2014年

1月

28日

ワシントンDC 2014年1月28日特大号

 ◇中間選挙に向けて浮上する50年ぶりの「貧困との戦い」

今村卓
(丸紅米国会社ワシントン事務所長)

 ジョンソン大統領が1964年1月の一般教書演説で「貧困との戦い(War on Poverty)」という方針を打ち出してから50年。秋に中間選挙を控えた今年の米国政治の一大テーマは、半世紀前と同じく「貧困との戦い」となる可能性が高まっている。

 貧困の撲滅は道半ばだ。全国民に占める貧困層の割合である貧困率は、60年の22%から70年代半ばには11%まで下がったが、2012年時点で15%。米国経済の成長率が長期低下傾向をたどったうえに、80年代のレーガン政権を機に「小さな政府」志向への転換など大きな変化が生じ、中間層以下の実質所得が停滞に陥ったことが原因だ。
 その意味で貧困は80年代以降、恒常的な問題なのだが、08年の金融危機を経て、貧困や格差が米国社会全体の許容限度を超えた可能性が高い。危機後の景気回復は、超金融緩和策に支えられた株式など資産価格の上昇という経路から進んだことで、恩恵を受けやすい富裕層・高所得層とそうでない中間層以下の所得格差の拡大に拍車が掛かったからだ。
 現に12年の大統領選では貧困・格差対策を何ら打ち出さなかった共和党のロムニー候補が大敗を喫した。再選したオバマ大統領の支持率が4割強に低迷しているのも、有効な貧困対策を講じられない現政権に対する中間層以下の失望が響いているとみてよいだろう。

 ◇共和党も現実路線に修正か

 オバマ政権と民主党は、「貧困との戦い」を中間選挙戦の主要課題に位置付けて活路を見いだそうとしている。
 具体的には、緊急失業保険制度の延長法案の可決、最低賃金の引き上げ、特定貧困地区の指定と支援だ。08年導入の緊急失業保険制度は繰り返し延長されてきたが、13年末で失効し現在は約130万人への給付が停止されている。失効が長引けば給付停止の対象は360万人に膨らむ恐れがあるだけに、民主党は3カ月間の延長法案の早期成立を目指す。
 最低賃金は、連邦法が定める7ドル25セントを15年までに10ドル10セントに引き上げるとともに、中間選挙でできるだけ多くの激戦州で最低賃金引き上げの州民投票実施を目指す。特定貧困地区はサンアントニオやロサンゼルスなど5地区を指定、同地区の行政機関に教育・医療などの分野を対象に連邦政府から資金援助を行うとの考えが示されている。
 共和党も対応姿勢を修正しつつある。同党穏健派は、12年大統領選の敗因となった「庶民のことが視野にない共和党」という有権者の悪印象が、昨秋の連邦政府機関の一部閉鎖で一層強まったとの危機感を抱く。党指導部や16年大統領選の党有力候補も、財政均衡を最優先とする戦略の見直しと貧困対策の強化に動き始めた。実際、カンター下院院内総務やライアン下院予算委員長、ルビオ上院議員らが最近、相次いで自らの貧困対策を発表している。
 緊急失業保険制度の延長法案は近く上院を通過する見通しだが、下院で多数派を占める共和党は、見返りとして歳出削減の積み増しを求めている。最低賃金引き上げについても雇用にはマイナスとの理由で消極的なまま。とはいえ、中間選挙では、景気回復に取り残された中間層以下をどう支援するかが重要課題となる可能性が高いだけに、共和党も現実路線への修正に動くだろう。
 半世紀ぶりの貧困との戦いは、民主党だけでなく共和党も取り組むべき重要課題という認識が議会で共有されている。この現状が昨年までの激しすぎる党派対立と議会の機能不全に変化をもたらすと期待してよいのかもしれない。