2013年

11月

05日

特集:相続とお金のトラブル 2013年11月5日号

 ◇相続 親子関係 人ごとではない「争族」 もめ事に発展する4大パターン

 

天野隆(税理士法人レガシィ代表社員税理士/公認会計士)

構成=向山勇(ライター)

 

 2015年1月からの相続税の増税により、申告対象者が大幅に増加する。税理士法人レガシィの試算では、亡くなった人の約2人に1人が相続税の申告対象者になる見込みだ(東京国税局管内)。もはや相続税は、資産家だけに関係するものではない。しっかりと準備をしておかなければ、相続が発生した際に大きなトラブルになる可能性がある。

 何がトラブルになるのか、以下で見ていこう。

 ◇トラブル1・二次相続 妻への心ない一言

 

 相続では先に父親が亡くなり(一次相続)、後に母親が亡くなる(二次相続)ことが多い。トラブルが起きやすいのは二次相続だ。一次相続では、母親がいる手前、子供たちも表立った争いはしにくいが、母親が亡くなってしまうと、そのたがも外れ、一戦交えるケースが少なくない。

 日本では、相続人が資産を均等に相続する「均分相続」よりも、長男など家業を継ぐ者が資産を多く相続する「本家相続」のほうが多い。レガシィの実績データ(12年)では、本家相続が59%であるのに対し、均分相続は41%。資産家になるとこの傾向はさらに高まる。

 本家相続で最も注意しなければならないのは、家を継いでいる長男に姉がいる場合。姉と弟という関係は50歳になっても60歳になっても変わらず、姉は弟に遠慮なくものを言ってしまう傾向があるからだ。

 たとえば、二次相続の遺産分割協議の場で長男が「妻が最後まで母親の介護をしたのだから、その分を考慮してほしい」と言えば、姉は長男の嫁に対して「一緒に住んでいていいこともあったじゃない。家賃はかからなかったわけだし……」などと、無遠慮な発言をすることがある。こうなると、長男の嫁も黙っていられない。「姉」と「長男の嫁」という、女対女の戦いに発展する。この場合の解決策はただ一つ。長男が妻に代わって、はっきりと反論することだ。「姉さん、それは妻に対して失礼な発言だから、訂正してくれ」と冷静に要求する。それしかない。

 このようにもめ事が起きやすい二次相続だが、一次相続から二次相続までは、平均16年ある。二次相続でもめないためには、その間に兄弟が互いに気を使い合っておくことが必要だ。長男が母親と同居しているのであれば、法事や身内の結婚式などで弟や姉妹が帰ってきたときには交通費を渡す、遠方からであれば宿泊費を負担する。

 逆に長女や次女、次男の立場であれば、旅行や出張などの際に、長男の嫁にみやげを送るといい。「いつもうちの親がお世話になっているお礼に」と、2000円程度のみやげを送るだけでも気持ちは伝わるものだ。相続のもめ事は、金銭的なトラブルではあるが、その原因は感情のもつれから生じていることがほとんど。互いに気を使い合うことで、それを防ぐことができる。

 

 ◇トラブル2・特別受益 親の行動が争う原因に

 

 遺産分割協議の際、生前に受けていた贈与などが問題になるケースも多い。誰でも自分が受け取ったものは忘れてしまうが、ほかの人が受け取ったものはしっかりと覚えている。長男が次男に「家を建てるときに親父に1000万円もらったじゃないか」と言えば、次男は「兄さんだって子供の教育費を500万円もらっただろう」と反論したくなる。

 生前に受けた利益をそのままにして相続時の遺産分割を行うと、不公平が生じる。これを是正しようというのが「特別受益」の制度だ。生前に受けた利益は相続財産の前渡しと考え、相続財産から差し引いて、最終的な相続額を計算する。

 ただ、生前の贈与などは何十年も前に実行されたことも多く、正確なデータを調べるのは難しい。相続人が互いに記憶していることをさらけ出して、まとめるしかない。この際に、言いたいことをすべて言い合ってしまうと、話は意外にまとまりやすいものだ。

 親がもめるタネをまいていることも多い。3人の子供がいる場合、親からすれば、いくつになっても「全員一緒の家族」だと思っている。たとえば、長男のところに行って、次男のことを褒めれば、長男も喜ぶだろうというのが親の感覚だ。

 実はこれがそうでもない。長男はおもしろいはずがない。長男とやりとりをするなら、親と長男だけ、長女となら親と長女だけにしたほうがいい。贈与をするときも、他の子供にはあまり伝えずに贈与相手の子供とだけ相談して決めればいい。

 

 ◇トラブル3・遺言 財産の記載漏れを防ぐ

 

 最近は、遺言の重要性が取りざたされているが、実際に遺言を書いているケースがどのくらいあるかというと、レガシィの実績データでは相続案件のうち約1割に過ぎない。それだけ遺言は書きにくいものといえる。60代であれば、まだ自分の死に現実味がないし、80代になると、日々生きていくのが精いっぱいで遺言どころではない。結局、死が視野に入り、遺言を書く元気が残っているのは70代ということになる。この「遺言適齢期」ともいえる期間が短いことが、遺言を書く人がなかなか増えない原因の一つと考えられる。

 遺言を作成する場合でも弁護士、税理士、信託銀行などの専門家が関わっていることがほとんどであるため、形式が不十分でトラブルになることはほとんどない。

 トラブルがあるとすれば、遺言書に書いていない財産が見つかったときだ。通常、遺言があれば、遺産分割協議は不要だが、記載されていない財産があると、その分については遺産分割協議になり、もめ事の元になる。それを防ぐためには「『その他の財産』は○○に相続させる」としっかりと記載しておくことだ。

 

 ◇トラブル4・隣地との境 亡くなった後では遅い

 

 最近、不動産を売却して相続税の納税資金を捻出するケースが増えている。レガシィの調査(12年)では財産(課税価格)が5億円以上の相続人の場合、その約35%が土地を売却して納税原資を確保している。相続税増税によって、申告対象者が増えれば、この割合もさらに高まることが予想される。

 土地を売却するとなると隣地との境界が問題になることがある。通常は売却に際して専門業者に測量を依頼し、境界確認をしてもらうことになるが、業者が隣家に確認にいった際に「ノー」と言われると、手続きが進まなくなる。境界線がどうであったか、事情を知っている親が生前に解決すれば簡単なものでも、親が亡くなってからではこじれる可能性が高いので、生前に解決してもらったほうがいい。

 以上のように遺産分割協議でもめてしまうと、10カ月後の申告期限に間に合わなくなる。最悪の場合、裁判に発展することもあるが、最終的な結論は「法定相続分の相続」(配偶者と子供が相続人なら配偶者は2分の1など法律で定められている分)となるのが大半だ。時間と費用をかけて裁判をしても、誰も得はしない。しっかりと対策を講じてトラブルを防ぐことが重要だ。