2013年

10月

01日

ワシントンDC 2013年10月1日特大号

 ◇50年で変容した人種差別問題 「新たな平等」を求める人々

 

及川正也

(毎日新聞北米総局長)

 

 「私には夢がある」──。8月28日、白人と黒人の平等な社会実現を訴えた1960年代の公民権運動の黒人指導者、マーチン・ルーサー・キング牧師がかの名演説を行い、25万人が参加したワシントン大行進から50年を迎えた。奴隷制度の残滓である人種差別がいまもはびこる米国社会。しかし、「白人対黒人」の構図で語られた差別問題は50年を経て大きく変容を見せている。

 2007年3月4日、08年大統領選出馬を表明したオバマ氏(当時、上院議員)は「黒人の聖地」でもある南部アラバマ州セルマを訪れた。セルマは65年3月、公平な投票権を求める黒人らのデモ行進を警官隊が警棒や催涙ガスで阻止し、流血騒ぎになった「血の日曜日」事件が起きた場所。この事件は同年の投票権法成立を後押しした。

 この日は「血の日曜日」記念行事があり、大統領選でライバルのヒラリー・クリントン上院議員と夫のクリントン元大統領も参加した。それぞれの演説会場をのぞくと、ヒラリー氏の参加者はまばらだったのに、オバマ氏が演説した教会前には1000人以上の人だかりができ、「オバマ旋風」を予感させた。地元紙『モントゴメリー・アドバタイザー』のアルビン・ベン記者が「オバマ氏は『黒人のケネディ(元大統領)』だ。カリスマだよ」と興奮気味に語ったことを覚えている。

 

 ◇黒人優遇策に「逆差別」の声

 

 あれから6年半。大統領に上り詰めたオバマ氏は、ワシントン大行進から50年を記念する式典に出席していた。リンカーン記念堂前の記念演説で「彼らの行進のおかげで、市議会が変わり、州議会が変わり、連邦議会が変わり、そう、そしてホワイトハウスが変わった」と誇らしげに語った。

 しかし、オバマ氏と支持者が「イエス・ウィー・キャン」と掛け合いをした08年大統領選の熱狂はない。地元ジョージタウン大学で米国史を教える黒人のモーリス・ジャクソン准教授は「演説で我々を感動させてもらう必要はもうない。オバマ大統領には政策を実行してほしい」と冷めた見方を示した。

 64年の公民権法で公共施設での差別が禁止となり、教育や雇用で黒人を優遇する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」が広がった。65年には黒人差別が激しかった南部州を中心に、黒人の投票権が阻害されないようにする規定が投票権法に盛り込まれた。

 だが、「格差」はいまも存在する。黒人の平均世帯所得は白人の約6割にとどまり、持ち家率も白人の7割に対し黒人は5割に満たない。大学卒業率は白人35%、黒人21%。犯罪率も高く、黒人は総人口の14%だが、刑務所収監人口だと37%を占める。

 一方、差別解消策については、「古い平等主義」「自立を阻害する」などの指摘が出てきた。連邦最高裁は今年6月、差別是正措置を採用するテキサス大学の入学選抜方式を「逆差別」と白人女性が訴えた訴訟で、投票権法の規定を違憲とする判決を下した。

 リンカーン記念堂で8月24日に開催された関連記念イベントには数万人が集まったが、参加者は多種多様だった。「60年代に逆戻りだ」と憤る黒人女性がいる一方、「ゲイへの偏見を止めるべきだ」と訴える学生、移民改革を迫るヒスパニック(中南米系)女性、「多くのホームレスを救いたい」という白人女性、アジア人の人権を守ろうというインド系男性。「新たな平等」を求める声が次々と上がった。

 もはや声を上げる「少数派」は黒人に限らない。「黒人優遇策」は大きな岐路を迎えている。