2014年

2月

25日

ワシントンDC 2014年2月25日特大号

 ◇中国に試されている本気度 正念場迎えるアジア外交

堂ノ脇伸
(米国住友商事会社ワシントン事務所長)

 オバマ大統領が一般教書演説を行った翌1月29日、大手シンクタンクである米戦略国際問題研究所(CSIS)主催のパネルディスカッションがワシントンで開催された。CSIS所長のジョン・ハムレ氏は冒頭の挨拶で開始時間が遅れたことを詫びつつ、「一般教書演説の文章でアジアに触れている部分を探していたのだが、なかなか見つからなくて……」と冗談を交えて会場の笑いを誘った。ディスカッションのテーマが「アジア」だったからだ。

 事実、一般教書においてアジアについて触れられた部分はごく僅かである。オバマ大統領は演説の中で「引き続きこの地域を重視し、同盟国を支援する」と述べたのみだ。アジア研究に従事するシンクタンクの専門家からも、オバマ政権の具体的な外交政策、特に過去「アジア・リバランシング」と銘打ったはずの地域戦略に関して、何ら具体的な実行計画が提示されなかったことに対する落胆の声が寄せられた。
 アジアにおける安全保障上の緊張の高まりは、米国でも大きく注目され始めている。中国が昨年11月に唐突ともいえる防空識別圏(ADIZ)の設定を公表し、今年に入ってからも南シナ海で操業する外国漁船の活動を規制して南沙諸島南端のジェームス礁の領有を宣言するなど、領土拡張を巡って周辺国との軋轢を高めていることが背景にある。

 ◇TPP交渉進展も期待薄

 これらの行動に対する西側諸国の見解は、米国のこの地域の同盟国や友好国に対する軍事的なコミットメント(関与への本気度)を中国が試しているとの認識で一致する。
 オバマ政権は、昨年のシリアの化学兵器使用問題への対応の拙さや医療保険を巡る混乱で急速に支持率を落としはじめ、内政にかかりきりだ。これを受けて中国は、自らが提唱する「新しい形の大国関係」を米国に認めさせる好機到来と、さまざまな既成事実を作り上げ圧力をかけ始めているものと識者は見る。
 地政学リスク分析を専門とするユーラシアグループのイアン・ブレマー氏も、中国は日本の右傾化をことさら強調することで日米関係にくさびを打ち込む意図を持っており、そしてその戦略は半ば成功しつつあると警鐘を鳴らしている。3月に急遽、米中首脳会談が設定される方向になった。ここで何が話し合われるかが注目される。
 一方、経済面では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の推進こそがアジアにおける自らの存在感を示すツールであると言われるが、ここでも主導権の発揮が危ぶまれている。交渉妥結に不可欠とされる大統領貿易促進権限(TPA)に関し、オバマ大統領が一般教書演説で議会に対し法案への承認を求めた直後、自らの支持基盤である民主党の実力者ハリー・リード上院議員がこれに反対の意向を示したためだ。
 リード氏はもともと通商協定の可決には懐疑的な姿勢を示していた。TPA法案の審議がその賛否を巡って党内分裂を生じさせ、11月の中間選挙で民主党が上院での多数党の立場を失う可能性を危惧しているからだとされる。政権支持基盤である民主党でさえ、選挙を睨んでオバマ政権とやや距離をとり始めたようだ。
 政府関係者はTPAがなくとも問題はないとして、2月の閣僚級会合や4月に予定されているオバマ大統領のアジア歴訪でのTPP交渉進展に意欲を示す。だが、議会承認の裏付けがない米国を相手にぎりぎりの譲歩案を示す交渉参加国はいないと言われており、とても進展は望めそうもない状況だ。国内問題のみならず、アジア外交の面でもオバマ政権は正念場を迎えつつある。