2013年

11月

12日

経営者:編集長インタビュー 谷井等 シナジーマーケティング社長 2013年11月12日特大号

 ◇顧客4300社の関西ITベンチャー

 

 顧客データを管理するシステムを企業に提供する「クラウドサービス」と、そのデータを使ったメール配信などで販売促進を支援する「エージェントサービス」の2本柱で急成長する関西ベンチャー。

 顧客データは企業によって異なる。たとえば姓と名を分けるか分けないかも違う。シナジーのシステムはいわばイージーオーダー。各企業が独自の仕様にネット上で変更できる使いやすさが顧客を集め、1部上場企業を含む約4300社が利用する。

 

── クラウドサービスは初期投資が大きいと聞きます。

 

谷井 一つのシステムでできるだけ多くの企業に使ってもらうことで、コストの低減と、売り上げの最大化を図っています。

 

── その分、システム開発が難しそうですが。

 

谷井 1社ごとにシステムを受託する方が確かに簡単ですが、私自身はエンジニアではないため「無理」とあきらめない。システムはすべて内製化しているのですが、うちのエンジニアも「やりがいがある」と取り組んでくれます。会社が東京にあれば、採用合戦で大変だったかもしれませんが、「関西にいながら全国区の仕事をしたい」という優秀なエンジニアが集まり、自由な発想で仕事をしてくれます。

 

 ◇拡大するビッグデータ市場

 

── 競合他社も多いのでは。

 

谷井 クラウドサービスの市場はまだ成長初期です。社員10人以上の会社は国内に約40万社。当社の契約はうち約1%にすぎません。社員10人未満の企業にとっても顧客管理は必須なので、裾野はさらに広がるでしょう。

 むしろ市場の拡大を阻害するのは「使ってみたが効果がない」という反応が広がること。そのため、顧客データベースを活用した販売促進支援を行う「エージェントサービス」に力を入れています。

 

── 具体的には。

 

谷井 ビッグデータ時代と言われますが、情報の生かし方が分からない企業が多く、一番ニーズが高いのが分析です。専門的な知識がなくても、簡単に分析できるサービスを提供していますが、分析自体を目的とせず、業務改善のサイクルをいかに早く回すかを重視して、結果を基に次の一手を助言します。

 また、大手家電メーカーのユーザー向けサイトを立ち上げ、商品の感想や使われ方についての情報を集めたり、販促のメール送信を受託したりしています。メールは送信ミスが信用問題につながるため、アウトソーシングしたいというニーズがあります。メールを配信した場合、消費者がメールを読んでサイトにアクセスする割合が何%かという業界ごとの相場観が分かっているため、適切な支援を提供できます。

 

 谷井社長はシナジーの前にも、新卒で入社したNTTを辞め、ITベンチャーを立ち上げた経験がある。その会社は2000年、13億円で楽天が買収。今回は2度目の挑戦になる。

 

 ◇引きこもりからの出発

 

── 起業家志望だった?

 

谷井 最初はそんなつもりはありませんでした。NTTを辞めたのもいわば5月病のようになったためで、実家に戻って数カ月間、引きこもっていました。その後、実家の洋服店で働かせてもらうことに。ところが、どんなに接客の練習をしてもお客さんが増えない。ディスプレーを工夫しても効果はありませんでした。

 そこで気づいたのが顧客名簿。お直ししたスーツの受け渡しのためでしたが、メールアドレスも書いてもらって「お直しができあがりました。ご購入いただいたスーツに合うシャツも入荷しました」などとメールを送りました。何せお店が暇だったので、せっせとメールを送ると、お客さんとの関係性が強くなり、売り上げが2割増えました。

 IT環境が整っていたNTT時代に、お客さんや同期の仲間とメーリングリストでやりとりをしていました。無料でメーリングリストを作ることができれば、実家の店のように集客できるのではないかと考え、1997年に会社を設立しました。

 

── 売却したのは?

 

谷井 競合サービスを提供していた米国企業がヤフーに買収され、ヤフーと競合することになる、風向きが変わったと感じ、大資本の参加でサービスを継続する方向に舵を切ることにしました。当時、株主の一人だった楽天に相談して、売却が決まりました。株式交換で私も楽天株を受け取りましたが、まもなくITバブルがはじけて景気が悪化。実家の洋服店が貸しはがしに遭い、借金返済のために楽天株を売却したのですが、タイミング悪く、当時が底値でした。投資家のセンスはないのかもしれません(笑)。シナジーは、売却した会社の2本目の事業として考えていたことを形にしました。

 

── 海外展開の予定は。

 

谷井 米国セールスフォース・ドットコムと業務提携で、BtoB(企業間取引)の企業向けサービスを強化しました。今年、米国に子会社を設立したのは、事業開発が目的です。米国の方がテクロジーの進歩が数年早いので、ベンチャーに出資するなどして新しいサービスを日本で、さらにアジアで提供したいと考えています。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=望月麻紀・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 20代は社長という肩書はあっても大学のサークル活動の延長で、勢いだけでした。30代になって良い会社作りのため真剣に経営を考えるようになりました。

Q 最近買ったもの

A 取引先企業の時計と、母にもらった財布が古くなったので同じデザインの物を買い直しました。

Q 休日の過ごし方

A 月に1回、関西の社長6人とお遍路に通って13年。四国は3周したので、次は西国三十三カ所を回ります。あとは月1回のゴルフと家族サービス。

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 ■人物略歴

 ◇たにい・ひとし

 大阪府出身。1996年神戸大学経営学部卒業、NTT入社。メール配信システムのITベンチャーを創業、2000年に楽天に売却し、シナジーマーケティングの前身企業を設立。41歳。