2013年

9月

10日

ワシントンDC 2013年9月10日号

 ◇首都の石炭火力発電所巡りCO2削減と政治的駆け引き

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 オバマ大統領は6月末、気候変動対策の新たな行動計画を首都ワシントンDCにあるジョージタウン大学で発表した。発電所向けの新たな二酸化炭素(CO2)排出基準の策定等を通じ、連邦政府が率先して化石燃料への依存度を下げていく方針を明らかにした。ところが、政府が率先してこれを行うことの難しさを象徴する建物が、ここワシントンDCに存在する。

 連邦議会議事堂から約500メートル、わずか数ブロック南に位置する「キャピトル・パワー・プラント」という名の発電所がそれだ。ワシントンDCで唯一の石炭火力発電所で、操業開始は1910年にさかのぼる。電力供給は能力の問題により52年に中止されたが、現在も連邦議会の他、議会図書館、議員会館など「キャピトルコンプレックス」と呼ばれるこの地域の23の連邦機関の建物に水蒸気と冷却水を供給し続けている。運営方針は議会に委ねられ、実際の管理・運用は議事堂建築監が司る。

 この発電所のCO2排出削減を巡り、2000年には石炭の燃料利用を取りやめることも検討された。しかし、石炭採掘州を代表する上院議員らの猛烈な反対にあい、断念。その後、07年に当時下院議長だったペロシ議員(民主・カリフォルニア)が提唱した議会の環境改善運動を通じ代替燃料への転換が図られた。ただ、重油への転換が主であったため、CO2削減への貢献度は限られたものとなった。

 より環境負荷の低いガス火力発電への完全転換を図るには、追加で相当規模の設備投資が必要とされたことも足かせとなったようである。そして共和党が下院の過半数を占めて以降は、この改善運動に議会予算は割り当てられていない。
 冒頭の気候変動対策に基づくCO2排出基準が義務付けられれば、基準を満たす改修のための設備投資が全米の既存石炭火力発電所において必要になると言われる。なお、CO2排出削減においては、早期よりこれに取り組んでいた日本企業が世界でも最高水準の技術を有すると言われ、米市場での設備投資需要を掘り起こすビジネスチャンスの到来とも目される。

 ◇無視できない石炭産業

 しかし実際のところは先々の政策の不透明性や、近年のシェール革命により安価な天然ガスの供給余力が増しガス火力の経済性が高まった。これにより石炭火力発電からガス火力発電への転換が主流となり、急速に進んでいる。石炭産業からすると、まさに逆風の環境である。
 結局のところ、今回の気候変動対策は米国の石炭産業の行方をますます不透明化させており、対立する共和党のみならず、石炭採掘州であるウェストバージニア州選出の民主党ジョー・マンチン上院議員などからも、反対の声が上がっている。
 14年の中間選挙に悪影響を及ぼすことを懸念する民主党議員は他にも多い。再生可能エネルギーの推進といった気候変動対策もゆくゆくは電力料金の上昇を招きかねず、これも政治家には懸念材料だ。
 そもそも政策遂行のお膝元であるワシントンDCの発電所を巡ってですら混迷があるような状況で、実際に対策を推し進めていくことができるのか、という疑問の声も上がっている。
 ちなみにキャピトル・パワー・プラントについては、キャピトルコンプレックス内への52年以来となる電力供給再開とガス火力発電への完全転換の申請が承認されるに至ったが、具体的な工事計画は依然白紙状態である。議会からの工事予算の割り当ても見通しがついていない状況だ。