2014年

1月

07日

ワシントンDC 2013年12月31日・2014年1月7日合併号

 

 ◇米国シンクタンクが研究進めるアルゼンチンの「ラ・カンポラ」

 

篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)

 

 アルゼンチンを資源が豊かな国と期待しながら、現政権の予測不能で強引な政策に失望する人は多い。先進国からは理解しがたい同国の政治力学について、米シンクタンクなどが中心となり突っ込んだ研究を開始している。

 2013年初旬。クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領(60)は同国航空最大手のアルゼンチン航空を訪れた。同航空は燃料価格高騰などで経営不安に陥り、08年に再国営化。しかしその後も1日当たりの損失額は、従前の100万ドルから200万ドルへ増えたとされる。フェルナンデス大統領は当然、責任者をクビにすると思われていた。ところが逆に何千人もの雇用創出と国家への多大なる貢献をしたとして賛辞を送ったのであった。

 同航空の元最高財務責任者(CFO)だったのが、13年11月に経済相に昇格したアクセル・キシロフ氏(42)である。同氏は、スペイン企業が経営権を持っていた石油大手YPFの国有化の仕掛け人として知られる。政府がYPF国有化を表明した12年当時、欧米メディアは一介の学生活動家あがりでしかないキシロフ氏がアルゼンチン航空CFO、鉄鋼大手シデラール取締役、政府要職と、次々と出世する理由を「大統領の絶大な信頼がある小さなアドバイザーサークルに食い込んだため」とだけ説明していた。

 

 ◇大統領一家を支える親衛隊

 

 その後の研究によって、徐々に明らかとなってきたのが「ラ・カンポラ」という大統領一家を支える親衛隊の存在だ。

 04年、現大統領の夫のネストル・キルチネル前大統領(10年に急死)によって、「次世代指導者の育成」を体現する形でペロン党(正義党)の青年組織として設立された。名称の由来は、何度も失脚しながら不死鳥のように復活したペロン元大統領(映画やミュージカルの「エビータ」は同大統領夫人が題材)の忠実な側近者の名前。愛国者であると同時に絶対的な忠誠心の代名詞なのだ。

 キシロフ経済相をはじめ、その前任のロレンシーノ氏、為替管理、外貨取得規制に圧倒的影響力を振るったと言われる前国内商業庁長官のモレノ氏、さらには現在駐米大使を務めるナホン女史と、政策の主翼を担う関係者が同組織の中核(または深く関与する)メンバーとされる。そして、「ラ・カンポラ」のリーダーが大統領の長男のマキシモ氏(36)だ。

 マキシモ氏が本格的に政治の世界に登場したのは父の死がきっかけだった。夫を亡くし精神的支柱だけでなく政治的な後ろ盾も失ったフェルナンデス大統領は、急激に長男への依存を増したと言われている。

 マキシモ氏は母親の政治力を補うため、直ちに青年部所属のメンバーを送り込んだ。その人材は政府要職のみならず、教育現場や莫大な国家予算の実権を握る年金基金、エネルギー管轄部門、交通などの幅広い分野に実務者レベルにまで広く配置されていると見られる。大統領に直接つながるルートを持ち、圧倒的な影響力を保持するなど、政治的に無視できない存在だ。

 自由経済を否定する反米・極左思想から「ラ・カンポラ」を政策集団と捉えることもできる。だが、米シンクタンクなどが指摘するように、政策的な連帯ではなく、「キリチネル夫妻への絶対忠誠を誓う親衛隊」でしかない可能性が高いとされる。

 米国からすると反米主義の国は一つでも減らしたいはず。「ラ・カンポラ」を通じて、今度は親から子へと政権移譲がされるなら、それは極めて好ましくない状況であろう。ワシントンからの情報分析が今後も活発になりそうだ。