2014年

2月

11日

ワシントンDC 2014年2月11日号

 ◇TPP交渉に漂う不透明感 米議会批准は来年との声も

 

篠崎真睦

(三井物産ワシントン事務所長)

 

 環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉の進展に向けてカギを握るのが「大統領貿易促進権限(TPA)」法案だ。だが、ワシントンでは、TPA法案の議会通過は難航必至との見方が強い。法案成立は今年11月の中間選挙後となり、TPP批准は15年になると予想する専門家もいる。

 米議会与野党幹部は1月9日、TPA法案を上下両院に提出した。TPAは米大統領が署名した通商協定について、議会に修正を認めず、批准の採決をさせる権限。迅速な交渉妥結、議会批准につながる一方、議会の権限を制約することから、2002年にブッシュ大統領に与えられた後、07年に失効していた。

 TPA復活法案は上院財政委員会のボーカス委員長(民主党)、下院歳入委員会のキャンプ委員長(共和党)らが超党派で提出した。同法案には、今後の交渉で他国に為替操作をさせないよう促すことや、農業分野で他国の関税率を「米国水準以下」にまで引き下げるよう求めること、さらには貿易によって、自国の労働や環境の保護水準が低下しないようにすべきといったことなども盛り込まれている。自動車など米国の輸出産業や農業界の意向を踏まえた措置だが、拘束力はない。

 上院は波乱もなく通過する可能性が高い。しかし、下院では歳入委員会で民主党筆頭委員のレビン下院議員が反対を表明、民主党内からも反旗があがっている。同議員はリベラル派の領袖で、影響力も大きい。

 

 ◇政権与党からも反対意見

 

 レビン下院議員らが同法案に反対している理由は、①「為替条項」に拘束力がない、②交渉過程への議員の関与体制が不十分、③労働・環境保護も拘束力がない──といった点。円安による日本車の輸出攻勢を警戒する米自動車業界だけでなく、労組の中央組織である米労働総同盟・産別会議やシェラクラブ等の環境保護団体までも、為替条項などに拘束力を持たせるようロビー活動を行っているようである。これらの団体は、オバマ大統領とリベラル派議員の支持母体でもある。

 こうしたなか、1月16日には上院財政委員会でTPAについての最初の公聴会が開かれた。フロマン米通商代表部(USTR)代表が政権を代表して証言する予定だったが、公聴会に現れず、議会幹部の間でも困惑が広がっている。加えて、法案を主導してきたボーカス上院財政委員長が2月中にも次期駐中国大使に転出予定。今後、議会で誰が旗振り役を担うのか、不透明感も漂う。

 TPA法案審議が長引き、特に4月以降になると、中間選挙モードは加速し、各選挙区の事情から同法案に反対票を投じる民主党下院議員が増えると見られる。

 オバマ政権がTPAと抱き合わせで「貿易調整支援」の更新を議会に求めていることも、議会通過のハードルを高くしている。これは輸入急増などの貿易活動が主因で失業などに追い込まれた労働者の救済措置で、共和党が反対している。

「オバマ大統領は、中間選挙前に自らの支持基盤や政治資本を失う覚悟を持ってまで、TPP、TPAの早期実現に踏み込むことはない」との見方がワシントンでは強い。結局、「関係国との交渉を通じて、中国に対する自由貿易への改革圧力とすることが重要で、TPPの早期実現自体は政権の優先課題ではない」との見方さえある。

 オバマ大統領は4月のアジア訪問で、TPPの重要性を関係各国に訴えると見られる。その頃、米議会もTPP実現に向け共同歩調を取っているかは微妙で、今後の動向を注視する必要がある。