2013年

9月

17日

特集:墜ちる中国 2013年9月17日特大号

 ◇“影の銀行” 「暗黙の保証」で拡大 綱渡りの金融システム

秋本裕子(編集部)
井出晋平(毎日新聞中国総局)

 「元本割れしたことはないから大丈夫」。北京市内に住む大学職員の男性(43)は、民間銀行の窓口でそんな売り文句につられ、年率4・3%、期間6カ月の理財商品を、6月初旬に5万元(約81万円)分購入した。

その直後の6月20日、上海の銀行間でやりとりする短期金利が13%台に急上昇。不安に駆られて銀行に電話したが、銀行員から「自分も投資しているから安心しろ」と言われたという。男性は株取引もしているが、理財商品に軸足を移した。「国の指導者の家族も買っているはず。最終的には国が破綻させないだろう」と楽観視する。
 男性が購入した理財商品の目論見書には「上位格付けの債券に投資する」と書かれているだけで、投資先は不明。銀行窓口でも「ネットのホームページで購入する方が早い」と案内するなど、リスクの説明はほとんどされていない。
 だが、こうしたずさんな販売にもかかわらず、定期預金の金利が物価上昇率とほぼ同じ中国では、定期預金のような感覚で購入する人が多い。最後は政府が助けてくれるはず、という「暗黙の保証」も一因だ。

 ◇理財商品で自転車操業

 中国のシャドーバンキング(影の銀行)が昨年来、国際的に問題になっている。通常の預金や融資が当局の厳しい規制を受けるのに対し、理財商品など規制がほとんどない金融商品が大量に販売されている。こうした不透明な金融市場をシャドーバンキングと呼び、その膨張が金融危機を招くのではないかと懸念されている。
 昨年12月には華夏銀行の上海支店で理財商品の元本が支払われず、取り付け騒ぎ寸前になったのをはじめ、各地でトラブルが報じられるようになっている。
 この問題には、「高いレバレッジ(手持ち資金より多くの金額を投資すること)はかかっておらず、販売先も中国だけなので、米サブプライムローン問題のような金融危機には陥らない」との見方も多い。
 だが、富士通総研の柯隆主席研究員は、そうした見方に反論する。柯氏は「中国に投資している日本企業2万5000社のうち、5分の2は合弁。日本企業は稼いだ資金を合弁先の中国企業に預けている場合が多く、過剰設備に悩む企業が、余剰資金を理財商品や不動産投資などに振り向けている。日本企業も直撃を受ける」と警鐘を鳴らす。
 すでに、理財商品では自転車操業に陥っているケースも報告されている。新規の販売で集めた資金が既存商品の元利払いに充てられているという。

 ◇不良債権処理で市場混乱

 理財商品や信託商品で集められた資金は、地方債を発行できない地方政府がインフラ開発のために作った「融資平台」と呼ばれる投資会社や不動産開発などに融資されている。
 融資平台が発行する「城投債」の発行額は増加する一方だ。ある調査によると、城投債の発行額は4兆元の大型投資が実施された2009年以降に急増し、12年には9000億元(約14・6兆円)を超えた。
 本格的な償還は16年以降に始まり、19年に4500億元(7・3兆円)近くとピークを迎える。今年から15年にかけても毎年1500億元(2・4兆円)規模で満期が到来するため、償還や借り換えが円滑に進むかが焦点になる。問題は、焦げ付きが発生する場合、その規模や時期などがまったく想像つかないことだ。
 もし投資先の不動産開発が行き詰まって城投債がデフォルト(債務不履行)し、理財商品の償還ができなくなれば、取り付け騒ぎが起きる。それを避けるためには、銀行が肩代わりするしかない。あるいは、城投債をデフォルトさせないために、中央政府が地方政府に財政資金を投入するかもしれない。いずれにしても、最後は中央政府の出番になるだろう。
 一方、シャドーバンキングという「影」の部分だけでなく、「表」の部分、すなわち銀行の帳簿上の不良債権問題も深刻だ。表向きは中国の不良債権比率は約1%と低いが、すでに多くの産業で過剰設備が問題となっており、その裏に過剰融資が透けて見える。みずほ総合研究所の長谷川克之市場調査部長は、「中国の銀行貸出残高はGDP成長率以上のペースで伸びており、相当の過剰融資が存在する可能性がある」と指摘する。
 過剰な融資は不良債権として銀行にのしかかる。日本の例で分かるように多額の不良債権を処理するには、政府による支援が不可欠だ。その場合、政府が資金を調達するために「外貨準備を利用する可能性もある」(長谷川氏)。つまり、中国が保有する米国債の売却が議論の俎上(そじょう)に上る可能性もあるということだ。実際に売却に踏み切るかは別として、そうした観測が流れること自体が、世界の金融市場の混乱を引き起こしかねない。
 世界第2位の経済大国になった中国が危機に突入すれば、世界経済は大きな打撃を受ける。中国が抱える問題を対岸の火事とは言っていられない。

 ◇中国のシャドーバンキング

 貸し出し債権などを小口化した「理財商品」と、信託会社が組成した「信託商品」が2本柱。理財商品の満期は2週間から半年程度で、予想運用利回りは5%程度。主に個人や企業が購入対象。信託は期間1年以上と長く、利回りも10%前後と高い。購入者は大口の個人富裕層だ。
 政府・業界団体の統計によれば、2013年6月末の理財商品の残高は9兆元(約146兆円)、信託商品は同8.7兆元(約141兆円)とされているが、実際にはその数倍との見方も多い。
 このほか、企業が銀行経由で他の企業に貸し付ける「委託取引」や資産担保証券などもある。