2013年

10月

08日

特集:資産フライト&海外進学 2013年10月8日号

 ◇不動産も子供も海外へ 儲けと教育は外国で得る

 

桐山友一

(編集部)

 

 海外を目指す日本人が増えている。個人が目指すその先にあるのは「不動産」と「進学」だ。

 千葉県市川市で不動産コンサルタント会社を経営する浦田健さん(43)。2011年11月にマレーシアの首都クアラルンプールで「ブレビルド」と呼ばれる建設中のコンドミニアム(分譲マンション)の1室を購入したのを皮切りに、他にもクアラルンプールでコンドミニアムをさらに2室、英国ロンドンでコンドミニアム1室、今年8月には米フロリダ州のマイアミに中古コンドミニアム1室を購入契約した。すでに自らの資産の半分以上を、海外の不動産など外貨建て資産が占めている。

 浦田さんが相次いで海外の不動産を購入したのはなぜか。大きな理由の一つが保有資産の分散だ。

 最初に海外不動産を購入したのは、1ドル=80円台を割り込む超円高期。「いずれ円安が来る」と予想し、外貨建てで見た資産の目減りを防ぐ狙いだった。不動産を選んだのは「株のように価値がゼロになることはない実物資産だから」。その後、昨年末からの安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」によって、今年5月には一時1ドル=100円超まで円安が進行。日本円の対マレーシア・リンギット相場はこの1年間、約2割上昇し、円建ての資産価格も引き上がった。

 日本の景気が回復基調にあると言われるなかでも、海外に新規の物件購入を続けた。「景気は良くなっているようにみえるが、為替の変動によって日本企業の利益が増えているだけ。付加価値を生み出して経済成長しているわけではない」と浦田さん。さらに、日本の人口減少に歯止めをかける政策や外国人の投資を呼び込む政策に有効性を見いだせないことも気がかりな点に挙げる。

 マレーシアで買った3物件の価格は、117万~123万リンギット(約3600万~3800万円)。マレーシアの住宅価格は昨年、中国の景気減速の影響などで伸び率が鈍化したが、それでも前年比で5%超の上昇を続けている。コンドミニアムはそれぞれ来年以降に完成予定で、浦田さんは今後5年間で2割以上の価格上昇を期待。また、完成後は現地の駐在員など向けに賃貸することも検討する。また、29万5000ドル(約2950万円)で購入した米国の物件は賃料収入で年10%、ロンドンでも賃料で年6%の収益を見込んでいる。

 

 ◇家族で移住も

 

 浦田さんがクアラルンプールの物件を購入した理由はもう一つある。妻(42)と中学1年の長女(13)、小学3年の長男(8)とともに来年3月、家族でマレーシアへ移住するつもりだ。きっかけは昨年、シンガポールに住む日本人の知人を訪ねた際、知人の子供がマレー系や中国系、欧米系などさまざまな友達と英語を介して遊ぶ姿を見たこと。多様な民族や人種のなかでコミュニケーションを取ることは、子供の成長や将来に必ず役に立つ。そう感じて家族を説得し、「MM2H」と呼ばれるマレーシアの長期滞在ビザを申請。購入したコンドミニアムの一つに居を構える予定にしている。

 富裕層や投資家の動向に詳しい船井総合研究所の小林昇太郎・経営コンサルタントは「国内の不動産投資の延長として、海外も選択肢に考える投資家が増えている。現役時代に海外赴任したリタイア層など、海外経験のある人が増えていることも背景にあるのではないか」と指摘する。例えば、マレーシア不動産を紹介する「フォーランドリアルティネットワークジャパン」(東京都千代田区)では、物件購入の成約が多い月は40~50件にのぼる。円安が進行した今年に入ってもすでに成約は100件を超え、前年に比べて1~2割増のペース。大半が将来の値上がりを見込んだ投資目的で、粕谷朋弘社長は「日本の不動産投資は高額で手が届かなくても、マレーシアなら買えると考える人が多い」と話す。

 

 ◇リスクは覚悟で投資

 

 ただ、不動産投資には国内ですら家賃滞納や物件管理、値下がりするリスクがある。海外であればさらに、為替変動や税制などが突如変わるリスクも加わる。為替変動の直撃を受けた経験を持つのは、東京都江東区の不動産投資家、鈴木学さん(44)。国内に2棟の賃貸マンションのほか、オーストラリアやフィリピン、タイ、米国にコンドミニアムや戸建て住宅を所有するが、オーストラリアで購入した戸建て住宅の豪ドル建て住宅ローンを07年、円建てローンに切り替えたことが発端だ。当時の豪ドル金利は8%台だったのに対し、円金利は2%台。金利負担の軽減を目的に通貨を切り替えた。

 しかし、08年のリーマン・ショック後に急速に円高が進行すると、円建てで評価した現地の物件価値が担保割れに。担保割れ部分に相当する約600万円の現金返済を求められたが、ほどなく豪ドル高に転じたために、担保価値が戻る豪ドル建てローンへ再び切り替えてしのいだ。鈴木さんはその後の対策として、ローンを組む場合は現地通貨建てを原則とするが、「日本の企業がグローバル化に本気になるなか、個人の資産運用もグローバル化しておかしくない」と話す。

 

 ◇留学フェアの参加倍増

 

 9月22日、東京・青山のセミナールーム。海外留学を支援する「ICC国際交流委員会」が主催した「中学・高校留学フェア2013」に約300家族が訪れ、オーストラリアやニュージーランド、カナダの学校の説明に耳を傾けた。小・中学生の家族が対象で、現地での滞在費まで含めれば長期の留学費用は決して安くない。それでも、フェアを始めた1993年以降で参加者数は過去最多。昨年から倍増したといい、同委員会の曽根靖雄代表は「企業活動などがグローバル化するなかで、親の世代が海外でも通用する英語教育の必要性を感じ始めた」と話す。

 文部科学省が今年2月に発表した2010年の日本人の海外留学者数は、5万8060人と6年連続減少。「学生が内向き志向になった」と指摘されるが、すでに潮流は変化している。ベネッセコーポレーションが高校生の海外進学を支援するために設けた相談窓口「海外留学センター」では、今年はセンターに登録した生徒212人が海外の大学へ進学し、11年の8倍近くにまで増加した。中学3年~高校3年を対象に海外大学や国内大学の国際系学部を目指す英語講座「海外大併願コース」でも受講者数が11年度の5倍だ。

 東京都世田谷区の会社員、高瀬潤さん(50)と妻厚子さん(50)は、中学1年の長男湧君(13)と留学フェアに参加した。長女の高校3年、千咲さん(17)は高校で1年間、ニュージーランドへ交換留学。ドイツ人やブラジル人、韓国人の友達と英語で現在も連絡を取り合う。その姿を見て、湧君も「少し不安はあるけれど、自分も環境を変えてみたい」と留学に前向きだ。厚子さんは英国で航空会社の客室乗務員として働いた経験もある。「さまざまな国の人が働く環境で自分も成長できた。世界のどこででも生きていけるように、長男にも海外を経験してほしい」と話す。

 

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「日本にとどまっていては生き残っていけない」──。そんな危機意識が不動産投資家にも親にも浸透する。リスクをおそれることなく、資産も子供も多様性のなかで育む時代が到来したといえそうだ。