2013年

12月

17日

特集:節税と脱税の境目 2013年12月17日特大号

 ◇税務調査は大幅減でも確実に放たれる国税の網

桐山友一
(編集部)

 11月28日、東京地裁718号法廷。
「求刑、被告人Tを懲役3年6月、罰金2億5000万円、被告人Mを懲役2年に処するのを相当とする」──。検察官の声が響く。

 所得税法違反(脱税)に問われたT被告(71)と元妻のM被告(63)の論告求刑公判。起訴状によると、両被告は不動産取引で得た2004、05年分の所得計約22億7600万円を隠し、所得税約8億4400万円を免れたとしている。

 検察側は、不動産取引が実態的にT被告の個人事業だったにもかかわらず、繰越欠損金を抱えた赤字会社の事業として装うなどし、所得を大幅に圧縮したと指摘する。一方、両被告の弁護側は「いずれも合法的な節税策だった」などとして無罪を主張。全面的に争っている。
 節税か、脱税か──。納税者としては、認められる範囲内で少しでも税負担を軽くしたいと思うのは当然の心理だ。ただ、このケースのように、その境目を巡って刑事裁判で争える人は限られる。国税当局や検察側と真っ向から対峙するのは、相当な心理的、経済的な負担が生じるからだ。

 ◇事務手続き厳格化

 15年から相続税が増税され、所得税の最高税率も引き上げられる。また、来年4月からは消費税率も現行の5%から8%へとアップする。増税前のタイミングは通常、国税当局にとって例年以上に税務調査に力が入る時期。税の公平性への疑問が高まれば、増税の理由を失いかねないからだ。
 しかし、実は税務調査の件数は大幅に減少している。過去には一部で威圧的、誘導的な税務調査も問題視され、11年度の税制改正で税務調査の手続きを厳格化する改正国税通則法が成立。今年1月から施行され、納税者に税務調査を事前通知する際の事務手続きなどが細かく定められたからだ。
 ある国税関係者は「現場の事務量が大幅に増えている」と漏らす。実際、国税庁の今年10~11月の発表によると、12事務年度(12年7月~13年6月)では、法人税の税務調査は9万3000件と前年度比27・4%減。所得税の税務調査も68万2047件と11・9%減となったほか、相続税も1万2210件と11・4%減少した。
 ただし、件数は減少しても、申告漏れは見逃さない。法人税では税務調査した件数のうち、申告漏れがあったのは73・1%と前年度(71・3%)をむしろ上回った。また、所得税の申告漏れの割合は62・2%、相続税も81・6%と、前年度とほぼ変わらない水準だ。つまり、いったん税務調査の対象となれば、ほぼ一定の確率で申告漏れを指摘されることになる。

 ◇「無申告」「海外」に注力

 なかでも、国税当局がここ最近、調査に注力しているのが、「無申告」と「海外取引」だ。インターネットの通信販売など誰でも手軽に事業ができるようになり、不動産など海外へ投資する個人も増えている。「申告しなくても分からないだろう」という心理が働くからか、まさに「調査をすればするほど申告漏れがよく見つかる」(国税関係者)状態だ。
 例えば、海外資産が絡んだ相続税の税務調査でも、申告漏れが見つかったのは12事務年度で537件と、公表を始めた01事務年度(100件)以降、年々うなぎ登りで増えている。こうした海外資産に絡む申告漏れを防ぐため、切り札として14年から導入するのが「国外財産調書制度」。5000万円超の海外財産を持つ人を対象に、その財産の内訳を税務署へ提出させる仕組みだ。
 なぜ「5000万円」なのか。15年からの相続増税では、基礎控除が「3000万円+600万円×(法定相続人数)」へ大幅に引き下げられる。統計から平均の法定相続人数は約3人。つまり、基礎控除は4800万円となり、5000万円にほぼ等しくなる。元国税調査官の武田秀和税理士は「国外財産調書を提出するような財産のある人には、確実に相続税を課税するというメッセージだ」と指摘する。
 脱税や申告漏れを許さない国税当局の網は、確実に放たれている。