2013年

9月

17日

ワシントンDC 2013年9月17日特大号

◇シリア介入決断のオバマ氏 議会承認を求める深謀遠慮

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 オバマ米大統領は8月31日、シリアの化学兵器使用は黙認できないとして、軍事介入の意思を表明した。同時に介入の承認を議会に求めるとしたのだが、これが大きな驚きとなった。米国の戦争権限法は大統領の軍事行動に対して、議会への事前説明の努力や事後48時間以内の報告義務を定めているが、事前承認は求めていないからだ。

メディアなどを中心に上がったのは次のような声だ。軍事介入に慎重姿勢をとる議員は少なくなく、議会の承認は難航するに違いない。否決されれば国際社会における米国の威信が地に落ちる。議会採決までには時間を要する見通しで、防衛を固める時間をシリア・アサド政権に与えることになる──。
 しかし、この種の批判は承知のうえで決断したと見るべきだろう。少なくとも軍事行動にとって重要なはずの時間的制約については、軍を統率するデンプシー統合参謀本部議長が「問題はない」としている。
 加えて、否決リスクがある議会承認にこだわるのは、各種報道も指摘するように、最重要同盟国である英国の離脱から受けた衝撃があろう。英議会は8月29日、対シリア軍事行動に関する政権の動議を否決した。背景にあるのはイラク戦争での失敗から引きずる厭戦(えんせん)気分である。
 オバマ大統領は、英国以上に根強い米国社会の厭戦気分と向き合わずに軍事介入に踏み切れば、世論の支持を得られず失敗すると認識したという。失敗を繰り返さないためには、軍事行動の責任を政権だけが背負うのではなく、米議会との共同責任にする必要があると判断したのである。
 一方、メディアや識者の考えと異なり、オバマ大統領は議会での否決リスクをそれほど懸念していないのではないか。
 まず与野党とも上下両院の指導部は事前承認を支持している。化学兵器使用の認定も、9月1日にケリー国務長官がアサド政権によるサリン使用の証拠を得たと明言し、政府から非公開で機密情報の提供を受けた議員の多くも理解を示している。

 ◇共和党が負う「否決リスク」

 オバマ政権は、軍事介入を否決すれば「化学兵器を使用しても国際社会から代償は求められない」という誤ったメッセージを他国の独裁者にも送ってしまうと訴えている。このように極めて責任が大きいなかで、何人が不支持に回るのだろうか。しかも個々の議員の投票行動が記録・公開される可能性も高い。
 こうして見ると、今回の大統領の決断は共和党にとっても大きなリスクなのである。その動向を左右するのが2010年の中間選挙から台頭した共和党のティーパーティーだ。
 共和党の穏健派やブッシュ政権の外交・安全保障政策に影響を与えていたネオコン(新保守主義)派の議員は、オバマ政権の方針を支持すると思われる。本音ではもっと積極的な軍事介入を求めているくらいだ。だが、米国の軍事行動への賛否を示す初の機会となるティーパーティー派は、そもそも外交・安全保障への関心が低い。これがそのまま投票行動に反映されるなら、多くが不支持に回ると見られる。
 下院を制する共和党の中でティーパーティー派による不支持が多数を占めれば、同党の外交・安全保障政策が本当に内向きになったという強い印象を米国民に与える。これは14年の中間選挙や16年の大統領選に影響してくるだろう。特にティーパーティー派からの支持を得ながら次期大統領選へ名乗りを上げようとしている共和党議員にとっては、大統領となる資質を問われる初めての機会になりそうである。