2013年

10月

29日

特集:勝ち抜くための経済学 ノーベル経済学賞の歴史 2013年10月29日特大号

 ◇時代を反映して揺れ動く 精緻な科学から現実・実用重視に

 

山崎好裕

(福岡大学教授)

 

 通称ノーベル経済学賞の正式名称は「アルフレッド・ノーベル記念経済科学スウェーデン銀行賞」といい、賞金は同行が負担する。経済学賞が始まった1960年代後半と言えば、戦後の高度経済成長がピークを迎え、先進国を中心とした経済の繁栄が、精緻な数理科学としての体裁を整えていた経済学の権威を、いやがうえにも高めていた時代だった。物理学や化学など理系の諸学問と並ぶ科学として、ノーベル経済学賞が仲間入りできたのも、この背景なくして考えられない。

 また、このころは、データを用いて経済の将来を予測することができると、素朴に信じられ、また、実際に多くの実績が上げられた時代である。各研究機関は何百本もの数式で表わされた経済モデルの性能を競い合っていた。そのため、第1回のノーベル経済学賞の受賞者に、ラグナー・フリッシュとヤン・ティンバーゲンが選ばれたのも当然かもしれない。彼らは、後に計量経済学と呼ばれるようになる分野のパイオニアであったからだ。

 第2回の受賞者ポール・サミュエルソンは、なぜ最初の受賞者ではなかったかとよくいわれる人物だ。彼は、市場の役割を絶対視する新古典派と呼ばれる考え方と、常に不景気に陥ろうとする経済の不安定な側面を強調するケインズ派を、見掛け上幸せな結婚に導き、戦後の経済学繁栄の礎を作った。彼の「新古典派総合」の考え方は折衷に過ぎないことが後に明らかになるが、所詮すべての結婚は妥協の産物だろう。他の受賞者、ジェームズ・トービン、フランコ・モジリアニ、ローレンス・クライン、ロバート・ソローらも、サミュエルソンと同時期、同じ陣営で仕事をした。………