2013年

10月

01日

エコノミストリポート:シリア攻撃回避 揺らぐ米国の中東覇権 2013年10月1日特大号

 

 ◇同盟国と反米国の独自行動誘発

 

池内恵

(東京大学准教授)

 

 シリア問題をめぐって、米国の政策が揺れ動いている。オバマ大統領はシリア攻撃を強硬に掲げながら、一転して議会に諮ると表明し、そこで生じた時間的猶予の間の外交交渉で、ロシアが提案した「シリア化学兵器の国際管理」に飛びついた。オバマ大統領の逡巡(しゅんじゅん)と急展開は、イラク攻撃に踏み切ったブッシュ前大統領とは対照的に、国際社会の複雑さを踏まえた慎重な外交を展開し、武力を行使することなく、解決の糸口を見いだしたとして評価される日が来るかもしれない。

 だが、当面は米国内で、「弱腰」あるいは「迷走」との批判が続くだろう。そして中東諸国には、介入に消極的で、指導力にも問題があるという印象を与え、米国の中東における威信や信頼性、そして影響力の限界を露呈させた。米国の中東における覇権の希薄化の過程を、世界は目撃しているのかもしれない。

 8月21日にダマスカス郊外で発生した化学兵器の大規模な使用は、オバマ大統領に困難な選択肢を突きつけた。オバマ大統領はアサド政権に対し、化学兵器の使用を「レッドライン(越えてはならない一線)」だと昨年8月より言い続けつつ、直接的関与を極力回避してきた。それだけに、自ら設定した「レッドライン」を越えても米国が何ら行動をせず、大量破壊兵器を使用してもなお罰せられないと見なされれば、中東の同盟国と反米諸国の双方との関係に大きく影響を及ぼしかねない。………