2013年

10月

29日

特集:勝ち抜くための経済学 通説を疑え編 Q 日本はどこまで貧しくなるか 2013年10月29日特大号

 A すでに十分豊かであり、ゼロ成長でも貧しくはならない

 

高橋伸彰

(立命館大学教授)

 

「成長できなければ貧しくなるのではないか」という不安が国民の間に広がっているのは、歴代の政権が成長率さえ回復すれば、日本経済の閉塞感は晴れ、高齢社会への対応も可能になると喧伝してきたからである。しかし、1人当たり平均4万ドル近い国内総生産(GDP)を得ながら、なお成長しなければ貧しくなると不安感を抱いている日本の国民は歴史的にみても、また世界的にみても「異常」にみえるのではないか。

 誤解がないように付言しておけば、私は長期的な日本経済の成長率が、名実ともにゼロになるとか、ゼロ成長になってもよいと言っているのではない。高齢化による医療や介護サービスの増加、環境保全に要する社会的費用、老朽化したインフラの補修費などを考慮すると、今世紀の半ばくらいまでは1%程度の成長ができたほうが望ましいと思っている。ただ、長期的に成長率がゼロになったからといって、今より貧しくなるわけでもなければ、日本経済の活力が低下するわけでもないことは確認しておきたい。

 例えば「働き手」の数(生産年齢人口、15歳以上65歳未満)は、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、2010年から30年の20年間で8173万人から6773万人に17%減少する。もしこの間、ゼロ成長を続ければ、1人当たりGDPは20%以上増える計算になる。そうでなければゼロ成長すら維持できないからだ。事実、失われた20年(1991年から2010年)の間でも、日本の労働生産性は1人当たりで約2割、時間当たりでは約3割も増加していた。つまり、今後20年間で仮に国民負担率が現行の約4割から5割に、率で1割、または負担額が5割上昇しても、負担する「働き手」の可処分所得は減らずに、現在の水準を維持できる。………