2013年

10月

08日

ワシントンDC 2013年10月8日号

 ◇シリア情勢で合意に至るも威信を失ったオバマ大統領

 

堂ノ脇伸

(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 

 緊迫していたシリア情勢は、米国のケリー国務長官とロシアのラブロフ外相による会談で、シリアの化学兵器を巡る合意に至り、とりあえず息をついた。米国は軍事介入せずにシリア政府から化学兵器廃棄の言質を取りつけることができ、オバマ政権もこれを自らの外交上の成果としたいだろう。しかし、実際はロシアに主導権を握られたままでの合意で、ここに至るまでの政権の迷走ぶりとあわせオバマ大統領の求心力の低下を懸念する声は多い。

 その迷走ぶりは、大統領自身が軍事行動の必要性を強く訴えながらも突如これを議会に諮ると言い出し、さらに内外世論の支持が得られないとみるや、今度はロシアの提案に乗る形で自らが求めた決議の延期を議会に要請するという形で表れた。軍事介入を支持したフランスなどは二転三転する米国の態度に振り回された感がある。加えてオバマ大統領の曖昧さを印象づけたのがいわゆる「レッドライン発言」だった。

 昨年8月、混迷を続けるシリア情勢への煮え切らない対応を問われ、大統領は「仮にアサド政権により化学兵器が使用されたならば、それは越えてはならない一線(レッドライン)を越えたこととなり、米国としても然るべき対応をすることになろう」と述べた。ところが今年9月4日、「レッドラインを引いたのは、自分ではない。世界が引いたのだ。化学兵器禁止条約に世界人口の98%を占める国々(189カ国、シリアは締結していない)が署名をした時点で、世界が一線を設けたのだ」と発言を覆したのである。

 レッドラインを引いたのは、他ならぬ大統領自身だったはずだ。自らの過去の発言を棚に上げて、軍事介入決断の責任から逃れようとするオバマ大統領の意図を感じ取った向きは少なくない。また、本来は必要とされていない議会への事前承認を求めたのも、政権の孤立化を回避する優柔不断な姿と映ったようだ。

 

 ◇ロシアに救われた

 

 そもそもオバマ大統領にとって外交政策が最重要課題ではないことは、過去4年半の政権運営を見ても明らかだ。

 前ブッシュ政権時代、米国はイラク、アフガニスタンと2度にわたる海外への軍事介入を行った。その後、リーマン・ショックもあり、国内の経済・財政・社会体制が疲弊した。オバマ大統領は、ここからの立て直しこそが自らに課された役割と認識し、山積する国内問題への取り組みを優先するあまり、外交には極めて無関心、あるいは「弱腰外交」というレッテルを貼られることも半ば甘んじて受け入れていたフシがある。

 とにかく軍事費の支出を伴うような面倒には、極力関与したくないという姿勢が見てとれたのである。

 その大統領自身が、議会や国内外の支持を得られないままに軍事介入の必要性を先頭に立って説かざるを得なくなったのは、皮肉としか言いようがない。さらに、窮地に陥った政権に解決策を提案したのがロシアというのも皮肉であった。下院情報特別委員会のロジャース委員長(共和党)など、国際社会における米国の威信が低下しロシアの地位が相対的に高まったとして、今回の一連の対応に批判的な立場をとる議員も少なくない。

 9月13日にホワイトハウス内で行われた安全保障に関するブリーフィングの席でオバマ大統領は「自分は目的を達するに至った過程ではなく、結果を重視している」と述べたとされるが、一連の過程で大統領自身が失った、あるいは失いつつあるものは想像以上に大きいのかもしれない。