2013年

12月

10日

経営者:編集長インタビュー 山田正彦 ワコム社長 2013年12月10日号

  ◇ペンタブレットで世界シェア8割

 

 電子ペンとタブレットで構成するペンタブレット市場で自社ブランドの世界シェアは8割。筆のような書き心地を忠実に再現する高い技術力で、映画制作や自動車メーカーのデザインといった世界中のプロに愛用されている。

 

── 高い競争力の源泉は?

山田 一つは技術力。創業から30年間、電子ペンの技術に経営資源を集中投下してきました。また、創業後数年のうちに米、独、韓の3カ国に現地法人を立ち上げるなど早い時期からグローバル化を進めたことで、グローバルニーズをとらえながら商品を作ることができた。それから、ほぼ完全に工場を持たないファブレス化を進めたことです。自社製造は1%強のコア部品だけ。製造を委託して、当社は技術開発と商品の企画、販売に注力してきました。

 

── 電機業界はコモディティー(汎用品)化による競争激化で苦しんでいますが、ワコムは。

 

山田 映画の制作や車のデザインに使う場合は、技術的により高度な商品が求められます。一般ユーザーでも、何かを表現したい方は、安ければいいではなく、値段より機能や付加価値を求める人が多いのが特徴です。

 

── 世界市場やプロ向け高級機種市場を狙ったビジネス展開は、創業当時からですか。

 

山田 最初は、文字入力や設計用の電子ペンの技術を追求していました。1980年代後半にある社員が今の原型となるペンの先に毛筆の筆先を付けて試したところ、思った以上に描けて面白い。「コンピューターで絵を描けるのではないか」ということになり、実用化を進めました。

 

 ◇ディズニーに見いだされ

 

── 経営方針が決定的になったのは。

 

山田 90年に米ウォルト・ディズニー社から突然電話がかかってきました。「技術の人と話したい」と。とりあえず行ってみると、デジタル映画「美女と野獣」の制作への協力を求められました。このとき、筆圧の再現や筆で描いたような表現を可能にする感度、色、画像の回転機能の追加などの改善を求められました。プロの要望に応えるための研究や試行錯誤がのちの製品開発のノウハウになりました。その後、ルーカスフィルム(SF映画「スター・ウォーズ」の制作会社、現在ディズニー傘下)など米・ハリウッドのプロクリエーターから始まり、インターネットのウェブデザイナーといったプロから、一般ユーザーへと顧客が広がりました。96年にはクリントン大統領が通信改革法にデジタル署名する際に当社の電子ペンが使用されました。

 

── 日本市場は。

 

山田 映画産業向けもありますが、米国に比べれば小さく、むしろ日本は漫画やイラストなど一般向け製品の比率が高いこともあり、全世界の売上高に占める割合は1割を切っています。映画産業や自動車メーカー向けの高級機種の販売が多いのは米国。欧州では中級機種のほか、金融機関や軍の電子サインなどセキュリティー関連が主力です。

 

 2014年3月期中間決算は、スマホやタブレットのメーカーにペン技術を提供するコンポーネント事業が当初の予想を下回り、通期の業績予想を下方修正した。それでも最終利益は63億4000万円で過去最高を4期連続で更新する見込みだ。

 

── 自社ブランド事業とコンポーネント事業の比率は。その理想型は。

 

山田 ブランド事業が半分、コンポーネント事業が半分弱。もう少しブランドの比率が高まるとよいかとは思いますが、両輪で成り立つ形でよいと思っています。利益率は今のところあまり違いはありません。

 

 ◇次はデジタルインク

 

── それぞれの市場環境は。

 

山田 ブランド事業の市場では、より直感的な操作で表現力に富む製品が求められています。大きな液晶画面に電子ペンで直接描く製品は、車のデザインや映画制作の作業の精度が上がり、効率化でコスト削減につながると好調です。また、プロ用のモバイルニーズに応え、クラウド化に対応した製品を提供していきます。

 コンポーネント事業では、スマホやタブレット市場のさらなる取り込みと新分野の拡大が課題。電子ペンの低コスト化のため、自動生産システムを導入しました。

 

── 次に何を。

 

山田 我々のペンを持っている方々に共通するサービスを発信したいと考えています。デジタルインクとあらゆる文房具、筆記具の電子化です。

 今はまだ、使用するソフトが異なると互換性がないといった壁がありますが、デジタルインクで描いた一人一人の発想を、世界中誰とでもリアルタイムに交換できるプラットフォームを作りたいと思います。多彩な筆記具、画材が可能にする表現力と直感的な使いやすさ、作品やアイデアの共有、検索、保護などを可能にしたい。インクには筆使いのリズムやスピードが一緒に記録され、個人を識別するセキュリティーの向上にも役立つようにします。長い目で見て、世の中の変化に貢献できることをやっていきたいと考えています。(Interviewer=横田恵美・本誌編集長、構成=望月麻紀・編集部)

 

 ◇横顔

 

Q 30代の頃はどんなビジネスマンでしたか

A 日本をベースに海外現地法人の立ち上げを手掛け、34歳で米国現地法人社長に。この時期に始まったウォルト・ディズニー社とのお付き合いなど海外事業での経験が、自分自身のベースになっています。

Q 最近買ったもの

A ギャラクシーノート3(サムスン社の大型スマートフォン)と出張用かばん。海外出張が多く、スーツケースは空港で投げられたりするので、2年ぐらいで壊れます。

Q 休日の過ごし方

A 出張が多いので、休日の半分は移動で飛行機の中。一日何もなければ本を読んだり、猫と遊んだり。

………………………………………………………………………………………………………

 ■人物略歴

 ◇やまだ・まさひこ

 新潟県出身。1986年東北大学工学部卒業後、ワコム入社。米国法人社長、専務、副社長などを経て、2004年6月より現職。55歳。