2013年

11月

12日

ワシントンDC 2013年11月12日特大号

 ◇保険加入サイトで障害発生 出足から窮地のオバマケア

 

今村卓

(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 

 政府機関の一時閉鎖まで引き起こした医療保険改革法(オバマケア)を巡る与野党の対決は、オバマ政権・民主党の圧勝に終わった。共和党がこの3年近く続けてきた執拗な抵抗が挫折したことで、同法の本格実施に向けた最大の障害を取り除いたかに見える。しかしオバマ政権は新たな壁にぶつかっている。10月1日から運用開始した保険加入システムで障害が発生したからだ。

 2010年に成立した同法は、米国民に民間医療保険への加入を原則的に義務付ける。一定の所得以下の国民には保険料支払いの補助金を支給し、全人口の15%に相当する約4800万人の無保険者を減らす狙いだ。同法の一つの柱が、インターネット上で保険プランを比較して簡単に加入できるようにする「エクスチェンジ」と呼ばれる保険市場だった。

 10月1日から運用開始したのだが、登録サイトの「HealthCare.gov」には開設から数日で1500万件近いアクセスが殺到。同サイトは運用開始初日から接続不能や申し込み途中での停止といったトラブルが多発した。当初1週間に同サイトから保険に加入しようとした人のうち、申し込みを済ませた割合は1%未満との深刻な結果も報じられた。

 オバマ政権は初め、政府機関の一時閉鎖が続くなかでアクセスが殺到したことを医療保険改革法の必要性の証拠であると誇っていた。サイトの不具合の多さも予想外のアクセス数が原因と楽観視していた。しかし、保険申し込みが進まないという事態に直面し、10月22日になって、ザイエンツ元行政管理予算局(OMB)長官代行をアドバイザーに起用するなどの対策に乗り出した。

 

 ◇対応誤れば偉業も帳消し

 

 ザイエンツ氏は、11月末までに登録サイトのトラブルの大部分を解消するとの方針を示した。ただ、問題は登録サイトの接続にとどまらないとの指摘もある。

 保険の加入申し込みのプロセスは、医療保険改革法によって拡充されたメディケイド(低所得層向け医療扶助)や補助金給付の資格審査も含まれており複雑である。これまで受け付けた保険申し込みの情報には誤りも多く、民間医療保険会社が手作業で確認しているとの報道もある。

 700万人が利用するとの試算もあるエクスチェンジの円滑な運用には、保険会社のバックオフィスの拡充が不可欠と見られる。こうした準備は登録サイトよりもさらに遅れていると考えられるため、14年1月の同法本格実施までに政権が解決すべき課題は非常に多いと言える。

 医療保険への加入を怠った人に負担金を課す制度は14年4月から始まる。手続きに要する時間を考慮すると、登録サイトでの申し込みは14年2月15日までに終える必要がある。そのためには接続問題の解決を含めて、できるだけ早く保険市場が安定的に運用されているという信認を取り戻さなければならない。

 医療保険改革法の成否は、若く健康な人々の加入増による保険料の低下にかかっている。しかしこうした人々は、当面の保険加入の必要性に対する自覚が低く、現在の接続問題の解決に時間を要すれば保険加入を敬遠する可能性が高い。高齢で既往症のある人々だけの加入が増えて財政負担も増し、未加入者も減らないという悪循環もあり得る。政治的にも、挫折したはずの共和党が再び同法の批判に乗り出しかねない。

 国民皆保険を目指す医療保険改革法は、オバマ大統領と民主党にとり歴史に残る偉業になり得る。だが、今後の対応いかんでは改革が失敗し、偉業も帳消しになりかねない。登録サイトの接続問題は技術ミスという次元にとどまらないのだ。