2014年

2月

11日

特集:円安異変 2014年2月11日特大号

 ◇バーナンキの置き土産 新興国通貨急落に翻弄される円

秋本裕子
(編集部)

 1月30日、ドル・円相場は一時1ドル=102円台前半まで急激に円高が進んだ。米連邦公開市場委員会(FOMC)が29日(現地時間)、2月から100億ドル規模での更なる量的緩和縮小(テーパリング)を決めた。市場予想通りにもかかわらず、新興国通貨が急落し、市場はまたも揺れた。

 FOMCが声明文で、最近の金融市場の動揺についてまったく言及しなかったことが、市場の疑心暗鬼をかき立てる。米連邦準備制度理事会(FRB)議長就任後に量的緩和を始め、退任時にテーパリングを始めたバーナンキ議長の置き土産に、「新興国不安が一段と高まる可能性もある」との悲観的な見方も出ている。リスクオフ姿勢の高まりで不安定な円相場は当面続きそうだ。

 ◇揺らぐ新興国通貨

 FRBが昨年5月、緩和縮小着手方針を打ち出して以降、新興国通貨のボラティリティーは高止まりしている。緩和縮小が米国へのマネー還流を連想させ、新興国経済への打撃が大きいとの懸念を払拭(ふっしょく)できないでいる。
 今回の異変の発端は1月23日、アルゼンチンの通貨ペソが1日で18%も急落したことにある。中国経済の減速懸念も重なって投資家のリスクオフ姿勢が強まり、経常収支赤字でインフレ率が高いトルコ・リラやブラジル・レアルなどの新興国通貨が軒並み急落した。
 それに伴い、円も急騰した。新興国通貨が下落すれば、比較的安全資産とされる円が買われやすくなるからだ。1月27日に円は一時1ドル=101円台に上昇、日経平均株価も一時1万5000円台を割り込むなど、円高・株安への連鎖が起きた。1月10日発表の13年12月の米雇用統計が予想を大幅に下回ったことによる上昇に続くものだった。
 こうした状況に、トルコ中央銀行は1月28日、大幅な利上げによる通貨防衛に踏み切った。いったんはトルコ・リラの一段の下落には歯止めがかかったが、30日の混乱は新興国不安が一向に後退していないことを示すものだ。南アフリカも29日、約5年半ぶりの利上げに踏み切るなど、新興国は通貨防衛戦争の様相を呈している。

 ◇米利上げ観測高まる

 だが、本当の試練はこれからだ。FRBのテーパリングは14年末にかけて粛々と進む見通しで、次の焦点は最初の金融引き締め(利上げ)時期に移る。
 FRBは最初の利上げを15年と示唆しているが、野村総研の井上哲也・金融ITイノベーション研究部長は、「米国経済の早い改善などから、早期の利上げ観測が広がっており、それが市場の動揺につながっている可能性がある」と指摘する。
 米金利上昇は、そのままドル高要因になる。急激なドル高が進めば、新興国通貨の急落を招き、再び新興国ショックにつながる。そして新興国不安は、経済や金融で結びつきが強い先進国に波及し、世界経済に多大な影響をもたらす──。こうした最悪のシナリオは、果たして避けられるのか。
 懸念材料の一つとして、新興国への貸し出しを通じた金融機関への影響が挙げられる。みずほ証券の金子良介シニアクレジットアナリストによると、今回の新興国ショックの発端になったアルゼンチン向けエクスポージャー(価格変動リスクのある与信)は合計368億ドル(13年9月末現在)と、その規模自体はギリシャ向けとほぼ同程度とそれほど大きくはない。だが、ブラジル向け(4790億ドル)、インド向け(2648億ドル)、インドネシア向け(983億ドル)、トルコ向け(2251億ドル)、南アフリカ向け(1022億ドル)など、今回不安定化した国々を合わせると巨額なものになる。
 そして、「脆弱(ぜいじゃく)な5カ国」と呼ばれるこれらの国々への与信は、日・英・米などの金融機関が多く保有しており、こうした先進国への波及が懸念される。「今のところ深刻な金融問題に波及する可能性は限定的」とみる向きも多いが、いったん金融危機に発展すれば、世界経済を揺るがしかねない。

 ◇長期的には円安だが…

 こうした状況で、14年末にかけてのドル・円相場はどうなるのか。為替ストラテジスト8人にアンケートしたところ、おおむね「1ドル=95~115円」の範囲内で予想している(20ページ~)。米株高・長期金利上昇を背景に、円安・ドル高が進むというのが大方の見方だ。
 だが、今回の新興国不安の根底にあるのは、テーパリングや米国の利上げ観測、中国の減速リスクなど、今後も継続し続けるテーマだ。それだけに、「欧州危機の時のように、いつ、どのタイミングで、どの国が、注目の的になるのかが分からないという不安感を、市場はしばらく払拭できないだろう」(みずほ証券の金子氏)との見方もある。
 新興国市場が落ち着くまで、日本株も円も不安定な動きにならざるを得ない。短期的には新興国不安に翻(ほん)弄(ろう)され、ドル・円相場のボラティリティーが高まる可能性もあると言えそうだ。