2013年

11月

19日

特集:沈む銀行、浮かぶ銀行 2013年11月19日号

 ◇快走するネット、流通系 既存銀行は泥沼の貸出競争

 

(編集部)

 

 メガバンクなどの大手行は、ATM(現金自動受払機)を利用する際の手数料を実質的に値上げする方針を打ち出し始めた。

 三菱東京UFJ銀行は12月20日から、コンビニATMの平日利用手数料を、これまでの無料から105円に有料化し、預金残高30万円以上などの優遇顧客でも無料は月3回までに制限する。

 みずほ銀行も来年2月から預金残高10万円以上などの顧客に適用していたコンビニATM手数料の無料化を月4回に制限する。

 提携先のATMを利用して現金を引き出す場合、口座がある銀行が手数料を負担する形になるが、それを顧客から徴収しようとする動きだ。利便性を高めているのだから、その分は転嫁しても顧客は離れないという自信の裏返しのようにも映る。

 しかし、手数料の安さを売りにする新規参入組には、顧客獲得の絶好のチャンス。ネット系や流通系銀行には、すでに利便性や手数料の安さに目をつけた利用者の支持が広がっているからだ。

 2001年に開業したネット専業のソニー銀行は、初年度1064億円だった預金残高が、13年3月末時点では、17倍の1兆8574億円に増加した。旧イーバンクを買収した楽天銀行は、01年の23億円から3月末時点で8362億円に達した。

 流通系では、01年に開業したセブン銀行は初年度51億円だった預金が3月末時点で2512億円となった。口座数は、初年度の6万口座から3月末には17倍以上の106万口座に急増している。07年に新規参入したイオン銀行も預金残高が1年目の1528億円から3月末には8倍の1兆2201億円に達した。

 

 ◇ネット銀行に顧客が流出

 

 ネット銀行に若年層の新規口座開設が流れていないか──。中国地方の地銀幹部はこんな仮説を立てる。

 人口減少がすでに始まっている日本では、地方の若年層は先細り状態である。だが、その減り方を勘案しても若年層の新規口座開設の落ち込みが大きい。

「学生時代からインターネットやスマホを使いこなす今の若者なら、例えば楽天のオンラインショップでの買い物が多いはず。決済に使うなら楽天銀行が便利だ。地銀は現在、預金が増えても貸し出しに困る状況にあるが、結婚や自動車ローン、住宅ローンなど将来の収益源となる顧客を奪われると、いつか銀行業が成り立たなくなってしまう」(同幹部)

 現実に、楽天銀行の利用者の6割強は30~40代だ。

「ネット銀行は24時間365日、いつでも好きな時に振り込みや送金ができるのがいい。メガバンクのネットバンクも便利になったが、使いやすさと手数料の安さからネット銀行を使っている」(東京都在住の20代前半の男性)

 また、北海道に住む30代前半の男性の場合、メインバンクは新生銀行だが、第2のメインとしてソニー銀行を使い、念のため三菱東京UFJ銀の口座を持っている。

「新生の入出金は、コンビニやゆうちょ銀行のATMも無料で使えるので便利。インターネットによる振込手数料も預金残高に応じて無料になる。ソニーは、他の銀行の口座情報も合わせて一元的に管理できる家計管理ツールを提供していて、それが気に入っている。不自由を感じたことはない」と語る。

 ネット銀に魅力を感じているのは若者ばかりではない。イオン銀は、借入期間10年以上の住宅ローン(1000万円以上)の契約者に、「イオンセレクトクラブ」という付加サービスを提供している。会員になると、イオングループのスーパーなどでの買い物が5%割引になる。

 家を建て、近くのイオンで日常的に買い物する消費者にはお得感がある。住宅ローンの取扱額は、今年上期(4~9月)は平均月200億円弱を記録した。

 また、株取引に関心がある層に食い込んでいるのが住信SBIネット銀行、大和ネクスト銀行などだ。それぞれSBI証券、大和証券に証券口座を持った顧客を抱えており、銀行口座から証券口座への入出金をスムーズに行える利便性などを売りにしている。

 住信SBIネット銀の預金残高は今年3月末に約2兆6910億円でネット銀行首位、10月には3兆1000億円を超えた。2位の大和ネクスト銀も9月末で約2兆2690億円に達している。

 また、低金利の時代に少しでも高い金利を求めて外貨預金を考える人も多い。

 ソニー銀は、個人向け外貨預金でメガバンクに猛追している。米ドル、ユーロ、豪ドル、人民元、南アフリカ・ランドなど12通貨を取り扱っており、為替手数料も例えば米ドルの場合、メガの10分の1以下と安い。ソニー銀の顧客の3割が外貨預金を利用し、3月末時点で3902億円と預金残高全体の2割を占る。「すでにメガバンクを射程圏内に入れた」(ソニー銀関係者)という。

 

 ◇海外目指すメガバンク

 

 メガバンク離れは個人客だけではない。中小企業も付き合い方を変えている。

 メガバンクは海外に事業展開する国内の大企業、地銀以下の地域金融機関は中堅・中小企業を主な取引先とする──。バブル崩壊後の金融危機と不良債権処理、金融業界の大再編を経て、借り手企業側にはすっかりこんな意識が定着したようだ。

 銀行借り入れが主たる資金調達手段の中堅・中小企業にとって、メインバンクの変更はかつて信用情報上、ネガティブに受け取られたものだった。しかし、今は違う。

「身の丈に合った地元の銀行と密接に付き合ったほうが、経済合理性がある」(首都圏の電子部品メーカー)という意識に借り手側が変わった。それは必然的に中堅・中小企業のメガバンク離れとなる。

 大手行から地銀まですべての銀行が、大企業から中堅・中小、個人向け営業を同じように手がけて競争する必要はない。体力や規模、マンパワーに見合った独自の路線を打ち出すのは当然だ。

 その意味では、大手行が3メガバンクに集約され、この状況を借り手の中堅・中小企業が冷静に受け止め、自らが合理的にメガバンク離れの道を選んだ結果ともいえる。

 ところが、こうした借り手の合理的な行動を再びゆがめてしまいかねない状況が生まれつつある。1年前に始まった安倍晋三首相が進めるアベノミクスが発端だ。

 大胆な金融緩和でデフレからの脱却を目指す安倍首相はいま、銀行に対して貸し出しを増やし経済活性化に協力せよと明確にメッセージを送っている。9月には金融庁が、従来よりも銀行の自主性を重視する新しい金融検査・監督方針を打ち出し、政府・日銀と歩調を合わせて、銀行の背中を押す。

 

 ◇ビジネスローンの悪夢

 

 こうした動きを素早く察知したあるメガバンクは、「今年の春先から不動産向け融資基準をひそかに緩めて、貸し出し攻勢に出ていた」(金融筋)という。13年初めから銀行の不動産向け融資は増加に転じている。

 別のメガバンクでも「貸し出し、特に中小向け貸し出しが前年同期比でマイナスになれば、安倍政権に反旗を翻しているのかとにらまれかねない」(幹部)と、夏前から全国の支店に地元の有力企業に営業攻勢を掛けるよう号令を出した。

 地銀が恐れるのは、メガバンクの乱入に伴う貸し出し競争でのシェアや金利収入の減少ばかりではない。彼らの脳裏には、00年前半から始まった「ビジネスローン」の苦い経験が焼きついている。

 ビジネスローンとは、審査を簡略化した「スコアリングモデル(一定の予想倒産確率などを基にリスクを計算)」を使った小口のミドルリスク融資(中程度の貸し倒れリスクを伴う融資)。メガバンクが競うように全国の中小企業に営業攻勢をかけた結果、激しいシェア争いが起こった。

 結局、本来想定される金利より低い金利での貸し出しや、通常なら審査が通らないような先にも貸し付けることになった。メガバンクは不良債権の山を残して、中小企業向け貸し出しから逃げ出した。その後、過剰債務に陥った中小企業の面倒を見たのは、地元の地銀にほかならない。

 金利競争が激しいことで知られる東海地方の地銀幹部は、「再びメガバンクを交えた不毛な貸し出し競争に陥るかもしれない」と警戒する。銀行に貸し出しを迫るアベノミクスがアベノリスクとなりかねない。

 新規参入のネット系、流通系の銀行などが快走するのに対して、既存銀行が無謀な貸し出しに奔走すれば、「浮き沈み」はよりはっきりしてくるだろう。