2013年

11月

05日

ワシントンDC 2013年11月5日号

 ◇財政協議で紛糾した米議会 TPP交渉でも障壁に

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 財政協議の不調から政府機関の一部閉鎖という事態を招いたことで、オバマ大統領は10月8日にインドネシアで開かれた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の首脳会合への出席を取りやめた。早期妥結を最も強く望んだオバマ大統領の不在により、TPP交渉の年内妥結は不透明さを増した。

 交渉の遅れは、なにより米国にとって不利となる。TPPなど海外との通商条約の締結には、当然ながら米議会の承認を必要とする。その議会では来年秋に中間選挙を控えており、年が明けた1月には予備選挙が始まる。再選のために対日強硬派の自動車業界や各利害関係者の支援が必要となる議員の声は、今後党派を超えて高まり、交渉の主体となる政府や米通商代表部(USTR)への圧力も強まっていくことになる。
 交渉妥結に先駆けて、オバマ政権にとって不可欠なのが、議会からのTPA(貿易促進権限)付与だ。だが議会では、同権限の付与を巡る採決の見通しがまだ立っていない。
 かつて「ファストトラック権限」と呼ばれたこの権利は、1974年の通商法に基づいて、議会より歴代大統領に対して時限的に与えられてきた。TPAでは、外国との通商交渉において、政府側が議会への事前通告や交渉内容の限定などの義務を負う。一方で、当該条件を満たしながら締結される条約・協定について、議会は個々の細かい内容の修正を求めず一括して承認・不承認の採決を行うよう定められている。

 ◇不穏な為替操作条項

 細部でもめるたびに、議会に持ち帰って承認を仰ぐような交渉のスタイルでは相手国からの妥協も引き出せず、交渉自体が停滞する可能性もある。これらを回避するために、このような権限が大統領に付与されてきた。欧州との自由貿易協定である環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)も推進するオバマ政権にとり必要不可欠な権限だが、最新のTPA法は2007年のブッシュ政権時代に失効している。
 議会では去る9月24日、ルー財務長官とフロマンUSTR代表に対し超党派の上院議員60人が連名で、TPPに為替操作条項を盛り込むよう要請するレターを提出した。同条項は、意図的に自国通貨を安く誘導していると認定した国に制裁を加えるというもので、TPPへの日本の参加や中国の将来的な参加を懸念する自動車業界と鉄鋼業界からの圧力によって、下院でも数カ月前から取りざたされていた主張である。
 オバマ政権側はこのような主張に留意するとしつつも明確な回答を避けてきている。過去数回にわたるTPP交渉においても為替問題が提起された形跡はなく、恐らく米政権にはこれを入れる意思はないだろう。
 米国の一部産業からみれば、アベノミクスの大胆な金融緩和は意図的な円安誘導にほかならず、米国市場で不当に日本製品の価格競争力を増しているという論理になるのであろうが、為替操作との言い分は正しくない。それを言うならばむしろ米国こそ、日本に先駆けて過去数度の大規模な量的金融緩和を実施してドル安を招いた為替操作国ということになってしまう。
 とはいえここにきて、今後オバマ政権へのTPA付与に際して為替条項を入れる前提での交渉を議会が義務付けてくる可能性が高まっていることは明らかだ。大詰めを迎えているTPP交渉において、年内妥結に最も固執している米国自身が議会とのあつれきで交渉を遅らせ、さらには新たに為替条項の提起を行うならば、参加各国の不興を買うことは必至であろう。オバマ政権はまたもや苦境に立たされそうである。