2013年

11月

19日

ワシントンDC 2013年11月19日号

 ◇石炭産出州の議員が猛反発 前途多難のCO2排出規制

 

須内康史

(国際協力銀行ワシントン首席駐在員)

 

 オバマ大統領が今年6月25日に発表した気候変動対策の新たな行動計画に基づく具体的措置として、9月20日、米環境保護局が発電所に対する二酸化炭素(CO2)排出規制基準の原案を発表した。

 規制案は今後新たに建設される火力発電所に対するもので、大型天然ガス発電所だとCO2排出量を1メガワット時当たり1000ポンド(約453キログラム)、石炭火力発電所なら同1100ポンド(約498キログラム)に制限する。今後60日間のパブリックコメント(意見公募)期間を経て、検討が進められていく予定だ。なお、既設の発電所に対する規制原案は来年6月に発表の予定である。

 石炭火力発電所に適用される水準は、日本の高効率石炭火力発電の排出量よりも厳しい基準となっており、専門家の間ではCO2の回収・貯留(CCS)を伴わない限り実現不可能なレベルと見られている。規制案策定にあたり、環境保護局はCCSが十分に実証された技術であると判断したとされ、関係者の間では当初想定されたよりも厳しい内容との見方が多い。

 各業界を見ると反応は一様ではない。電力業界の場合は何を主要なエネルギー源としているかによって反応が異なる。一方、石炭業界はこぞって規制案に強く反発。米国鉱業協会の会長は、「新規制案は実質的に石炭を米国の電力から禁ずるものだ。米国内で最も供給に信頼のおける電源を放棄させる無謀な賭けに出ている」との声明を公表した。

 

 ◇問題は既設発電所

 

 議会でも共和党議員を中心に強い反発が出た。主要な石炭産出州であるケンタッキー州選出のマコネル共和党上院院内総務は「新規制は州の雇用と経済に対する“戦争”をエスカレートさせるものである」とし、新規制に反対する決議案を提出すると発言。同じくケンタッキー州選出のウィットフィールド下院電力・エネルギー小委員会委員長(共和党下院議員)は、「新規制案は新規の石炭火力発電所建設を停止させる試みである」と評し、「新規制案を阻止する試みを開始する」と宣言した。

 環境保護局による規制に対しては過去、多くの提訴がなされた。今回の新規制についても、環境保護局の権限やCCSの実証性などを巡り、関連業界が提訴する公算は大きい。また、10月15日には、連邦最高裁判所が環境保護局の発電所等向けCO2排出規制権限に関する審議に応じることが報じられた。

 2007年の判決では、環境保護局の自動車に対するCO2排出規制権限が大気浄化法に基づいて認められた。これがそのまま発電所や製油所といった“動かない施設”の排出規制権限を認めることにつながるか否か、連邦最高裁が審議する。今回の規制案そのものを争うものではないが、重要な司法判断になると見られている。

 現在、米国の発電所の新設は、シェール革命を背景としたガス火力が中心で、石炭火力発電所の新設計画はごく少数にとどまる。それゆえ実質的に影響が大きいのは、来年6月に発表予定の既設発電所に対する規制と考えられる。今回の新設発電所向け規制案に対しても、すでに石炭業界や議員から反発の動きが出ていることを考慮すると、その動きがさらに強まることも予想される。

 加えて、新規制案に対する提訴が相次げばプロセス遅延の可能性もある。先述の連邦最高裁の口頭弁論は来年初めにも実施される見込みで、この動向も今後の環境保護局による規制に影響を与えうる。発電所向けCO2排出規制の行方については今後も紆余(うよ)曲折がありそうだ。