2013年

12月

10日

特集:緩和相場の毒 2013年12月10日号

 ◇市場で起きる異常な価格形成 金融緩和の薬が毒に変わる

 

緒方欽一

(編集部)

 

 米国市場でいま「バブル論争」が起きている。米連邦準備制度理事会(FRB)の次期議長に指名されたジャネット・イエレンFRB副議長が11月14日の議会証言で量的緩和縮小を急がない姿勢を見せた後、米国株は金融緩和継続期待から続伸中。そこに冷や水を浴びせたのが、ある著名投資家の発言だった。

 その投資家とは、アップルに株主への利益配分を要求していることで知られるカール・アイカーン氏。同氏は11月18日、ニューヨークで開かれた会合で「多くの企業の業績は幻影といえる。好経営や好景気に支えられているのではなく(金融緩和を背景とした)低金利に支えられているからだ」と指摘、「株式市場は急落する恐れがある」と警告した。米国株式市場だと名指しはしていないが、発言が伝わると米国株は一時沈んだ。

 市場を見渡すと「まだバブルではない」という論調が大勢のようだ。各国で機関投資家を中心に資産運用業務を展開するステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのリチャード・ラカイエ最高投資責任者もその一人。「米国の景気全体はあまり良くないが、企業収益が回復している。企業業績の伸びにこれまで株価が追いついていなかった。市場で『バブル探し』がはやっているだけ」と笑う。

 実際、ニューヨーク・ダウ工業株30種平均は11月27日、5営業日連続で過去最高値を更新。日経平均株価も翌28日、終値が1万5727円と2007年12月以来の高値となり、5月の年初来高値を更新した。

 ただ、局地的なバブルが起きているとの見方も出始めている。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は、「バブルにあらず」の意見ながら新規株式公開(IPO)株など一部銘柄で異常な価格形成が見られると指摘する。

 

 ◇活況となる投機

 

 三次元データを基に樹脂などで同じ形状の立体物を造形する3Dプリンター。これを自動車メーカーなどに展開する独ヴォクセルジェットは10月中旬、ニューヨーク市場に上場した。公開価格13ドルだった同社株は20ドルの初値をつけ、その後11月18日には70ドルまで上昇。株価の尺度である予想株価収益率(PER)はなんと1万3070倍に達した。予想PERは株価が1株当たり当期予想純利益の何倍まで買われているのかを示し、数字が高いほど利益に比べて株価が割高であることを意味する。

 藤戸氏は「投資家の期待感で株価が上昇したというよりも投機筋のおもちゃにされた印象が強い」と話す。実際、アイカーン氏の発言を機に3日間で半値以下に暴落した。

 同様の現象は日本でも起きている。ANAPやメディアドゥといったIPO銘柄は、公開価格の3~5倍の初値が付き、そこから一段高になった後、急落するという値動きを見せている。こちらも企業業績と乖離(かいり)した値動きで、藤戸氏によると、一つの銘柄で利益確定させた後はまたすぐ次のIPO銘柄へと投機の場を移しているという。

 これら投機の動きを活発にさせたのが、イエレン氏の議会証言による米国の緩和長期化期待だ。たとえ量的緩和縮小に着手したとしても、利上げはもっと先。市場はさらに日銀の追加緩和を来春と想定、欧州中央銀行(ECB)の追加緩和の可能性も見ている。米日欧からあふれ出るマネーは株式市場にも流れ、株価を支える。このような安心感があるからこそ、投機も活発化する。

 超金融緩和策で市中にマネーを供給する狙いは、投資を含めた経済活動の活性化にあった。その意味で効果はてきめんだった。だが、過剰マネーは「経済のカンフル剤」であると同時に「バブルを生む毒」にもなる。

 株式市場より先に毒がしみ出ているのが債券市場だろう。米国債や大手企業が発行する社債など安全資産は金融緩和によって利回りが低下。さらに将来的な利上げを考えると価格下落リスクもあるので、もう手を出せない。そこで米国の機関投資家は、ハイイールド債券といった高利回りだがリスク性の高い商品へ手を伸ばしているという。ニューヨーク現地の運用関係者はこの現象を「低金利の成れの果て」と表現する。薬が毒に変わる日はそう遠くない。