日

特集:本当に強い株・投信 第1部 日本株編 2013年9月3日特大号

 ◇「スピード違反」の調整局面 新たな日本株買いのチャンスは今

桐山友一
(編集部)

 日本株市場の調整が続いている。8月22日現在の日経平均株価終値は1万3365円17銭。5月23日に一時1万5942円60銭の高値を付け、その後1400円超も下落した「5・23ショック」を経て、現在はピークから約16%超下落した水準にある(終値ベース)。昨年11月の衆院解散以降、約6カ月にわたり、ほぼ一本調子で6600円超もの上昇を続けた「アベノミクス相場」。その熱気は今は失せ、市場に様子見ムードが漂っている。

 8月はもともと夏休みなどもあって売買が手薄なうえ、今年は9月以降に重要なイベントが続々と控える。その一つが、9月17~18日に開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)だ。リーマン・ショック(2008年)後に米連邦準備制度理事会(FRB)が続けてきた量的緩和だが、このFOMCで緩和縮小を決めるかどうかが大きな焦点となっている。景気に及ぼす影響を巡ってさまざまな思惑が交錯するなかで、足元の米2年債金利の低下が進み、これが円高の一因となって日本株を下押ししている。
 9月9日には日本の4~6月期の国内総生産(GDP)2次速報値も発表される予定で、安倍晋三首相が今秋にも来年4月以降の消費増税を判断する重要な指標の一つとなる。また、大和証券のまとめでは、今年4~6月期決算をほぼ終えた8月9日時点で、8割の企業が13年度通期の経常利益予想を据え置き。上方修正企業は13%にとどまっており、事前の期待が高かった分、市場が商いに慎重になるのも無理はない。日本株の上昇を牽引してきた外国人投資家は、8月9日まで3週連続で売り越している。アベノミクス相場が始まって以降、初めてのことだ。

 ◇明確な日銀の緩和姿勢

 だが、5・23ショックの調整が深いのは、そもそもアベノミクス相場の上昇ペースが速すぎたことも要因だ。相場の基調を測る200日移動平均線との乖離率をみると、今年5月の高値圏では40%を超える状況が続いていた「明らかなスピード違反」(東海東京調査センターの隅谷俊夫・投資調査部長)。過去の相場では20%を超えると大幅な調整に見舞われたが、今回は民主党政権時を経て長く続いた市場低迷の鬱憤が、それだけ強く吐き出されたと言えるのかもしれない。
 今後の日本株市場の先行きを見通すうえで、参考になりそうなのは小泉郵政解散(05年8月)後の相場の動向だ。06年4月に高値1万7563円を付けるまで、約8カ月間にわたって5800円近く上昇し、上昇幅や期間がアベノミクス相場にほぼ類似する。郵政解散後の相場はその後、一時19%下落する局面はあったものの、徐々に下値を切り上げていく形で値を戻し、10カ月後の07年2月にはとうとう上抜いた。当時も今も米経済の拡大に支えられた景気回復局面にあり、今後の日経平均株価も同じような展開をたどる可能性は十分にある。
 隅谷部長はさらに、当時と現在の相場の相違点に着目する。それは、日銀の金融緩和に対するスタンスだ。郵政解散後の相場では、上昇基調をたどっていた06年3月、日銀が量的緩和の解除を決定した。一方、アベノミクス相場では今年4月、日銀の黒田東彦総裁が「異次元緩和」を発表。国債の大量購入などによってマネタリーベース(資金供給残高)を2年間で2倍にする目標を打ち出し、金融緩和に取り組む姿勢は明確だ。隅谷部長は「マネタリーベースの増加が銀行の貸し出し増につながるまでにはタイムラグがある。金融緩和の効果が表れてくるのはこれからだ」とみる。
 市場の期待に届かなかったとはいえ、企業業績も決して悪いわけではない。日経平均株価の構成銘柄で、今年8月現在の1株当たり予想利益は約900円。過去の水準と比較すれば07年並みに回復しているが、当時の株価は1万7000~1万8000円台にあった。
 つまり、足元の業績予想をベースとすれば、今年度内には1万7000円台にまで株価が上昇してもおかしくはない。むしろ、アベノミクス相場が始まるまでの株価が割安に放置されていたため、あまりに急すぎる相場の上昇に直面して調整入りを余儀なくされたとみることもできる。
 そもそも、日本企業の13年度の1株当たり予想利益は、TOPIX(東証株価指数)の構成銘柄で前年度比55・7%増と、世界の主要市場でもダントツの増益率を誇っている。さらに、企業業績の上方修正余地も今後十分にある。それは、13年度通期業績見通しで為替前提を公表している企業の大半が、今年4~6月期決算を終えた8月時点でも1ドル=90~95円、1ユーロ=120~125円と保守的な水準に置いているからだ。
 例えば、トヨタ自動車は今年4~6月期決算では1ドル=99円、1ユーロ=129円を実績としたが、7月以降は1ドル=90円、1ユーロ=120円の前提に据え置いたまま。
 しかし、大和証券の試算によると、対ドル、ユーロで1円の円安が進行すれば、主要200社の経常利益を0・8%、製造業に限れば1・2%押し上げる効果がある。現状の1ドル=98円、1ユーロ=130円前後の為替レートが年度内に続くだけでも、足元の業績予想は上方修正される可能性が高いといえそうだ。

 ◇年金の運用見直しも

 新たな日本株買い需要への期待も出てきた。110兆円超の公的年金を運用する「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)が今年6月、国内株式への投資割合を11%から12%へ引き上げるなど運用方針の見直しを発表したが、「国家公務員共済組合連合会」(KKR)など3共済にも運用方針見直し観測が浮上。KKRの国内株式への投資割合は現在5%と低く、大和証券の塩村賢史シニアストラテジストは「仮にGPIF並みに国内株式の投資割合を引き上げれば、KKRだけで6000億円程度、3共済全体に見直しの動きが広がれば1兆3500億円程度の買い需要が発生する」と話す。
 さらなる日本企業の成長を期待して、投資余地のある銘柄は何か。
「過去4~5年の間に大きなリストラを経験した会社」と指摘するのは、UBS証券ウェルス・マネジメント部の居林通リサーチ・ヘッド。例えば、09年にグループ一般社員約1万人の賃金の最大5%削減に踏み切った日本電産。その効果はすでに表れており、今年7月の4~6月期決算の発表と合わせ、14年3月期通期の業績予想を上方修正した。ロームは昨年、初の希望退職を募集する構造改革に取り組んだほか、商船三井は今年1月、長期契約のないフリーのばら積み船の削減などで1010億円の特別損失計上を発表するなど、リストラの最中にある企業も多い。居林リサーチ・ヘッドは「固定費の削減は先々、業績の改善として花が開くだろう」と評価する。
 今後の世界経済を展望すれば、日米欧で続く異例の金融緩和が「米国が先頭を切って正常化していくプロセスに入る」(メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジスト)。
 米金融政策の正常化は経済構造も正常に戻ることを意味し、本格的な米景気の拡大は輸出などを通じて日本をはじめ世界各国に恩恵をもたらす。日本株市場が調整局面にある今、改めて投資対象として考えるいいチャンスなのかもしれない。