2013年

9月

24日

特集:2013年度下期経済総予測 2013年9月24日号

 ◇五輪に沸く足元に広がるリスク

 

望月麻紀

(編集部)

 

 安倍晋三首相が消費税率引き上げの意思を固めた。首相は景気の腰折れを懸念して、一時引き上げに慎重になっていた。10月1日発表の日銀短観を最後の経済指標として確認した上で、同日発表する方針だが、計画通りに現行5%を来年4月、8%に引き上げる方針をすでに固め、9月10日には麻生太郎財務相、甘利明経済再生担当相に法人税引き下げの検討を含む経済対策のとりまとめを指示した。

 9月9日に発表された4~6月期の実質国内総生産(GDP)改定値は、年率換算で3・8%増と改善していたが、判断材料はこれだけではなさそうだ。

 

 日本時間の9月8日午前5時20分、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された国際オリンピック委員会(IOC)で、56年ぶりの東京での夏季五輪開催が決まった。自らも総会での招致演説で登壇した安倍首相は、決定直後、報道番組に出演。「世界中からたくさんの人が来る。経済成長、『第四の矢』と言ってもよい」と言い放った。

 

 東京五輪開催決定に自民党内からも、早期の判断を求める意見が相次いでいた。

 

 ◇株価最大2万3500円

 

 消費税率引き上げをも可能にするアベノミクス第四の矢、東京五輪は、株式市場でも好感されている。夏場は材料不足だったが、東京招致委員会によると、五輪関連の工事費4554億円、経済波及効果2兆9600億円に上るという。9日はご祝儀相場となった。

 

 ゼネコンや不動産など五輪関連銘柄を中心に買い注文が広がり、日経平均株価は前週末比344円高の1万4205円と大幅高となり、約1カ月ぶりの高値を付けた。今後の値動きはどうか。

 

 SMBC日興証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストは「過去のオリンピック開催国の株価推移を見ると、開催決定から半年程度は株価が上昇している例が多い」と分析している。

 

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鮎貝正弘シニア投資ストラテジストの調査では、前回の東京五輪以降の過去13回の五輪(メキシコシティ、モスクワを除く)で、開催地決定から開幕までの株式指数の上昇率は、先進国7カ国の平均は44・1%、新興国4カ国の平均は126・9%に達した。この上昇率のうち先進国で最大は米・アトランタ116・0%、最低は英・ロンドン8・6%だった。

 

 これらの上昇率を現在の日本株にあてはめると、開催地決定の日経平均株価を1万4000円と置けば、統計上の最大期待値は2万3500円、最低のロンドン並みでも1万8000円に達することになる。

 

 ◇開催国の例外的「通貨安」

 

 為替はどうか。

 

 通常、五輪の開催国は世界からマネーが流入して通貨高になるが、現在の日本は円安基調。その理由の一つは、米国がいま量的緩和の縮小に向かう一方、日本は逆に異次元緩和の入り口にあり、その結果から予想される日米金利差の開きがドル高・円安基調を招く。

 

 日本の貿易赤字も日系企業のドル買い需要を生み、円安に働く。

 

 さらにアベノミクス効果による株高、五輪効果による株高そのものも実は円安に働く。株高により外国人投資家が持つ保有日本株の円換算の時価がリスク許容量の限度を超え、為替リスクをヘッジする目的で通貨円を売る。その結果、円安になるのだ。

 

 日本が五輪開催国ながら円安に振れている背景には、こうした要因がある。

 

 しかし、五輪招致で一気に明るさが増したように見受けられる日本経済だが、実は足元に世界3大リスクが潜んでいる。

 

 最大のリスクが米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和縮小だ。9月開始とも12月開始とも言われる。市場が動揺し、米国の長期金利が上昇して債券安が伝播すれば、日本の長期金利も上昇(国債は急落)する可能性もある。

 

 シリアの内戦が長期化すれば原油価格を高騰させ、企業の業績や家計も苦しめる。中国はシャドーバンキング問題が明るみになったが、にわかに世界に緊急危機をまきちらす状況にはない。むしろ目先のリスクは尖閣諸島をめぐる日中間の緊張関係だ。尖閣諸島国有化で日中関係が最悪化してから、中国向け事業が回復傾向の日本企業は6割にとどまる(毎日新聞調べ)。

 

 かつてなら中東情勢不安などの有事は「ドル買い」が国際金融の常識だった。しかも現在の日本は対GDP比で200%、総額1000兆円を超える債務を抱える。ところが海外の投資家は、国家債務を大きく上回る「1400兆円の個人金融資産という厚いコクーン(繭)に守られていることに気づいている」(マーケット・アナリスト)。

 

 その結果、「有事の円買い」が起きてしまうのだ。日本の足元に潜む3大リスクには円高再来も付きまとう。

 

 ◇国際公約になった原発対策

 

 そしてもう一つ。国内の最重要課題の一つに原発事故による汚染水問題がある。東京電力は原発再稼働で収益力回復を狙っていたが果たせず、打つ手がない。金融機関からの融資の借り換え時期が10月、12月に迫るが、赤字体質から抜け出せず、借り換えの見通しが立たない。そんな中、汚染水問題も十分な対策が取られず、深刻化していった。

 

 汚染水問題だけでなく、東電の経営自体の見直しが必要な状況にある。破綻処理もうわさされるが、実行すれば国が原子力損害賠償支援機構に資金拠出した5兆円を返済する主体が消え、丸ごと国民負担となる可能性もある。

 

 BNPパリバ証券の中空麻奈チーフクレジットアナリストは「東電の方向性を考える最終局面に来ているが、事故直後の2年前に行うべきだった破綻処理を今になって行えば、かえって国民負担が増える結果にもなりかねない」と対応の難しさを指摘する。それでももう放置はできない。

 

 *    *    *

 

 2020年。福島第1原発では廃炉計画に基づき、溶けた核燃料の取り出しが始まる。中期財政計画は財政の健全性を測る指標、基礎的財政収支の20年度黒字化を目標に掲げている。そして、20年には五輪も成功させなくてはならない。いずれも日本が世界と交わした三つの公約だ。実現に向け13年度下期から着実に歩み進まなくてはならない。